Rusted Dáinsleif   作:暁真

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息抜きに一本。


始まりの日

 

「そういえばユキ」

「なんです?今日の仕事ならあと30分もあれば終わりますが……」

「いや仕事の話じゃなくて」

「相変わらず歯切れが悪いですね、マルチタスクにも限界があるので早めにお願いします」

「アッハイ、それじゃあ……」

 

 時刻は3時を少し回った頃。珍しいことに今日は仕事があまりなく定時前にすべて消化できそうな勢いで、少し余裕があるのか先生が何か聞こうとしている。はて、今更私に聞くことなんてあるのだろうか。書類のミスも比較的減ってきたし、やらかすことも減ったから私が説教する回数も減ったし……いや待て、最近また何かやらかしたような……それか?

 

 

「そろそろユキの昔話、聞かせてくれてもいいんじゃないかなぁ……って」

「……ああ、言ってましたねそんなこと。とはいえあの日に貴方の知りたいことは全部話したと思いますが……」

「あーいや、それじゃなくてさ」

「だからなんです歯切れの悪い」

「私が聞きたいのはもっと昔。ユキの先輩……ホムラの話」

「……先輩の?」

「こうしてユキが帰ってきたことだし、もう少し知っておかなきゃって感じがして……ダメかな?」

「……」

 

……先輩の話、か。別に話したくない理由もないし話してもいいのだが、それにしたって一体何処から話せばいいのやら……というか私はあくまで『鞘野ユキ』の記憶として篝ホムラを知っているだけで実体験とは言いづらいからあまり参考にはならないと思うのだが……

 

 

……どうしましょう、シロ。

 

(別に全部話しちゃっていいと思いますよ?先生が知りたいのはあくまで私とホムラ先輩の過去の話で、必ずしも感情が籠っている必要もないと思いますから)

 

こういう時に入れ替われれば楽だったんですけどねぇ……

 

(私だって代りたいのは山々ですが生憎まだ糊で引っ付けたレベルの馴染み具合なんです。やろうと思えばできるとは思いますが……良くて数分、最悪一分も経たずに貴方共々気絶するのがオチですよ)

 

全くいつ馴染み切るんですかね、シロは。

 

(私の方が知りたいです。まあ完全に馴染み切っても貴方は既に『ドヴェルグ』として認識が定着しているのでもうズレが生じることはなさそうなのでそこはご安心を……人格が入れ替わったら姿も変わるんでしょうか?)

 

さあ……ともかく、話していいんですね?

 

(ええ、大丈夫です。万が一齟齬があっても私がコッソリ訂正するので安心してください)

 

カンペですかあなたは……まあいいです、なら話すとしましょうか。

 

 

「……わかりました、それなら話しましょう。昔話……私とホムラ先輩の話を」

「うーん、考え込んでたしやっぱりダメ……あれ、いいの!?」

「別に話したくない理由もありませんし……そろそろ貴方とも年単位の関係になりそうですし話しておくのも悪くないかなと」

「……それじゃあ聞かせてもらおうかな、昔話」

「あ、勿論仕事は終わらせてからですよ?やることを終わらせてないのに駄弁るとかあり得ませんからね?」

「勿論、今日はちゃんと仕事進んでるからね」

「今日『も』になることを願ってますよ、だいぶマシになったとはいえ今でもたまにミスありますからね?」

「たまにまで減ったことを褒めてはくれないんだ……」

「ちょっとしたことで褒めてもらいたい小学生ですか貴方は……まあひとまず仕事を終わらせてしまいましょう」

 

というかミスは無くすものだからな?減らして満足するものじゃないからな?減ったこと一々褒めてたら絶対ダメになるだろ、全くもう……仕事の事ばかり考えると頭が痛くなりそうだ、さっさと終わらせよう。

 

(……なんだかんだクロも私なんですね。生真面目な所とか特に)

 

それ自分で言いますシロ?

 

(ダメなんですか?)

 

別にダメってわけじゃあありませんけど……なんかもどかしい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……さて、何処から話しましょうか?

 

んー……そういえばユキは元々ヴァルキューレに居たんだっけ?

 

はい、公安局で先輩とバディを組んでいました。そこからSRTに引き抜かれる形でWOLFを結成することになりましたね。

 

じゃあヴァルキューレに居た時の話からでいい?

 

いいですよ、それじゃあ話しましょうか……

 

 

 

 

 

 

 

「おーおーお前か?噂の一匹狼の新人ってのは。バディも組まずに訓練に勤しむとは随分と仕事熱心なことで」

「……嫌味です?というか貴方は誰ですか、人に名乗らせるときは自分からが筋でしょう」

「別に名前を聞きに来たわけじゃねえんだけどな……まあいいか。私はホムラ、2年生だ。一匹狼ちゃんの名前は?」

「揶揄わないでください……ユキ、鞘野ユキです。それでわざわざこんな時間に何の用ですホムラ先輩」

「別に?噂の新人の顔を拝みに来ただけだよ一匹狼ちゃん。よく見たら可愛い面してんな~」

「ばっ……初対面で頬を掴む奴がありますか!?」

「いーだろべつにー、減るもんじゃねーしさ?」

「貴方はデリカシーってものを知らないんですか!?ちょっ、胸を、胸を触らないでください……!」

 

……初対面は最悪でしたよ。突然やってきたと思ったら頬を摘ままれるわ胸は触られるわ……セクハラで突き出してやろうかと思ったくらいです。

 

お、思ってたより愉快な子だった……

 

何処が愉快ですか当時の私は不愉快しかありませんでしたよ……そんなこんなで先輩は私の顔を見に来てから頻繁に訓練場に来るようになったんです……わざわざ私が居る時間を見計らって。

 

「すげーな、全部ど真ん中じゃん」

「当然です、私が改造した銃ですから……って、またですか。そんなに暇なんです?貴方」

「仕方ねーだろ仕事が来ないんだから……ま、仕事がないのは私たちにとって良いことだろ?それだけキヴォトスが平和ってことだし」

「介入のしようがないから仕事が回ってこないの間違いじゃないです?」

「ふふ、耳が痛い。……ってその銃自分で改造してんのか、ちょっと見せてくれるか?」

「嫌ですよ、貴方物を雑に扱いそうですし……あっちょっと!?言ったそばからぁ!?」

「ほーん、此処がこうなって……よくわからん!」

「わからないなら下手に弄らないでください!デリケートなんですよ!」

「わかったわかった、ほらよ」

「あーっ!?な、投げるとか何考えてるんですかぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

「……なあなあ一匹狼ちゃん」

「なんです、銃は見せませんよ」

「そんな警戒しなくてもいいだろ……ちょっと聞きたいことがあるだけだっての」

「聞きたい事?」

「そーそー……バディを組む気ないのか?一匹狼ちゃん」

「ユキです……ありませんよ、下手に足を引っ張る同僚と組むよりは一人の方がいいです」

「大したことだなぁ、どこから来るんだその自信」

「少なくとも訓練の成績は同期の中では私が常に1位です。実戦形式の訓練だって失敗したことはありません」

「……へー、そりゃあ凄いこって」

「そういうわけでバディを組む気は起きませんよ、数回ほど別の先輩方と模擬戦の機会がありましたが大したことありませんでしたし」

「……ふーん、そっかそっか」

 

……思い返せば当時の私は自惚れていたんでしょうね、張り合いがなかったというか、良くも悪くも仕事が回ってこないせいか実戦を知らなくて増長していたというか。

 

ユキにそんな時期があったんだ……想像もつかないや。

 

井の中の蛙とでも言うんでしょうか……まあ世間を知らない天狗だった訳です、私は。

 

(ク、クロ……もうちょっとオブラートに包んでもらえたりとかは……)

 

(するわけないじゃないですか、というか貴方の黒歴史は私にとっても黒歴史なんです。恥を忍んで話してるんですよこっちは)

 

「よお一匹狼ちゃん、今日も退屈そうだな」

「訓練より優先することがないだけです、仕事も回ってきませんし……」

「だろうと思った、というわけで今日はそんな一匹狼ちゃんに一つ魅力的な提案をしに来たぞ~」

「……合同訓練でもするんですか?」

「まっさか、私友達少ないからそんなツテないっての」

「じゃあなんですか、お友達になってくださいとか?」

「な訳ないだろ」

 

「私と摸擬戦しな、一匹狼ちゃん」

「……何を考えているか知りませんが、いいですよ。いい加減そのにやけた面に一発叩き込んでやりたかったところです」

 

……そんなときでしたね、先輩から模擬戦の誘いが来たのは。

 

うーん王道、ユキってもしかして少年漫画の主人公だったりする?

 

なわけないでしょう。主人公には先輩の方が相応しいです。

 

話を聞く限りホムラは主人公よりは頼れる兄貴分って感じだし……

 

……まあ、間違ってはいませんね。

 

 

「……も、もう一回……!」

「あーはいはいこれで8回目か、いいぞ。にやけた面に一発叩き込んでやるんだろう?」

「……認めません、貴方みたいなお気楽人間に私が手も足もでないなんて……!」

「いい加減認めりゃあいいのに、いくら能書き垂れようが実戦も模擬戦も結果だけが全てだぞ一匹狼ちゃん」

「一匹狼ちゃんじゃなくて……私は鞘野ユキです……!」

「はいはい、悔しかったら一発くらい当ててみろっての、一匹狼ちゃん」

「舐め腐ってぇ!!!!」

 

……案の定というかなんというか、私は先輩相手に何もできずもう一回と駄々をこねるだけの子供になってました。ただただいいようにあしらわれていたんです。

 

ユキが!?

 

はい……実戦を知らなかったツケとでも言うんでしょうか……訓練通りの動きしかできなかった私を先輩は完膚なきまでに叩きのめしたんです。

 

す、すごい人だったんだね……ホムラは。

 

 

「ハッ、ハッ……も、もういっ、かい……」

「やだね、仕切り直しはこれで19回。結局一匹狼ちゃんは私に一発も当てれないまま息切れ、私はこの通りピンピンしてる。これ以上は時間の無駄だろ?」

「やってみなきゃ……わからないでしょう……!」

「いいややらなくてもわかるさ、万全の状態で一発も当てれなかったのにその体たらくじゃ絶対に無理」

「黙って……ください……そもそも、なんで急に模擬戦なんか……」

「んー、世間知らずのお嬢ちゃんの鼻っ柱をへし折りたかった。ここまで食い下がってくるのは予想外だったけどな」

「……それ、だけの、理由で……?」

「まあ泣きわめくだけだったら鼻っ柱へし折るだけで終わったんだが……ちょっと気が変わった」

 

「私とバディを組め、一匹狼ちゃん。その根性を実戦で活かしてみろ」

「……勝手に組んで、いいもんなんです……?」

「いーんだよ、私は爪弾きの余りものだからな。同じ余りもの同士頑張ろうぜ?一匹狼ちゃん」

「……その余裕、いつか崩してやります……」

「おーおーやってみろ、できるもんならな」

 

……そんなこんなでなし崩し的に私と先輩はバディを組むことになったんです。

 

よく拒否しなかったね……

 

あー……その、当時は先輩の余裕を崩してやりたかったっていう子供みたいな理由で……

 

まあ子供だしいいんじゃない?

 

……む、むう……続けますよ。

 

 

 

 

「バディを組んで早々だが早速仕事だ一匹狼ちゃん。D. U地区で強盗が発生、容疑者はハイウェイ上を車で逃走中、急いで現場に向かうぞ」

「急いでって……車で逃走してるんでしょう?どうやって追いつくんです?」

「決まってるだろ、こっちも足を使うんだよ」

「足って……そのバイクですか?」

「それ以外何があるんだっての。ほら、乗りな」

 

バディを組んでからの初仕事は強盗の追跡でした。急に先輩が来たかと思えばバイクに乗れって言われた時は困惑しかなかったですね……

 

ユキがバイクを使ってるのってもしかしてホムラの影響?

 

……なんですか、先輩の後ろに乗りたくないっていう私的な理由ですが文句あるんですか。

 

随分と子供っぽい理由で逆に安心したよ。

 

悪かったですね子供で。

 

 

「イヤッホォォォォォォォォォォォォ!!!!!合法的に速度を出せるってのは気持ちいいなぁ一匹狼ちゃん!」

「ぜんっぜん気持ちよくないです……!ちゃんと追跡はしてるんでしょうね……!?」

「してるしてる。ほら見えたぞ、あれが逃走中の容疑者だ」

「……なら、まずは警告から……」

「逃走してるんだから警告なんて聞くはずないだろ、突っ込むぞ、掴まってな!」

「なっ、まだ速度をぉぉぉぉぉぉ!?」

 

……先輩がバイクで車に体当たりした時は正気を疑いましたよ。結果的に車がスリップして止まったので結果オーライでしたが。

 

だ、だいぶ荒っぽい解決方法だ……

 

結果的に見ればそれが最適解だったんですよ。先輩は何というか直感が鋭くて一番楽な解決法を思い付いたかと思えばすぐに実行に移すんです……その突拍子のなさに付いて行けない人ばかりだったから爪弾きにされてたとかなんとか。

 

あー、たまにそういう人いるよね。

 

……まあ付いて行けないっていうのはそれ以外にもありまして……

 

 

 

「にゃはは、事件は解決したとはいえ結果的に道路壊しちまったからな、始末書一緒に書いてくれ一匹狼ちゃん」

「なんで私も!?勝手に突っ込んだのは貴方じゃないですか!」

「バディだから連帯責任なんだ、わりぃな」

「……いつかそのにやけた面に一発叩き込んでバディ解消してやります……」

「あっれ、すぐやめますとかじゃねーんだ。今までのバディは皆そうだったんだけどなぁ」

「いつまでも負けたままなのは癪に障るだけです」

「おーおー見事な反骨精神なこと、頑張れよ一匹狼ちゃん」

「だから一匹狼ちゃんじゃなくて鞘野ユキです!」

「少なくとも今のままじゃ名前呼びする気は起きねぇんだよなぁ。そういうわけでしばらくは一匹狼ちゃんってことで」

「こんの……!」

 

……最適解を躊躇なく選ぶのはいいんですがヴェルキューレに居た頃はそれによる被害を考慮してなくて……何度も二次被害を起こしては始末書を書かされてたんです、先輩は。

 

……もしかしてユキが最初の頃やけに世話を焼いてくれてたのって……

 

断じて違います。それに先輩はSRTに引き抜かれてからはちゃんと被害を考慮するようになりましたから……

 

 

 

 

「仕事だ一匹狼ちゃん、今日は立て籠もりだとさ。現場に急行するから乗……あれ、バイク買ったのか?」

「いい加減貴方の後ろで座ってるだけは嫌なので仕方なく、ああ速度に関しては改造したので余裕で追いつきます心配しないでください」

「へー、バイクの改造もお手の物か。今度私のも見てくれないか?」

「派手にぶっ壊したら考えてあげます、行きましょう」

「はっはー、そんなへマやらかすわけ……いや、メンテしてもらえるならわざと壊すのも……」

「わざと壊したら絶対に見ませんからね」

「イッツジョーク。それじゃあ行くか、一匹狼ちゃん」

「……いつか名前で呼ばせてやります」

 

 

……まあ慣れ、とでも言うんでしょうか。何回も緊急出動を繰り返す内に気が付けば無意識に先輩に合わせれるようになってきたんです。名前呼びしてくれるようになったのはもう少し先のことでしたけど。

 

一匹狼ちゃんがようやく名前呼びに……何かあったの?

 

……ちょっと大きな事件の時に色々ありまして。まあ今日はそろそろ定時の時間ですしこれはまた今度話しましょう。

 

気になる終わり方をするなぁ、早く聞きたくなっちゃう。

 

まあ時間ができたら話してあげますよ、そのためには仕事を早めに終わらせませんと、ねぇ?

 

き、今日は早く終わったから……

 

今日『も』にしてください、いいですね?

 

い、イエス、マム!

 

いや軍隊じゃないんですけど……ふう、それじゃあ私はラミ二タウンで晩飯と洒落こんできますね。

 

あ、私も一緒に行っていい?

 

別に構いませんよ。そういうことならさっさと行きましょうか。

 

 




思ったより長くなってしまった。




何とは言いませんが

  • 先生(男)
  • 先生(男)、ミヤコ
  • 先生(女)
  • 先生(女)、ミヤコ
  • ミヤコ
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