長い、夢を見ていた気がする。
何かこの手で掴みたいものがあって、でもそれは手の届くところからどんどん離れて行って。
どうにかして引き留めようとするけど、気づけばそれは見えなくなっていた。
……私は一体何を掴もうとしていたんだろう。そもそも、どうして掴もうと思ったのだろう。
きっとそれは、何か大切なものだったはずで、でも、思い出せなくて。
(……さようなら、先輩)
目覚める前に、何か、声が聞こえた気がした。
……そうだ、そうだったじゃないか。
私は……
「……ぁ」
……知らない天井だ、耳を澄ませば機械の無機質な音だけが聞こえてくる。無菌室なのだろうか、匂いもほぼない。病院にでもいるのだろうか。
「……っ」
身体を起こそうと声を出して気張ろうとしたが、声が出ない。それに……右手が、ベッドに付かない。
少し困惑しながら右手に視界を見やれば。
私の右手は、肘から先がなかった。
「……っ!?」
動揺するけどやっぱり声は出ない、きっと長い間眠っていたのだろう。思い出せ、どうして私はこうして眠っていた?どうして右腕がない?どうして……
寝起きで良く回らない頭を必死に回転させる。何があったのか、思い出す。
燃え盛る施設。
誰かに託したもの。
目の前で爆ぜるなにか。
ああ、そうか。
私は……
「篝さーん、毛布の交換……に……え?」
「ぁ……」
ようやく人が訪れた。看護師だろうか、こちらを信じられないようなものを見るような目で見ている。まあ……当然か、なんせ私だってなんで生きてるのかわかってないし。
「……」
「あ、え、えーっと、これ、どうしたら……!?」
想定外の事態に酷く動揺した様子の彼女を見ながら。
私、「篝ホムラ」は少し苦笑した。
「……しっかしよく生きてたなぁ私」
「担当医曰く奇跡に近い状態だったそうです。ただ一命を取り留めたとはいえつい先日目覚めるまでは植物状態も同然でしたから……今こうして話していること自体信じられません」
「だよなぁ……んで私どんくらい寝てた?1か月とか?その割にはお前たちが随分とデカく見えるけど」
「……です」
「なんて?」
「1年と10か月です、ホムラ先輩」
「……マジかよ」
数日ほどたってようやくまともに会話が出来るほど回復した私の元を訪れたのはよく扱いてやった可愛い後輩、FOX小隊のユキノとニコ。冗談交じりでどれくらい寝てたのか聞いてみたら想定外の年月が経っていたことにかなり驚く……1年と10か月って……それ私2回も留年してるってことだよな?退学とかなってないよな?
「……まあそれは置いておこう。というか置いておいてくれ。それよりも聞きたいことがある」
「何が聞きたいの、先輩?」
「……JACKALの奴らと……ユキは?今、どうしてる?」
……記憶する限り最後の任務に同行した相棒と後輩たち、目覚めてから一番に知りたかったことだ。こうしてFOXの連中が来るまではまともに話すことすらできなかったから聞くに聞けなかったのだが……
「……JACKAL小隊は……あの事件で全員殉職しました」
「……そうか。じゃあユキも……?」
「いえ、ユキ先輩は生きています。あなたと同じように重傷を負って搬送されましたが無事退院しました」
「……良かった……」
取り乱してもおかしくない事実だが今の私の状況と淡々と事実を告げるFOX1……ユキノのおかげで不思議と頭は冷えている。そうか、ユキは生きて……
「待て、ユキは無事なんだろ?じゃあなんで今ここに居ないんだ?」
「……ユキノちゃん」
「どうせ伝えることにはなる。それが今というだけだ」
「伝えるって……おい、あいつに何かあったのか?まさか……」
もしかしたら私のように、いや、退院してるって話ならそんなはずはない。なんならもう卒業してても……
「……ユキ先輩は1年ほど前、突如としてその行方を眩ませました」
「……は?あいつが?なんで?」
「わかりません。それまでは毎日あなたの病室を訪れていましたし、特にそんな素振りもありませんでした、ただ……」
「ただ?」
「……ユキ先輩、凄く焦ってた。時間さえあれば訓練と武器の整備、物凄い剣幕で……話しかけることすらできなかった」
「……あいつが、そんな……いや、そうか」
あいつは昔から負けず嫌いで、何でも一人でやろうとする奴だった。私とバディを組んでからはかなり落ち着いた筈なんだが……きっと私が眠ってしまったせいだろう、あいつがそこまで追い詰められたのは。
「……ホムラさんにこれを渡してくれという手紙だけ残して、ユキ先輩は目の前から消えてしまいました……すみません、私たちでは力になれなくて」
「いや、いいんだ。あいつはそういうやつだからさ……んでこれってのはその箱の中身か?」
「ええ。開封厳禁と書いていたので中身はわかりませんが……」
「まあちょっと開けてみてくれないか?ほら、私今右手ないからさ」
「……わかりました」
目の前でユキノがあいつの残した何かを取り出す。特段変な物を残すような奴じゃないけど……
「……これは」
「義手……?」
「……なーんだ、ユキの奴私が起きるって確信してたんじゃねぇか」
其処にあったのは銀色の右腕。恐らくはあいつが私のために作ったであろう義手。
「ユキノ、それちょっと貸してくれ、というかくれ」
「しかし義手の接続は医師の判断を……」
「あいつの作った義手だぜ?合わないわけがない」
「ホムラ先輩……」
ユキノから義手を受け取って右手に合わせてみれば、驚くほど自然にそれはくっついた。試しに動かしてみればかつての右腕と遜色ない感覚だ……あいつ、何処でこんなの作る技術身に着けたんだか。
「な、言ったろ?」
「……後で怒られても知りませんよ」
「ぶっちゃけ怒られるのはいつものことだから気にしてない!」
「自慢気に言うことじゃないよ先輩……」
「はは、わりぃわりぃ」
呆れるユキノと苦笑するニコに謝りつつ脳内ではこれからどうするかを考える。
恐らく私は留年している、2回くらい。リハビリが終わってすぐ復学したとしても新しいバディを探すのだって時間がかかるだろう……というか私のバディは金輪際あいつだけだ、あいつ以上に私に合わせられる奴なんていない。
だからと言ってユキを探しに行こうにもSRTのカリキュラムじゃ無理がある。訓練任務また任務……流石に何処にいるとも知れないあいつを探しに行く時間なんて取れやしない。どーするか……あ。
「……なあ二人とも」
「なんですホムラ先輩」
「先輩が真面目な顔してるってことは真面目な話ですよね?」
「ニコは私の事なんだと思ってんの?」
「珍獣?」
「先輩に対する認識じゃねえよなぁ!?……こほん、ともかくだ」
「お前等さ、私がSRT辞めるって言ったらどうする?」
「……」
「……」
「え、なんだよそれ。もう少し驚くと思ってたんだが……想定済みか?」
「いえ、ですが……」
「……うん、この際言っちゃおうか」
「言っちゃうって……まだ何かあるのかよ」
「その……」
「SRT特殊学園は連邦生徒会による協議の結果、閉鎖が決定しました」
「……は?」
「事情は割愛するけど連邦生徒会長が行方不明になっちゃって……それで責任者がいないからって」
んだよそれ、唐突がすぎるだろ。けどな……
「……ホムラ先輩、私たちと一緒に来ませんか?我々はSRTの閉鎖を認めていません。貴方の力があれば」
「悪ぃそれパス、むしろ私にとっちゃ都合がいい」
「都合が良いって……先輩何する気なんです?」
「あいつを探しだす、どれだけ時間をかけようが絶対にな」
「……それを止める権利は確かに私たちにはありません、ですが……」
「『SRTを守りたい』だろ?それもわかるっちゃわかるが……私の優先順位はSRTよりもあいつだ。それを間違える訳にはいかねぇよ」
「……はぁ、だから言ったじゃんユキノちゃん。ホムラ先輩はこういう人だって」
後輩たちの気持ちも確かにわかる。唐突に今まで通ってきた学園をいきなり閉鎖します!なんて言われちゃ慌てるのも無理はない。確かに私もSRTに愛着は少なからずある、無論思い出も。
ただ、あいつはそれこそヴァルキューレからの仲で、手間のかかる後輩で……最高の相棒なんだ。私にとっちゃ学園よりもあいつの方が大事なんだよ、悪いな後輩。
「つーわけで勧誘なら諦めてくれ。まぁこのザマだし病院から攫うなんてされたら私何もできねぇが」
「そこまで外道に手を染めるつもりはありませんよ。ホムラ先輩はユキ先輩を探すのに集中してもらえれば」
「お、話わかんじゃん。けど大方あいつを見つけたら……って話だろ?」
「……よくお分かりで。その時はまた」
「はいはい、考えとく」
「じゃあ私たちはこの辺で。またいつか、先輩」
「おう、じゃーなー」
……ユキノの奴、随分と切羽詰まった顔してやがったな。何かのきっかけでとんでもないことをしでかすかもしれないが……その時はその時だな、今の私には残念ながらあいつを止める力はないし。まずはリハビリと……なんか色々仕込んでありそうなこの右手を把握するところからだな。
「……あ」
しまった、箱を置いて行ってくれって言うの忘れてた。あいつのことだから説明書とか残してるだろって思ったんだが……ま、ないものは仕方ないか。使いながら覚えればいい……にしてもデザイン良いな、あいつこんなセンスあったっけ?
その後義手を弄繰り回していた私は医師に鬼の形相で怒られた。まあ当然っちゃ当然だな、うん。
それから私はできるだけ早く退院できるようリハビリに勤しんだ結果どうにか1か月程度で退院できた。あいつが整備でもしてくれていたのか愛銃は綺麗なままで残っていたし、金銭面もSRT時代に稼いだ金で問題なし……とまではいかなかったがそこそこの余裕があった。
そういや退院した直後カンナの奴からヴァルキューレへの移籍の話が持ち掛けられたが断った、確かにあそこは古巣だがヴァルキューレにしろSRTにしろあいつが居ない場所に居る意味はねぇ。まずはあいつを探しだしてからだ。
とはいえSRTが閉鎖決定した以上今の私は学園に通っていない生徒、身分の保証なんてできやしねぇ。金のあるうちにあいつの居そうな場所やもしかしたら……な場所を探してみたが見事に全部空振り、無駄に金だけが減っていく結果になった。まあ義手の使い方が身に付いたのは収穫ではあるが。
そうしてそろそろバイトしないと金がやばいし、かといってあいつを探すことにかける時間を減らしたくねぇし……って迷ってる時だった。「シャーレ」なる連邦生徒会の組織ができたのは。
金に困っていた……ってのはあるが、一番目を引いたのは「超法規的機関」であるという点。その強権を使えば今まで行けなかった場所にだっていける、あいつを探す効率が段違いになる。
そう判断した私は丁度部員を募集しているらしかったシャーレのビルに乗り込むことにした、忘れないように諸々の書類を引っ提げて。
「んー、もしかして此処が丸々シャーレって場所のオフィスなのか……流石連邦生徒会直轄は違うなぁ……いや私も元だけど」
キヴォトスらしいスケールのデカさに多少引きながらエレベーターを使い、「先生」とやらが居るであろうオフィスへと急ぐ。1分1秒でも惜しい、あいつを早く探しに行きたい。
「~~~~~!!!!~~~~~!?」
「……。…………」
「うわぁ、すっげぇ怒鳴り声……」
ようやくオフィスへたどり着いたと思えば外まで響く怒鳴り声が聞こえてきた。ガラス越しなせいでよく声は聞こえないが、大層お怒りの様子だ。
困ったな、こうも怒っていると何分……いや、下手したら落ち着くまでに時間単位で待つことになる。それは面倒くさい、非常にめんどうくさい。
うーんどうしたものか……あ。
私が朗らかな雰囲気で堂々侵入すれば意識そっちに割かれるんじゃね?よし、やるか。
ようやく自由自在に扱えるようになってきた義手で取っ手を握り、タイミングを見計らう……よし、今だな。
「たのもー!ここが独立連邦捜査部「シャーレ」ときい……て……」
「まったく貴方ってひとは何回書類を間違えれば……え?」
「いやぁそれに関しては面目も……あれユキ、知り合い?」
部屋に広がっていた光景は正座する「先生」らしき人間と……よく見知った、ずっと探していた奴の姿。なんでここに、とか。今まで何処行ってた、とか言いたいことは色々ある……けど。
「……ホムラ……せん、ぱい?」
「……おう、お前の親愛なる先輩篝ホムラだ。化けて出てないぜ?ちゃーんと足もある」
「ぁ、え、あ……」
「まあ聞きたいことは色々あるがとりあえず……っておい、ユキ!?」
「……」
「ユキ、ユキ!?……気絶しちゃった……」
「っ……おいそこの推定先生!ひとまずこいつを寝かせる!手伝え!」
「推定じゃなくて私が先生なんだけど!?……わかった、事情を聞くのは後にする!」
「話が早くて助かる!んじゃまず運ぶぞ!1、2の、3!」
……驚くほどあっけなく再会した相棒とのファーストコンタクトは、看病からだった。
続きません。
『篝ホムラ』
これは彼女が生存した世界線。義手を身に着けた彼女はユキと同じようにシャーレに入部、ユキとは対照的に実働要員として先生についていくことになる。この時空の先生は過去を話したがらないユキと過去を話した上であいつがなんかおかしいと述べるホムラの2人を抱えることに。
エデン条約調印式は……どうなるか、わからない。
何とは言いませんが
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先生(男)
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先生(男)、ミヤコ
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先生(女)
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先生(女)、ミヤコ
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ミヤコ