異世界から戻ったら   作:✿✿

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※配信ものではありません


その①

「ラスト二部隊、あそこで戦ってるので最後だね。じゃあ今のうちに高所とって漁夫ろうか」

 

 銃声鳴り響くモニターを眺め、独り言ちる。正確にはヘッドセット越しにこの声を聞いている視聴者に向けて、私は喋っていた。バトルロイヤル系のFPSゲームはどうしてもあとから参戦したチーム、つまり漁夫の利狙いのチームが強いが、スピード感が売りのこのゲームは特に戦闘ペースが早くその性質が高かった。

 

「おっ、終わったね。やっぱりそっちが勝ったか。でもチャンピオンは──はいっと」

 

 潰し合い満身創痍になったラスト部隊を、アーマーを着替える隙も与えないまま高所から撃ち落とす。最高ランク(プレマス)帯での争いで、一瞬でも油断している方が悪いのだ。

 モニターには【YOU ARE THE CHAMPION】の文字。これで三連続チャンピオンとなったわけである。

 

 サブモニターに流れる賞賛コメントの数々。中には高額のスパチャも紛れており、一件一件拾ってはお礼を返す。

 勿論スパチャが付いていないコメントも、気になったものに関しては逐一返していく。特に、配信初期から見てくれていた古参勢とのやり取りは欠かさない。こういった特別扱いは、事務所に所属していない個人ライバーだからこそできる特権だ。

 

「今日の配信でトリハンも全キャラコンプリートできたし、そろそろ別のゲームもやろうかな。やって欲しいゲームがあったらちょこマロに投げといてね」

 

 トリハン──トリプルハンマーと呼ばれる、一試合で高ダメージを与えると貰える実績バッジを全キャラ分コンプリートし満足した私は、次に配信するゲームを募集することにした。

 ちょこマロは匿名でメッセージをやりとりできるSNSの一つだ。配信のネタに困った時によく活用している。中には見るに堪えない不愉快なメッセージが届くこともあるが、大半はマナーのあるまともなリスナーばかりなので目を瞑ることにしている。

 

 勿論余りにも度が過ぎるようなら、何らかの措置を取らなければならないかもしれない。今のところはギリギリ許容範囲と言ったところ。ちょこマロ側も、フィルタリングの精度を上げて悪質マロが表示されないようにしたり、アカウント作成に電話番号登録を必須にして、何度もマロをスパム報告されたアカウントは永久BANして二度とアカウントを作れないようにしたりと策は講じているようなのだが。

 セクハラや誹謗中傷を「有名税」だと言う人もいるけれど、それは払っている側が妥協する為に自身に言い聞かせている諦めの言葉であって、他者が免罪符として使っていい言葉じゃないと私は思う。ああ、違うな。注目される立場になって初めてそう実感したのだ。

 

「んじゃあ、これにて解散。お疲れちゃん!」

 

 いつもの挨拶をして配信を落とす。不定期で気ままにやっているだけのゲーム配信だが、それなりにリスナーは付いているし社会人顔負けの稼ぎも出している。大半は貯金に回して、あとは家族に還元したり新しい機材を揃えたりしているのだが。私が自由に配信活動できているのは家族のおかげだし、いつまでも稼げるとは限らないからだ。

 

 ただでさえ我が家には父親がいない。将来を見据えるなら配信ではなく何らかのプロスポーツ選手になるのが一番だけれど、それは私の矜恃に反する行為だ。

 それに、顔を出して目立った活動をするつもりは無い。いつでもどこでも注目されるというのは、存外疲れるものだから。有名税なんてクソ喰らえだ。

 

 ツブヤイターでエゴサと次回の配信のネタになりそうな呟きを探す。

 因みに私の配信活動用のハンドルネームは「宮埜(みやの)シオン」だ。ここまで名前が売れると思っていなかったから、本名を(もじ)っただけの安直な名前になってしまったことは後悔している。漢字も変えているし、ほとんど原型はないけれど。

 声も変えているし身バレすることはないと思うけど……学校でシオンの名前が出ると思わず隠れてしまう。自意識過剰って奴だ。

 

 私の配信活動を家族以外で知っているのは唯一人だけ。だから、最近幼馴染のあの子の態度がおかしいのは……多分気の所為だ。

 

「はぁ──もう終わったから入っていいよ」

「っ、あ……気付いてたんですね。夕食ができたと美琴様が……」

「そう」

 

 気付いていないと思ってるのか、十分程前から部屋の前で中の様子を窺っていた人物に声をかける。

 

 部屋に入ってきたのは腰まで伸びた金髪が眩しい美少女。先程言った、唯一の例外だ。

 私とは似ても似つかない同居人。大切な我が家に住まう居候。戸籍上は従姉妹という事になっているらしい、血の繋がらない同い年の少女──サーニャ。

 

 おどおどした態度ながら、一挙一動から滲み出る育ちの良さが余計に私を苛立たせる。ああ、折角いい気分だったのに。

 

「まだなんか用?」

「い、いえ! それでは失礼します」

 

 ビクリと肩を震わせ、逃げるように立ち去る彼女を見送って、二度目のため息を吐いた。

 本当は分かってる、彼女が悪い訳では無いのだと。

 空白の三年間も、変わってしまった身体も、この家に父親が居ない理由も……大好きだった家族のカタチが壊れてしまったことも。

 

 悪いのは全部、彼女の父親とあの邪神だ。

 分かってる。そんなことはとっくに分かってるんだ。これはただの八つ当たりだって。

 私の為に見知らぬ世界へ飛び出した彼女はきっと、あの時の私と同じように不安で仕方ないだろうに。弱い私はまだ受け入れることができないのだ。

 

「はぁ……夜ご飯、食べに行かないと」

 

 お母さんも妹もきっと待ってるから。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

「ご馳走様でした」

「あら、もう食べないの?」

「うん、あんまりお腹空いてなくて」

「おねーちゃん最近そればっかだよねー。きちんと食べないと私みたいに高身長になれないぞ?」

「いや、それはリツがデカすぎるだけだわ」

 

 一つ下の妹、律の身長は173cmらしい。中学三年生で173cmって普通に大きすぎる。お母さんもお父さんも至って平均的な身長なのにどうしてそんなにデカいんだろう?

 私は150cmしかないのに。妹に身長吸い取られてんのかな。

 

 本人は大好きなバスケットに有利だって喜んでるから、別にいいんだけど。どんなに大きくても可愛い妹である事には変わりないし。

 

「……本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だって。ほら、最近あんまり運動してないからさ」 

「ウタノさん……」

 

 お母さんがせっかく作ってくれた、私の大好物だったハンバーグもカレーも残して食器を片付ける。お母さんには悪いと思ってるが、食べたくても食べることが出来ないのだ。

 それもこれも、全ては私を『異世界』に拉致して『勇者としての最適化』をした邪神のせいだ。

 

 魔王軍の侵攻によって酷い飢饉に陥っていた異世界で、邪神の企みによって少ない食料で栄養を補うことができるようになった私は、大好きだった食事を満足に摂ることが出来なくなってしまった。食べなくていいのではなく、食べられなくなったのだ。

 それが沢山ある邪神の悪行の内の一つだ。

 

 事情を知っているサーニャが泣きそうになっていたのは、邪神が私を『異世界』に拉致した原因が彼女の父にあるからだ。

 正確に言えば、『勇者』を召喚したのが彼女の父 ガルフ・ヴィクタール・ラ・ルフリーザ国王で、その手伝いをして私を選んだのが邪神──女神教の主神・セレーアだった。

 セレーアはあの世界を作った創世の女神であった。私は女神だなんて決して呼びたくは無いから邪神と呼んでいたけれど。

 

 ルフリーザ王国の国王であるガルフ王──サーニャの父親は、私を召喚したと思えば十分な説明もないまま『元の世界への帰還』を餌にチラつかせて魔王討伐へ向かわせたクソ野郎だ。

 アイツに比べれば、最低限の同情と準備をしてくれた邪神の方がまだマシと思える程には。

 

 三年かけてやっとの思いで魔王を倒した私に、感謝も謝罪も無いまま元の世界へ送り返したクソ王の娘に、いい感情を抱けるはずがない。

 それに、私が居なかった三年間のせいでお父さんは──

 

 ──ああ、嫌なことを思い出してしまった。

 

 こういう時はゲームに限る。FPSはなるべく配信外ではやらないようにしているから、今日は一昨年出たらしい、人気のシュミレーションゲームでもやろうかな。

 

 宇宙で工場を作る、配信ではマルチプレイが盛んなシムゲーだ。この手のゲームはソロプレイではあまり配信映えはしない。勿論トーク力があって一人でも場を盛り上げ続けられるなら別だけど、私にそんな技術は無いし一緒にやってくれるような配信仲間なんて居るはずもない。

 

 ダウンロードを済ませて、海外ゲーム特有のガバガバな機械翻訳に苦戦しつつチュートリアルを進める。下手な日本語でプレイするよりはネイティブな英語でプレイした方が楽だけど、海外ゲームの機械翻訳ってそれ自体がひとつのコンテンツというか、面白要素になっているからね。

 

 独特な世界観に作り込まれたゲームシステム。成程、流石は一昨年一番の時間泥棒ゲーと呼ばれていただけあるな。

 技術ツリーもかなりの量があるし、当分飽きることは無さそうかも。

 

 邪神の計らいで睡眠を殆ど必要としなくなった私にとっては、夜はまだまだこれからだ。夜更かししている事を家族にバレないよう部屋の電気は消すのは忘れない。

 

 

 

 夢中でプレイして空が白んで鳥の囀りが聞こえ始めた頃、漸く私は一つ目の技術革新を終えることが出来たのだった。

 

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