【前日譚】ホーランドの勇者   作:赤いUFO

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日常の終わり

「よしっしゃあ! 5匹目フィーッシュッ!!」

 

 キャンプ場に少女の楽しそうな声が響き渡る。

 

「渚ちゃんすごいね。私は全然だよ」

 

 1匹も釣れてないバケツの中身を見せると渚は得意気に笑う。

 

「フフーン! 大丈夫大丈夫! 彩那が釣れなくてもボクが釣った分を分けたげるから!」

 

「うん。ありがとう」

 

「と、いう訳で! 夏休みの宿題写させてください!」

 

「それは自分でやろうね? 渚ちゃん」

 

 えぇ〜っと渚がしょんぼりすると、後ろから声がかかる。

 

「アンタ去年、彩那の宿題全部写して先生に怒られたの忘れたわけ?」

 

「山菜、たくさん採れたよ」

 

「冬美ちゃん。璃里ちゃん」

 

 彼女らにとって親友であり、親戚でもある少女達だ。

 

「渚ちゃんのお父さんすごいね。採っちゃいけないキノコとか草とか解りやすく教えてくれたの」

 

「でしょ? パパは食材に関しては詳しいんだよ! 伊達にプロじゃない!」

 

 渚の父親は筋肉質な220cmという日本人離れした体格の持ち主だが、料亭の板前をやっている。

 本人もキャンプなどとアウトドアを好んでおりこういう時には頼りになるのだ。

 

「そろそろ母さん達が戻って来いって。魚は釣れたんでしょ?」

 

「渚ちゃんはね。私は全然……」

 

 1人だけ役に立ってない事実に彩那が落ち込んだ声を出す。

 そこで釣り竿が引っ張られる感触がした。

 

「わっわっ!?」

 

 慌てる彩那に渚がアドバイスする。

 

「落ち着いて。それじゃあ釣り竿を取られちゃうよ」

 

「う、うん……」

 

 アドバイスを受けながら釣り竿を持つ手に力を込める。

 

「いま!」

 

 渚の合図に従ってかかった魚を釣り上げる。

 すると、川から1匹の魚が釣れた。

 

「あっ、わっ!?」

 

 ピチピチと動く魚を慣れない手付きで掴む彩那。

 

「おぉー。初フィッシュだね!」

 

「おめでとう、彩ちゃん!」

 

 渚と璃里が拍手して喜んでくれた。

 

「うん……うん!」

 

 それにつられて彩那も嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいひ〜!」

 

 塩を振って焼いた魚を渚は満面の笑みで食べる。

 

「こういうところで食べるとなんでも美味しく感じるよね」

 

 璃里も採った山菜を親達が天ぷらにしてくれたのを食べている。

 今はその油の処理を含めた片付けをしていて子供達だけが先に食事を摂っていた。

 

「それにしても、さっきの冬美にはビックリしたね! なんでご飯を炊くのにお酒をぶっ込もうと思ったの?」

 

「……間違えただけよ」

 

 睨みながら答える冬美に渚は分かっていてニヤニヤと笑う。

 ご飯を炊く時に手元を見てなかった冬美は手の感触だけでペットボトルに入った水と焼酎を間違えて投入しそうになった。

 ギリギリのところで保護者の1人が止めたが、そうでなかったら酒の味のするご飯が出来上がっていたところだ。

 

「前のお菓子作りの時もそうだったけど、どうしてこう料理のことになるとポンコツ化するかなぁ」

 

「……うっさいわね」

 

「渚ちゃん。あんまりイジらないの」

 

「は〜い」

 

 料理が苦手な事を突いてくる渚を彩那が注意する。

 これ以上は空気が悪くなるからだ。

 渚も経験から理解しているのでこれ以上冬美を料理の話でイジる事はしない。

 楽しい時間は残酷なまでに早く流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食を終えて、子供達は大人の見える範囲で山で遊び、夕食を摂って張ったテントに入った。

 家族分けではなく、子供達は本人達の希望で全員同じテントで眠る事となる。

 彼女らはまだ、眠くなく、夜の雑談に興じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでさ。帰った後のカレーパーティーはいつにしようか?」

 

 夏休み前に渚が言い出したカレーパーティー。

 冗談ではないのは付き合いの長さから分かっていたが。

 

「アンタそれ、やっぱり本気なのね」

 

「とーっぜん! 八神さんも呼んで、たっくさん作ろ! パパに業務用の大鍋借りられるように頼んであるんだ!」

 

「それ、わたし達だけで食べ切れるかなぁ」

 

「まぁ、余ったら家族に食べてもらうなりすれば大丈夫じゃない? うちの両親は喜ぶと思うし」

 

「帰ったら八神さんの予定も聞いておかないとね。あぁ、でも。連絡先とか誰か知ってるの? 私は知らないわよ?」

 

「わたしが知ってるよ。同じクラスになった時に、クラスメイトの女子全員の携帯番号は教えてもらったから」

 

 冬美の疑問に璃里が答える。

 彼女は内気に見えて結構社交的なのだ。

 先程から話題になっているのは八神はやてという彼女達のクラスメイト。

 最近は足が不調なのか、杖を突いて歩きにくそうに登校している少女。

 調理実習の時の料理の腕を見込まれて誘ったのだ。

 

「楽しみだな〜。八神さんも一緒のカレパ! かわいい女の子とは何人仲良くなっても損はないしね!」

 

「ちょっとオヤジ臭いよ、渚ちゃん」

 

 指摘されても気にした様子もなく、鼻唄を唄い出す渚。

 そこで話題を変える

 

「そういえば、渚ちゃん。さっきは宿題を見せてほしいってお願いしてきたけど、まだ手を付けてないの?」

 

「失礼な! 読書感想文だけは終わってるよ! パパの部屋にあるマンガを借りてね!」

 

「それバレるでしょ」

 

「だいじょぶだいじょーぶ! 一応原作は小説だし、先生だって世の中の本を全部読んだわけじゃあるまいし」

 

 自信満々に返す渚に冬美は小声でバレてしまえと吐き捨てる。

 

「それじゃあ、そのカレーパーティーの後に宿題も片付けちゃおうか」

 

「えぇ〜? 写させてくれれば楽なのに〜」

 

「だからそれで去年は先生に怒られてたでしょうが! 彩那まで巻き込むなっての!」

 

「解らないところは教えてあげるからがんばろ。渚ちゃん」

 

「は〜い」

 

 気のない返事をする渚。

 それからも色々な話をした。

 日付が変わろうとしている時間になって冬美が親達がもう寝ている事に気付く。

 

「私たちももう寝ましょう。ほら、灯り消すわよ」

 

「うん」

 

 返事と同時に冬美が照明のスイッチを切る。

 

 

 

 

 同い年で同性の親戚だった4人はいつも一緒だった。

 毎日が宝石のように輝いていて、そんな日常がこれからも続くのだと信じて疑わなかった。

 学校に行って、帰ったら集まって遊び、また明日ね、と手を振って別れる。そして翌日に笑って顔を合わせる。

 ずっとこの日常が続くのが4人にとっての疑う余地もない当たり前だったから。

 だから、それが突然めちゃくちゃに壊されるだなんて想像すらしてなかったのだ。

 

 

 

「な、なにっ!?」

 

 照明を消したと同時に"それ"は現れた。

 白い光の線が突然上と下から現れると、高速で描かれて形になっていく。

 それはまるで────。

 

(魔法陣みたい……)

 

 漫画などでよく見る模様に彩那はそう思った。

 

「なんかヤバいわ! テントの外に────っ!?」

 

 冬美がそう指示をしてテントの外に出ようと動くと、鏡のような壁によって阻まれる。

 

「なによこれっ!?」

 

 冬美が体当たりで壁を壊そうとするが、音すら鳴らず、ただテントの外へ出るのを拒む。

 

「どうなってるの!? どうなってるの、ねぇ!?」

 

 あまりの状況に璃里が悲鳴のような声を上げる。

 魔法陣が完成すると同時に視界が眩い光に包まれる。

 

「彩那っ!?」

 

 彩那を守るように渚が抱きついてきた。

 同時に白い光が、彼女達4人をこの世界から連れ去って行ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 視界が少しずつはっきりしてくる。

 そこは見覚えのない建物の中だった。

 物語に出てくるような神殿ののような大部屋。

 そこでは神職に就いている者が着てそうな凝ったローブを着た者が彼女らを囲むように立っている。

 しかし彼らは皆一様に戸惑っているのが判る。

 

「子供……いったいどうゆう事だ」

 

「召喚は失敗したのか?」

 

「いや、まだそれだけで判断は────」

 

 そんな言葉が次々とこちらの耳に届く。

 とにかく相手の言葉が理解出来るのだけは心の底から安心した。

 冬美が少し前に出て周りの大人達と話そうとする。

 

「あのっ!!」

 

 質問を投げかける前に初老の男性が4人に近付き、跪く。

 

「ようこそ。我らの召喚に応えて下さいました」

 

 召喚? と4人が警戒しつつも言葉の内容を理解しようと耳を傾ける。

 初老の男性は優しい声だが、敬うような声で4人に懇願した。

 

「どうか、我らの世界をお救いください……勇者様方」

 

 これが、始まりの夜。

 4人の少女達がホーランドの勇者として多くの戦場を駆け抜け、出会いと別離の果てに世界を救うまでお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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