【前日譚】ホーランドの勇者   作:赤いUFO

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テスト・前編

「なんなのアレェッ!?」

 

「怪獣じゃん! 怪獣っ!!」

 

 4人は追ってくる魔法生物から逃げながら声を張り上げて文句を言う。

 そうしないと恐怖で心が折れそうだった。

 

「璃里! もっと速度上げなさい! 追いつかれる!!」

 

「そんなこと言ったってぇっ!?」

 

「ひゃっ!? 火ぃ吐いたよぉっ!?」

 

 吐いた火を避けながら少しでも距離を取ろうと移動する。

 その途中で渚が空に向かって叫ぶ。

 

「ふっざけんなよ、あんのじじぃいいいいっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとーにすみませんした」

 

「もっとちゃんと謝れこのバカ」

 

 渚の頭をぐりぐりと力いっぱいに押さえながら土下座をさせている冬美。

 1歩間違えば不敬罪でどうなるかわからないのだ。その不安でお腹が痛い。

 

「いえ、お気になさらずに。その、驚いただけですので。そ、それよりそちらの方をもう解放してあげませんか?」

 

「駄目です。今ここでこの珍獣を解放すると何をしでかすか分かりませんし、責任も取れないので」

 

「ひでー」

 

「そういう態度だよ。渚ちゃん」

 

 反省の色が見えない渚に彩那が自分の額に手を当てる。

 しかし相手側が許した事で、とりあえず渚は解放される事となった。

 用意されていたテーブルを囲うように配置された椅子に座る。

 一応礼儀作法は習ったが、付け焼き刃もいいところ。

 そもそも王女様からのお誘いとか面倒だな〜というのが3人の本音だ。主に渚が何をするのか予想できないから。そしたら案の定だった。

 コホン、とティファナ王女が小さく咳をすると、改めて4人と向き合う。

 

「先程も申しましたが、我が国の召喚に応えていただきありがたく存じます。貴女方の勇気ある決意に感謝を」

 

「ん?」

 

 王女の言い方にちょっと違和感を覚える。

 それではまるで、勇者が自分からこの世界へ来るのに応じたみたいではないか。

 

『そういう感じに説明されてるんでしょ。とりあえず合わせとけ。面倒になるのはごめんよ』

 

 若干の嫌悪感を滲ませてつつ冬美が念話で伝える。

 自分達かここに居る理由を都合良く言い触らされて面白い訳が無い。

 それはそれとして目の前の相手に無駄なショックを与える必要もない。ただそれだけの事だ。

 反応を返そうとすると、この建物の主が部屋に入ってくる。

 

「ホッホッ。楽しんでおるかな、王女よ」

 

「はい。本日はお招きいただき、ありがとうございます。アーツ様」

 

 席から立ち、軽く頭を下げて礼をするティファナ。

 その立ち振舞いに満足そうに頷きつつ蓄えられた顎髭を撫でる。

 

「そう畏まらずとも構わんよ。立場は王女である貴女の方が上なのじゃから」

 

「そんな……」

 

 アーツの言葉にティファナが委縮した様子で視線を下げる。

 肩を軽くすくめると、アーツは勇者4人の少女に視線を向けた。

 

「この老体が長居しても邪魔じゃろうし、簡潔に要件を伝えにきた。お(んし)らは、明日からわしが魔法の授業を担当する」

 

「アーツ様っ!?」

 

 アーツの決定にティファナが驚きの声を上げた。

 

「もう並の術者ではその子らの教師役は務まらん。わしも久しぶりに教鞭を取りたくなったからのう」

 

 ホッホッホ、と笑いながら部屋を出ていくアーツ。

 老人が去った後に渚が質問する。

 

「前にも会ったけど、王様の隣に居たよね? 偉い人なの?」

 

「……はいアーツ・オク・ルギア様。王族を支える最大貴族4家の1つ。ルギア家の現当主様です。齢ももうすぐ120に届く筈ですが、長く政界に身を置いていて、今ではこの国の(まつりごと)や財政の柱と言っても過言ではありません。若い頃はその優秀さからホーランド最高の魔導師として国の幾度と外敵から守り抜いた歴史書にも名を残している生きる伝説です。前線を退いてからは、100歳まで魔法理論の教鞭を取って居られました」

 

「ひゃくぅ!? めっちゃ長生きじゃん!?」

 

 驚く4人に王女は頷く。

 

「内にも外にも強い繋がりを持ち、王であるお父様もあの方には迂闊に意見が出来ない程です。ただ……」

 

「?」

 

 表情を曇らせるティファナに4人が疑問に思う。

 

「いえその……嗜好が俗的と申しますか……お金や権力。特に女性関係にだらしないと噂で。今でも新しい女性を囲ってたり、毎年どこかで隠し子が生まれているという噂もあります」

 

 あくまでも噂ですけど、と付け足す。

 それを聞いた渚が自分の体を抱きしめる。

 

「ちょっ!? まさか授業にかこつけてボクたちにエッチなことする気じゃないよね! あのおじいさん!」

 

「まさか。そんなことはないと思いますよ……たぶん」

 

「そこは断言してほしいんですけど」

 

 自信なさげなティファナに冬美が不安そうに呟く。

 態とらしく視線を泳がせた後に話題を変える。

 

「そ、それはそれとして、皆さんの世界について教えてくれませんか?」

 

「わたしたちの世界?」

 

「はい。わたくしは、皆様の故郷に興味があります。駄目ですか」

 

「……」

 

 可愛らしく頼むティファナ王女。

 しかし、彼女らはそれを口にする事に僅かな反発と不快感を覚えた。

 この世界に引きずり込んだ者の家族に、どうして自分達の故郷について語らなければならないのか。

 そう考えてしまうとどうしても口が重たくなってしまう。

 ただ1人を除いて。

 

「いいよー。ボクたちの故郷はね〜」

 

「渚ちゃん……」

 

 咎める口調になると渚は首を横に振る。

 

「いいじゃん。そんくらい話しても。それに、ボクたちにとっても必要でしょ? こういうのって口にしたり何かで残したりしないと、どんどん忘れていきそーじゃん。だから忘れない為に、ね」

 

 ウインクする渚。

 その様子に冬美が観念したように息を吐く。

 

「そりゃアンタが忘れっぽいだけでしょうよ」

 

「たまには良いこと言うよね、渚ちゃん」

 

「ひでー。冬美も璃理もボクをバカにしてるぅ」

 

 頬を膨らませる渚の頭を彩那が撫でた。

 

「そうだね。忘れない為にも、こうして話すのも必要だよね」

 

 意を決して彩那はティファナ王女に視線を合わせる。

 

「それじゃあ話しますね。私達が生まれ育った日本という国と、海鳴という町について────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王女と会った翌日。

 勇者の少女達はアーツによって屋敷の中にある転移装置の前に集められていた。

 

「それでは、これより演習場所へと向かう」

 

 アーツの宣言に4人はいきなり? と驚きを見せた。

 てっきり魔法についてのお勉強をさせられると思っていたのだ。

 その疑問にアーツは髭を撫でながら答える。

 

「お主らの教育についての報告書を読み、そろそろ実戦を想定した演習の1つも必要じゃと思っての。ま、ここで訓練するよりはやり甲斐もあろうて」

 

 意味深に笑う老人に悪い予感しかしない。

 そんな不安など意に介さず、アーツは説明を続ける。

 

「これから向かうのは、ホーランドが所有する小さな無人島じゃな。ほれ征くぞ。細かい事は現地で説明する」

 

 早くしろと転移装置の中に誘導される。

 アーツが魔力を通すと見知らぬ森に景色が変化した。

 

「ここが……」

 

 ジャングル景色に4人の少女が唖然となる。

 魔法に対してある程度は慣れたつもりだったが、こうして簡単に全然別の場所に来ると地球との技術差に恐さを覚えた。

 茫然とする勇者達にアーツが説明を始める。

 

「この島では時折軍事演習に使ってての。ただ、数年に1度、この島にヌシと呼ばれる強力な魔法生物が誕生する。生存競争や縄張り争いの弱肉強食によって育った個体じゃ。本来は軍で討伐体を編成して対処する案件じゃが、お主らにはその個体を3日以内で討伐してもらう。3日経ったら迎えに来よう」

 

「はぁっ!?」

 

 滅茶苦茶な課題に素っ頓狂ナ声が出た。

 彩那が疑問を口にする。

 

「水や食料は?」

 

「この島の飲み水はあちらこちらに湧いておるし、魚もおる。食せる山菜や果物もあるし、動物も獲れば良かろうて。なにも心配する事はないぞ」

 

「そんな簡単に……!」

 

 アーツの言いように璃里が顔を引きつらせる。

 

「ではな。3日後にまた会おう!」

 

 ビシッとニヤニヤとした表情で敬礼してから転移装置で帰っていった。

 

「ちょっとまてぇ!?」

 

「これ、動かせない?」

 

「ダメ。たぶんもう機能がロックされてると思う」

 

 この中で魔法理論に1番詳しい璃里が装置を調べてそう結論付ける。

 

「そもそもヌシってなんだよ! せめて見た目くらい教えろ、あのジジイッ!」

 

 転移装置を蹴って文句を言う渚。

 

「たぶん説明からしてさ。大きくて強い魔法生物、なんじゃないかなぁ?」

 

「アバウト過ぎでしょうよ……」

 

 彩那の予想に冬美が苛立たしい様子で頭を掻く。

 そのまま少し考えてから提案する。

 

「とにかく、そのヌシを探しつつ島を回りましょう。水や食べ物の確保も必要でしょう?」

 

「そうだね」

 

 冬美の提案に頷く彩那。

 璃理もおずおずと手を挙げて提案する。

 

「空を飛んで探した方が良いよね?」

 

「そうね。水は簡単に見つかるらしいし」

 

 用意された荷物に水筒が有ったのは幸いだった。

 

「んじゃ、とっとと探そっか!」

 

 締め括ると渚を始め、4人が空を飛ぶ。

 ある程度高度を上げるも璃理がある事に気付く。

 

「あ」

 

「どうしたの? 璃理?」

 

「うん。この島、結界で閉ざされてる。島の外に出るのは無理そう」

 

「私たちを逃さない為、かな?」

 

「いえ、たぶん違うわ。この島の生物を外に出さない為だと思う。軍の演習にも使うって言ってたし、それが外にも影響を与えさせない為かも」

 

 そもそも勇者達はホーランド以外に行き場が無いのだ。不用意に逃げられると考えるとは思えない。

 渚がそこで下を指差す。

 

「見て! あそこ! 滝っぽいのが見える!」

 

 木々に隠れて見えにくいが、確かに滝があり、水が落ちているのが見えていた。

 取り敢えずそこまで移動する。

 滝は小さな川に繋がっていて、魚なども泳いでいる。

 渚は水筒に水を汲ん後に飲む。

 

「これからどうする? 取り敢えず眠れる所から探す? 洞窟とか」

 

「う〜ん。いっそのこと、テント状にシールドを展開してみる?」

 

「それだと、雨風は凌げても空気が入ってこないでしょ。それに一晩中シールド張ってるつもり? 彩那の負担が大きすぎるわよ」

 

「取り敢えず、少し飛んでここら辺をマッピングしてみるね」

 

「1人だと危ないから私も一緒に行くよ」

 

 そんな風に3人が話していると渚が1人で魚を獲っていた。

 

「2匹目ゲットたぜ!」

 

 鮭を獲る熊か、と言いたくなる動きで泳いでいる。魚を掴んで川から地面に投げる。

 あっという間に六匹の魚を獲ると地面に上がり、提案する。

 

「取り敢えず、ごはんにしようよ。彩那と璃理は枯れ木を探して来て。ボクは魚を捌いてみるから。冬美はライター役ね」

 

「アンタ……」

 

「お腹空いてたら良い案なんて出ないって。朝ごはんだってまだなんだからさ。話なら食べながらでいいでしょ」

 

 石で魚を囲う堀を作り、せっせと魚を焼く準備に入る。

 その様子に彩那がクスッと笑う。

 

「そうだね。先ずはごはんにしよう、冬美ちゃん。ね?」

 

 肩に手を置くと観念したように冬美が息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火を起こして魚を焼きながら今後の話をする。

 

「ここを拠点にするとして、今日は食べ物を探すのに優先するべきだと思う。目標を見つけたり、襲われたりして動けなかったら意味ないし。3日分ならそんなには要らないでしょ?」

 

「って言ってもこの島で生えてて食べられる物って分からないからなぁ。きのこ類は手を出さないのが無難? 動物とかなら焼けば食べられると思うけど」

 

「動物……」

 

 渚の意見に璃理が嫌そうに顔を青ざめさせる。

 製品と卸されてる精肉ならともかく、自分達で動物を狩って肉を食すのを想像して怖くなったのだ。

 4人で色々と取り決めると、ちょうど魚が焼ける。

 最初に焼けた魚の刺した木の枝を串の部分を渚が手に取った。

 

「いっただきま〜、ん?」

 

 突然影覆われ、暗くなった空に視線を動かした。

 高度は高い筈なのに、巨大に見える鳥が4人のところへ急降下してくる。

 

「デカッ!? 速っ!?」

 

「プテラノドンーッ!?」

 

 その姿を見て彩那が声を上げる。

 多少見た目が違うが、それはプテラノドンに似た怪鳥だった。

 そのプテラノドンっぽい生物が焚火をしていた場所に突っ込んできたので慌てて距離を取り、予想通り火の近くに着地すると足で石を蹴って火を潰す形で消し、焼いていた魚を食べ始める。

 

「あーっ!? ボクらのごはんーっ!! ざっけんなこらー!!」

 

「渚ちゃんっ!?」

 

「あの馬鹿!」

 

 デバイスの剣を起動させてプテラノドン? に向かっていく。

 

「でぇいっ!」

 

 その翼を斬り落とそうと剣を振るう。

 しかし、その感触は生物のそれではなく、鉱石や鋼鉄に近かった。

 

「ありゃ?」

 

 翼に刃が通らず、驚いた一瞬にその嘴が渚に襲いかかる。

 嘴が渚の頭を捉える前に冬美が魔力を炎に変えた射撃魔法を当てた。

 

「考え無しに突っ込むな馬鹿!!」

 

「ゴ、ゴメン!?」

 

 渚がプテラノドンから距離を取る。

 冬美の攻撃に頭を振った後にプテラノドンは口から魔力砲を射出してきた。

 レーザー砲に似たその攻撃に一同固まって動けなくなる。

 

「逃げるわよっ!」

 

 それでも冬美の指示になんとか反応して森の中へと走った。

 これが、魔法生物との逃走劇の始まりだった。

 

 

 

 

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