【前日譚】ホーランドの勇者   作:赤いUFO

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今回でテストが終わりませんでした。


テスト・中編

「どういうつもりだ、アーツ!!」

 

 バンッと会議用のテーブルを叩いて怒声を飛ばす国王に対して逆に感心していた。

 流されるだけの小僧と思っていた王が久し振りに怒りの表情で詰め寄ってきたのだ。内心で心躍るのも仕方がない。

 

「何故あの島へ娘達を連れて行った! あそこの危険度は貴様も理解しているだろう!!」

 

「前回の島の主を討伐して早2年。あの娘らが相手にするには手頃な────」

 

「前回の討伐は6年前だ!」

 

 勇者達を送り出した島は凡そ5年から7年くらいの頻度で島の主を軍が討伐する。

 その間に島の魔法生物達はリンカーコアを貪り合い、力を高めて主が生まれる。

 そのくらいの頻度が軍の討伐演習に丁度良い強さだからだ。

 

「……それくらいは誤差じゃよ誤差」

 

「アーツ!」

 

 あしらってくる老人にホーランド王が声を荒らげる。

 

「……隣国の様子がちとキナ臭くなっておる。近々、あの子らを向かわせる予定じゃ」

 

「隣国……エネスト国か?」

 

 王の言葉にアーツは頷いた。

 

「あそこは国の大きさも軍事力も大した事のない国じゃ。ホーランド(うち)と真正面から戦ったらケンカにもならん。じゃが、領土問題の関係で昔からこの国と仲が悪いのは知っておろう?」

 

 もちろん知っている。

 昔からあの国はホーランドの土地を狙っており、数々の嫌がらせをしていた。

 ホーランドからすれば些事なので、基本は外交で注意するに留めていた。

 

「このご時世じゃからのう。いつまでもあの国を無視しておく訳にもゆくまいて。取り込むにしろ、叩き潰すにしろ、のう?」

 

 クツクツと笑う老人に王は背中が一気に冷えた気がした。

 

「……それと今回の件に何の関係がある?」

 

「いきなり人殺しをさせるよりはマシじゃろう?」

 

「あの娘達と島の主が遭遇しない可能性もある」

 

「あそこの魔法生物は強い魔力を持つ者を察して襲いかかる習性があるからのう。もしかて今頃────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁああぁっ!? 追いつかれるぅ!!」

 

「なんで炎を恐がんないのよあのプテラノドン!?」

 

 冬美が炎に変換した射撃魔法を連続で敵に撃ち込むが、碌に避ける素振りも怯む様子もなく、木々を押し倒しながら直進してくる。

 

「いっそのこと、もっと上まで飛ぶ?」

 

「馬鹿言わないで! この障害物でも追いつかれかけてるのに広いところになんて出たらそれこそ────ひゃっ!?」

 

 砲撃魔法のような攻撃が襲ってきて冬美は下に回避する。

 

「あいつマジふざけんな!?」

 

「あのおじいさん? それとも向こうのモンスター?」

 

「どっちもよ!」

 

「璃里ちゃん! もっと急いで! 追いつかれちゃうよ!」

 

「そんなこと言ったってぇ!!」

 

 1番後ろの璃里にプテラノドンっぽい魔法生物が距離を詰めている。

 この木々の障害物を回避しながら逃げ回るのに苦労しているのだ。

 徐々に距離が縮まり、璃理を啄もうと迫る。

 

「璃里ちゃん!!」

 

 彩那が間に割って入り、シールドで嘴を防ぐ。

 

「うっそ……っ!?」

 

 彩那が張ったシールドは数度突かれてヒビが入り始める。

 いつ破壊されるかも分らない状況に冷や汗が流れた。

 

『璃里、下っ!!』

 

 冬美から念話で指示が飛び、ハッとなってバインドを発動させる。

 鎖状のバインドが、空飛ぶ魔法生物の体に巻き付くと同時に下に見える大岩に繋ぐ。

 

「────ッ!?」

 

 奇声を上げながら藻掻き、バインドを破壊しようとする魔法生物。

 

「今のうち逃げるわよ! こっちの攻撃効かないだから!」

 

「う、うん!」

 

 少しでも距離を取り、簡単には見つからなさそうな場所に下りる4人。

 

「もしかしてアレがこの島の主!? ヤバ過ぎでしょ!」

 

 地団駄を踏む渚に彩那が大きく息を吐く。

 

「でもアレより強かったらもう私達の手に負えないよ」

 

 あのプテラノドンに似た魔法生物相手でも勝てるかどうか判らないのだ。それ以上強いのが居たら完全にお手上げである。

 

「そもそもコレが悪いんだよ! 全力で魔力とか込めたら壊れそうじゃん!」

 

 八つ当たりで自分のデバイス()をブンブンと振り下ろす渚。

 全力に応えてくれない相棒に苛々が募る。

 

「とにかく、今は休める場所を探すわよ」

 

 そうして移動しようとすると、黙っていた璃里のお腹が鳴る。

 

「き、気が抜けたらお腹が空いてきちゃって……」

 

「お魚、結局取られちゃって食べられなかったもんね」

 

 恥ずかしそうにお腹を押さえる璃里に渚が肩を落とす。

 彩那が小さく手を挙げた。

 

「それじゃあ、また食べ物を探さないと」

 

「……あの恐竜、焼いたら食えないかな?」

 

「だから攻撃が通らねーんだっつの」

 

 そうして歩こうとするとポキ、と枝が折れる音がした。

 

「ん?」

 

 振り向くと、そこには大きなカマキリがいた。

 背丈が凡そ1m程のカマキリが群れで。

 

「ハ、ハロー……」

 

 渚が引きつった笑みを浮かべて挨拶してみる。

 しかし、渚の挨拶とは裏腹に、先頭のカマキリがその両手の鎌を振り下ろしてきた。

 

「うひゃ!」

 

 鎌を避けて逃げを選択する。

 走りながら冬美が舌打ちした。

 

「次から次へと……!」

 

「渚ちゃん、大丈夫!」

 

「もーまんたぁい! って言いたいけど、あいつら速っ!?」

 

 1匹のカマキリが跳び、上から迫ってくる。

 

「調子に、乗んなぁ!!」

 

 破れかぶれに渚が剣を突き刺す。

 

「へ?」

 

 また通じない可能性があったので、警戒したが、渚の剣は思ったよりも簡単に刃を通した。

 それを見た冬美が即座に動き、後ろに続くカマキリに射撃魔法を叩き込む。

 冬美の炎に変換された射撃魔法はカマキリ達を貫いた。

 彩那も剣を振るってカマキリを斬る。

 

「や、やぁっ!!」

 

 璃里がバインドでカマキリ数体を同時に拘束した。

 数分で巨大カマキリの群れを掃討する。

 

「大したことなくて助かったー。あのプテラノドン並に強かったらお手上げだったよ」

 

「訓練で戦った魔導師の人達より弱かったかも」

 

「じゃあやっぱりあのプテラノドンが別格なのかしら?」

 

 冬美が思考に没頭すると璃里がバインドをかけたカマキリを見る。

 その数体はバタバタと藻掻いていた。

 

「璃里。こいつらは……」

 

 トドメを刺さないのかと暗に問う冬美に璃里は申し訳無さそうに。

 

「1時間くらいで解けると思うけど……だめかな?」

 

「いいんじゃない? 動けない相手を態々殺す必要ないし。君たちも、もうつっかかってきちゃダメだぞ〜」

 

 そう言って渚がカマキリの頭を撫でようとした。

 すると、物陰から何かが飛び出してくる。

 

「えっ?」

 

「渚?」

 

 冬美が渚の肩を引いた。

 飛び出してきたその動物。子猫サイズの狐っぽい生き物がバインドをかけられたカマキリに襲いかかっていく。

 

「ヒッ!?」

 

「璃里ちゃん見ちゃダメ!」

 

 彩那が璃里の視界を覆って狐がカマキリを食い散らかす光景をシャットアウトする。

 それでも小さな狐が大きなカマキリを食べる音は耳から離れなかった。

 

「ここから離れるわよ! 早く!」

 

 冬美が急かして全員走ってその場を後にした。

 

 

 

 

 息が切れるまで走る4人。

 彩那が璃里に質問する。

 

「璃理ちゃん。あのプテラノドンにかけたバインド。アレはどれくらいで解けるの」

 

「え、と……確かなことは言えないけど、2日くらいかな? 壊される可能性はあるけど」

 

「このテストギリギリまで時間があるのね。ならそれまでに作戦を考えないと……」

 

 そこで、渚のお腹から空腹を訴える音がなった。

 

「あんたねぇ……」

 

「しょーがないじゃん! 朝食べてからずっと食べてないし! 陽も落ちてきてるんだよ!」

 

「動きっぱなしだったもんね」

 

 彩那の同意に渚がそうだよ! と続く。

 

「ご〜は〜ん〜! なんでもいいから食べ物を!」

 

「あー! うっさい!!」

 

 パシンと冬美がイラつきから渚の頭を叩いた。

 それを彩那がまぁまぁ、となだめる。

 

「じゃあまた、食べられそうな物を探そうよ。別の場所に魚もいるだろし」

 

「だねー」

 

 取り敢えず食料の確保に動くことにした4人は、移動を続ける。

 その間、ずっと俯いている璃里に気づく。

 

「璃里ちゃん、どうしたの?」

 

「え? ううん! なんでもない! さ、食べ物探そ!」

 

 慌てて笑みを作って両手をブンブンと振る璃里。

 森の中を探索していると、あっという間に暗くなっていた。

 

「結局食べられそうなの見つからないじゃん!」

 

「食べられそうな草花なんて知らないしね」

 

 果物とかならともかく、茸や草などは知識も無しに食べる気はしない。

 お腹を壊すだけでは済まない可能性があるからだ。

 

「腹空きすぎて眠れる気しねー」

 

「いちいち口に出さないでよ。こっちまでひもじくなるでしょ!」

 

 歩きながら集めた薪を放り焚き火の準備を始める。

 まだ8歳の子供に半日近く食事が無いのはキツイ。

 それに空腹は嫌な予感を掻き立てる。

 例えば、自分達はホーランドに見捨てられ、この島に捨てられたのではないか、とか。

 これまでの些細な筈の失敗や抵抗が急に怖くなる。

 だから渚は大丈夫だと心に言い聞かせた。

 それでもイライラは止まらなくて。

 冬美が魔法で火を熾して焚き火を完成させる。

 そこで草場の茂みが揺れ擦る音がした。

 さっきの事もあり、全員が辺りを警戒していた為、すぐに反応した。

 

「あ……かわいい……」

 

 その姿に璃里が思わず呟く。

 現れたのは、1匹のリスだった。

 但し、やはりサイズが知っているのと違い、兎くらい大きさだ。

 

「……」

 

 それでももしかしたら獰猛な生き物かもしれないと警戒する。

 しかし少女達の警戒に反してリスもどきはトテトテと近づいてきて、璃里の足下に擦り寄ってくる。

 

「人懐っこい?」

 

「こんな野生の島で?」

 

 彩那と冬美がそれぞれ疑問を口にする。

 

「わぁ。あったかい……」

 

 さっきまで警戒は何処へやら璃里はリスもどきを抱き上げた。

 その愛らしい見た目に絆されたらしい。

 

「群れからはぐれたのかな?」

 

「分かんないけど……」

 

 取り敢えず脅威は無さそうなので、構えていた武器を下ろす。

 璃里が小さな声で提案する。

 

「この子、連れて行ったらダメかな?」

 

「……なんで?」

 

「1匹でかわいそうだし。群れが見つかるまで、ね?」

 

 これは見つからなかったら自分で飼う流れかもしれない。

 

「駄目だよ、璃里ちゃん。あの怪物を相手にしなくちゃいけないし、その子の面倒見切れないでしょ?」

 

「あ……」

 

 彩那に言われても気付いたのかシュンとなってリスもどきを下ろす。

 

「ごめんね」

 

 せめて食べ物くらい分けてあげたいが、何にも持ってないのだ。

 璃里がリスもどきを下ろすが璃里の足下を擦り寄って離れない。

 

「わっ……わ……!」

 

 戸惑っている璃里に冬美が頭を掻く。

 

「マジで懐かれてるわ」

 

「しょうがないね。私もなんとかフォローするから、今は様子を見ようよ」

 

 苦笑いを浮かべてそう言う彩那に、冬美はお願い、と息を吐いた。

 それから明るくなるまで身体を休め、日が昇ると同時に行動した。

 よほど気に入ったのか、璃里はリスもどきを抱えながら移動している。

 それを見て、彩那は内心でホッとしていた。

 

(璃里ちゃん、この世界に来てからずっと不安そうだったし。あの子を飼ったら少しは気が紛れるかな?)

 

 そう思いつつ、リスもどきの頭を撫でて話しかける。

 

「この子、名前は考えないの?」

 

「え?」

 

 いいの? と言わんばかりに首を傾げる璃里に冬美は素っ気なく好きにしたら? という感じで。渚は空腹から反応するのが面倒そうだった。

 

「えっとじゃあ。リスって栗に鼠って書くよね? だからモンちゃん、とか?」

 

「モンブランから?」

 

「うん!」

 

 2人が話していると、今しがたモンちゃんと名付けられたその子が璃里の腕から抜け出し走り出す。

 

「モンちゃん!?」

 

「急にどしたー」

 

「璃里! 考え無しに離れないで!」

 

 モンちゃんを追って走る璃里の後を追う。

 少し走ったところにはリンゴの生っている木に到着した。

 その木に登ったもんがリンゴの1つを落とすと、璃里がそれをキャッチする。

 

「もしかして、案内してくれたの?」

 

 ひと口食べると、酸味は強いが充分食べられる味だった。

 

「おいしいね。ありがとう、モンちゃん」

 

 自分の分も採って下りてきたモンちゃんがリンゴを食べると璃里が頭を撫でる。

 

「うおあぁああっ!? た〜べ〜も〜の〜っ!!」

 

 リンゴを見た渚が空を飛んで抱えられるだけリンゴを採って下りる。

 

「うめ〜」

 

「どっちがリスだ」

 

「あはは……」

 

 渚がモンちゃんと横に並んで似た動作でリンゴを食べてる姿に呆れ返る。

 僅かながらに空腹が解消されて元気を取り戻した渚がモンちゃんを撫でる。

 

「いい子だね〜。お陰で助かっちゃったよ」

 

 リンゴを2つ食べ終えた渚はそのまま地面に大の字になって寝転がる。

 

「行儀悪いよ、渚ちゃん」

 

「こんなところでおぎょーぎなんて気にしても仕方ないじゃん。それより、昨日のプテラノドンをどうするか考えよ」

 

 渚の提案に他の3人も賛同の意を込めてその場に座る。

 冬美が先ずみんなに問う。

 

「率直に、ちょっと戦ってみてどう思った?」

 

「勝てない、とは思わなかったけど、やっぱりこの武器だと大変かな。全力で魔力を込めたら壊れそうで」

 

「だね。斬れないってわけじゃないけど、やるなら一撃必殺って感じに決めないと。それこそこの剣が壊れるくらいの魔力を込めて」

 

 全力で振るう1撃で決めなければ負けるという予想には冬美も賛成だった。

 

「私も全力の砲撃魔法ならダメージは与えられると思う。倒せるかは微妙だけど。渚は」

 

「斬るよ。絶対斬る。決めてみせる」

 

 斬れる、ではなく絶対に斬るのだと明言する渚に冬美はよし、と少し考える。

 

「彩那の防御はどれくらい保つ?」

 

「アレのどれくらいか分からないから断言は出来ないけど、防御に徹すればどんな攻撃でも数分保たせられると思う」

 

「なら、こうしましょう」

 

 自信に満ちた表情で冬美は自分が考えた作戦を口にする。

 子供が考えた、本職からすれば拙い作戦だが、これ以外に思いつかなかった。

 聞き終えた渚が満面の笑みを浮かべる。

 

「いいね。ごちゃごちゃ考えなくて良いってのが特に良い」

 

「細かな作戦なんてアンタの頭に入るわけないでしょ」

 

「ひでー」

 

 文句を言いつつ吹き出す。

 目的は生存ではなく討伐だ。勝つ事が絶対条件。

 そんな風に談笑していると、彩那が周囲の変化に気付く。

 

「みんなっ!」

 

「分かってるよ!」

 

 物陰から何かが複数飛び出してきて、反射的に避ける。

 

「またコイツらぁ!」

 

 現れたのは昨日と同じカマキリの集団だった。

 

「璃里ちゃんはその子を抱えて下がって!」

 

「う、うん……」

 

 璃里はモンちゃんを抱えて3人に守られる形になる。

 

「おら来なよ。君たちが大したことないってのは昨日で確認済みなんだから」

 

 挑発するように言動を取る渚。

 逃げるなら追わないが、向かってくるなら斬るつもりだった。

 冬美もこの状況を分析する。

 

(生物を抱えてる璃里は戦えないとしても、なんとかなるか?)

 

 その疑問はすぐにYESに変わる。

 地を蹴った渚がカマキリのところまで移動し、腕の鎌を躱して剣の刃を通していく。

 昨日同じ敵を殺した慣れでか、躊躇いも薄くなっていた。

 それに追従して彩那も渚を守りながらカマキリを斬っていく。

 冬美も射撃魔法で2人を援護していた。

 問題はない。このまま行けば数分後には全て片付けられるだろう。

 所詮は知能の低い弱い生物()

 その先入観が致命的な隙だった。

 

「璃里ちゃん!? うしろっ!」

 

 彩那の警告に璃里は反応が一瞬遅れて振り返る。

 そこには、仲間を囮にして近づいてカマキリがいた。

 璃里は距離を取ろうと動くが、その前に鎌が振るわれる。

 

「え?」

 

 腕に生温かな液体がかかる。

 カマキリの鎌の尖端がモンちゃんの首を貫いていた。

 

「あ……や……」

 

 距離を取ると鎌が抜け、モンちゃんの首から赤い液体が吹く。

 

「いやぁあああぁあぁああっ!?」

 

 璃里の悲鳴がその場に響いた。

 

 

 

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