「コイツッ!」
モンちゃんと名付けたウサギくらいの大きさのリスに似た生物を刺した大型のカマキリを彩那が斬り捨てる。
「璃里ちゃん! 大丈夫!」
「あ……血……たくさ……」
抱きかかえている生物が息絶える様に動けなくなっている璃里。
助けたかったが、どうする事も出来ず、そこを動かないで、と告げるだけだった。
戦闘自体は元々の地力の違から思ったよりも早く決着がつく。
「これで終わりぃっ!」
最後の1匹を斬って捨てると渚が剣を地面に突き刺して体重の支えにする。
少女達からすれば異形の化物でも、命を奪うという行為に大きな精神的負担は避けられない。
「璃里ちゃん……」
彩那が亡骸を抱きかかえて蹲ってる璃里の体を揺する。
早くここから離れなければならない。
冬美が璃里の腕を掴んで無理やり立たせる。
「璃里、行くわよ。ここに居たら危ないから」
「……うん」
冬美がバランスを取って引っ張らないと転んでしまいそうだ。
足取りの重い璃里に気を使いつつ少し少しでも安全そうな場所を探す。
と言っても所詮は子供の浅知恵だ。すぐに動けるくらい広くて多少周りから見え難そうな場所を探しただけ。
体力を消費してなんとか広めの川辺を探し出すと、突然渚がパンッと自分の両頬を張った。
「よしっ!」
「渚ちゃん?」
いきなりの奇行に3人が目を張ると、渚が璃里に手の平を出す。
「璃里! その子、渡して!」
「え?」
「捌いて食べる!」
ゴン、と冬美が渚の頭にグーを落とす。
「あんた……藪から棒になんてことを……少しは璃がの気持ちも考えなさい!」
「っ〜!? だってどれか食べ物かなんて分からないじゃん! さあの果物だけじゃたりないし!」
言ってる事は分かるが、いくらなんでも璃里の気持ちを無視し過ぎている。
だが渚は引き下がらない。
空腹による苛立ちもあるだろうが、このまま力を出せずに時間が過ぎるのを怖れている。
どうせ挑戦するなら全力で挑みたい。
その為の食料が璃里の腕の中にしかない。
だから強引にでもそれを食べようと思う。
「冗談やめてよ渚ちゃん!!」
璃里が目に涙を溜めて訴えるが渚も本気だった。
「それじゃあ、璃里が別の食べ物を持ってきてくれるの?」
渡さないなら代わりを用意しろと最早脅しである。
険悪な主空気になってしまった現状に、彩那が手を軽く叩く。
「そこまで。私達がいがみ合ってもしょうがないでしょ? 璃里ちゃん」
少し言いづらい表情で彩那は口にする。
酷だと自覚しつつも彩那は璃里に言う。
「璃里ちゃん。その子をいつまでも抱えてるわけにはいかないでしょう? 食べるか、埋めるか。今決めて」
彩那らしくない突き放すような言葉に、渚や冬美も動きを止める。
はっきり言って彩那達には余裕がない。
死んだ動物をいつまでも抱え込んでいる訳にはいかないのだ。
それは、璃里も分かっている。分かっているが────。
「……」
「いいんだね、璃里」
「……うん」
渚にモンちゃんを渡す璃里。
受け取った渚は努めて優しい声を出す。
「出来るだけ美味しく食べてあげよう。食べられない部分は埋めてあげてさ」
渚の言葉にコクコクと頷く璃里。
「ほら。彩那は焚き火に使えそうな木の枝とか持ってきて! 冬美は火の準備ね!」
「分かった」
「任せなさい」
テキパキと動き始める3人。
璃里も彩那と一緒に焚き火に使えそうな物を探す。
渚は大きな石の上にモンちゃんを置いた後に集中して魔力を扱う。
「集中集中っと……さすがに、あんなバケモノを斬った剣は使えないからね。捌くのにも使いにくいしなぁ」
ボヤきながら動物を捌く為の魔力刃を形成する。
「パパが前にやってたのは……」
とにかく切って血を抜く。
「焼いちゃえばなんとかなると思うけど、出来る限り血と毛は抜かないと……」
半端すぎる知識にもやもやしながらなんとか解体処理を進める。
血の溜まっているところを切ったのか、血が噴き出て渚の顔を汚す。
「おえ……はぁ……ボクがやらなきゃ……ボクがやらなきゃ……」
生臭さに吐き気で泣きそうになりながらそう繰り返し、どうにか食べられるサイズに切り分ける。
そこで散っていた仲間が戻ってくる。
「渚ちゃん大丈夫?」
「おうよ……もーまんたーい」
親指を上げて空元気を振るう。
「とりあえず切り分けてみたけど、あとは焼けばなんとかなる! ……よね?」
「私に訊かれても……」
自信無さげな渚に彩那は苦笑いを浮かべる。
「火、点けたわよ……」
「うし! 焼くか!」
「璃里ちゃん。焼いてる間に食べないところを埋めてあげよう。手伝うから」
「……うん」
モンちゃんを土に埋めながら璃里がポツリと呟く。
「ごめん……わがまま言って……」
「ううん。璃里ちゃんのそういう優しいところ、好きだよ。でも、2人にも謝ってね」
「うん……」
死骸を埋め終わると、肉を焼いていた渚の方から呼ぶ声がかかる。
「2人とも〜こんがり上手焼けました〜イタッ!?」
渚の心無い言葉に冬美がゲンコツを喰らわせる。
「行こっか」
頷く璃里。
枝を削った串に肉を刺して焼いてある。
「内蔵とかは流石に恐いから省いたよ。脚とか胸とかの肉を切り取ったんだ。大丈夫な筈!」
ガッツポーズして勧める渚。
「いただきます」
彩那は手を合わせて串を1本取り、刺してある肉を食べる。
「うん。美味しい、ね……」
焼けた肉を食べてそう言う彩那。
「躊躇いなく行くわね」
「食べないとこの子や渚ちゃんがかわいそうだもの」
彩那の言葉に璃里は考える。
いただきます。
それは命を貰う事を感謝して食事をする為の言葉。
串を手にした璃里が恐る恐る肉を口に入れる。
「おいしい……おいしい、よ。モンちゃん……」
泣きながら肉を食べる璃里。
渚や冬美も肉を口にする。
元から少量の肉はあっという間に無くなり、後片付けに入った。
そこで璃里が声を出す。
「あ、あの! 渚ちゃん、冬美ちゃ────」
何かを言おうとした璃里が突然空に視線を向ける。
「どしたー? 璃里?」
「……バインドの拘束が壊された」
「あのプテラノドンの」
「うん……」
璃里が頷くと渚が息を吐く。
「ちょうど良いかもよ? ボク達が全力を出せるのは、今かもしんないしさ!」
戦闘の態勢に入る。
食事を終えたばかりの今がたぶん最も活力が充実してる筈だ。
今を逃せばアレを倒すのは不可能かもしれない。
「それじゃあとりあえず、作戦の確認を────」
「来たよ!」
彩那の声に冬美が舌打ちした。
「真っ直ぐこっち来たのね。ご苦労なことよ!」
「リアルモンハンとかやっべぇな、もう!」
薄ら笑いを浮かべながら動く構える渚。
次の瞬間に、その大きな体が姿を現した。
プテラノドンに似た魔法生物が咆哮を上げる。
突っ込んでくる魔法生物に冬美が砲撃魔法を撃つ。
「怯めよちょっとはぁ!!」
まるで速度を落とさない敵に冬美が歯軋りする。
次に彩那が進行線に立つ。
「止まれっ!?」
シールドを展開し、動きを止めに入る。
しかし────。
「うわっ!?」
シールドこそ破られていないが、力押しで彩那を押し出してくる。
空まで移動する魔法生物に合わせるように飛行する彩那。
下手に離れれば、こっちが食われると確信して。
(なんとか、動きを止めないと……!)
そう思うが、振り回されてこうして攻撃を貫かれないようにするだけで精一杯だった。
「彩ちゃん!!」
璃里がバインドで体を絡め取るが、全く勢いが落ちない。
「なめんなっ!」
冬美も翼を砲撃魔法で撃った後にバインドで脚の拘束に入る。
そこで勢いが弱まると彩那はシールドを解除と同時に頭部蹴り、その反動で距離を取ると、長い首をバインドにかける。
3人で拘束してなお暴れる魔法生物。
「なんつ―馬鹿力……!?」
冬美が苦しげに呟く。
「渚ちゃんっ!!」
彩那の合図で渚が全力で飛んできた。
「斬り捨て、ゴメーンッ!!」
下から首を斬り上げる。
「うっそーっ!!」
しかし、渚の剣は魔法生物の首に僅かに食い込んだだけで、それ以上は刃が通らない。
「こんのぉ……!」
魔力を全力で剣に込めてなんとかなんとか斬ろうとする。
刃が少しずつ魔力生物の首に押し込まれる。
「も、ちょい……もうちょいぃ……!」
しかし。
パリンッ、と音を立てて剣の刀身が砕け散った。
魔力を過剰に流し込んだ内部からの負担と硬い敵を斬ろうとした反動である。
「この不良品……!!」
焦ると魔力生物の顔が渚に向き、口から何かが発射されようとする。
ヤバい!? と冷たい汗が流れる。
そこで璃里が自分のバインドを解除した。
「渚ちゃん!」
自分の剣を渚へと投げた。
それを受け取る渚。
「ナイス璃里ぃ! 大好きっ!」
もう一度同じ箇所目掛けて刃を振るった。
「ぶった斬りれろぉおおおぉっ!!」
今度は瞬間的に最大魔力を叩き込む。
璃里の剣も砕け散る。
そして。
魔法生物の首が一拍遅れて体からズレ、地上へと墜ちていく。
「はぁ……はぁ……っ!」
顔に浴びた血を拭いながら渚はゆっくりと降下する。
首を斬り落とされれば流石に死ぬらしく、体の部分は微動だにしていたが、それもすぐに治まった。
溜め込んでいた緊張を吐き出すように息を吐いて座る渚。
3人も地上に降りてくる。
「渚ちゃ────」
彩那が労いの言葉をかける前に璃里が飛び出して渚に抱きつく。
「ぐえっ!?」
突然タックルのような勢いで抱きつかれて渚が変な声をだした。
わんわんと泣く璃里。
「ごめんね! ごめんね! いやな思いさせて! 良かった! みんな無事で良かったよぉ……!!」
「お、おう……」
泣き続ける璃里に渚は瞬きし、冬美はやれやれと苦笑し、彩那は安心した様子で肩の力を抜く。
そして4人が緊張を解くと、パチパチと拍手が聞こえた。
「おー。島の主を倒すとはちょうど良いタイミングで様子を見に来たのぉ」
現れたのは、4人をこの島に放り出した張本人だった。
その人物が現れて、冬美が射撃魔法を放つ。
「おっと」
防御魔法でそれを防ぐアーツだが、次いで渚が全力の飛び蹴りをシールドに叩き込む。
しかしヒビが入る程度で弾かれてしまった。
「これこれ。もうわしも齢で、お主らのような子供を相手にしたら、ぽっくり逝ってしまうじゃろうが。年寄りは労らんかい」
態とらしく咳き込むアーツに渚が手にしている壊れた璃里の剣を地面に叩きつける。
「うっせー! こんな不良品寄越しやがって! もっと頑丈なのならあんな奴に手こずらなかったっつーの!!」
「おー。そーかそーか。勇ましいのう。一応それは軍の正規品なんじゃがな。まぁ、安心せい。次はお主らの力を十全に引き出せる武器を用意してやる」
そう笑うアーツ爺。
ほれ帰るぞ、と背を向けるアークに渚がくたばれと悪態ついた。
ホーランド王は挙げられた報告に額を押さえた。
「それは本当か?」
「嘘をつく理由がありません」
そうだな、と椅子に深くもたれかかる。
隣国のエネスト国がこちらの領土を侵してきたという報告。
現地の兵や市民にも軽微だが被害が出ている。
「最早注意喚起だけで済む話ではありません! 王よ、今すぐ対策を!」
「そうだな……」
今は戦時である。
普段なら適当にあしらう程度で済む問題も、このご時世ではそうもいかない。
(そんな事は向こうも理解していると思っていたが……)
ホーランドを敵視する他の国にでも唆されたか?
凡庸な王である自分にはこれくらいしか思いつかない。
何にせよ、本格的に大陸の戦争に巻き込まれる前に、不安要素は取り除いて置きたかった。
「仕方あるまい」
深く座っていた椅子から立ち上がる。
「これ以上、面倒な芽になる前に、あの国には消えてもらおう」
戦争が、始まる。
次回、初陣。
リリカルなのは要素が薄すぎるから、本編彩那の回想って形で幕間でなのは達を登場させようかな?