【前日譚】ホーランドの勇者   作:赤いUFO

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勇者の剣と初陣・前編

「逃げろぉおおおおぉおおおっ!!」

 

「逃がすかぁっ!!」

 

 大の大人が揃いも揃って10にもならない女の子1人から逃げるシュールな光景。

 あの無人島でのテストを終えてから、勇者達の実力は大幅に向上していた。

 既に一般の兵達では束になっても叶わない程に。

 

「おらぁっ!!」

 

 渚が最後尾を走る兵士にドロップキックを喰らわせる。

 それに巻き込まれて数人も押し倒された。

 

「いつまで逃げてんのさ! 訓練になんないでしょ!」

 

 怒鳴る渚にドロップキックされた兵士────オルドラはヘラヘラとした表情で答えた。

 

「いやー。荒れてますね、ナギサ殿」

 

「とーっぜん! なんで魔法学んで1年くらいのボク達に全員で相手にならないのさ!」

 

 可愛らしく怒っている渚だが、目の前の少女が本気になれば自分達を皆殺しに出来る。

 それだけ一般の魔導師の兵士と勇者の少女達との実力差が出来ていた。

 だからオルドラは渚が自分達を鍛えようとしているのではないかと考えた。

 

「だからせめて、抵抗するサンドバッグくらいにはなってもらわないと……あたっ!?」

 

 それは買い被りだったらしく、見学していた冬美が渚を小突く。

 

「いきなり反感買うようなことを言うんじゃないわよ! って言っても正規兵(そっち)勇者(私ら)の力の差がここまでだったとは思わなかったわ。もしかしてこの国って弱い?」

 

 冬美も失礼なこと言ってんじゃん、と不服そうに小突かれた頭を撫でる渚。

 その言葉にオルドラが返す。

 

「ホーランドは大陸の南部の最大国家ですよ。海が近いから交易で儲けたり、土地が広いから色々出来て商業に力を入れてますが、南部の国でホーランド勝てるっていうか、戦える国なんてありませんよ。もっと北に行けば別ですが」

 

 すると女性兵士であるカレーネが続ける。

 

「貴女がたなら、ここらの小国くらい、4人で落とせるかもしれません」

 

「まっさかー! 流石に煽て過ぎー」

 

 ケラケラと笑う渚。

 たった4人で落とされる国とかどんだけ弱いのか。

 そんな風に会話していると、世話役のマーサが呼びにくる。

 

「ナギサ様。フユミ様。アーツ様が及びです。第三会議室に連れてくるようにと」

 

 マーサの指示に2人が目を合わせる。

 

「あのお爺さんが? なんの用だろ?」

 

「わたくしどもからはなんとも。何やら重大なお話とのことですが」

 

「お! とうとうもっと良い剣くれる気になったのかな?」

 

 サバイバルが終わった時、支給された剣を壊した時にもっと相応しい剣をくれると言っていたが、あれから同じ剣を渡されている。

 

「それではお2人がた、こちらへ」

 

「へーい」

 

「ちゃんと返事しろ!」

 

「あいた!」

 

 そんなやり取りをして去っていく少女を見送るホーランドの兵達は大きく息を吐き、カレーネが呟く。

 

「私達も、もっと強くならなければなりませんね」

 

 才能。

 それだけで自分達のこれまでの努力を凌駕する圧倒的なまで力。

 確かにそれは素晴らしい物なのだろう。

 しかし。

 

「あの子達はまだ子供です。あんな良い子達を平然と戦場へ送り出すような兵士────いえ、大人にはなりたくありません」

 

 支給品の剣を構えて素振りを始める。

 最近は勇者の少女達と兵士も大分打ち解けてきたが、やはり壁がある。

 あの少女らは、4人で寄り添う事で正気を保っている。

 仕方がない事だ。

 いきなり見知らぬ世界へ連れてこられ、勇者と言う名の兵器として使われる事が決まっている幼い女の子。

 この世界の現状を見れば、高い才能のある者を確保したいのは分からなくはないが。

 カレーネの態度に触発されてか、オルドラも剣を握る。

 

「仕方ねぇ、ちっとは本腰入れて訓練すっかぁ。おらお前ら! あんな子供に惨敗した事を恥じろ! この国は俺達が守んだよ!」

 

 オルドラの叱咤にこの場に居る兵士全員が眼の色を変えた。

 そう。この国を守るのは他所から喚び寄せた勇者ではなく、ホーランドの兵士である自分達なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お! 彩那と璃里ももう来てる。っていうか、全員集合?」

 

 先に来て席に座っている彩那と璃里を見て、渚も空いている席に座る。

 この部屋には4人の勇者と呼び出したアーツ爺。それとホーランド王と側近。そして研究者らしき男が居る。

 

「そんで? ボクらに話ってなにさ?」

 

「渚ちゃん」

 

 出されている菓子を食べながら質問する渚に彩那がやんわりと嗜める。

 そんなモノが効く筈もないが。

 アーツの方は笑いを噛み殺しながら答える。

 

「うむ。実は、隣のエネストという国とちとモメてのう。お主ら、ちょっと行って〆上げてこい」

 

「ヤクザか!!」

 

 渚がバンッとテーブルを叩いて立ち上がる。

 ヤクザ、という言葉がこちらには無いらしく、周囲は首をかしげたが、他の勇者達は同意見だった。

 冬美がこめかみをトントンと叩いてから意見を述べる。

 

「エネストって確か、この国の東側に在る小国でしたよね? 規模はちょっと大きな街くらいの。確か、ホーランドから土地を少し貸してるって本に書いてましたけど……」

 

 冬美の疑問に対して満足そうに頷くアーツ。

 

「おうおう、よく勉強しておる。感心感心、と。そのエネスト国じゃが、国としての経済、軍事の両方であまりにも小規模な国での。攻めてもあまりに旨味が無い上に、侵略するには地理的にホーランド(うち)と事を構える必要がある。そんな訳で要するに、何処からも相手にされなかった国での。じゃからホーランドから使ってなかった土地を貸し出して、畑やら畜産やらで何とか国として体裁を保ってるカツカツ国じゃ」

 

「カツカツって……それで、どうしてこの国と揉め事に?」

 

 アーツの説明に彩那は首をかしげた。

 説明を聞く感じ、争う理由は無さそうだが。

 そこからホーランド王の説明を代わる。

 

「余の父が国王だった頃より、エネストから打診があったのだ。この土地は長い間我々が管理し、使ってきた。だからこの土地は我らの物だ。むしろ、余っている土地をもっと寄越せ、とな」

 

「えぇっ……」

 

 横暴に聞こえる説明に璃里が戸惑いと驚きの声を上げる。

 

「そんな無法な要求をこちらが認める訳もなく、長い間協議が続いていた」

 

「と言っても、向こうが一方的に文句や要求を突きつけてくるのをあしらっていたんじゃがの」

 

 アーツがくだらなさそうに補足する。

 これまで、貸してあった土地を金銭で売る話もあったが、向こうには分割でも払える額ではなく、その度に協議は大荒れだったのだ。

 

「近年は特に酷く、ホーランドから訪れる商人や役人に嫌がらせ行為が続出していた。そしてつい先日、こちらが派遣していた役人が1人殺された」

 

「ころっ!?」

 

 突然の血生臭い話に顔を引きつらせる。

 

「そこまでやられれば、ホーランドとしても黙っている訳にはいかん。近年の世界情勢もある。あの国を野放しにしている理由は無い。完全にこちらに服従して名前だけを残すか、国そのものを潰すかだ」

 

「いっそのこと、その土地あげちゃえば? どうせ使ってなかったんでしょ?」

 

「ホッホッホ。これは否事を言うのう。お主を貸してやった物を我が物顔で自分の物と主張する者の言葉を受け入れるのか?」

 

「……」

 

 渚は黙って顔を背ける。

 そんな事を認めれば、相手を調子に乗らせるだけなのは、子供でも理解出来る。

 

「汝らもホーランドに来て1年。お披露目には丁度良いという事だ」

 

 ホーランド王の説明を終えると、冬美が反論する。

 

「いやいや! いくら小さいって言っても私達4人で国なんて落とせる訳ないですよね!」

 

 相手は国だ。たった4人でどうにか出来るイメージが持てない。

 しかしホーランド王は首を横に振った。

 

「出来る。むしろ、それくらい成功させてくれなければ困るのだ」

 

「まぁ、向こうの兵は精々200程度。その全てが出る事は無いじゃろうからもう少し少ないじゃろうなぁ。1人3、40人片付ければエネストの方から降伏するじゃろうよ。あっちがこっちの想定を超える馬鹿でなければの」

 

 可笑しそうに笑うアーツに冬美はイラッとする。

 簡単に言うな、と怒鳴ろうとすると、思い出したようにポン、と手を叩いた。

 

「そうそう。今回の任務に伴い、お主らには正式に勇者の剣を与える」

 

 王が後ろに控えていた研究者風の男女に目配せする。

 すると、その研究者が細長の箱を1つずつ勇者の手前に置く。

 

「開けてみろ。それがお主らが戦場を共にする愛機(パートナー)じゃ」

 

 4人が1度顔を見合わせた後に、箱を開けた。

 

「白い……剣?」

 

 形はそれぞれ違うが、刀身から柄先まで白い剣だった。

 渚には日本刀のような剣。

 冬美には少し大きい、海賊が使うようなサーベル。

 彩那には標準的な両刃の西洋剣。

 璃里には突撃槍に似た剣。

 

「手に取って魔力を込めてみろ。お前達に資格が有るなら、その剣が応えてくれる筈だ」

 

「資格ったって……」

 

 愚痴愚痴と文句を言いながら、剣を手にして魔力を込めた。

 

「わっ!?」

 

 すると、渡された剣の刀身から鍔の部分の色が変化した。

 剣は、それぞれの魔力光に染め上げられていた。

 渚は緑色。

 冬美は赤色。

 彩那は青色。

 璃里は金色に。

 

「ふむ。問題無さそうじゃの。しかしそれならそれで……」

 

 まるで別の疑問が湧いてきたとでも言うようにアーツが顎髭を撫でた。

 

「おじいさん?」

 

「いや、良い。今気にする事ではないからの。それよりどうじゃ? 勇者の剣は?」

 

 勇者の剣の感触を訊かれて渚が正直に答える。

 

「うん。今までの剣だと、魔力を込め過ぎると壊れちゃいそうで気を使ってたけど、これならいくらでも魔力を注げそう。思いっきり振るえる気がする」

 

 ブンッと緑色に染まった自分の剣を軽く振るう渚。

 そこで剣を配った研究者が前に出て説明する。

 

「それは我がホーランド王国創設に関わった国宝です。勇者様方の特性に合った剣をこちらで選ばせて頂きました。ナギサ様の霊剣は、身体強化や治癒など、肉体に対する干渉を得意とする物です。逆にフユミ様の魔剣は射撃や砲撃魔法などの遠距離攻撃に特化しております。アヤナ様の聖剣は主に防御魔法に最も優れた剣であり、リリィ様の王剣はバインドや結界などの補助魔法に精通した剣です!」

 

 やや興奮気味に説明する研究者の男性。

 アーツが杖をついて立ち上がる。

 

「お主らの手には勇者の剣がある。それが有れば、エネスト国の兵に苦戦する事もなかろうよ。我らはこの戦争に生き残る為。お主らは故郷の世界に帰還する為。これは、お主らがわしらの信頼を勝ち取る最初の任務だと思うと良い」

 

 クックッと人の悪い笑みをするアーツ。

 そう。故郷の地球に帰りたいならば、選択肢など最初から無いのだ。

 一瞬だけホーランド王が痛ましい表情をしたが、すぐに毅然とした表情になる。

 

「汝らの良き戦果を報告してくれる事を願っているぞ。ホーランドの勇者達よ」

 

 勇者(少女)達は逃げられない戦争に投げ出されようとしていた。

 

 

 

 

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