【前日譚】ホーランドの勇者   作:赤いUFO

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勇者の剣と初陣・後編

 その日、エネスト国に悪魔が降り立った。

 

「死ねっ! 死ねっ! 死ねよっ!!」

 

 離れた位置から六人の魔導師が射撃魔法で応戦しているのに、まったく効果が認められない。

 

「たかだか小娘数人になんでっ!!」

 

 エネスト国に仕掛けてきたのは四人の幼い女の子だった。

 その1人が跳躍と同時に飛行魔法を使い、射撃魔法を回避しながら突っ込んでくる。

 

「この、バケモノがっ!!」

 

 ゼロ距離で射撃魔法を発動させるも敵の女の子は僅かに体をずらして射線から外れて剣を振るう。

 緑の刀身が弧を描いた。

 

「うわぁあああぁああっ!?」

 

 両腕を斬り飛ばされる。

 

「た、たすけ……っ!?」

 

 涙でグチャグチャになった首を斬り落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、お主ら4人だけでエネスト国を陥落してもらう」

 

「無人島の次は国かよ……」

 

 アーツの依頼に冬美が舌打ちをする。

 モニターに、エネスト国とその周辺の地図が映し出された。

 

「国の規模にも依るが、大抵首都には強力な魔法障壁が張られており、それを破壊して侵攻するのは容易ではない」

 

「じゃあどーすんのさ」

 

 渚の問いかけにアーツがうむ、と頷く。

 

「魔法障壁自体は空からの侵攻を阻害する為の物じゃ。なら街を囲っている物体の壁を突破する方がまだマシじゃな」

 

 元々魔法障壁は空からの侵攻で一気に政府を叩き潰されるのを防ぐ為の物。も

 首都を囲っている壁は人が入る為の入口が当然あるので、そこを突破するのがセオリーなのだ。

 

「でも、それだとこっちが街の中に入ったのが丸分かりですよね?」

 

 戦力は当然侵入口に集中する。

 しかし、アーツはその事は問題にしていなかった。

 

「お主の実力なら問題無かろうよ。問題は別のところじゃ」

 

「別のところ?」

 

 璃里が首をかしげていると、アーツが背後にいた研究達に手で指示を出す。

 彼らの手には注射器があった。

 

「ちょっ!? なにする気さ!!」

 

 警戒する4人にアーツが説明する。

 

「お主らの実力ならエネスト国を潰すのは然程難しくない。しかしそれはその実力が十全に発揮された場合」

 

「どういう意味よ?」

 

 話の意味を理解していながら冬美はそう返す。

 覚悟していたつもりだったが、いざその時が来ると無意識に遠ざけたくなる。

 現実から目を背けたくなる。

 

「お主らに人が殺せるか?」

 

 その言葉に、心臓と肺を掴まれた気がした。

 4人の様子を見ながらアーツは真剣な表情で続ける。

 

「無理じゃな。殺人というのはそう簡単な事ではない。たとえ戦場で最初の一線を越えられたとしても、そこから動けなくなり、殉職する兵も少なくない。そこで、じゃ」

 

 アーツが研究者から薬品の入った注射器を受け取る。

 

「これは興奮剤の一種でな。これとわしの魔法による精神操作で、殺人による忌避感を押し込め、興奮作用によって戦闘を行わせる」

 

「血も涙もないわね」

 

「むしろ、お主らをこの戦闘で生き残らせる為の処置よ。こちらも1年手塩をかけて育てた勇者を失うのは痛手じゃからな」

 

 理解している。

 最初から拒否権など無いし、地球に帰る為には避けては通れない道だと。

 

「後遺症、とかは?」

 

「まったく無いとは言えんが、これ自体は軍で新兵に良く使われる薬と処置じゃ。これが終わった後もお主らが壊れぬよう最大限サポートをする」

 

 断言するアーツに渚が前に出る。

 

「んじゃ、さっさとやって」

 

「渚ちゃん!?」

 

「ここまで来たらやるしかないっしょ。なんなら、ボク独りでやって来るよ?」

 

 率先して処置を受けようとする渚。

 そしてやりたくないならここで待っててくれても良いと言う。

 しかし、そんな訳にはいかず、4人はそれぞれ処置を受ける。

 

「特に変わった感じは無いわね」

 

「処置が効き始めるのは凡そ1時間後。ちょうど軍用の列車で移動すればエネスト国の外壁に辿り着くじゃろ。そこまでは随伴する兵に案内してもらえ」

 

 すぐに発つように指示を出すアーツに冬美は舌打ちして部屋を出る直前に悪態を吐く。

 

「地獄に堕ちろクソジジイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新米勇者が部屋を出た後に、アーツの秘書であり、血縁上曾孫にあたる青年が心配そうに話しかけてくる。

 

「あの子達は、無事任務を終えて帰って来るでしょうか?」

 

 しかし、血縁者として過ごした事は全くない。

 初めて会ったのも彼が城勤めになってからの話だ。

 

「問題無い。むしろ、あの国程度で我が国の勇者をどうこうは出来んよ」

 

 確信を持ってアーツは言う。

 

「これであの国との問題は一気に解決するな。それに、取るに足らん小国とはいえ、たった4人で国を落としたと知られれば此処から先は外交が幾分かやりやすくなろうよ」

 

 北の方がここ最近一段と活発になっていると聞く。

 早く南方の国々を纏めなければ、本当に帝国に全てを呑み込まれる可能性すらある。

 

「その為には先ず、小さいとはいえ不安要素は刈り取っておかんとなぁ」

 

 今後の展開を頭の中でシミュレートしていると、秘書が耳打ちする。

 

「アーツ様。まだ確証はないのですが、お耳に入れておきたい情報が……」

 

「なんじゃ?」

 

 秘書から告げられた情報にアーツは舌打ちする。

 

「あの糞餓鬼が……12年前に逃げたと思うたらそんなところに逃げ込んでおうたか」

 

 忌々しいと言わんばかりの表情。

 現ホーランド王には姉が一人と兄が一人居た。

 姉は他国へ嫁いで行ったが兄の方は12年前に父と弟。つまり、前国王と現国王を毒殺事件を起こして逃亡したのだ。

 元々は長男であるその男が王位を継ぐ筈だったが、とある理由で彼には王位を継がせる訳にはいかなくなった。

 それに癇癪を起こして父と弟を殺そうとした。

 幸い弟は一命を取り留めたが、前国王はその毒で死亡する。

 その結果、今のホーランド王が王位に座っている訳だが、結果的に見ればそれが正解だった。

 

「あの癇癪持ちの糞餓鬼のことじゃ。この戦争を機にこちらに仕掛けて来ることは容易に想像が出来る。情報を収集を怠るなよ?」

 

「仰せのままに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの無人島の件を除くと初めて城の外を出された4人。

 軍用の小さな列車内で向かい合う形ながらも顔を合わせずに重たい空気が漂っている。

 そんな空気の中、彼女らの御目付け役の女性が話しかけてくる。

 

「勇者様方、ご気分はどうですか?」

 

「最悪だよ……」

 

 これから人殺しをしに行くのだ。

 そう考えただけで震えるし、深く考えると吐いてしまいそうだ。

 人殺しの恐怖に怯える4人に女性が告げる。

 

「処置の効果が出てくれば、そうした怯えも気にならなくなります」

 

「だから嫌なのよ」

 

 これからなにも考えずに人殺しをする機械になるかと思うと嫌悪感でいっぱいになる。

 そんな少女達を女性は痛ましげに見ながらも今回の内容を話し出す。

 

「では今回の作戦行動に関して、わたくし、アリア・オヌ・ルベルスが説明します」

 

 魔法で立体型のCG画の町が空間に現れる。

 

「このように、敵の首都は円状の壁に守られており、空には魔法障壁が張られています。今回は円状の壁を我々が破壊し、そこから勇者様方が中に入って行動していただきます」

 

 壁というか、入口を破壊する。

 その方が後々直すのも簡単だからだ。

 

「その後は、敵兵を排除しつつひたすら城を目指してください。途中で敵側が降伏を宣言した場合は、こちらに連絡を」

 

 そこで彩那が恐る恐る質問する。

 首都を突破するなら当然そこで暮らす人達とも鉢合わせになる筈だ

 

「そこに住んでる、兵隊じゃない人達は?」

 

「既に宣戦布告を向こうに伝えてあります。避難はさせていると思いますが、向こうから攻撃した場合でも無視していただいて構いません」

 

「簡単に言うなぁ……」

 

 殺せと言われないだけマシかもしれないが、戦場に出て、殺意があれば敵兵と一般人の区別をつけられる自信が無い。

 だからこそ、殺さなくて良いとは言っても殺すな、とは言わないのだろうが。

 そこからいくつかの確認事項を殆ど冬美が答えて終わる。

 

「そろそろ着きます。御心の準備を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは本当にスムーズに進んで行った。

 列車から降りたら空を飛んでエネスト国の近くまで移動し、ついて来ていた数十人のホーランド兵達で外壁の大きな扉の破壊に入る。

 このままあの扉が壊れなければいいのに。

 そう思っていても、エネスト国の扉はホーランドの兵達によって破壊されていく。

 

「それでは勇者様方、どうか御武運を」

 

 アリアがそう告げると、躊躇いを一瞬。渚が飛び込むように破壊された扉を潜り、3人が後に続く。

 

「ん?」

 

 当然のように魔導師が待ち構えていた。

 パッと見て凡そ20人はいる。

 隊長らしき男が大声で指示を出す。

 

()ぇええぇええええっ!!」

 

 子供相手に容赦のない射撃魔法の発動。

 

「3人とも、私の後ろ下がってっ!?」

 

 友達を守るように彩那が前に出ると、マシンガンのように飛んでくる射撃魔法を全て展開したシールドで受け止める。

 

「凄い……」

 

 これだけの攻撃を防いでもシールドに罅の1つ入っていない。

 いつもなら長時間シールドを維持すると、デバイスの方に限界が来るのに、まだまだ耐えられる。

 昂揚感を覚えながら彩那はシールドを破裂させて敵の視界を一瞬だけ眩ませる。

 目眩ましの間に1人空を飛んだ冬美が視線を動かして魔剣を構える。

 

「行け」

 

 炎の矢に見立てた射撃魔法を撃つ。

 こちらの攻撃に気付いて敵兵もシールドを展開するが、まったく意味を成さず敵兵の頭や胸を貫く。

 

「……」

 

 これまで使っていたデバイスの剣とは比べ物にならない安心感。

 空を飛んでいる冬美に残りの敵兵達が狙いを定める。

 

「やらせないったら!」

 

 冬美に注視している間に璃里がバインドで拘束。斬り込んでいた渚が斬り捨てる。

 初めて人を殺した。

 普通ならその感触に嫌悪感と罪悪感で動けなくなっていただろう。

 だけど今、渚を支配しているのは圧倒的な全能感。

 これまでのデバイスでは加減をしないと武器の方が壊れてしまいそうだった。

 なのに今手にして緑色の日本刀のような剣は魔力を全力で注いでも全然壊れない。

 全身に付けていた重りを外して羽根のように身体が軽い気がする。

 薬物による感情の昂揚と魔法による思考の簡略化。

 その2つによって余計な事を考えずに動ける。

 

「アハ……!」

 

 今なら何が来ても負ける気がしない。

 もっとこの快感に浸っていたくなる。

 そう考えると、敵兵が同じ人間ではなく、ただの獲物のように見えてきた。

 今はただ、もっともっと思いっきりこの魔法(ちから)を使いたい。

 

「いっくぞーっ!!」

 

 昂揚感を抑え切れぬまま、渚は身体強化を全力で使い、敵の集まっている所へ飛び込んでいく。

 

「あのバカ!」

 

 冬美もその後に続いて渚を遠距離から援護する。

 撃つのは味方を巻き込まない射撃魔法。

 命中精度を優先した攻撃だが、面白い程に当たり、敵兵の命を奪っていく。

 冬美もまた、渚と同じようにイメージ通り魔法が使える事に興奮していた。

 この世界に来て初めて本気で魔法が使える事に。

 エネスト国にとっての地獄が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホーランド王国からやって来た4人の少女をエネスト国の兵士達は懸命に追い払おうとしていた。

 しかし、当たらない。

 防がれる。

 相殺される。

 拘束される。

 と、こちらの攻撃が全て対処され、無力化されていた。

 

「砲撃魔法隊の準備完了しました……!」

 

「よし! 1人でも良い! あの小娘共を撃ち殺せ!」

 

 エネスト国で最大の攻撃力を誇る砲撃魔法隊。

 僅か10人からなる虎の子の精鋭。

 この場には10人中5人が居る。

 彼らはこっちに向かってくる緑の剣を持つ少女へと照準を合わせる。

 向こうもこちらの意図を察したのか、青い剣を持った少女が前に出てシールドを展開する。

 

「街中ですよ!」

 

「構わん! 2人纏めて吹き飛ばせっ!!」

 

 街中にも関わらず、砲撃魔法を4人の魔導師が撃つ。

 それが、2人の少女を呑み込んだ。

 

「次っ! 残りの2人を始末しろ!」

 

「隊長っ!?」

 

 切迫した部下の声に隊長職の男がハッとなる。

 今しがた砲撃に呑まれた2人の少女。

 それが無傷で立っていた。

 悲報が届く。

 

「隊長! 上空から膨大な魔力反応がっ!」

 

 視線を上に向けると、赤い剣を持った眼鏡の少女がこちらに炎が付与された魔力を向けている。

 術式からおそらくは砲撃魔法。

 まるで、砲撃魔法とはこういうのを言うのだとばかりに。

 

「防御術式最大出力で展開しろ!! 死ぬぞ!」

 

 全員が魔力を合わせて防御魔法を展開する。

 放たれる炎の柱のような砲撃。

 彼らが力を合わせて張った魔法の盾は何の役にも立たず、破壊させる。

 

「ぐあぁああぁああっ!?」

 

 炎の砲撃でエネスト国の兵士を焼き殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エネスト国の首都で暮らしている市民はホーランド王国からの襲撃が決まった時点でシェルターへ避難されていた。

 しかし彼はその日、運悪く騒ぎに気付くのが遅れて避難出来なかった。

 

『ぎゃあぁあああぁああっ!?』

 

『殺される! 逃げろぉっ!!』

 

『やっ!? ヒィッ!?』

 

 そんな、兵隊さん達の悲鳴が家の隅っこで震えている彼の耳に届く。

 爆発音や何かが壊される音がどんどん近付いてくる。

 恐い、と思いつつもこのままなにも知らなければ不安で心が圧し潰されそうだった。

 だから窓に近付いてこっそり外を見る。

 窓の外を見るとすぐ横の壁に兵隊の頭がぶつかってきた。

 

「ヒィやっ!?」

 

 声を押し殺す余裕すらなかった。

 出てしまった声に首を刎ね飛ばした張本人と目が合う。

 手に青い剣を持った。10になるかならないかくらいの女の子だった。

 逃げなきゃと思いつつも震えて動けない。

 そうしてる間に兵隊さんがその女の子に襲いかかる。

 魔法による遠距離攻撃。

 なのに女の子は避ける素振りすらなく、むしろ真っ直ぐ攻撃へと向かって行った。

 しかし、こちらへの攻撃は全て張られた魔法の盾によって防がれる。

 逃げようとするこちらの兵士よりも速く飛び込み、最初の1人目は剣で胸を胸を刺し、2人目と3人目を射撃魔法で撃ち抜く。

 周囲に兵士を全て殺すと、再び女の子と目が合った。

 

(殺される……!)

 

 その恐怖だけで脚が痙攣して動けなくなり、肺が握られているような気分になる。

 だが、予想に反して女の子はこちらに来ず、走り出して行った。

 

「たす、かった……?」

 

 緊張の糸が切れたせいか、その場で失禁までして座り込んだ。

 今回は運良く見逃されただけ。

 アレをきっと小さな女の子の姿をしたバケモノに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 攻め込んてきたホーランドとエネスト国の戦闘が始まって2時間が経とうとしていた頃。

 アリアから念話が送られてきた。

 

『エネスト国から全面降伏が届きました。御苦労様です、勇者様。すぐに迎えの者を寄越します』

 

 その念話を聞いて、羽根井璃里は夢から覚めたように頭の中がクリアになった気がした。

 

「あ……」

 

 本来なら、勇者達にかけられた魔法も薬も効果が解けるには猶予がある筈だった。

 だがおそらく璃里は生まれつき耐性が人より強かったのだろう。

 抑制していた殺人への忌避感や罪悪感が急激に襲いかかる。

 

「い、いやっ!?」

 

 血に染まった黄金の突撃槍を投げ捨てる。

 

「オエェ……ッ!?」

 

 吐き気が堪えられず、その場で嘔吐した。

 人の肉を突いた感触。

 魔法で爆破した相手の苦痛の悲鳴がダイレクトに璃里の頭に響き渡った。

 

「いや……ちがっ……!」

 

 何も違わない。

 殺した。殺した。殺した。

 無人島の時とは違う。この手で人を。

 これまで深く考えないようにしてきた。

 さっきまでは薬と魔法で鈍っていた頭は敵を殺す感触よりも全力で魔法を使える快感を選んでいた。

 それが解けた今、もう────。

 

「璃里ちゃん!」

 

「あ、や……ちゃん?」

 

 やって来た彩那が璃里を抱き締める。

 

「終わったよ、璃里ちゃん……! 帰ろう。帰ろう……!」

 

「う、あ……あぁ……っ!?」

 

 抱き締めてくれる彩那の背に腕を回して璃里は大声で泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 小国であるエネスト国は、後にホーランドの勇者と呼ばれる4人の少女によって陥落した。

 これによる国は解体。ホーランドに吸収される形となる。

 4人の勇者の華々しい初陣は、大陸南部に広く知らしめる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、ここまでが私達が召喚されてから凡そ1年。初陣までの話ね」

 

 チュー、とストローでコップの中のジュースを飲みながら一旦話を区切る。

 話を聞いていた子供達は皆、顔を青くして沈んでいた。

 クッキーを1枚取ってサクッと半分口に入れる彩那。

 

「もっと詳しく聞きたいって言ってきたのはそちらなのだけれど? 少しは反応を返してくれないと困るわ」

 

「できるかっ!」

 

 バンッとアリサがテーブルを叩く。

 

「面白可笑しい話じゃないのは承知していたでしょう?」

 

「そうだけどぉ! あーもうっ!?」

 

 言いたい事が上手く纏まらないのか、アリサは頭を掻き毟ってテーブルに突っ伏す。

 この話がフィクションなら適当に採点の1つでもすれば良いのだろうが、友人の過去の話が予想以上に重くて覚悟していてもキツい。

 

「初陣の話もだけど、可愛がっていた動物を食べちゃった辺りが猫を飼ってる身としては辛かったかな」

 

 すずかがなんとかそう搾り出す。

 状況的に咎める言葉を使うつもりは無いが、笑い飛ばせる事でもない。

 すずかの隣に座っていたはやてが指折りしながら呟く。

 

「夏休みのキャンプで向こうの世界に喚ばれて、それからそんな経験を10年……そら、わたしのこと覚えてへんのも納得やわぁ」

 

 ジュエルシード事件に巻き込まれた時に、はやての事を覚えてないと言った彩那。

 以前は同じクラスだったが、ちょっとした約束をしたとはいえ、それまであまり話してこなかったはやての事を覚えてないのも当然だ。

 

「もしも喚ばれたのが自分だったらって考えたら、ユーノくんや管理局のみんなと出会えたのって本当に幸運だったんだね」

 

 見知らぬ場所に喚ばれて戦争をさせられる。

 そんな経験をして正気で居られる自信はないとなのはは渋い表情をする。

 また、接触してきた管理局がホーランド王国のような人達だったらと思うと身体が震えた。

 彩那とて、気を許せる友達が居たから耐えられただけだ。

 もしも独りで。もしくは全く知らない相手と召喚されていたら、心がどうなっていたか。

 フェイトが質問する。

 

「それで、そのエネスト国? との戦いは終わったんだよね?」

 

「えぇ。無条件降伏だったから。敵の戦闘を主とする兵士の236人中、211人を私達が殺したわ。相手からしたら、もう白旗を挙げるしかなかったし、こちらからの無茶な条件でも受け入れるしかなかったのよ」

 

 たとえ勇者を退けたとしてもその後ろにはホーランド王国の本隊が後々にやって来るのだ。

 勝ち目が無いと骨の髄まで理解させた。

 ホーランド王国の思惑通りに。

 

「この活躍が周辺国にも広がって、大陸南部の小さな国や武力の乏しい国は軒並み書状を送ってきたみたい」

 

 あの戦闘は謂わば見せしめ。

 逆らえばお前達の国もこうするぞと思わせる為の。

 また、武力に自信の無い国は物資などの提供を申し出て衝突を避けつつもホーランドの庇護下に入ろうと動く。

 

「なら、南側はそれで纏まったんか?」

 

 はやての質問に彩那は首を横に振る。

 

「いいえ。各国の話し合いが思った以上に長引いたことと、ホーランド王国でちょっとしたクーデターが起きて。丁度集まっていた各国の首脳陣が人質に取られて少し大変だったわ」

 

『クーデターッ!?』

 

 現代日本では先ず起こらない事態に話を聞いていた面々が声を揃える。

 

「首謀者は現ホーランド王の兄上でね。魔導師としても為政者としても弟よりも優秀な人だったらしいけど、あることが原因で王位に就けなかった人なの」

 

「あることって?」

 

「それは────」

 

 そこで彩那はチラッと時計を見る。

 

「今回はここまでにしましょう。もう遅いし」

 

『えぇーっ!?』

 

 中途半端なところで話を切られてなのは達から不満の声が重なる。

 

「ちょっと! その切り方はズルくない!?」

 

「うう……気になって今晩寝られそうにないの……」

 

「え、と……今日泊まって行ったら駄目かな?」

 

「いやよ。お泊りの準備なんてしてないでしょう? うちの親だって困るわよ」

 

「彩那ちゃんの御両親に頼んだら、喜んで泊めてくれそうやけどなぁ」

 

 まぁ、あの両親だノリノリでお泊りの準備くらい数分で終わらせるに違いない。

 だからこそ、勘付かれる前に帰そうとしているのだ。

 

「今日中に話し終わる訳じゃないし。いい加減疲れたのよ。また今度にしましょう」

 

「うーん。彩那ちゃんがそう言うなら仕方ないよね」

 

 彩那にとっても疲れる話だ。

 無理強いする訳にもいかない。

 

「そうだね。じゃあ次に集まれる時に。約束だよ!」

 

「えぇ。約束」

 

 肩をすくめてそう返す彩那。

 友人達を帰してから、彩那はリビングのソファーに座って当時の事を振り返る。

 

(実際、あの後がかなり危なかったのよね)

 

 初めて人を殺して平然としていられる訳もない。

 しばらくは4人共かなり精神的にかなり不安定だった。

 

(そんな時だったかしら。あの人との出会いは……)

 

 苦悩し、色々なモノが怖くなってしまったあの頃。

 ティファナ王女を除けば、あの世界で最も親しくなったあの────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちまちまと現代のなのは達を挟むことにしました。
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