特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第100話

 呪術全盛期の再来、或いは黄金時代。そんな言葉が陳腐化して久しい、春の日の事。

 

 最強世代と最優世代が卒業を迎えた2009年の春から8年の月日が流れ、君臨し続ける特級達の影響力により、呪術界における殉職者数は低下の一途を辿っている。

 

 そんな中、高専側からの珍しい協力要請を受けて、久方振りに呪術高専東京校の門をくぐる、男が1人。

 

 仕立ての良い正絹の着流しを纏い、雪駄を履いたその姿を見れば、すれ違う多くの職員は居住まいを正し、深々と頭を下げる者も少なくない。

 

 ————禪院家当主・特別特級呪術師『禪院直哉』。

 

『最強の呪術師』五条悟、『万能の呪術師』夏油傑の両名と並び称される『神速の呪術師』である。

 

 そんな彼は本来、呪術界のパワーバランスの関係もあり、京都の禪院家を拠点に活動している。そんな彼がわざわざ東京へと足を運んだのは、彼と同格の存在達からお呼びが掛かったが故のこと。

 

「や、こんにちは直哉。悪いね」

「こんにちは。すぐに来いって 言うさかい 走ってきたわ 何事やねん」

「相変わらず早過ぎんだろ直哉。今、傑との通話切ったとこだよな?」

「まぁ、悟と違って直哉は真面目だしね。……で、用件なんだけれど————未登録の特級呪霊が昨日の夕方、突如として観測された」

「しかも、高校生の男子に憑依した状態でな。まぁぶっちゃけ異常だろ? 多分その高校生が何かの縛りを呪霊と結んでるんじゃねえかって事で、縛りに一家言ある直哉に見せようぜって話になったんだよ」

 

 そう、直哉の出迎えも早々に本題に入るのは、呪術高専の教員も8年目となり板に付いてきた夏油傑と五条悟。

 

 夏油は形から入るタイプなのか、スラックスとワイシャツにネクタイを纏った『先生』らしい格好。一方で五条はいまだに高専制服を着ており、顔が悪ければPTA通報待ったなしの上下黒づくめおじさんである。

 

 ただ、実はこの制服、本来の制服では無く直径0.1mmの『黝』の細い円環を編んで作られた鎖帷子な為、物理攻撃の一切を無効化する化け物防具だったりするのだが。

 

 そんな『五条先生』と『夏油先生』に挟まれて廊下を歩く直哉に対し、声を掛けてくる生徒や教師は数多い。まぁ、東京校の面々にとって禪院直哉という青年は、禪院家当主という肩書よりも『最優世代を代表するOB』という印象の方が大きいのだ。

 

「あ、直哉さん。こっち来てたんですね」

「恵くん 大きなったな また伸びた?」

「172まで伸びました」

「やばいやん 抜かされるんと ちゃうやろか。俺の身長 もう伸びへんし」

「直哉は今178だっけ。割と小さいよね」

「悟、それは君と私がデカいだけだよ。普通の人間は教室のドアを屈んで通らないからね?」

「五条先生、日本人平均171.5なんで直哉さんも充分デカい方です」

「マジで?」

 

 なんてやり取りを通りすがりに交わすのは、禪院家次期当主であり、呪術中3年となって絶賛成長期な伏黒恵。

 

 恵が幼い時分に共に暮らして世話をしていた事もあり、『オヤジより直哉さんの方が素直に尊敬できる』と公言しているほど関係良好な2人だが、直哉からすれば会う度に身長も伸びているし、顔もどんどん甚爾に似て女泣かせなイケメンになっているしで若干複雑な気分である。

 

 というか、恵は無意識的に考えないようにしているようだが、どう見ても同い年の華と血の繋がらない姉の津美紀から『モテて』いる両手に花男な為、灰色の学生生活を送っていた直哉からすれば羨望の念しかないと言っていいだろう。

 

 血の繋がった従甥に『痴情のもつれで刺されへんかな』と内心思っている辺り、禪院直哉という男の性根は相変わらずドブカスである。

 

 そして、そんな恵と別れ、渡り廊下を通って高専の座敷牢を目指す道中。そんなドブカス直哉にとっての『天敵』が、直哉の前へと現れた。

 

「お、直哉の愛しの幼妻じゃん」

「悟くん 歯ァ食い縛れ 玉潰す」

「なんで!? 暴力はんたーい!」

「地雷なの分かって踏みに行く悟が悪いよ今のは。結婚したのに『普通にな 女子高生は まだガキや』って我慢していまだに童貞なんだから直哉」

「傑くん 失言グセは 治らんな」

「……あ、ごめん」

「おい、何だよ人の顔見るなり男同士コソコソしやがって。私の顔になんか付いてんのか?」

「強いていうなら顔じゃなくて左手薬指についてるね」

「ああ、なるほどな。悟、あんまり人の旦那虐めんなよ」

 

 なんて、鍛錬に使っていた『なぎなた』を担いでそう告げるのは、一見ゴスロリ風な白黒の『魔法少女衣装』を纏ったポニーテールの美少女、禪院真希。

 

 今をときめく女子高生な彼女だが、その肉体は幼少期に覚醒した『完全なフィジカルギフテッド』そのものであり、同じく究極の肉体を持つ伏黒甚爾の薫陶を受けた事で『生身で呪霊を圧倒しうる』化け物と化している。

 

 が、甚爾と違って真希は少女。究極の肉体という概念は『女性らしい肢体』という意味でも適用されるのかと思ってしまうほどの、ワガママボディに成長している。バストとヒップは並のグラビアアイドルを優に越え、それでいてウエストはトップモデル並みというその身体構造はギリシャ彫刻を通り越して萌えフィギュアめいているが、それでいて全体的な印象は『猛獣のメス』な辺りが、彼女の戦闘力を物語っている。

 

 そんな真希だが、直哉にとってこの少女が一番謎な存在だ。中学卒業と同時に直哉を追って京都校に進学した真依は直哉にドロリと情念で濁った目で見るのが恐ろしいし肉体を直哉好みのとんでもないバストにまで成長させる執念が悍ましいが、まぁ分かる。理解はできる。アレは多分ヤンデレというやつなのだろうと、そう解釈できる。

 

 が、その一方で真希はさっぱりしすぎているのだ。祝言に抵抗する様子は無いが、さりとて直哉に執着する節もなく。妹に腹の中でドロドロとした部分を吸い取られたのではと思ってしまうほどにサバサバとした真希が、直哉にとっては理解不能で少々気まずい存在なのであった。

 

 まぁ実際のところ、真希はそう深く考えておらず、「直哉は禪院とは思えないぐらいいい奴*1だし、努力家な男は嫌いじゃないし、結婚しても良いかな」ぐらいの考えでサクッと結婚しているのだが、妹の真依があまりに『特濃』の感情を直哉に向けているせいで『こっちも何か爆弾あるんちゃう?』と直哉が変に勘繰ってしまっているだけである。

 

 が、そんな事は直哉本人に分かるはずもなく。

 

「真希ちゃんは 日下部さんの 学級か。一安心や 色んな意味で」

「なんでこっち見てんだよ直哉。G(グレート)T(ティーチャー)G(五条)の教育に不満でもあんの?」

優羅志亜(ユーラシア) 大学以下の 高卒が 教師やったら そら不安やろ」

「私は一応放送大学で学位貰ったし、硝子は年齢誤魔化したとはいえ試験自体はちゃんと通って医師免許持ってるけど、悟はそういうのやってないからね……」

「高卒は直哉もだろ!」

「生憎と 俺の同期は 卒業後 別口で(みな) 学位取ったで」

「嘘ぉ!? 灰原も!? いつのまに!?」

「いや、悟。灰原は普通に私と一緒に放送大学の番組見てたじゃないか」

「見てるだけかと思ってた……!」

「真希ちゃんは こうならんよう 頑張りや」

「おう。悟をグレート反面教師にするわ」

 

 なんて、昔と変わらぬやり取りでお茶を濁すのが関の山。イマイチ距離感を測りかねている直哉なのだった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 それからしばらく。直哉達は高専の忌庫から少し行った位置にある、呪詛師用の座敷牢の中にいた。

 

「ダメだ里香ちゃん!? ————え?」

「————なるほどな。えらい厳つい 彼女やね」

「ギャハハハハ! 直哉いきなりぶん殴られてやんの!」

「うーん。封印を解いた直後に暴れるだろうとは思ってたけど、直哉に襲いかかったのはやっぱり呪力量のせいかな? それにやっぱり取り込める感覚がしないね、この『里香ちゃん』って呪霊」

 

 顕現した強大な呪霊『祈本里香』と、それに脳天を殴りつけられたにも拘らず平然と無傷で会話する着流しの青年。それを見て笑う黒ずくめの服に目隠しまでした不審な銀髪男と、前髪が一房垂れた個性的な髪型ながら一番まともそうなシャツとスラックスの青年。

 

 

 そして突然の出来事に困惑する少年————乙骨憂太。

 

 

 呪われた少年にとって、忘れられぬ日々の幕開けは、酷くインパクトの強いその光景から始まったのだった。

*1
善行の縛りのせいである事を知るのは直哉本人と直毘人ぐらいなので、家中での評価はそんな感じ。




あらやだプロローグまでに100話消費する呪術廻戦の二次創作があるらしいですよ奥さん。

というわけで、ようやく読切時空まで来ました。今後ともよろしくです。
感想や評価などいつも励みになっております。ありがとうございます。
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