第101話
「まぁアレや 君は自分が 世界一 不幸な奴と 思うやろけど。コッチなら まぁ偶におる レベルやね」
「ええと……里香ちゃんを止められる人がいるのは、その、分かったんですけど……大丈夫ですか……?」
「直哉、里香ちゃんにキャメルクラッチを掛けられながら真面目な顔で真面目な話するのはやめないか? 悟の腹筋そろそろ攣るよ? というか抵抗しなよ」
「ヒーッwww」*1
「いやそれが この里香ちゃんて 勘やけど まだ小さい子 やと思うねん」
「……あ、もしかして」
「そうなんよ 俺の縛りの 対象や」
「……人間の霊魂だと、呪霊に変じていても女子供判定なのか」
「あと別に 彼氏の事を 殴っとる アホをシバくん 当たり前やん? 悪人と 判定されん みたいやね」
「いや、ロッカーに詰められて重傷だったらしいよ?」
「傑くん 娘3人*2 殴っとる アホがおったら 君どないする?」
「なるほど。まぁロッカーに詰めるぐらいはセーフだね。うん」
「……もしかして僕、ヤバいところにいます……?」
「いやまぁ、君の処遇に対して『極秘で死刑にしようぜ』って言い出す奴がいるぐらいにはヤバいところだよ。すっかり落ち込んでた君は死刑に乗り気だったから気づいてなかったみたいだけど」
「……あ、そうか」
「ま、今は多感な時期だし嫌なことがあって視野狭窄になるのは仕方ないさ。……で、そこで笑ってる奴と私からの提案なんだけれど。————君、この呪術高専に通ってみない? 里香ちゃんも一緒にさ。君は1人じゃない。呪いに携わる『呪術師』の仲間達は、きっと君の友人になれるはずだ」
そう告げて手を差し出した夏油傑の手を取ったのは、きっとその言葉に感じ入るものがあったからで。
死刑を免れてなお自裁しようとしていた乙骨憂太少年は、久方ぶりに日の当たる世界へと足を踏み出したのだった。
* * * * * *
それから数日後。
「と、いうわけで転校生を紹介しやぁす! 皆テンション上げて!」
「いや悟、お前副担任だろ。篤也は?」
「ノリ悪いねパンダ。あ、日下部先生は今日からしばらく京都校に出張なんだなコレが」
「げ。じゃあ悟が授業すんのかよ」
「ゲソ天……*3」
「えぇ、僕嫌われてる? なんで?」
「嫌ってはねぇけど、悟すぐ授業面倒になって実習にするじゃん……」
「鯖味噌」
「いや棘、サボりじゃないって。グレートティーチャー五条先生は実学主義なだけなんですぅ〜」
「……おいグレート反面教師、転校生は?」
「……あ! いやぁメンゴメンゴ」
なんてコントのようなやり取りが洩れ聞こえる教室。その扉が開け放たれると同時に『入っといで』と促された憂太が一歩教室に足を踏み入れてみれば、感じるのは好奇の視線。
それに対して、恐る恐る教室の面々に視線を向けた憂太の目に映るのは、滅茶苦茶にキャラの濃い面々だ。
まず、一番マシそうなのが、ツンツン髪の銀髪少年。ただ、こっちに手を振りつつ「しゃけ。出汁巻き」と言っているので、どうもキャラの癖は凄そうな気もする。
そして次に、まぁ、まだ人間という意味でマシなのは、ポニテの魔法少女。魔法の杖っぽいもの*4を机の脇に立てかけてあるし、服はフリフリだし、体型はアニメから飛び出してきたみたいだしで、どうみてもキャラが濃い。
そして最後にパンダ。ジャイアントパンダ。いや何故に?
混乱しすぎて一周回って冷静になりそうでならない憂太の脳みそは、冷静なような熱に浮かされているような奇妙な状態に落ち着いて、五条に招かれるまま黒板を背に立って、どうにかこうにか声を出す。
「えっと……は、初めまして、乙骨憂太です……」
「しゃけしゃけ」
「おう、宜しく。……直哉から聞いてたけど、マジで呪われてんのな。にしても地味過ぎだろ。不良4人を物理的に畳んだっつうから、もっと厳つい野郎かと」
「おいコラ真希! ごめん憂太! コイツは悪気は無いんだけど思った事が口に出るタチでな! あとさっきからオカズで喋ってるのは狗巻棘、言葉に呪いを込める体質で、極力意味のない単語しか話せねえんだけど、良い奴だぜ! そして俺はパンダだ! 宜しくな!」
「あっ、うん、宜しく……」
————どうしよう。第一印象が当てにならない。
なんて思っている中で、教室のドアが再び開き、入ってくる人影が2つ。
「すまんなぁ 遅れたやろか ごめんちゃい♡」
「直哉、謝るときはちゃんと謝った方がいいわよ?」
「堪忍な 軽いジョークや 許してな。ちょっと道中 呪霊おってな。祓ったら 遅れてもうた 訳なんや」
「お、来たね。というわけで、乙骨くんのお目付け役で日下部先生の代わりにやってきた、特級の禪院直哉くんと一級の禪院真依さんでぇす! 拍手!」
「え? ん? アレ……?」
「なんだよ憂太。私と真依交互に見ても同じツラしかねえぞ」
「憂太、真希と真依は双子なんだ。分身術式とかじゃねえから安心してくれよな! ちなみに身長171、ウエスト60、ヒップ98でほぼ同じ体型なんだがバストだけ真希は97のGで真依は107のKだからそこで見分けがグベラッ」
「パンダテメェしばくぞ。憂太も言われた直後に乳見比べんな。モロバレだぞ」
「もうしばいてるじゃん! 真希のマジパンチは死ねるって! あと真依もノータイムでピルム投げるのやめて!? 幼馴染の小粋なジョークじゃん!」
「おかか……シャケとばハラス、明太子」
「そうよ。棘の言う通り思いっきりセクシャルハラスメントだわ。人妻相手にやる事かしら全く……」
「え゛!? 人妻!?」
「ああ、そりゃ憂太は知らねえか。私と真依はそこの直哉に嫁いでんだよ」
「えぇ!?」
「真希ちゃんな 自分と俺等 ダシにして 乙骨君の 素を見とるやろ」
「バレたか。良いだろ別に。『僕悪い子じゃないです』『いじめないでください』って顔に書いてある奴と同じクラスでずっとやってられっかよ」
「まぁそやね。ところで今日は 顔合わせ だけでええんか? 五条先生」
「いや! この後は早速憂太を交えて実習のつもり!」
「やっぱり授業サボるんじゃねえか」
「しゃけしゃけ」
「悟、実習って何すんの?」
「最初はいきなり呪霊退治かなとも思ったんだけど、直哉も来て人数居るしね! まずは普通にグラウンドで憂太の実力を見てみようか!」
そう告げて、乙骨に向けて両手でサムズアップする五条悟。今までの人生と打って変わって賑やかすぎるこの教室に、未だ馴染めていない憂太は、それにハハハと苦笑いを返すので精一杯なのだった。