特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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挿絵を追加しました。


第102話*

 さて、所変わって呪術高専のグラウンド。

 

 クラスの面々が見守る中で、乙骨憂太は今まで考えた事もない行為に挑戦しようとしていた。

 

 ————じゃあ憂太。今日は自分の意思で里香ちゃんを呼んでみようか。大丈夫大丈夫! 僕最強だし、直哉も僕ぐらい最強だから! 

 

 なんて、あんまりにも気楽にとんでもない事を提案した五条先生に、思わず「正気ですか」と言ってしまったのはつい先程のこと。

 

 憂太からすれば、人間を容易くバキバキにしてロッカーに叩き込めてしまう里香の力は酷く恐ろしいものなのだが、それを説明してみたところ禪院姉妹に「それぐらいお姉ちゃんにも出来るわよ」「いや真依、お前も出来るじゃねーか」なんて言われてしまう始末。

 

 なんだここは人外魔境か? と内心思う憂太だが、視界に映る2人の魔法少女とパンダが「そうだが?」と存在そのもので主張してくるせいで反駁を諦めざるを得なかったのだ。

 

 かくして憂太は今、里香の形見の指輪に意識を向けながら、今まで考えた事もなかった言葉を口にする。

 

「で、出て来て、里香ちゃん……!」

『なぁにぃ、ゆうたぁ』

「えっと……」

『へんなやついるぅ!』

「待って里香ちゃん!?」

 

 と憂太が制止するのも虚しく、顕現した里香は周囲を見渡して直哉を発見するや否や、その脳天に向けてスレッジハンマーを叩き込み、直哉の足元の大地にズガンと大きく亀裂が走る。

 

 その衝撃についに殺人を犯してしまったのではと最悪の事態を想像して吐きそうになる憂太だが、現実は彼の想像とは大きく異なる結果を示し、彼は驚愕に目を見開く事になる。

 

「里香ちゃんな 変な奴とか 言いながら 殴ってくるん ほぼイジメやで。扱いが ゴキブリやんか 傷つくわ」

『うぅ! ごきぶりきもちわるぃ! 死ねぇ!』

「ゴキブリと 思っとったん? 俺の事」

「思考は比較的単純……いや、幼稚なのかな? 調べた限り、死因は轢殺による頭部損壊みたいだし、そこが呪霊化した際の知能に影響したのかもね。呪力は際限なく回復しており事実上無尽蔵、所有する術式は『模倣』……いやー、カタログスペックは滅茶苦茶強いねぇ里香ちゃん」

『うるさぁい!』

「おおっと。危ない危ない。……どうかな憂太! 里香ちゃんに言う事聞かせられそう?」

「えっ、あっ、里香ちゃんストップ! 止まって! 待って!」

『ゆうたぁ、でもへんなのいるよぉ、ころそうよぉ』

「ダメだってば! なんで直哉さんの事そんなに狙うの里香ちゃん!?」

『だってだって、きもちわるぅい!』

「……多分、直哉の呪力のせいだろうね。呪術師が扱う呪力の中には、時々性質を帯びたものが存在するんだけど、直哉の呪力は諸事情で『呪いが濃い』んだよね。ドロっと粘つく感じというか」

「なるほど、分からなくはないわね。でもまぁ、だからと言って人の夫をゴキブリ呼ばわりするのは頂けないわよ」

「ヒッ、ごめんなさい! えっと、その」

「真依よ。乙骨くん、悪いけどちょっと彼女さんにお灸を据えても良いかしら?」

「お、お灸、ですか……?」

「要はガキの暴言が頭に来たから1発殴るって事よ」

 

 そう告げるや否や、禪院真依はその身に纏う衣装を黒と真紅のゴスロリ風な色彩から、白とピンクのパステルでラブリーな色彩へと変色させつつ、初見の憂太をして『洗練されている』と一目で分かるほどの可憐な変身ポーズと共に「みんなの思いを力に変えて! マジカル真依ちゃん、メイクアーップ!」と変身セリフまで決めて見せる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そんな姿に呆気にとられるを通り越して思わず「おぉ……」と拍手してしまう憂太、悪ノリなのか割と完コピで変身ポーズを真似ている棘、「よっ、禪院屋!」と何故か歌舞伎の『大向こう』めいた掛け声を掛けているパンダといった様子で男子達の反応は概ね良好。実姉の真希は見慣れているのか「真依を怒らせると怖ぇぞ〜?」と揶揄うように里香を見やり、旦那さんであり実は真依がこうなった原因でもある直哉は里香にバシバシ叩かれておりそれどころではないご様子。

 

 そんな中「うわキツ」と大声で宣った五条悟に対し、変身を完了させた真依が「悪い大人もお仕置きよ♡」*1と告げて魔法の杖*2からピンク色の破壊光線を五条に向けて放射した事でようやく憂太も『もしかして本当に魔法少女めいた事ができるの!?』と事態を理解し始め、里香も『わぁ、イタい人だぁ』と真依に意識を向けて、自然と真依と里香の一騎討ちが開始された。

 

 その結果は————。

 

「真依ちゃんは アレで一級 術師やし まぁそれなりに 戦えるわな」

「お。おかえり直哉。めっちゃ殴られてたけど平気?」

「平気やで 呪力強化で ガチガチに 固めてまえば どないでもなる」

「まぁそうか。……里香ちゃんの呪力総量は無限だけど、出力はそうでもないしね。術式も彼女の意思だけでは上手く使えないみたいだし」

「主導権 一見すると 里香ちゃんに ありそうやけど ちゃうみたいやね。意外にも 良妻タイプ みたいやわ」

「3歩下がって旦那の後ろ歩いて、旦那に三つ指ついて礼する感じの?」

「ああ見えて そうなんちゃうか カンやけど」

「ふぅん。じゃあまぁ、アソコでキレてる真依からすれば同類なわけだ。憂太も直哉も大変だねー」

 

 と、呑気に見物する五条と直哉、そして学友達の前で行われるのは、呪いの女王VS呪縛の女王のキャットファイト。「他人の旦那さんを罵る悪い子にはお仕置きよっ♡」などと言いつつ、王貞治並のスイングで『マジカル真依ちゃんメイス』を振るって里香を殴る真依と「ゆうた以外はどうでもいぃもん! おばさんうざぁい!」と言いながら真依に殴り掛かる里香。

 

 そんな調子で「妻がそんなだと旦那の格まで下がる」だの「憂太はそんなの気にしないもん」だの「周囲からの旦那の評価が下がるっていってんのよ」だの「里香が憂太を評価してるもん」だのと互いの主張をぶつけながら小一時間続いたキャットファイトは、意を決した憂太の「里香ちゃん! あの! えっと! 周りの人を悪くいうのは良くないよ!?」という叫びで「えっ」と固まった里香に綺麗にメイスの一撃が決まった事で真依の勝利となり、里香は勝負そっちのけで憂太に「嫌いにならないでぇ」と泣きつくことになるのだった。

 

「まぁ、前途多難だけど、やはり祈本里香には『自我がある』のは確認できたし、一歩前進かな? 憂太も長時間里香ちゃんを出したのは初めてだろうし、一旦休憩!」

 

 という五条の鶴の一声で、いったんの休憩を挟んだ実習授業。

 

 しかしながら、午後の授業時間はまだたっぷりと残っており、憂太の忙しい1日は、まだ終わらないようである。

*1
戦闘中は『マジカル真依ちゃん』になりきって喋る縛りがある為、普段の真依からは想像もできないキャピキャピした甘ったるい声になっている。

*2
マジカル真依ちゃんメイス

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