特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第104話

 憂太が気絶している間に、顕現した里香を総出で押さえ込んだり説教したり*1して結構盛り上がった、という話をサラッと寮食堂での朝食の際に聞かされて、改めて学友達が『呪いの専門家』なのだなぁと思い知ってからしばらく。

 

 悩める乙骨憂太は、お目付け役である直哉と教師である五条、夏油に相談するべく、職員室を訪れていた。

 

「あの、おはようございます。五条先生、夏油先生、直哉さん」

「おっはー! いやー、憂太昨日はおつかれ!」

「おはよう、憂太くん。もう身体は大丈夫かい?」

「はい、おかげさまで。その、里香ちゃんは大丈夫でした……?」

「特級が 5人おったし 余裕やね。心配無いで 被害はゼロや。……寝て起きて 話は呑めた みたいやね?」

「……はい。えっと……その。夢を見たんです。あの日、里香ちゃんが轢かれた時の。僕はあの時、心の底から里香ちゃんに『死んじゃダメだ』『死なないで』と願った……それが、それが呪いなのかは、まだ、わからないですけど……それでここに」

 

 と、今日この場を訪れた理由を述べた憂太に『さてどう言ったものかな』と首を捻る大人が2人。

 

 そして、あんまり考えずに口を開く、大きな子供が1人。

 

「呪いだね。うん。バッチリ」

「こら悟。ちゃんと説明しなよ。副担任だろ? まぁ、私も悟と同じく『それは呪いたりえる』という見解だけど……おそらくそう聞くと憂太くんは自分を責めるだろう? それは少し違うんだ。呪術的にはね。……はい、ちゃんとフォローしたから説明しなよ悟」

 

 そう告げて、やれやれと首を振る夏油に対し、スーパー問題児の五条はと言えば、相変わらずのマイペース。が、それでも一応、友人からの鋭い視線を受けて、五条は憂太に語り始める。

 

「いやもう傑が全部言っても良いんじゃねえの今の。……いやゴメンて。睨まなくても良いじゃん。————ゴホン。えー、まぁそうだなぁ。……憂太は、最も強力な呪いは何だと思う?」

「えぇ? なんかこう、『この怨み晴らさでおくべきか』みたいな……? 死後の怨念みたいなイメージですけど……」

「うーん。意外と大した事ないんだよね、そういうのは。瞬発力はあるし、怨念を抱いて死んだ者が呪霊になったりもしなくはないんだけど、まぁ結局一過性のもので永続しないんだよ。死んでるしね、本人。……そういう訳で、お約束だけど『生きてる人間が一番怖い』んだなコレが。そして、人間の感情の中で最も強力な呪いは————『愛』だ。愛ほど歪んだ呪いはないよ。僕の持論だけどね」

 

 そう言いつつ、両手でハートマークを作って見せる五条の姿はコレが三十路目前のオッサンだと考えると中々に痛々しいが、顔の良さでギリギリセーフといったところ。

 

 しかし、そんな剽軽な姿にツッコまずにちゃんと言われた内容について考えるあたり、憂太は『模範的な学生』なのだろう。

 

「愛が呪い、ですか? 呪いって、マイナスのイメージですけど……愛ってプラスのイメージな気が……」

「うん。でもね、人間が最も恐れることは、愛するものを失う事だ。自己愛にせよ、友愛にせよ、恋愛にせよ慈愛にせよ、人はその対象を失う事を極度に恐れ、そしてそうなるまいとあの手この手で呪う。例えば僕は『物事を悟る人になれ』、傑は『傑れた人になってほしい』、直哉は『直向きになれ』という呪いをかけられているし、憂太は多分『他者を憂う事が出来る子になってほしい』って呪われてる。コレは親の愛だけど……まぁぶっちゃけ滅茶苦茶呪術だよね、物にその在り方を願って名付けるのって。実際僕はこの通り色々悟れるスーパーマンだし、傑はマジで傑物だし、直哉はストイックの化身になっちゃってるけど、僕達の今の在り方に『親の愛』という呪いの影響が無いと言えば嘘になる」

「なるほど……? わかるような、わからないような……」

「うーん。……そうだね。話を憂太と里香ちゃんの話に戻そっか。憂太の話を聞く限り、憂太は愛する里香ちゃんを喪う事を心底恐れて、無意識に死物狂いの呪いを掛けたのは間違いない。そして、直哉の見立ては、『愛する者の魂を自身に束縛する』という強力な呪縛が何らかの理由で奇跡的に成立して、祈本里香は特級過呪怨霊という器を得て生き永らえた、という説だ。……で、それを踏まえて、僕の説なんだけど……多分、里香の肉体を構成する呪力と里香の持つ『模倣』の術式は、本来憂太の物なんだと思う。憂太はおそらく、自分の術師としての才能を代償にして、里香を蘇生させたんだ。これなら確かに縛りとしてしっかり成立するし、バランスも割と取れてる気がするんだよね個人的に」

「……なるほど……?」

「悟くん 教師の癖に 説明が 長いしクドい どうなっとんな*2。————まぁつまり 愛の力で 恋人を 生き返らせた ちゅう話やね。その結果 今もこうして 里香ちゃんが 生きとるんやし ええんとちゃうの?」

「そ、そんな。あの、成仏とか、させてあげた方がいいんじゃ……」

「……? ————ああそうか。そらそうなるか。普通やと。悟くん 大事な事を 教えるん 忘れてるやろ しっかりしいや。……呪霊はな 別に死んでは ないんやで? 肉体が 呪力なだけで 魂を 持って生まれた 生き物なんや。人間が 死後に呪霊に なる時は 爆速で 転生しとる だけやねん」

 

 瞬間、沈黙。

 

 嫌な静けさが流れるその職員室の空気を壊したのは、ポカンと死にかけの金魚のように口を開けた乙骨憂太のただ一声。

 

「……え?」

「は? 悟。そこ教えてなかったの?」

「……なかった気がしなくもない!」

「コレは流石に学長に言わなきゃ案件だよ悟……」

 

 その後、当然ながら悟が夜蛾学長に「ガッデム!」とヘッドロックを掛けられたのはいうまでもなく。

 

 憂太の中の悟の評価が、いよいよもって『ダメな先生』に傾きつつも、朝のお悩み相談はチャイムによってひとまずお開きとなったのであった。

*1
真依だけ

*2
「どうなっとんな」はキツめの関西弁で「なんでこんな事になっちゃったんですか? (軽めの批難)」の意

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