直哉に操られつつ身体的な鍛錬を行い、それに疲れ果ててからは里香に香水を浴びせかけられながら呪術に関する座学、そして体の修復が終われば今度はクラスメイト達と実践組手を行う。
そんな生活を一月も続けていれば、元が引きこもって一留した陰キャの乙骨憂太くんだったとしても、かなり仕上がっては来るわけで。
更に里香がどうにかこうにかコマ数を落として*1投射呪法を運用出来るようになった事で、少しなら憂太も高速戦闘が可能になってきている今日この頃。
具体的には軽く手を抜いた真希相手に試合が成立する程度に鍛えられている憂太は、今日もその真希を相手に組手を行っていた。
「ま、参りました!」
「ほい、お疲れ。いやぁ、やれば出来るようになってきたじゃねえか憂太」
「いや、今日も完全に惨敗したんだけど……」
なんて言いながら、尻餅を着いた憂太を微笑みすら浮かべて評価する真希は、息も荒げていなければ本気を出してもいないのが丸わかりな余裕ある態度ではあるものの、そもそも体術において学生内最強の真希と初心者の憂太が戦う以上、そうなるのは必然。
手を抜いて尚、普通に素手で人間を八つ裂きに出来る真希を相手に戦いを成立させている時点で、憂太は十分に褒められて然るべきなのだ。
「真希はヒグマとゴリラとライオンとトラを足して割らない怪獣みたいな奴だからなぁ、憂太は五体無事に戦えてるだけでも十分凄いんだぞ?」
「おうパンダ。次はお前が組み手すんのか? ちょっと本気出すから覚悟しとけよ」
「事実言っただけで処刑宣言されんの!?」
「しゃけ、出汁巻」*2
「あはは……真希さんは凄いよねほんと……僕も頑張らなきゃ。……『縛り』の事もあるし」
「ああ、いっそ逆転の発想で里香との縛りをより強固にしたほうが安定するんじゃない? みたいな話に今なってんだっけ? パンダは又聞きだからよく知らねーけど」
「うん。直哉さんと真依さんから提案されて、どうするか決めろって。————里香ちゃんの解呪をするのか、それとも呪縛をより強くするのか。……正直、決めきれなくて」
「呪縛強化の方法は直哉が何か考えてるみてぇだし、後は憂太次第なんだろ? 里香と憂太の話なんだし、あんま私らが首突っ込む事じゃねえよパンダ」
「しゃけしゃけ。牛蒡天」*3
などと、会話を交わす呪術高専1年生4人組。そんな彼らに、ちょっと珍しい相手が声をかけて来たのはその時だった。
「よう、1年ども。やってっか? そっちの白いのが乙骨憂太で良いんだよな?」
「アレ? 金次じゃん! どした?」
「おうパンダ。任務にかこつけて授業サボってパチンコ行ってたのが夜蛾のオッサンと坂田先生*4にバレてよ。さっきまで説教喰らってたんだわ」
「金ちゃんが賭場仕切ってるのもバレちゃって長引いたんだよねぇ……坂田先生は文字通り雷落としてくるし……」
「アレ? 綺羅羅も説教されたのか?」
「まぁ、金ちゃんと連帯責任でね。賭場は手伝ってたし……で、そんなこんなで乙骨くんの面倒見てあげてって言われてさ。『偶には先輩らしい事をしろ』とか言われちゃったんだけど……私も金ちゃんも不良系だしどうしよっかなって感じ」
なんて、パンダを相手に話す彼らは、呪術高専2年の秤金次と星綺羅羅。一般家庭出身の彼らは高専に高校課程から入学したクチなのだが、なにぶん高専は基本的に全寮制。憂太以外の面々とはしっかり顔見知りであり、良好な関係を築いている。
が、憂太は当然、彼らについてほぼ何も知らないわけで。
「え、えっと、初めまして、乙骨憂太です。その……」
「……ふぅん。覇気には欠けるが悪くねえ“熱”を持ってやがる。嫌いじゃあねぇな、よろしくな乙骨」
「熱? ですか?」
「おう。俺はよ、まぁギャンブルが好きなんだわ。人生ってのはいつだってイチかバチか。人生を変えるためにどれだけ情熱を傾けられるかで、人生というギャンブルの勝敗は決まるんだ。……で、オマエからは直哉さんと同じ匂いがするんだよな、乙骨。あの人は凄えよ。人生丸ごとベットして、大博打に勝ち続けてんだから。————俺はオマエも、その手の人間なんじゃねえかと思ってるんだけどよ……まぁその辺は、殴り合ってみりゃわかんだろ?」
「金ちゃん金ちゃん、乙骨くんどう見てもいじめられっ子タイプだし、そういう言い方だとビビっちゃうよ? まぁ乙骨くん、金ちゃんが言いたいのは一回組手しようぜって事だから、悪いけど受けてあげてよ」
「は、はい、えっと……」
「あ、私? 私は星綺羅羅、よろしくね」
「憂太憂太、綺羅羅はあんなナリで男だからな? パンダは詳しいんだ。去年入学して暫くした時に風呂場で見たもん」
「ちょっとパンダ! そういうエッチなこと言いふらさないでよね!」
なんて言いながらパンダに怒る綺羅羅と、早速試合するかと気合十分に腕を回している金次。
突如現れた2年生2人による訓練が、今唐突に憂太の前に立ち塞がるのであった。