秤金次の術式『坐殺博徒』が展開され、憂太にはちんぷんかんぷんなパチンコの説明が頭に叩き込まれてからしばらく。
憂太にはよくわからないが、何やら大当たりらしい金次がとんでもない呪力を帯びつつ格闘戦を挑んでくるのに対し、憂太は基本的に防戦一方な立ち回りを行っていた。
パンチや蹴りがくれば回し受けで捌き、アウトボクサーのように常に一定の距離を保ちながら牽制の一撃を放ち続けて立ち回るその行動は、一見すれば消極的であり、金次が気に食わない『冷めたヤツ』にも見えなくはない。
だが————!
「なるほどな! オフェンスは彼女でディフェンスがテメェってわけか! 攻め込み過ぎて一手誤りゃ即座に餌食! 恐え恐え、だが此処は敢えて————攻める!」
「ッ! 受けて捌いてるのに、痛い! そういう術式じゃない筈なのに!」
そう。憂太は1人ではなく、秤の猛攻を必死で捌く憂太が痛みを感じるほどに怒り狂う過保護な彼女が、いつだってそばに居るのだ。
『憂太を傷つけるなぁああああああッッ!』
「ちょっ、里香ちゃんやり過ぎ————!? 先輩!?」
憂太が痛みを訴えた事でブチ切れた里香が里香自身に投射呪法を発動したことで振るわれるのは、巨大で凶悪な音速の拳。秤金次の左半身を抉り飛ばす滅茶苦茶なその攻撃はしかし、バッチリ有効ながら、決定打足り得ない。
「いやー、大当たり中じゃなきゃ死んでたな!」
「再生した!? ……えっと、大丈夫なんです?」
「俺は大当たり中は不死身だ! この程度の怪我なんて事は————ぶっちゃけある! クソいてぇからな。今のは普通なら死んでたし、この組み手はオマエの勝ちで良いだろ、乙骨。————なぁ綺羅羅、これで夜蛾のオッサン満足すっかな?」
「いやー、ダメじゃない? もうちょっとちゃんと色々教えてあげなきゃ」
なんて、構えを解いて言い始めた金次に対し、自身もまた構えを解いた憂太は、プンプン怒っている里香を「訓練だったから大丈夫だよ里香ちゃん。ありがとうね」と宥めつつ、せっかくだからと金次に相談を持ちかけてみる。
「あの、秤先輩」
「おう! なんだ?」
「ちょっと悩みがあって————」
そう言って、憂太が切り出すのは、里香を成仏させるべきか、それともより強く呪うべきなのかという究極の2択。
意外にもしっかりとその悩みについて聞いた秤はしかし、最後まで聞いた上で大らかに爆笑する。
「乙骨! 世間体なんざ気にすんじゃねえよ! お前が今の話をした時、明らかにお前の中には“熱”があった! 現状を変えてやろう! 人生を変えてやろうって前向きな熱意がよ! お前が賭けたい方に賭けろ! そうじゃなきゃお前の人生じゃねえだろ! ————夜蛾のオッサンは『呪術師に後悔のない死などない』とか言うけどよ。瞬間瞬間に全力で賭けて生きりゃ、後悔しても知れてんだろ! 晩飯のカツカレー食い損ねたな、とかそんぐらいはあるかもしんねえけどな!」
「いやー、金ちゃんらしいね。でもアレかな。私もそうだけど、自分のやりたい事は貫いたほうがカッコいいし気分がいいよ? 私は貫かれる側になっちゃったけど」
「あ、あはは……。えっとその。ありがとうございます。2人とも」
「おう! ……綺羅羅、今度こそ夜蛾のオッサン満足すんじゃね?」
「まぁコレはするんじゃない? 金ちゃん結構ちゃんと相談乗ってあげたし。————ところで、一年生はこの後暇?」
「パンダは暇だぞ! と言うか綺羅羅、さっきパンダよりエグい下ネタ言ってなかった?」
「自分で言うのは良いの! で、真希ちゃんとトゲピーは?」
「しゃけ。ひつまぶし」*1
「私も用事は特にねえかな。なんだよ、金次が寿司でも奢ってくれんのか?」
「お、真希ちゃん鋭い!」
「え? マジかよ?」
「おう! 夜蛾のオッサンには怒られまくったけど賭けの胴元で結構儲かってよ。散々叱られてたら職員室にいた伏黒先生がケツモチしてくれる事になって、呪術の秘匿前提の会員制システムになっちまうとはいえこれまで通り賭場を仕切れるようになったんだなコレが! そんなわけで金はある!」
「あー……甚爾もギャンブル好きだもんなぁ……」
「しゃけしゃけ。カンパチ。馬刺し。舟盛り」*2
「お、棘も寿司に乗り気じゃねえか。じゃあ銀座に寿司でも食いに行くか! 俺の奢りでな!」
なんて、実に賑やかな学生らしい一幕を経て、憂太は自身の心と向き合い、その結論、より強い熱を帯びた自らの欲望をしっかりと見定めることとなる。
そして、後日。
「あの直哉さん、話があるんです————」
そう告げて、乙骨憂太は自らの人生の岐路を、確かに選び、突き進むこととなる。