特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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本日2話目です。


第111話

 雨霰と撃ち込まれる呪力砲が商店街を蹂躙し、呪言を吐きながら投射呪法で高速移動を行う憂太が瓦礫の中を縦横無尽に駆け回る。

 

 そんな中、爆破と火炎放射の術式を扱うビッツは、圧倒的な剛力と再生能力を盾にノーガード戦法を取っていた。

 

 肉を切らせて骨を断つどころか、肉も骨も断たれていてもお構いなしなビッツの戦い方はしかし、それでいて確かな技術を感じさせるもの。

 

 呪詛師集団『Q』の鉄砲玉であるビッツ。中でもこの個体は、10年前に高専を襲撃した個体と同一の構成を持つ型落ち品。

 

 在庫処分を兼ねた威力偵察の為に乙骨憂太にぶつけられたという実情を知らぬのは、ビッツ当人のみである。

 

 だが、構成は同じでも、記憶を共有するビッツはその身に宿した戦訓により、その戦闘能力を大幅に進化させられるのだ。

 

「オリジナルに比べて随分と貧相な投射呪法ではありませんか! 毎秒24コマの動きとわかっているのなら、見切る事は————容易い!」

「ぐっ!?」

「そして膂力は中々の物なのかも知れませんが、体捌きが甘い!」

 

 そう言うなり、肥大化した左腕で強かに乙骨を殴り付けつつ、『グラニテ・ブラスト』を接射するビッツは、明らかに闘い慣れている戦闘者の動きで乙骨憂太を追い詰める。

 

 現に乙骨憂太は防戦一方、反撃の為に振るう日本刀はただの手刀でへし折られ、体術の起こりを読まれて迎撃を強かにくらい、里香が乱れ撃つ呪力砲はより収束率の高い『グラニテ・ブラスト』で掻き消され、憂太諸共派手に吹き飛ばされる始末。

 

 一方でビッツの爆破は幾度となく憂太の肉を焦がし、骨を折り、呪力砲撃は憂太の四肢を最も容易く吹き飛ばす。

 

 それは技量と経験の差による一方的な暴力であり、蹂躙であり、玩弄だ。あくまで魔人として覚醒したが故の強靭な肉体が憂太の命を守ってはいるが、絶えず反転術式を回さざるを得ない状況に追い込まれている以上、呪力総量は無限でも出力は無限ではない乙骨夫婦は徐々にジリ貧になっていく。

 

 筈、だったのだが。

 

「覚えた————!」

「なっ!?」

 

 そう叫ぶと同時に、驚異的な身体強度で以て強引に腹筋で呪力砲を受け止めた乙骨から放たれる、先程まで呪力任せに里香が撃っていた呪力砲とは桁違いの収束率を持った、強力な一撃。

 

 そして続け様に放たれるのは、爆発性の火炎弾。

 

 ビッツの扱う術式を模倣した乙骨による手痛い反撃が、容赦無くビッツの頭部を消し飛ばす。

 

 が、ビッツも伊達に『Q』が生み出した怪人ではない。頭部を失ったまま乙骨を殴り飛ばし、頭部を即座に再生させて臨戦態勢を取るその姿はおおよそ人間のそれではなく、獣じみた獰猛さで乙骨に向けて襲い掛かる。

 

 しかし、そこに立て続けに爆破を叩き込まれた上で『潰れろ』と呪言を吐かれて仕舞えば、さしもの再生怪人とて動きは止まる。そして動きが止まり、圧縮されたその身体に乙骨が拳を叩き込めば、投射呪法の『1秒間のフィルム化フリーズ』がビッツの身体を二次元に封じ込め、止めとばかりに乙骨と里香の口が、2人同時に呪言を紡いだ。

 

『『消えろッ!』』

 

 至近距離から夥しい呪力を込めて二重に放たれたその呪いは、ビッツのフィルムを跡形もなくこの世から消し去って、憂太を封じていた帳が術者を失い解けていく。

 

「————なんとかなった、かな?」

『もう! 憂太が「折角だし覚えよう」って言わなきゃ、始めから消し飛ばせてたんじゃない?』

「ごめんね里香ちゃん、わがまま言って」

『ううん。それは別に良いけど、憂太が何発も殴られたのはムカつく! 私の憂太に何してくれるのよあのチビ!』

「あはは……でもあの呪詛師の術式、使い勝手良さそうだよね」

『爆発と炎の術式と、呪力放出の術式……確かに便利そうだけど……ああやっぱりムカつく! 里香あいつ嫌い! あの感じ、どうせ死んでないし!』

「え……? そうなの?」

『そうだよ! 魂がどっか逃げたもん!』

 

 なんて、プリプリと怒る里香を宥めつつ、ほぼ壊滅した商店街から脱出し、何事かと狼狽する伊地知に事の次第を伝えた憂太は大きく息を吐いてから、ポツリと思いを口にする。

 

「なんだか割と平気だったな。人を殺したのに」

『憂太、割と大事な人以外にはドライだもんね』

「え、そうかな……そうかも……」

『あとはやっぱり私と融合したから?』

「うーん、里香ちゃんのせいではない、とは思うけど……どうかな」

 

 そんな言葉と共にじっと手を見る憂太だが、一度治まった震えが走る事は、もう二度とない。

 

 呪術師にとって、ある種の洗礼ともなる呪詛師との戦い。その試練を潜り抜けた憂太は、確かにこの日、呪術師らしく『イカれた』のだった。

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