特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第114話*

 時刻は少し遡り、九十九由基と伏黒甚爾の両名が、星漿体と天元の同化儀式を行うべく地下に下っているころ。

 

 夜蛾からの連絡を受けて真依と共に『Q』の前身組織に関する実家の資料を当たっていた直哉と、似た様な真似をしていた五条の耳に夏油が憑けてくれていた精霊による警告が行われたのは全くの同時だった。

 

『まずい事になった! 新青森、盛岡、仙台、東京と品川、名古屋、京都、新大阪、広島、鹿児島中央の各新幹線駅で呪力による爆発が発生! これは————無差別テロだ!!!』

 

 そう、夏油の音声を精霊が伝えた直後、五条家ではパシリの伊地知が、禪院家では気の利く良妻な真依がテレビの電源を入れNHKの緊急速報で裏を取る。

 

 そして、画面上部で表示されたテロップに夏油が伝えたものと全く同じ文面を認めた直後、直哉と五条が下した判断は全く同じもの。

 

 ————他者の転送が可能な五条は東京に急行して特級を各地に転送。その間直哉は京都に急行する。

 

 直後、その場から掻き消えた2人の特級の内、直哉が混乱する京都駅を報じる関西民放のカメラに映り込んだのはその直後の事で。

 

 爆発炎上する京都駅から現れ、一般人に向けて容赦無く術式を行使していた『ビッツ』と思しい軍服どもを前に、鬼の形相を浮かべた直哉は、両の手の指で『カメラ』のジェスチャーを行いながら、悍ましいとまで評される高濃度の呪力を放出し、結界術を起動する。

 

「幻燈に 映る一夜の 影法師————術式起動。第四乃壁」

 

 瞬間、緞帳の如き結界が京都駅周辺を覆い尽くし、その内部の呪力反応の悉くが、スポットライトで照らされる。

 

 その多くは逃げ惑う市民。直哉がまず行ったのは、それらの市民の退避だった。

 

 超高速で駆け回り、投射呪法で次々にフィルム化させた市民を、結界の外へと運び出す。

 

 瞬く間に行われたその救出劇は、アメコミヒーローの『フラッシュ』もかくやというほどのものではあるが、救い出せたのは本来この場に居たであろう人々からすればごく僅か。臓物と血反吐の絨毯を踏みしだき、僅かな生存者を救い出す合間にも、爆撃によりか細いスポットライトの明かりは次々と消えていく。

 

 そうして、手の届く範囲、289名の生存者を結界外へと運び切った後には、こちらをニヤニヤと見遣る『ビッツ』達が、表情の消えた直哉の事を上空から見下ろしていた。

 

「せせこましく人間を運んで回る作業は終わりましたかオリジナル! おやおやおや? 顔色が悪い様ですが御気分でも悪いので?」

「まぁそらな 今日の着流し 気に入って 着とったんやで? 血塗れやんか」

 

 そう呟いて、頭を掻く直哉は、その手すら血塗れであることに気がついて、ハァ、とひとつ溜息を吐く。

 

 その直後、瞬時に姿をかき消した直哉は、先程舐めた口を聞いた『ビッツ』へと襲い掛かり、その全身を剛力で以てバラバラに引き裂いた。

 

「まぁええわ もう汚れたし これ以上 汚れついても 一緒の事や。————どうせまた 再生機能 あるんやろ? でもさせへんで、そのまま死ねや」

 

 そう告げて、砕かれた肉片から再生しようとしたビッツに直哉が流し込むのは、ドス黒く濁った『濃い呪力』。本来ある種の領域である人体をバラバラに引き裂いたことでその内部への干渉が容易になったこの瞬間、直哉がビッツに行使したのは『録我呪法』。

 

 ただし、超高出力で放たれたそれは、直哉が誰にも見せたことのない『奥義』に位置するもの。

 

 

 録我呪法の最高出力。その術式対象は————。

 

 

「細胞の 自滅機能も 操れる。アポトーシスて 聞いたことない?」

「グッ、ガ……!」

 

 そう告げた直哉の足元で、再生不全を起こし、細胞膜を崩壊させて溶けてゆくビッツの1個体。

 

 その死に様を見て一気に緊張を走らせるビッツ達は、新型となって新たに追加された術式で以て、直哉に襲い掛からんとする。

 

「「「「百斂————穿血ッ」」」」

「器用やね そんなもんまで 使うんか。加茂家の子らが 怒りそうやね。再生で 残弾とかを 気にせずに 使うんやから 君らの場合」

「流石はオリジナル! 当たる気配もありませんね! ですが!」

 

 撒き散らされたビッツ達の血。その全てが一気に『爆発』する事で、燃料気化爆弾の如く周囲の酸素は使い果たされ、爆轟により京都駅の駅ビルが遂に耐えかねて崩壊を開始する。

 

 それは尋常の生物ならば、決して生き延びられぬ灼熱の無酸素空間。

 

 瓦礫の雨が降る中で、禪院直哉はその身の一切を焼き尽くされ————るわけがない。

 

 

 炎の中から全裸で飛び出してくるその肉体は、全くの無傷。日々の苦行により炎に巻かれることなど文字通り朝飯前な直哉にとって、全身を覆う熱も、酸素が食い尽くされた空間も、なんの障害にもなりえない。

 

「化け物ですか貴方は————!?」

 

 そう罵倒したビッツの1個体に対し、強烈な貫手で応えた直哉は、その心臓を握りつぶしながら録我呪法により細胞崩壊を強制し、死にゆくその亡骸を投擲する事で、飛行して距離を取ろうとする個体を撃墜。

 

 地に落ちたその個体にトドメを刺そうと音速で駆ける直哉に対し、ビッツ達が次に行ったのは『重力』による攻撃だ。

 

 彼らの母胎に由来する重力制御の術式『反重力機構(アンチグラビティシステム)』普段は飛行の補助に用いるそれは、術式反転で運用すれば超重力を操る術式としても扱えるのである。

 

 

 ————だが。

 

 

 瞬間的に数トンに達したその肉体をあろう事か支え切ってそのまま走り続けた直哉は、自身の重量を活かしたストンピングで撃墜したビッツの頭部を踏み砕くと、足から流し込んだ録我呪法で、その全身を崩壊させる。

 

 十の呪縛を自身に課して二十余年。常に自らに試練を与え続けた直哉の肉体に今更、重力の軛如きが通用しよう筈もない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「効くかボケ! あと何人か 知らんけど 全部纏めて ブチ殺したる————!」

「化け物め————! 総員散開! 相手は所詮人間だ! 飽和攻撃で叩き潰せ!」

 

 先程まで狩る側だった筈のビッツ達が、焦りと共に咆哮し、滅茶苦茶に周囲を爆破し焼き払うその中で、全てを吹き飛ばして駆ける青い閃光が、1人また1人とビッツ達を仕留めていく。

 

 

 それから、暫く。

 

 

 緞帳が上がり、顕になるかつて京都駅だった残骸の中で、生き残っているのはただ1人、裸一貫の青年だけ。

 

 

「他のとこ どうなったんか 分からんな……手近なとこは 広島やろか」

 

 

 そう呟いて青い閃光を残して掻き消えるその姿を見ていたものは、誰もいない。

 

 後にはただ、無数の骸が転がるばかりであった。

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