特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第115話*

 空気を踏みつけ上空を疾駆する中で眼下の惨状を見やる直哉は、予想通り五条のワープによって既に大阪に術師が投入されている——迸る雷光と巨大化した『 魔虚羅(まこら)』が見えたのでおそらく坂田あずきと伏黒恵——事を確認しつつ、広島に向けて駆け抜ける。

 

 

 そして、その姿は逆に、大阪で戦う恵達からもよく見えていた。

 

 

「あの光、直哉さんか! 京都はもう済んだんだな!」

「みたいね! これで京都方面からの挟撃は無くなった! 私達も油断せずに行くわよ!」

 

 そんな声を交わしつつ立ち回るのは、伏黒恵と坂田あずき————だけではない。

 

「流石はビッグブラザー! 京都に結界がおりた時点で俺たちを此方に向かわせたシスター・真依の判断が証明されたな!」

「うるさいわね東堂。もう少し静かに話せないのかしら。というか誰がシスターよ誰が」

「東堂君、なんで直哉さん慕ってるんだっけ……加茂君知ってる?」

「いや、西宮が知らないなら私も知らないよ」

「東堂は九十九由基の弟子として俺や真希たちと一緒に直哉さんに会ってるからな。……その時に東堂が()()()()をやって、直哉さんが『乳尻太腿のデカい控えめな女』って即答してからバグってああなった」

「幸吉、できればそのバグったところを詳しく!」

「そうは言ってもな。俺もそこは分からない。すまんな三輪」

「要は東堂の頭がおかしいってことよ」

「「「「それは知ってる」」」」

「ふっ、この美学が判らんとは————まだまだ青いな」

 

 なんてコントのようなやり取りを交わす仲良し集団は、呪術高専京都校の2年と1年。3年生と学長が京都校の守りを固める中、真依の進言で大阪に投入された彼らは、鍛えられたチームワークで凶悪な敵を相手に見事な立ち回りを見せている。

 

 その中核を担うのが、適宜変身と変身解除を駆使しつつ呪具の大量生産で武器を供給する禪院真依と、無数の傀儡の軍勢を率いる与幸吉。

 

 中でも幸吉の傀儡は仲間との連携を重視しており、例えば『上部の箱にガサっと突っ込むだけで自動で向きを揃えて装填し、ボタン一つでマジカル真依ちゃんピルムを弾が尽きるまで連射する自動投槍機』などと言った兵器的なものから、三輪が両足を固定し簡易領域を展開しながら動き回れる様に開発された『思考制御式大型スケートボード型飛行装置』*1の様なアイテム、西宮の付喪操術をサポートする箒型カラクリ呪具『箒星』*2、加茂憲紀の赤血操術を最大限活用する為の反転術式補助外骨格など、友人達に合わせて開発されたそのラインナップはまさに高専の兵器工廠。

 

 そして真依と幸吉のバックアップを受けて戦うモノの中で、最もキルスコアを稼ぐ火力担当は巌のような大男『東堂葵』。

 

 小学3年の頃に理子を連れて呪霊討伐ツーリングをしていた九十九由基に遥かに歳上のヤンキーをボコボコにしているところを発見され、呪術小にブチ込まれた経緯を持つ自称IQ53万の彼は、自称するだけはある知能で以って複雑な術式である『 不義遊戯(ブギウギ)』を使いこなし、敵味方を問わず一定以上の呪力を持つ対象の位置を自由自在に入れ替える。

 

 その結果引き起こされるのは、ビッツ同士の終わらないフレンドリーファイア。互いに攻撃し合う羽目になったビッツ達は幾ら不死身とはいえ同士討ちを警戒して徐々に動きの精彩を欠くようになっていく。

 

 そしてその隙を突くのが、ホバー呪具を駆る三輪霞とジェットエンジン搭載の箒を操る近未来魔女っ子の西宮桃。

 

 本来『両足を展開した地点で固定する』という縛りで以て展開される筈のシン・陰流の簡易領域。その縛りの穴を突き、足場ごと移動する事で領域を展開したまま自由自在に飛び回る三輪は、簡易領域に付与した迎撃機能により領域に侵入したあらゆる存在を問答無用で斬りまくる辻斬り侍。

 

 

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 その一方で、ジェット箒で空中暴走族と化した西宮は箒の柄の先端から呪力砲を撃ちまくりつつとんでもないアクロバット飛行を行っており、その姿はさながら次世代戦闘機。ビッツ達の砲撃を交わしながら逆に砲撃を撃ち返すその胆力は流石は2年生でも最もしっかりしており『桃ちゃん先輩』と慕われているだけの事はある。『女の子はカワイイだけじゃないのよ!』と叫びながら箒にしがみついている彼女の声がヤケクソ気味なのには、目を瞑るべきだろう。

 

 

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 そして、全体の動きを俯瞰し、戦場にどうしても生まれる隙を潰していくのが加茂憲紀。

 

 指名手配中のとんでもない呪詛師『加茂憲倫』と名前がニアピンということを幼少期に知った事で、流石に思い悩んでどうにかこうにか実母に連絡を取った彼が、『早く私の元に帰ってきて欲しい』というその名に込められた呪いを知ったのは12の頃。

 

 その願いを受けて次期当主として加茂家の中で教育される予定だった彼は『かの五条悟と禪院直哉の両当主は高専出身』という点を強く主張して呪術中学に入学し、東京という加茂家の監視もそれほどではない土地で実母と再会。

 

 再婚していた母の紹介で義父ともそれなりに仲良くなり、胤違いだが可愛い弟も生まれ、割と充実した思春期を過ごした彼は、血みどろドロドロな加茂には珍しい、割と一般的な感性を持つ今風の術師となっている。*3

 

 そして、中学の3年間だけとはいえ自らの術式が医療と関連が深いという点から東京校で『家入硝子2級術師』の薫陶を受けた彼のバトルスタイルは————。

 

「くっ、何故押し切れない! 我々の戦闘能力は並の術師を圧倒しているはずだ!」

「同志! あの援護射撃が厄介です! 追尾弾を撃つ重機関銃など対応のしようが————ガペッ」

「クソッ、脳をいちいち潰すせいで連携が乱れる————!」

 

 そう、硝子の影響をガッツリ受けた憲紀が『 赤鱗躍動(せきりんやくどう)』によって向上させた身体能力と幸吉が作ってくれた外骨格のサポートによって強引に担いでいるのは、各種の改造を施されて原型をほぼ留めていない重機関銃。

 

 

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 幸吉が手を施した給弾装置は輸血パックを接続する事で全自動で弾頭に憲紀の血を塗りつける仕組みになっており、熱されやすいバレルも呪術的な冷却機構を組み込む事でどこまでも連射可能になったその化け物機関銃を操る憲紀は、狩衣を着ている以外は何もかもが呪術師らしからぬスタイルで加茂家の家中を大いに騒がせ、そしてその全てをマシンガンで黙らせた事で『御三家の新世代当主全員頭おかしい説』が呪術界に実しやかに囁かれているのである。

 

 ホーミング重機関銃という暴力の化身が弱い訳もなく、硝子の薫陶で反転術式すら使用可能になっている憲紀は、外骨格のサポートもあって呪力の続く限り増血が可能。

 

 そしてその加茂家次期当主としての知識はビッツ達が赤血操術を使った際に即座に『おそらく血液も爆破可能』との警告を発する事で皆を守っており、後詰めを担う援護射撃手として八面六臂の活躍をしていると言って良いだろう。

 

 

 だが、そうして大奮闘をしている京都校チームがこの戦場の主役なのかと言えば、それは流石に異なるわけで。

 

 

「クソッ! 止めろッ! 止まれッ! 化け物がッ!」

『対象の再生を確認。解析開始。仮説『全細胞の抹消により無力化可能』。仮説実証手段を検証中————完了。超高出力α線照射*4による滅却を開始します』

「止め————ミ゜ッ」

『滅却完了。再生の停止を確認。仮説立証。以降全敵個体にα線滅却を実施します。周辺被害を考慮。以降の照射方法を結界内部への照射に変更。高速展開可能な結界の術式を構築————成功しました』

 

 

  八握剣(やつかのつるぎ) 異戒神将(いかいしんしょう) 魔虚羅(まこら)

 

 

 術者である伏黒恵をその体内に格納することで弱点を完全にカバーした史上最強の式神は、森羅万象に適応し続ける最強の存在。以前のビッツに対しては『焦眉之赳』による焼却を行った 魔虚羅(まこら)だが、当然進化し続ける 魔虚羅(まこら)が雑な全体攻撃にいつまでも甘んじる訳もなく、この機会にガンガン解析を進めてピンポイント滅却が可能になっている。

 

 つまり、 魔虚羅(まこら)は今や、ビッツ達にとって逃れ得ぬ『死』であり、その感知範囲に捉えられた個体が有無を言わさず『消去』されていく事態に恐慌状態に陥ったビッツ達は、 魔虚羅(まこら)から逃げ回りつつテロリズムを行うという情けない状態になっている。

 

 そして、そんな逃げ腰の個体を狩るのは————。

 

「ナオ様にカッコいいところ見せるんだから! 『 偽典(ファンディスク)紺輝覇顕(ブルーレイ)』!!!!」

 

 迸る青いプラズマと電撃、雷速で行われる超高速タックル。なるほど、黒閃がない事を除けばかなり再現度が高い滅茶苦茶直哉ファンなその技を操るのは、1級術師『坂田あずき』。

 

 呪力による身体強化と電撃の性質を持つ呪力を組み合わせた術式『雷迅軀』を操る彼女が放つその技は、超高温の放電によりタックルした対象を焼却するという点でも直哉の『紺輝覇顕(ブルーレイ)』にかなり近く、食らったビッツを8割ほどの確率で物言わぬ消し炭に変えており、残り2割でも再生にかなり手間取る程度の重傷を与える事で『寿命を削る』事に成功している。その実力は、一級でも上澄みクラス。 魔虚羅(まこら)の討ち漏らしを積極的に狙うその戦法も相まって、挙げた首級はかなりの物。

 

 それでも、彼女の表情は『推し』の直哉を話題に出して自身を鼓舞しても尚、暗い。

 

 

 地を覆う無数の骸と瓦礫の中で戦う呪術師達は、最悪の呪術テロを為した『Q』が齎した被害を痛感しながら戦っており、自然、奥歯を食い縛る忿怒の相を浮かべずにはいられない。

 

 それでも、幼児と思しい小さな頭蓋骨を踏み締めてでも、今は呪詛師を殲滅しなければならないのだと奮い立つ彼等によって新大阪駅でのテロが平定されたのは、それから間も無くのことだった。

*1
ガンダムのドダイや交響詩篇エウレカセブンのリフボードから着想を得たらしい

*2
箒の穂の中央に呪力ジェットエンジンが仕込まれている他、柄が呪力砲の砲身になっており先端からビームが打てる。

*3
具体的には、『(みずら)とかダサくない?』という気付きを得て、ヘアスタイルがただのロン毛になっている。

*4
ヘリウムの原子核が飛んでいる粒子線がいわゆるα線。粒子がデカいので紙一枚でビームを遮ることが可能だが、逆にいえば『一番物理的な性質を持つ放射線』なので高出力α線は原子レベルのウォーターカッターの様なモノと言える。それをごんぶとビームでぶち込まれた場合、射線上のあらゆる分子が削り飛ばされるので、ざっくりいうと『消滅』する。

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