特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第116話*

 所変わって宮城県仙台市。

 

 派手に爆破され、その後も逃げ惑う人々に呪力砲が容赦無く撃ち込まれたことで未曾有の被害が齎された仙台駅の残骸の中、軍服を纏った集団が、異形の怪物と激しい戦いを繰り広げていた。

 

怨゛(オ゛)ォ゛懊゛(オ゛)ォ゛惡゛(オ゛)ォ゛哀゛(ア゛)ァ゛喘゛(ア゛)ァ゛ァ゛ァ゛ッッ!!!!』

 

「話が違う!? アレのどこが破棄された失敗作だ————!?」

 

 そう悪態を吐く軍服集団————呪詛師集団『Q』の尖兵であるビッツ達の視線の先で、怒り狂うのは身長2mを優に超える白い怪人。全身から血を垂れ流し、肉を溢し、獰猛に吼え猛るその怪物の体表は、無数の骨によって鎧われている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 特級呪術師・虎杖悠仁。中学三年生にして特級呪術師歴10年目を迎える彼が、生来のお人好しさによって高専側と追加で交わした縛り『呪術高専の学長1名の許可が無い限り、術式を一度に3つまでしか使えない』。

 

 その制限が解除され、平時の能力制限の反動として出力200%で全術式を運用する虎杖悠仁最強の形態こそが、今現在ビッツを相手に怒り狂う白き怪物。

 

 

 ————完全戦闘形態『十面鬼』

 

 

 脹相(ちょうそう)壊相(えそう)血塗(けちず)膿爛(のうらん)青瘀(しょうお)噉相(たんそう)散相(さんそう)骨相(こっそう)焼相(しょうそう)、そして生前相。

 

 九相図10兄弟全ての術式を最大出力で行使し、全人格を同時に表出させているその形態は、単身でありながら文字通りの十人力。

 

 頭部に存在する10対の眼球はそれぞれの兄弟によって制御、処理され、兄達が全力で悠仁をサポートする事で、文字通り一切の死角が存在しない。

 

 そしてその体表は骨相(こっそう)の『奮骨彩身(ふんこつさいしん)』による強固な骨の鎧を、その下に張り巡らされた 青瘀(しょうお)の『屍肢簇(ししむら)』による強靭な筋繊維によって支える、生体強化外骨格とでもいうべき強靭な組織に覆われている。

 

 この組織によって悠仁の元々バカ高いフィジカルと身体強度が強化された結果、パンチ1発で戦車の正面装甲をブチ抜き、そのままピッチャー投げでブン投げてしまえるほどの無双の剛力を得たこの強化形態自体は、悠仁も平時に許された3種の術式の内2枠分として常用している便利なもの。

 

 そして、常用している残り1枠はやはり、長兄脹相(ちょうそう)赤血操術(せっけつそうじゅつ)。場合によっては他の術式に変更することもあるが、いざ戦闘となればやはりこの術式が汎用性の面でも出力でも強力無比。

 

 兄である脹相(ちょうそう)オリジナルの各種の技に加えて、一昨年卒業して京都に行った同中のノリさん*1から加茂家の拡張術式すら学んだその術式の汎用性は、まさに無限大。呪力によって無尽蔵に造血可能な九相図10兄弟の体質も相まってとにかく便利なこの術式を駆使し、『 赤鱗躍動(せきりんやくどう)』を発動すれば、強化外骨格の出力と乗算されたその身体強化効率は常軌を逸した領域に到達する。

 

 その出力はパンチ力100トン、キック力120トン、ジャンプ力110メートル(ひと跳び)、走力100メートル1秒という、『てれびくん』で紹介されていそうなレベルのもの。

 

 ここまで来れば素手で高層ビルを解体するのも余裕という意味不明な領域に達しており、現に怒り狂う悠仁に殴り飛ばされたビッツは衝撃波と共に四肢を爆散させながら数十メートル先のビルに叩きつけられて赤い染みになっている。

 

 もちろん、千切れ飛んだ肉片から復活はするのだが、復活後のビッツの顔色は恐怖と驚愕で青くなっており、人間戦車を超えて人間戦艦とでも言うべき重装甲超火力の権化を前にした絶望に染まっているのは言うまでもない。

 

 だが————。

 

 これら3種は出力はともかく*2平時からでも扱えるものなのである。

 

 つまるところ、まだ序の口というわけだ。

 

 そんな悠仁にビッツの1個体が果敢に呪力砲撃を行うが、それを阻むのは外骨格のスリットから霧状に噴射される大量の白い粘液。

 

 膿爛(のうらん)による白血貪術(はっけつどんじゅつ)。あらゆる呪力を貪り喰らう白血球を操るその術式をチャフやスモークの如く噴射する事で単なる呪力を用いた技の一切を無効化し、エネルギーを吸収する。

 

 呪力戦においてあまりに無体がすぎるその能力は、神話のヘラクレスもかくやという剛力を誇る悠仁と呪力ゼロの格闘戦で戦うことを相手に強いる理不尽の極み。

 

 では、遠距離からの物理攻撃であれば通じるのか? 或いは逃げの一手を打てば生き延びられるのか? 

 

 そのどちらも否であるのは、呪力砲を用いてビルの鉄筋を射出したビッツに対し、悠仁が振り抜いた拳を『発射』して鉄筋ごと纏めてロケットパンチで殴り潰した事からも明白だ。

 

 散相(さんそう)の術式『散身逸躰(さんみいったい)』。切り離した肉体を操るこの術式に無双の剛力で初速を与える事で放たれるのは、マジンカイザーのターボスマッシャーパンチを彷彿とさせる超高出力のロケットパンチ。

 

 そして、そのパンチを喰らい、悠仁の肉片と血をモロに浴びれば、待ち受けるのは壊相(えそう)血塗(けちず)の『蝕爛腐術(しょくらんふじゅつ)』。

 

『同じ術式を2つ持っている』というよく考えると意味が分からない特徴を持つ悠仁の蝕爛腐術(しょくらんふじゅつ)は縛りの効果発動時その威力が400%に到達し、喰らえば最後、全身に回る毒が肉体を腐らせ分解する。

 

 それに抗う為に反転術式を回し続ける状態は、当然ながら戦場では致命的な隙となり、蹲るビッツに追撃のもう一方のロケットパンチが叩き込まれれば、その身体は再生より破壊が上回ったことで、骨も残さず腐食される。

 

 では、両の手を発射した直後、再生待ちの隙を突いて背後から複数で殴り掛かれば————待ち受けるのはゴジラの体内放射宜しく背中から無数に噴射される『穿血』。外骨格を砲身として圧縮されたその威力は両の手で撃たれるものと遜色なく、全方位を見渡す10対の目により狙いも精密。

 

 そして逢えなく撃墜されたビッツ達は蝕爛腐術(しょくらんふじゅつ)の毒に蝕まれ、なす術もなく地面に這い蹲る。

 

 そこに顔を向けた悠仁が、憎しみの籠った眼差しと共に顎門を開けば、その奥から光るのは周囲を焼く炎と同じ、紅蓮の煌めき。

 

 焼相(しょうそう)の術式『屍脂焚塵』。普段は火の粉と煤混じりの黒煙を吐くだけのその術式は、悠仁の術式出力が跳ね上がった完全戦闘形態においてのみ、その性質を強化され、ドス黒い黒煙を伴う火炎の吐息(ブレス)へと変質するのだ。

 

 その無尽蔵に吐き付けられる炎と黒煙によって荼毘に付されたビッツ達は焼け焦げた骸を晒し、総身に回った蝕爛腐術(しょくらんふじゅつ)の毒によって分解されて、消えていく。

 

 そんな中、泣き叫ぶように吼え猛る悠仁が、仙台全域に飛ばしているのが、噉相(たんそう)の『蠱螫飼(こどくし)』。無尽蔵に展開する蝿の式神を用いて悠仁が行っているのは生存者の捜索及び救出と、式神を介した反転術式の遠隔行使。

 

 ビッツの軍団を一手に引き受け、人々を救出するその働きによって救い出された市民は数知れず。

 

 しかしながら、同時に悠仁が確認した亡骸もまた、数知れない。

 

 故に、今の悠仁は劫火の如き怒りのままに、その圧倒的な暴力をビッツ達へと叩き付ける。

 

 

殴゛(オ゛)ォ゛鏖゛(オ゛)ォ゛圧゛(オ゛)ォ゛ 僫゛(ア゛)ァ゛厄゛(ア゛)ァ゛ァ゛ァ゛ッッ!!!!』

 

 憤激する怒りと悲しみの化身によって、仙台市でのテロが平定されたのは、それからしばらく。

 

 しかしながら、その被害は、悠仁の心と仙台の土地に、暗く深く消えない傷痕を刻み込んだのだった。

 

*1
加茂憲紀

*2
縛りの影響で今の出力は奮骨彩身(ふんこつさいしん)200%×屍肢簇(ししむら)200%×赤血操術(せっけつそうじゅつ)200%の合計倍率800%なので、平時からこんな化け物スペックを振り回しているわけではない。




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