特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第117話

 本州最北端、青森県。

 

 ビッツによって呪術テロが引き起こされた新青森駅に降り立ったのは、五条悟の手により送り込まれた、一級呪術師御一行。

 

 九十九は天元守護、夏油は品川、五条が東京、直哉は京都を制圧して広島に移動中、恵が新大阪で、虎杖は仙台、乙骨は東京校の守護で留守番、といった具合で特級術師の手が足りていない現状、一級にお呼びが掛かるのは当然ではあるのだが————。

 

 それにしても、その顔ぶれは、ちょっとばかり面白いものになっている。

 

「ハッハッハ! 五条の(ボン)め。直哉の功で家の関係が改善したとはいえ、ちと他家への遠慮が無さすぎるな」

「だから私は五条と結ぶなど反対だったのだ」

「いや、扇は直哉のやる事なす事全てに反対だっただけだろう……」

「妹の義実家の知り合いの勤め先の事情に巻き込まれるのは流石に理不尽デショ。ほぼ他人、いやマジで他人ダヨ!?」

「まぁまぁそう言わずに、お義父サン達と頑張りマショ!」

「ワハハハハ! ガビ嬢は相変わらず気立てが良いな!」

「……叔父貴、さっきから思ってたんだが、飲んで無いか?」

「儂が飲んどらん時があるか? 甚壱」

「……まぁそれはそうだが」

 

 そう、五条が青森に飛ばしたのは、高専に飛ぶ前、真依を新大阪に送るべく寄った禪院家で捕まえた、禪院家の特別一級術師御一行。

 

 先代当主・禪院直毘人、炳筆頭・禪院甚壱、鳶が鷹を産んだ鳶の方こと禪院扇、直哉の嫁3号の禪院・ガブリエラ・オドゥオール、ガブリエラの兄で、妹が異国の地で元気にやっているのか様子を見に、たまたま来日していただけなのに巻き込まれてマジで可哀想なアフリカ呪術界最強の男ことミゲル・オドゥオール

 

 総勢5名の禪院家の面々は戦場にいるにも関わらず、何ら気負う様子がない余裕の振る舞いで、新青森駅の残骸の上から此方を嘲るように見下ろすビッツ達へと対峙する。

 

「おやおや! 特級の1人も居ないとは随分と舐められた物ですね!」

「ガキのオイタを躾けるのに舐めるも糞もあるか。お前も飲んどるのか?」

「品性下劣、親の程度が知れるな。子は親の鏡というが、この分では加茂憲倫も大した物ではあるまい」

「……フン」*1

 

 威嚇されてもどこ吹く風。そんな禪院家の態度が癇に障ったのか、容赦無く砲撃を行うビッツ達に対し、禪院の面々が選んだのは散開。

 

 コミュ力や協調性といった言葉とは無縁の彼等だが、その反撃の手は、流石老練の呪術家系に属する物らしく強力なもの。

 

 甚壱の術式『剛華拳濫(ごうかけんらん)*2により天から降り注ぐのは無数の足。

 

 甚壱が地に向けて放ったストンピングを呪力により拡大複製して上空から叩き落すその攻撃により新青森駅諸共に叩き潰されたビッツ達は、その再生力を遺憾なく発揮して蘇生しつつ、甚壱を狙って反撃を————。

 

「————させると思うのは少しばかり虫が良すぎやせんか?」

 

 そう告げるのは、禪院直毘人。超高速で移動した彼が流れるような動きでビッツ達の間を縫う様に駆け、すれ違い様にビッツへと触れれば、そこで起こるのは問答無用のフィルム化————ではなく、ガチリと硬直したビッツの姿。

 

「ま、儂の好みとは程遠いが、コレも年の功というやつでな。投射呪法のコマ割り数に、上限はない。それに見合う縛りを設ければ幾らでもコマ数を上げられる。ついでに言えば、条件設定も縛り次第で自由自在。そして知っての通り、投射呪法は『術者に触れた者も使用できる』という大きな縛りがある。だがな? 別に相手に使わせてやる投射呪法のバージョンが自分用と同じでなくても良いわけだ。つまり、『1秒を24万コマに分割し、物理法則を完全に無視した振る舞いが可能で、一切物理的な反動を受けず、他者に影響だけを与えるメリット盛り沢山デラックスエディションの投射呪法』を相手に使わせてやるという条件は儂への縛りとして十分に成立する。————ま、もちろん、投射呪法は投射呪法。コマ打ちに失敗すれば『使用者』にペナルティが待っているのは仕方あるまい?」

 

 そう、術式の開示を行なった直毘人が述べた通り、直毘人が『触れた相手に使用させる』投射呪法は、コマ打ちにさえ成功すれば逆に直毘人を粉微塵に粉砕できる凄まじい効果を持つ超強力なもの。

 

 ただそれは、秒間24万コマのコマ打ちに成功すれば、という条件なわけで。普通に不可能なその条件に対し、直毘人が設定したのは、救済措置と、実に軽いペナルティ。『コマ打ちに失敗した場合、自動的にやり直しの機会が与えられる。やり直しの際にはコマを考える時間に制限はなく、全てのコマを打つまで術式の起動はされないようになる。よって二回目のコマ打ちは時間を掛ければ必ず成功する。ただし、コマを考える間は身体を動かせない』という、一見破格の救済措置は敵にとにかく有利な条件。

 

 の、様に見えるのだが————。

 

「1秒で1コマ考えたとして、ざっくり2日と19時間ほど。その間体の自由が効かぬとなれば、ま、隙だらけとしか言いようが無い訳だ」

 

 そんな直毘人の声は、呼吸も忘れて硬直したビッツ達には届かず、そこに畳み掛けるのは、禪院扇。

 

「術式解放————焦眉之赳!」

 

 扇が操るのは業火を纏った呪力の剣。恵の 魔虚羅(まこら)が使用したものとはいえ、ビッツの討伐実績があるその技を無防備に打ち込まれたビッツ達は、胴を輪切りにされてその身を焼き焦がされ燃え盛る炎から逃れる事も出来ずにその身を崩壊させていく。

 

「ふん、所詮は力を得ただけのガキか」

「……そうだな」*3

「ま、年の功だな! ガハハハハ!」

「お義父サンそれさっきも言ってマス! ———— Jihadharini! (あぶない!)

 

 そう叫んだガビが独特のステップを踏みながら直毘人を庇う様に立ち塞がり、その細腕で弾き飛ばしたのはビッツの放った呪力砲。

 

 実兄ミゲルと同じ、オドゥオール家相伝の術式『 祈祷の歌(ハクナ・ラーナ)』。呪いを退け自らの身体能力を向上させるという攻防一体のその術式と所有する特級呪具『黒縄』を組み合わせることで、黒縄で呪力収束を乱し術式で乱れた呪力を掻き消すという神業めいた防御をしてみせた彼女の顔に浮かぶのは、滝の様な汗の滴。

 

 間一髪、狙撃を防いで見せたその腕前は、直哉の妻に推挙されるだけの事はあるものだ。

 

「伏兵か! すまん! 助けられたなガビ嬢!」

「ガビは下がってナ。俺が代わるヨ」

「ありがとう、ございます兄サン……間に合わせるために、呪力を10倍、消費する縛りを……急造でかけたので……疲れマシタ……」

「『剛華拳濫(ごうかけんらん)』!!! 合わせろミゲルッッ!」

「気が早すぎるデショ!? 合わせるけどナ!?」

 

 などと言いつつ、ゲンコツの雨霰を降らせてビッツの残党を追い込む甚壱に呼応して、術式効果で甚壱が降らせる拳をヒラリヒラリと交わしつつビッツに迫るミゲルが放ったのは、黒縄を巻き付けた拳による全力殴打。

 

 その瞬間、黒く飛び散った火花に普通にビックリした様子のミゲル*4だが、喰らった方のビッツはと言えばビックリではとてもすまない。

 

 呪いを乱す黒縄の効果を伴って叩き込まれた黒閃はビッツの超回復の根幹である反転術式を滅茶苦茶に掻き乱し、再生不全に陥ったその身体は致命的なバグを発生させて、絶えず痙攣し続ける奇怪な肉塊と化してしばらくビチビチとのたうちまわった後、ガン化した細胞に侵食されて肉塊となり、生命維持機能を自ら食い潰して死に至る。

 

「キモすぎるダロ……」

「……何だその、すまん」

 

 なんて「うわぁばっちい」とばかりに殴った手をブルブル振るミゲルと、彼をトドメに指名した甚壱が、揃いも揃って鳥肌を立てる程にグロい死に方をしたビッツの末路。

 

 敵ながら流石に哀れだと思ってしまうそのザマは、戦闘兵器として調整されている筈のビッツ達が『魂の情報を継承』した際に動揺する程の事態であるらしく。

 

 幼い兵器達はその経験の少なさ故に呪力の気配を乱れさせた事で、直毘人に感知され、目にも止まらぬ早業でその身体機能を凍結されていく。

 

「不憫なガキ共よな。加茂憲倫とやらも酷い真似をする。扇! 荼毘に付してやれ!」

「隠居の身である以上、私とお前は今や同格の筈だが?」

「抜かせ! ワシの方が兄貴だろうが。良いから早うやれ!」

 

 なんてギスギスした空気を発生させつつも、その尽くをしっかりと灼いた扇の焦眉之赳がそのまま直毘人へと振るわれ、「甘いわ!」の一言で扇も凍結されて一件落着となった新青森でのテロ平定。

 

 よっこいしょ、と扇を担いだ甚壱が「……帰りの足はどうする?」と溢す、何やら締まらないその空気感は、ガビからの嫁グループLINEを読んだ真希の連絡で憂憂少年が迎えに来る*5までの間続き、禪院という呪術師集団の強さを色々な意味で知らしめる語り草となるのだった。

*1
扇がそれを言うと滅茶苦茶面白いなと思った甚壱だったが、どうにかこうにか鼻を鳴らすだけで笑いのツボを回避することに成功

*2
一応相伝。禪院家にちょくちょく出て来る術式なのだが、初代の術式使用者が傾奇者気質だったせいで術式名がコワモテの甚壱が扱うとちょっと面白い物になっている。

*3
止まってる的を斬っただけなのにめっちゃイキるじゃん扇……という言葉を飲み込んだ甚壱

*4
黒閃初体験。妹が危ない目にあって地味にキレていたらなんか出た。

*5
真希が直哉から渡されている家族クレカで冥冥に100万ほど振り込んだところ、爆速で派遣された。

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