特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第119話

 盛岡駅が燃えている。国鉄どころか日本鉄道時代から存在する岩手県の心臓部が、多くの人々を巻き込み焼け落ちていく。

 

 そんな中、その下手人であるビッツ達に対峙するのは、五条悟の手で送り込まれた、五条からの信頼厚い歴戦の呪術師たち。

 

 『タイマンなら特級より強い男』との呼び声高い私立探偵『一級術師・七海建人』。

 

 『基礎と基本を極めた化け物』こと高専の体育教師『一級術師・灰原雄』。

 

 そして『シン・陰流にて最強の男』と滅茶苦茶言いふらされて困っている高専のベテラン教師『一級術師・日下部篤也』。

 

 見る人が見れば、『最優の世代+担任』だと一目でわかるその3人は、五条の評によれば『呪術界には珍しい、真っ当に優しい良識者』。

 

 そんな3人が大虐殺を前に、憤らない筈もなく。

 

「白昼堂々無差別テロですか。————ナメやがって」

「うん、ふざけてるよね。許せないよ!」

「お前ら気持ちは分かるけどな、力み過ぎんなよ? 俺はお前らほど強くねえんだから、余波で死ぬとかゴメンだぜ?」

「……先生、指が白くなる程刀を握りしめて言っても説得力がないですよ」

「確かに! というか先生シン・陰流最強の男なんだし僕達より弱いわけ無いよね!」

「そのデマ流してんのお前らだけだからな!? というか灰原にはシン・陰流教えてあるんだしお前が最強でいいだろうがよ!?」

「それは無いかな! 僕簡易領域と抜刀しか使えないし!」

 

 などと互いの緊張をほぐすべく言葉を交わしながらも、油断なく燃える盛岡市中を歩む3人。

 

 そんな彼らに対し、一網打尽に討ち滅ぼさんと放たれた特大の呪力砲が、『カキィン』という小気味の良い音と共に、七海の奮った拳によって跡形もなく消し飛ばされる。

 

「相手の射程に入ったようですね。では手筈通りに」

「各自散開して呪詛師の殲滅だね! 了解!」

「ハァ……しゃあねえな。やるか」

 

 なんて調子で『当たり前のこと』の様にその異常な迎撃風景を流す呪術師達と、何が起こったのか理解できず困惑するビッツ達。

 

 混乱冷めやらぬ中、散開しながら突撃してくる3人に慌てて呪力砲を撃ちまくるビッツ達だが、その結果は芳しいものでは無い。

 

 まず、七海建人。彼を狙った砲撃はその尽くが『カキィン』と弾かれ、何の影響も七海に齎す事なく消滅してしまう。では近接戦だとばかりに『赤鱗躍動(せきりんやくどう)』を駆使して七海に殴り掛かった個体を待ち受けるのは、七海が右手に携える『(なまくら)』による斬撃。

 

 人体を身長でちょうど3:7に切り分ける様に放たれたその一撃はビッツの胴をバターの様に両断し、そのまま返す刀で頭部を3:7のこめかみの辺りで叩き切られたビッツは脳と心臓の両方を瞬く間に破壊されて絶命する。

 

 無論、細胞一つからでも蘇るビッツにとってその死は決して重いものでは無いのだが、さりとて死んでいる間は何もできない以上軽いものでも無い。

 

 どしゃりと湿った音を立てて地面に落ちる肉片から再生するには当然ながら若干のラグが存在しており、その間に追撃を喰らえば、復活までの時間はさらに伸びる。

 

 そんな中で、七海が斃れ伏すビッツに見舞うのは、強烈なストンピング。術式関係無しにシンプルに呪力強化の密度が高いその一撃は、バッチリとビッツの胸から下の部位を3:7の地点で踏み抜いており、内臓を踏み潰されたその身体は地面に派手な血糊をブチまけた。

 

「チッ、面倒な。持続的なダメージを与える手段はあまり無いんですよね」

 

 なんて言いながら七海がジャケットの内側に下げたホルスターから取り出すのは、鞘や持ち手に多数の札が貼られた一振りのナイフ。七海のサブウェポンの一つであるその武器は、開業祝いとして尊敬できる方の最強の先輩*1から貰った、とある呪霊の呪力によって『浴』を行い、持ち手の芯にその呪霊にまつわる『石』の欠片を封じた一級呪具。

 

 銘を『妖刀・殺生丸』。特級仮想怨霊『化身玉藻前』の呪力を纏い、殺生石の欠片を仕込まれたそのナイフに込められた呪いは至極単純。『刺した相手に無数の毒を流し込む』というその術式は、なかなか強力で、物理一辺倒な七海をサポートしてくれる貴重な呪具である。

 

 武器にするには刃渡り10cmと些か小さいこのナイフだが、トドメの武器にはむしろ最適。逆手に構えてドスンと再生しかけの脳天にブッ刺してやれば、刀身から流れ込む毒に侵されたビッツは白目を剥いて身悶えする。

 

 何せ、毒素の除去というのはあの五条でさえ必死になって真面目に医学書を読み漁り、苦手な勉強も頑張り、その上で反転術式をガッツリ極めてようやく可能になった超高難度技術。肉体の再生などより余程難しいそのテクニックがビッツに扱える訳もなく、やがて頭部は再生を停止して、妙な汁を垂れ流すばかりとなる。

 

「よろしい。どうやら毒は効くようですね」

 

 そう言いつつ、逆手に構えた『妖刀・殺生丸』と『鈍』の二刀流の構えを取る七海は、放たれる火炎放射や爆撃、穿血、呪力砲の全てを恐ろしいまでの格闘センスで『ブロッキング』しながら次なるビッツを目指して突撃し、その身体を3:7に叩き斬るのだった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 一方、灰原雄はといえば、『結界術の研鑽を活かし、簡易領域を展開しながら駆け回る』というある種の無法で以って呪力砲やその他の術式を迎撃し、領域内に捕えたビッツには容赦無く『抜刀』を見舞うという、タチの悪いシン・陰流の使い方をして暴れ回っていた。

 

 何がタチが悪いかといえば、まず目立つのは、その両腰。左右3本ずつ、合計6本の6刀流というアホすぎる本数の脇差を装備した灰原は、左側の脇差を抜刀して振り抜いた腰の捻りを生かして右側の脇差を掴んで抜刀し、その捻りで左の脇差を掴んで抜刀する……というバカの考えた抜刀ループを実現しているのだ。

 

 そして第二にタチが悪いのは、その脇差。抜刀ループの関係上、灰原は使用後の脇差から手を離して投げ捨てるのだが、何と彼の扱う脇差と鞘は『式神』。その結果、ひとりでに動く脇差が自分で勝手に血糊を払って自分の鞘に戻る仕組みが完成しており、灰原雄の抜刀ループを永続させているのだ。

 

 それは正に、刃の暴風。前方を微塵切りにしながら突き進む灰原の視界に捕えられたビッツは例外なく細切れにされ、再生した後から再び膾にされる斬殺無限ループに陥っている。

 

 そして、この抜刀ループの最もタチが悪い点は脇差が『式神』であると同時にしっかりと『呪具』でもあるという点である。

 

 銘を『中央線』『常磐線』『京浜東北線』『宇都宮線』『高崎線』『東武東上線』という6振りの脇差は、銘からも分かる通りこの平成の世で最も血に飢えた鉄こと『鉄道のレール』を地金にしたもの。

 

 血を吸う毎に呪力を増し、切った相手の呪力を喰らうというシンプルに妖刀らしい特徴を持つその6振りに加え、鞘もそれぞれの刀身に対応した『枕木』から削り出した呪具であり、刀身が己の鞘にひとりでに戻る機構は元より両者が分かち難い関係にあったが故のこと。

 

 そして、その血を吸い呪力を喰らう性質を帯びた刃を何度も何度も何度も切りつけられる内に、ビッツに待ち受けるのは呪力の枯渇。

 

「死ぬまで切れば死ぬよね!」というバカの見出した真理を有言実行する灰原が生み出す絶対斬殺空間は、燃える廃墟ごとビッツを斬り刻みながら炎上する盛岡を駆け回るのだった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 そして、そんな彼らと違ってコツコツと地味に立ち回るのは、日下部篤也。

 

 灰原同様に結界術の研鑽をしっかりと積み重ねている為、動き回りながらの簡易領域の展開が可能な日下部だが、結界としての防御力にのみ用途を絞って強度を上げた灰原の領域とは異なり、彼の簡易領域はさまざまなアレンジを組み込むことが可能な拡張性の高いもの。例えば、今現在日下部が行なっている様に、領域の範囲拡張と迎撃機能をダウングレードした探知機能を付与してやれば、人探しに使う事だって可能なのだ。

 

「……よし、まだガキの方は息がある。……頑張ったな、お前のお袋さん」

 

 なんて言いながら瀕死の幼児を庇うようにして死んでいる母親の死体から受け取って、真依に貰った『マジカル真依ちゃんコロン』で治療を行うその表情は暗く、既に何人もの人々を救出しているにも関わらず、むしろ眉間の皺は増えるばかり。

 

 電話で冥冥に頼み込んで憂憂を派遣してもらい、被害者の回収を行なっている日下部は、自分の眉間の皺を『冥冥に払う分で貯金がみるみる消えていくせいだ』などと内心で嘯きつつも、その内側で義憤に燃える本心が、彼の歯を食いしばらせる。

 

「やってらんねえな全く。……七海と灰原が派手に動いてる間に、俺はもうちょいコソコソさせてもらうとするか。命あっての物種だしな」

 

 なんて誰に言うでもない言い訳を重ねながら、しばらく歩いては老婆を掘り起こし、子供を引っ張り出し、男を担ぎ上げて回るその背中からは、怒気を纏った呪力が陽炎の様に立ち昇り、煮えくりかえる(はらわた)から練り上げたその呪力で以ってさらに広範囲に拡張した簡易領域が、更なる生存者を探知する。

 

 そうして、市民を救い上げる事しばし。

 

 その最中、コソコソと動く日下部をめざとく見つけた幾つかのビッツは、細胞をすべて破壊せんとするレベルの無限の斬撃に晒されて粉砕されていく。

 

 日下部篤也はシン・陰流にて最強。その言葉が事実であると証明する多重展開した『朧月』による微塵切り。

 

 しかしその絶技を放った本人は、今まさに特級相当の呪詛師を滅殺したにも関わらず、そんなことは些事だとばかりに、生存者の捜索に奔走するのであった。

 

*1
要するに夏油

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