特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第120話*

 日本最南端の新幹線駅、鹿児島中央駅。1日に2万人が利用する県内最大のその駅が吹き飛び、アミュプラザ鹿児島の大観覧車が根本からへし折れて転がり周り、殺人一輪車と化す地獄絵図が繰り広げられてから数分後。

 

 考えうる限り最速でその惨状の中に投入されたのは、呪術高専東京校の学生達の内、留守番に残された乙骨と秤を除いた3人と1匹。

 

 星綺羅羅、禪院真希、狗巻棘、パンダ。その全員が一級術師という粒揃いの精鋭達は、五条によって鹿児島上空に転移され、自由落下を開始しても、文句を言えど動じる事はない。

 

「悟のやつ、『鹿児島の地理は詳しくないから転送先上空ね!』とか言ってたけど、マジで上空じゃねえか。高層ビルでも立ってると思ってたのか?」

 

 などと言いながら、空気の面*1から面へと飛び移りつつアクロバット的に宙を降るのは禪院真希。

 

 そんな彼女の横で真っ直ぐ重力に従って自由落下する狗巻棘は、地面ギリギリで自らに『止まれ』と告げる事で異常な急制動をかけてピタリと着地。

 

 その横にボフンと落ちたパンダは元々身体強度に比して体重が滅茶苦茶軽い*2ので何もしなくとも無傷。

 

 そして綺羅羅はと言えば、地面に「Gacrux」、自身に「Imai」をマーキングする事で術式による『接近の禁止』をうまく利用して狗巻の様にストンと着地しており、こちらも全く危なげがない。

 

 そんな彼らに対し、鹿児島を蹂躙して回るビッツ達は獰猛な獣の如く襲い掛かり————その直後、引力に引かれるように互いに激突し、愉快なおしくらまんじゅうへと成り果てた。

 

「お、流石は綺羅羅の意味不明術式。対応出来てねえな」

「ちょっと真希ちゃん酷くない? 私の術式は乙女チックで初見殺しで複雑怪奇なだけで意味不明じゃないんですけど?」

「ほぼ同じじゃねぇか!?」

「違いますぅ〜!」

 

 そう言って唇を尖らせる綺羅羅だが、彼女の術式『星間飛行(ラヴランデヴー)』は真希が意味不明と評するだけはある強力な概念系術式。

 

 南十字星を構成する星の名を自他の呪力に刻む事が可能であり、この刻印自体は必中する。そして第一のルールとして、刻まれた名前を持つもの同士が接近するには『地球からの距離順』で、星の名を辿って移動する必要がある。更に第二のルールとして、同じ星の名を刻まれたもの同士には『引力』が働き、より呪力の高い側がより強力な引力を帯びる。

 

 などと説明しても何のことやらさっぱり、と感じるものが多いこの術式。ざっくり言えば占星術に近い古式ゆかしいガチ呪術が、アレンジが現代チックなせいで複雑化した術式と言えるだろう。

 

 そして、複数の複雑な条件を『縛った』この術式は極めて強力な強制力を持ち、並大抵の実力で抗えるものではない。

 

 加えて、高専で伏黒甚爾や灰原雄などの優秀な戦闘者達に戦術面で薫陶を賜わっている綺羅羅の術式運用は、かなり狡猾で無慈悲なもの。

 

 その実力を示すように、手近なビッツ達に片っ端から『Imai』の星の名を刻み込む事で彼らを互いに引き合わせることに成功した綺羅羅は、そこに更に『Imai』を付与した『あるもの』を投入する。

 

「はい、プレゼント」

「なっ————!?」

 

 懐から取り出されたそれは、可愛くピンクに着彩されてはいるが、どう見ても————。

 

「焼夷手榴弾か、相変わらずエグいな綺羅羅の発想。大丈夫? これ俺に引火しない? パンダは火気厳禁だぜ?」

「しゃけしゃけ……」

「私の発想じゃなくて甚爾先生の発想だからねこれ!? いやまぁ教えてもらってからはよく使う手だけどさ!?」

 

 そう、綺羅羅が投げたのは、呪力を付与した米軍御用達『TH3焼夷手榴弾』。ビッツ達の『引力』に引かれて猛スピードでビッツ達へとめり込んだそれは、テルミット反応で生み出す三千度の炎で何もかもを焼き尽くす、普通に『兵器』な逸品である。

 

 甚爾から「お前の術式、要は追尾弾を投げ放題ってことだろ? なら手榴弾が小型ミサイルに早変わりじゃねえか」というありがたいアドバイスを賜わってから色々考えた結果、簡易的な『浴』で呪力を馴染ませた焼夷手榴弾*3という解を導き出した彼女のバトルスタイルは、27歳児の五条から『ボンバーマンじゃんwww』と揶揄される爆弾魔めいたもの。

 

 だが、その戦法の『ガチ』さは異常なレベルであり、ぽいぽいっと投げられた数個の焼夷手榴弾によって、ビッツ達は骨も残さず焼却される。

 

 そんな仲間の死に様を学習し、超アウトレンジからの狙撃によって綺羅羅達を排除するべく、穿血や呪力砲を撃ちまくる他のビッツ達だが、残る3人の呪術師達が、そんな手を許すはずがない。

 

「曲がれ」

 

 その一言で全ての狙撃をあらぬ方向へと捻じ曲げて、仲間を守るのは、反転の習得により強力な呪言を使いこなせるようになった呪言使い、狗巻棘。

 

 そして、そんな棘が作った一瞬の無敵時間を用いて行われるのは、パンダの最強形態による報復射撃。

 

 突然変異……ということになっているが、そうではない事が割と特級達にはバレ気味な夜蛾正道の最高傑作、パンダ。お姉ちゃん、お兄ちゃん、パンダの3人姉弟の魂の情報を搭載することで呪力を自力で生成可能な『生きている呪骸』である彼は、メインに据える魂を変更することで、肉体そのものを形態変化させられる。

 

 そのうち、基本となるのは当然ながらパンダモード。そしてフィジカル重視の短期決戦形態が、お兄ちゃんことゴリラモード。

 

 そして、後先考えない超火力一発屋形態が、照れ屋のお姉ちゃんことトリケラトプスモード。

 

 その能力は、巨大な眼球により捕捉した全敵性存在に対する、ホーミング呪力ビームの全力照射である。

 

「お姉ちゃんは照れ屋だからな! 恥ずかしすぎて視界に入る不届き者は、皆殺しだぜ!」

「……テリヤキ、なまこ、そら豆」*4

「パンダも正直そこはよく分からん。お姉ちゃんは照れ屋って言ってるけど兄ちゃんは『アレはヒステリーっていうんだ』って言って————あ痛ぁ!? ケツにビームが!?」

「姉貴の悪口言ったからじゃねえのか?」

 

 なんて気楽なやりとりを交わす一年達だが、パンダのトリケラトプスモードの火力はガチもガチ。

 

 強力な追尾性能により周囲を巻き込むことなくビッツだけをブチ抜くそのビームは、彼等を軽く二、三回ほどブチ殺し、その活動を一時停止させて再生に専念させる程の大ダメージを与える事に成功。そうして的が停止すれば、トドメを担うべく駆け出すのは真希だ。

 

 並の術師がみれば呪力強化無しの生身とは絶対に信じられない程の超スピードで、若干の衝撃波すら伴って戦場を駆ける真希。一見徒手空拳な彼女だが、その肩から襷掛けに提げられた『女児み200%なデザインのポーチ』に徐に『腕を突っ込む』と、明らかに小さなポーチに入っているわけがない酷くうねった刃の大剣(フランベルジュ)を抜刀する。

 

 この剣自体は呪具マニアの甚爾が世界各国からお取り寄せ*5した中に紛れていた『人体に癒えない傷を与える呪いの大剣』であり「人殺しにしか使えねえ上に、普通はこの剣で切った時点で癒えるもクソも即死じゃねえか? 買うわ」と文句を言った上で観賞用に買った代物。

 

 それもそのはず、付与された術式効果は甚爾の愛用する『釈魂刀』の超絶劣化版。対人間限定で『魂を傷付けられる』というその大剣は、対物・対呪霊においては「そこそこ呪力が込められている剣」でしかない。なんならヒグマとかにも効果がないので、使い手次第では野生動物に敗北する可能性も十分あり得る。

 

 つまり何をするにも『それ釈魂刀で良くね?』という言葉が付き纏う悲しき大剣。それがこのフランベルジュなのである。

 

 が、そうして観賞用になっていた一振りは、乙骨憂太がビッツの復活を報じた事で真希に譲られる事となったのだ。

 

 そして、長大なその剣の持ち運びを可能にしたのは、禪院姉妹のマジカルな方*6こと禪院真依が『気力体力を充実させ、ベストな状態で変身し、その上で作ると体力を使い果たしてちょっと寝込む』というかなり重いコストが必要な一級呪具『マジカル真依ちゃんポーチ』。ざっくりいうと四次元ポケットなこの呪具は、『誰でも物を入れられるが、取り出せるのはポーチの正当な所有権を持つ持ち主だけ』というちょっとしたセキュリティ機能付きの一品である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そのコストの重さとデザインの女児っぷりが関係して、現在この世に存在するのは、真依、真希、直哉の3人分のみ。直哉に関しては、『ちょっとコレ 死ぬまで借りて ええやろか?』と言いつつ自室に置いて便利倉庫にしているだけなので、持ち歩いているという意味では真依と真希しか使っていない。

 

 そんな貴重な呪具を用いて運搬されるまでに出世した残念フランベルジュ。その一振りがビッツへと振るわれれば、唯一の長所である『対人殺傷性能』がフルに発揮されたその一撃は、ビッツの魂を切り裂き、即座に絶命させてしまう。

 

「お、悪くねぇじゃねえか!」

 

 なんて嬉しそうに言いつつスポポポーンと続け様にビッツの首を刎ねていく真希の姿は、殺人魔法少女という変なMODを入れた洋ゲーの様なちょっとシュールな面白存在になってしまっている。が、一撃必殺とばかりに斬首されるビッツからすればたまった物ではないわけで。

 

 再生を完了し次第、真希から距離をとって砲撃を叩き込むべく必死に跳躍する彼等はしかし、同胞の死体やまだ生きている他の同胞とともに『纏められる』事になる。

 

「残念でした」

 

 彼等が最後に聞いたのは、メラニー法で発声された、そんなセリフ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その直後高速で飛来した焼夷手榴弾が彼等の肉体を一切合切焼き尽くし、鹿児島を襲った未曾有のテロはテロリスト全員の抹殺という形で平定されたのであった。

 

*1
微妙な温度差などで生じる境界を踏む感じ、と真希や甚爾は言っているが、五条からは『マッハで空気を蹴って反作用で動いているだけじゃない? マッハで蹴れる理由は謎だけど』という意見も出ている。一方直哉は『無機物の 魂とかが 見えるって 話らしいし そのせいちゃうの』と霊魂パワー説を提唱。フィジカルギフテッド2名も感覚でフワッとしか説明できないので真実は謎である。

*2
毎日しっかり日向ぼっこしているのでフワフワの綿が詰まっている。

*3
テルミット反応を利用する場合、呪力を帯びた鉄と呪力を帯びたアルミの反応により、炎も呪力を帯びることを発見したのが技術的ブレイクスルーだった。

*4
照れ屋なのかそれって? の意

*5
当然呪術界に通販なんて無いので、若かりし頃の殺し屋時代から付き合いがある孔時雨に調達させている。表裏を問わず色々と調達させていたら、いつの間にか孔の表向きの名刺が探偵から古美術商になっていて爆笑した、というのは甚爾の弁。その場にいた孔本人は「お前のせいだよ!」と抗議していたが、呪詛師相手の仲介人より儲かるので最近はもっぱら呪具商人なのは本人も認めているところ。なお、別に足は洗っておらず、呪具の製造元確保の為に死体アート系呪具職人の組屋鞣造を中国に逃したりと悪い事もバッチリやってる闇の住人ではある。

*6
真希はフィジカルな方




あにまんに拙作のスレが立ってるのを発見して三度見しました。
二次創作SSでスレ立てとはなかなかの剛の者……
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