特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第121話*

 広島駅、爆散。からの、天から全裸の男が降って来てテロリストが爆散。

 

 そんなギャグ寄りのアメコミみたいな状況でも被害は一切ギャグではなく、山陽地方の中核を担う一大都市が業火に呑まれた事で、その被害は万を越える。

 

 ビッツを踏み潰し、殴り潰し、その全てに呪力総量のゴリ押しで以って細胞レベルでの死を強制した直哉が必死に駆け回っても、被害者の多くは既に事切れている有様だ。

 

 呪術の素養がない一般人にとって、術式で生み出された『呪術』は爆炎や炎、自分に向かう呪力砲すら認識はできない。

 

 例外はこの世に物体を生み出す『構築術式』や呪力を帯びつつも元々物体な『呪具』くらいのものであり、ビッツ達が未曾有の被害を発生させられたのは、彼等の炎も爆炎も『呪い』でしかない為だ。

 

 だが、何故? 

 

 そんな考えを巡らせながら、まだ平定されていない名古屋に赴こうとした直哉の耳に届くのは、五条悟東京平定の報と、彼が既に名古屋に向かったという連絡。

 

 であれば、と直哉が行き先を変えて向かうのは、呪術高専東京校。日本呪術界の中枢であるその場所に向かう傍ら、眼下の日本列島を見下す禪院直哉の目には、各地から噴き上がる夥しい量の『呪詛』が見て取れる。

 

 終戦から久しく、平和を享受し謳歌していた日本にとって、列島全域での同時多発テロという恐怖はまさに猛毒。呪いの世界大国である極東の島国は今、絶叫の様に呪力を迸らせている。

 

「……この呪力、これが目的 やとしても。その先が 見えんのホンマ 不気味やわ。呪力だけ 集めたいなら もっとええ 方法がある 筈とちゃうんか? あのガキを 呪力炉心に するとかな————いや待てや!? そういうことか!? こらアカン!?」

 

 独白を吐きつつ思考を巡らせた直哉が、何かに気付き、全力で加速したその直後。名古屋で噴き上がった爆発的な呪力の奔流が、全ての都市でテロが平定された事を示すように、天を焦がす。

 

 五条悟の残穢が濃いその呪力の台風を突っ切り、東京に向かう直哉の目に映るのは、同様の呪力の嵐が発生したと覚しい東京駅周辺。

 

 大概の人類を『お花』*1程度に認識しつつも、そのお花畑を割と気に入っている五条。

 

 彼が抱いているであろう花畑を荒らす害虫や害獣共に対する怒り*2の凄まじさを否が応でも理解させられるその残穢にこの場で行われた一方的な『駆除』の内容を察する直哉だが、今はそれどころではない。

 

 一刻も早く、状況を学長に共有し、総監部を動かさねばと駆ける彼の表情は、とてもではないが勝者のそれではないものだった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 時刻は少し、遡る。

 

 東京駅爆破というゴジラ並みの災害を引き起こし、ついでとばかりに皇居砲撃*3、東京タワー溶断*4、スカイツリー展望台爆散*5など乱暴狼藉の限りを尽くすビッツ達が、わずか数分で東京を地獄に変えた、その直後。

 

 ビル街が吹き飛び、倒れた高層ビルが隣のビルを薙ぎ倒し、東京タワーの先端が港区に突き刺さる最悪すぎる被害の中で、各地に術師を転送した五条悟は、ワープ直後、怒りのままにそれでいて冷静に自らの究極奥義を多重展開してみせた。

 

 まずは「蒼」の吸引による瓦礫の撤去。その過程でまだ生きている人間を篩い分けて皇居結界の内側である皇居外苑の広場にワープさせ、そこを妨害するビッツ達は『赫』により派手に吹き飛ばす。

 

 そんな五条を狙い吶喊してくる個体は『(こがね)』に捉えて跡形もなく『希釈』し、逃げ惑う個体は『(しろ)』の亜光速呪力砲で頭を吹き飛ばして逃亡を阻止。こちらに向けて爆破や火炎放射、穿血が飛来したところで五条には無限の防壁があり、よしんばその無限を突破しても『(くろ)』で編まれた衣服が一切の攻撃を防御する。

 

 そして。逃げ惑う全ての人々を回収し尽くし、亡骸すらも運び出してみせた最強の呪術師は、人々を濾し取った残り滓である『蒼』で圧縮した瓦礫をビッツ達へと叩きつけながら、その()()で印相を結ぶ。

 

 ただその印相は、日本に生きる者にとってあまりにも『見慣れた』祈りの形。

 

 虚心合掌(こしんがっしょう)。フワリと空を包む祈りの形は、清純無垢な心を意味する印相。

 

 そしてそこから放たれる、五条の究極奥義とは————。

 

「————領域順天(りょういきじゅんてん)非想非非想処(ひそうひひそうしょ)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 五条を中心に『溢れ出す』その世界は、外殻を持たない『閉じない領域』。それは筆と紙を扱う事なく宙に絵を描くが如き超絶技巧であり、『六眼』を持つ五条をして弛まぬ努力と修練の末にようやく会得したある種の『奇蹟』。

 

 領域内の全存在から呪力を徴収する事で永続する夏油傑の『征裡(せいり)牲呑(せいとん)逝葬(せいそう)棲傑(せいけつ)』。

 

 体内のみ展開する事で物理法則を超越する禪院直哉『 魂極(たまきはる) 憂世夢(うきよのゆめの)走馬燈(そうまとう)』。

 

 それらの領域に対抗し、かつ勝利するべく五条悟が編み出したのは『無理に外殻で押し合うのではなく、あえて外殻を構築しない事で相手の領域すらも『範囲内』に巻き込む』という意味不明なもの。

 

 まずは術式を付与しないただの『領域』から始め、コツコツと研鑽を続けた五条がイメージする『閉じない領域』とは、空間という水に垂らされた『インク』。滲み出し、溶けていくインクには輪郭がないが、しかし確かに『インクで色付いた部分』と『そうでない部分』が存在する。

 

 その感覚を掴むべく、墨流しやマーブリングを始めたり、ひたすら水槽にインクを垂らしてその様子を眺めたりしていた際には『悟の頭がおかしくなったのじゃ!?』と天内理子に真面目に心配され、粥を差し入れられたりもしたのは、今となっては良い思い出だ。

 

 そして、六眼をフル稼働させて掴んだ原子レベルの呪力の操作と、天性の才能、そして不断の努力を掛け合わせて実現した五条悟の領域は、まさに必殺。

 

 その領域内に囚われた者へと与えられるのは、強制的な『往生』である。

 

 内部に囚われた者に無限回の知覚と伝達を強制し、それと同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という必中効果を持つこの領域。その内部で起こるのは、全てを知覚し、全てを理解し、そしてその全てを処理出来ないというちょっと何言ってるのかわからない状況。

 

 コンピュータで例えるならば、DDoS攻撃を仕掛けつつ、ウイルスでメモリそのものに干渉して処理を遅延させるような話であり、どちらか片方だけでも充分に死ねる攻撃だ。

 

 それを同時に、しかも全細胞レベルで強制されれば、どうなるか。

 

 情報伝達が完全に不可能になった細胞達は、相互の存在すら認識できず、DNAの複製も出来ず、死ぬ事も出来ないが生きている自覚も出来ない。

 

 そして強制的に『不生不滅不垢不浄不増不減』の境地に至らされた肉体の状況は魂にすら影響し、全ての情報が空白化して『在る』か否かすら覚束なくなった魂は完全に『漂白』される。

 

 その果てに、因果すら剥奪された純粋無垢な魂は抗うこともできず輪廻の渦に飲み込まれ、六道のいずれかへと転生するべく幽世(かくりよ)へと至る。

 

 結果、五条が領域を解除する頃にはその影響範囲内にはウイルス1つに至るまで凡ゆる生命が輪廻の渦に還った『浄土』のみが残されるのだ。

 

 また、情報の伝達そのものが遅延された事で『燃焼』というエネルギーの伝達すらも不可能となった事で、燃え盛っていた街は完全に鎮火し、ただ瓦礫のみが静かに横たわっている。

 

 そこに在るのは五条悟ただ独り。この『領域順天(りょういきじゅんてん)非想非非想処(ひそうひひそうしょ)』に対抗する術は、こちらも領域を展開して『世界同士をぶつけ合う』より他にない。

 

 当然、ビッツ達にそんな高度な領域戦を行う事はできぬ以上、東京駅周辺の凡ゆる動植物と同様に彼等も輪廻の渦に還り、魂の情報の複製すら許されぬままに消滅する。

 

「————多分、これでちょっとは『嫌がらせ』になるでしょ、勘だけど」

 

 そう呟いて、領域の展開によりダメージを受けた『術式を司る前頭前野』を緻密な反転術式で修復した五条は、軽く無下限呪術の感触を確かめた後、名古屋へ向けてワープする。

 

 現代最強の呪術師という異名を『呪術師の全体的な質が上がった』にも関わらず依然保持し続ける五条悟。その最強の一端が、わずか1分での東京駅平定という形で世に知らしめられたのは、それからしばらく後の事だった。

*1
最近の一級の上澄みに位置する術師は『ポメラニアン』くらいには認識しているし、流石に特級はちゃんと人間に見えている。ただし直哉はビオランテ植獣形態。本来『お花』の筈なのに強引にその枠をぶち壊して成長したイメージがそう見せている。

*2
ナメクジとか芋虫とか線虫とかアブラムシとかヨコバイとかウンカとかカミキリムシとかアライグマとかイノシシとかシカとかサルに対する農家さんの心象に近い

*3
こちらは流石に宮内庁の結界で防御された為無傷

*4
駅から近かったので呪力砲が減衰せずに届いてしまった

*5
かなり減衰したが、ガラス窓で覆われた展望台をブッ飛ばす程度の威力はあった

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