特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第125話*

 青森コロニー。今回の大事変『死滅回游』における最北端のその場所で、乙骨憂太は一人の女性に絡まれていた。

 

蝦夷(えみし)*1の土地まで逃げれば自由の身だと思ったのになんでアンタみたいな化け物が居るのよ! それに宿儺! たまったモンじゃないわ! 私は私の為に第二の人生を謳歌したいだけなのに何でどいつもこいつも邪魔するのよ!?」

「いや、僕に言われても……というか、自分の為の人生って……何というか、限界が来ませんか? モチベーションが続かないというか……」

「あ゛? ……お前、藤氏だろ。『誰かのために生きろ』だの、『何者にもなる必要はない』だの、好き勝手抜かす『既に何者かになった連中』と同じ匂いがする!」

「藤氏? 授業で聞いたような……藤原家の昔の呼び名でしたっけ? 僕は菅原の筈ですけど、まぁ、公家同士だし婚姻とかあったのかな? でも今の話に僕の出自って関係あります? 貴女の過去は知りませんけど、普通に友達とか恋人とか居た方が良くないですか? 第二の人生っていうなら。己の為だけに生きるなんて虫みたいじゃないですか」

「〜ッ! 絶ッ対ッ藤原だわオマエ! 決めた! 本番が始まり次第まずはアンタからブッ飛ばす! 私の人生は誰にも邪魔させない!」

「情緒不安定な人だなぁ……戦うのは良いですけど、条件があります。僕が勝ったら僕に協力してください」

『憂太? 多少の女遊びは男の甲斐性だけど、全裸のおばさん口説くのはやめない??? 趣味悪いよ?』

「違うからね里香ちゃん。この人、そもそも全然タイプじゃないし……僕、不良っぽい人苦手なの知ってるでしょ」

『でも九十九さんとか真希の乳には目がいってるでしょ、両方不良っぽいけど』

「それは……その……つい……ごめん*2

『ま、でもこのおばさんは普通サイズだし大丈夫かな。そもそも九十九さんも真希も私よりは小さいし! *3

 

 などと全方位にマウントを取る里香が憂太の脳内に流し込むイメージは、とんでもなくグラマラスになった祈本里香さん17歳のイメージ図。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 勝ち誇った表情で「いえ〜い! ピースピース!」とでも言いたげなその姿に苦笑する憂太だが、実際のところ里香は憂太との融合により大幅な安定化を遂げており、イメージ通りの姿で顕現することも可能なのである。*4

 

 が、そんな自分を無視してそんな乳繰り合いを見せつけられた挙句、『乳が小さい』などという()()悪口*5を言われた亨子はギリギリと歯を食いしばっており、猶予期間という制限がなければ今にでも噛みつきそうな勢いで乙骨を睨んでいる。

 

 が、怒り狂う彼女に反して、乙骨の内心は平静そのもの。

 

 ————憂太、もう覚えた? 

 ————うん。これだけ長時間至近距離にいればね。『空間そのものに干渉する術式』か……かなり便利そうだよね。

 ————使い勝手は確かに良さそうだよね。……副次効果でおばさんが裸に見えるようになったのは要らない機能だけど。

 ————投射呪法*6や構築術式*7もそうだけど、術式によっては常人とは異なる脳の処理能力がついてくるから、そのせいかな。

 

 などと心中で言葉を交わしている通り、乙骨夫婦が敢えて煽りを交えて喧嘩を売ったのは、烏鷺亨子の術式を模倣する時間を稼ぎたいが故のこと。

 

 猶予期間にも関わらず早々にコロニーへと侵入したのは何も彼らが好戦的なわけではなく、可能な限り安全に『過去の受肉術師』の術式を模倣し、ストックしておきたいと考えてのことだ。

 

 その第一歩として、彼方から声をかけてきた亨子に絡んでみたのだが、成果は上々。

 

 これは他の受肉術師も期待できるなぁ。と、考えを巡らせる乙骨の精神性は、魔人と化したことでちょっぴり独善性を増してしまったのかもしれなかった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 一方その頃。体質でコロニーの出入りが自由なのを活用して各コロニーを偵察するべく活動を開始した真希は、手近だからと立ち寄った東京コロニーで変なおじさんに絡まれていた。

 

「お前————! そのガタイ、その足腰! お前には才能がある! だから————相撲しようぜ! 

「大学のサークル勧誘にしちゃ、見た目が河童すぎるな……妖怪変化の類か?」

「俺は三代六十四(みよろくじゅうし)! 相撲、やろう!」

「どんな名前だよ。……これが悠仁の言ってた復活した過去の術師ってやつか? ……確かにまぁ、個々人に目的があるとは言ってたが……コイツは流石にその中でも色物枠なんじゃねえか?」

 

「刀ァーッッッ!!!!」

 

「いや、なんで増えるんだよ。まさかコレが過去の術師の一般的なスタイルってわけじゃねえよな……?」

「む! そこな娘! 当世の武士(もののふ)と見た! 儂は 大道鋼(だいどうはがね)と申す! 刀はもっとらんか!」

「……数打ちの打刀でよきゃやるよ」

「おお! かたじけない! ————うむ! 悪くないな!」

「ッ! おい刀のおっさん、いきなりえげつない剣気出すんじゃねえよ。猶予期間の泳者(プレイヤー)同士の戦闘は御法度だろ!?」

「そうなのか? いやぁ、すまん! そういえば講釈を垂れとったよくわからんチビがおったな! 何か言っておったのか?」

「何ぃ!? 俺の相撲は!?」

「なんで泳者(プレイヤー)の癖に何も聞いてねえんだお前らは!?」

 

 なんて、関西生まれのサガなのかボケまくりのおっさん泳者(プレイヤー)2人にやいのやいのとツッコミを入れる真希。

 

 話の流れでそんな彼女が泳者(プレイヤー)ではないと知るや否や嬉々として相撲勝負と剣術試合を申し込んできた2人を、そのフィジカルと鍛え上げた格闘センスで下した真希は、なし崩し的に彼らと3人組となってしまい、東京コロニーに滞留することになってしまうのだった。

*1
ざっくり北関東から東北あたりの土豪を指す言葉。蝦夷(えぞ)とは正確には異なる。

*2
憂太とてたわわに揺れる大玉スイカをつい目で追ってしまう程度の男の子らしさはあるので不可抗力ではある。が、今言い訳すると死ぬことぐらいはわかるので素直に詫びた。世の良き夫がよく知る通り妻は常に絶対に正しいので仕方ないね。

*3
真依とは張り合わない辺りが、妙にリアリストな里香らしい点。

*4
なお、本体は憂太と融合しているのであくまで顕現するのは呪力で編まれた端末でしかない

*5
平安生まれの亨子からすると乳丸出しの女がいても『暑がりか貧乏人なのかな?』ぐらいの感覚なので、乳のサイズを(あげつら)われてもピンとこない。亨子が胸に『空』を纏っているのは単に戦闘時の乳揺れ防止目的に過ぎず、強いていうなら腰に巻いた空間が褌代わり。平安時代基準だと股が隠れていればセーフなので、単袴とかいう乳丸見え衣装や褌一丁すら『ちゃんと服を着ている』判定だったりする。

*6
思考の高速化が術式に付随している。

*7
物体の構造解析能力が付随している。

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