特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

127 / 143
第127話

「本当に大丈夫なのか? お前は虎杖と違って()()()と親兄弟でもなんでも無いんだろ?」

「大丈夫。私は必ず恵の役に立ちます!」

「そこは心配してねえよ。俺が心配してるのは————」

『私が華を傷つける事を恐れているのだろう? 愛されているな華は』

「な、何を言ってやがるんですかこのバカ天使は!?」

 

 なんて顔を真っ赤にした来栖華の叫びが響くのは、ズタボロになった大阪の街。

 

 特級呪術師である伏黒恵と、体内に封印されていた過去の呪術師が目覚めたことで『特殊な術式』に覚醒した来栖華の両名が投入されたこの街は、関西有数の大都会ということも相まって多くの術師や呪霊に溢れており、半ば魔界と化している。

 

 だが、そんな魔界の魑魅魍魎どもも、恵達の周りに近づくことはない。

 

 史上初の、完全な十種影法術使い。その威光が決してまやかしではないと証明するように、恵が己が武力を誇示するように展開しているのは、総数10体の式神達。

 

 幼少期から、ある日は『恵が魔虚羅(まこら)頼りになるのは良くないと思うんだよね』とかほざく某銀髪グラサンに 魔虚羅(まこら)禁止のタイマンバトルを仕掛けられ、またある日は『呪術師の 基礎は身体 強化やで』と主張する直哉にみっちり呪力コントロールを仕込まれ、またある日は『術師はな、テメェの術が封じられた途端に下手な非術師よりザコになんだよ』という経験に基づく真理を説く父の手により呪力を完全に絶った状態での格闘戦を仕込まれたりとあの手この手で可愛が(ボコ)られてきた恵の実力は、中3ながらどこに出しても恥ずかしくない特級レベル。

 

 その鍛え上げられた実力でもって全ての式神の同時顕現が可能になってからは、 魔虚羅(まこら)を一切出さずに任務をこなす事の方が多いほどだ。

 

 まぁ、せっかくの機会を無駄にするのもアレなので適応の肩代わりは常時恵が発動しており、『天使』を目覚めさせた華の第一声が「恵とお揃いですね!」だったレベルで、彼の頭上にはいつも魔虚羅(まこら)の方陣がガコガコと回っているのがデフォルトになっている。

 

 とはいえ、エンジェル感マシマシなペアルックを喜ぶ趣味は恵にはなく。むしろ突然出現した天使の輪と『天使』本人への警戒が、その表情を渋いものへと変えてしまい、冒頭のちょっとギスギスした会話に至るという訳だ。

 

 だが、恵とてわかっている。天使の術式は、対宿儺戦において強力無比なもの。『あらゆる術式の消滅』というバカ強いにも程があるその術式は、味方であればこの上なく頼もしく、そして敵であるなら想像したくもないほどに恐ろしい。

 

 だからこそ、恵が出した結論は————。

 

「……信用に足る要素も、敵対するに値する要素もない以上、とりあえずはソイツを味方だと思う事にする。ただ、条件がある」

『私の術式を君の魔虚羅(まこら)に学習させれば良いんだろう? 構わない。寧ろ歓迎だ。堕天……君たちが言うところの宿儺を抹殺し得る手札は多いに越したことがない』

「……お前がそこまで宿儺に拘泥する理由は?」

『1000年前の因縁、といっても曖昧か。いやなに、『神の理に反する! 堕天討つべし!』と決起したものの力及ばず、(ともがら)を鏖殺されて今に至るというわけさ。……だが、当時の堕天は生身なのに対し、この死滅回游で復活するであろうヤツは受肉体。その根幹が呪物ならば、ヤツを消し去ることも夢物語ではないはずだ』

「神の理ってのはなんだ。教祖でもやってたのか?」

『ああ、私の人生哲学のようなもので、別段宗教的教義などではないよ。そして難解なものでもない。隣人は尊重して然るべきだろう? 貪り食うなど言語道断だ』

「それはまぁ……道理だが……」

 

 なんかこの調子狂う感じ既視感あるな……と思いを馳せる恵の頭に浮かぶのは、血の繋がらない真面目な姉の姿。補助監督見習いとして伊地知の指導の元、先輩である新田明の手伝いをこなしている彼女は、「当たり前のように他者を助ける」ことができるタイプの人間だった。

 

「————まぁ良い。魔虚羅(まこら)、適応を開始しろ」

『了解。仮称『天使』の術式に対する解析と適応を開始します』

『準備は良いようだね。さぁ華、術式を————どうしたんだい?』

「————恵がまた津美紀姉さんに惚気をしてる気がします! 別に第二婦人でも良いですけど、平等に愛してください!」

「結婚以前に付き合ってないよな俺達!? というか津美紀は姉貴だぞ!?」

「血の繋がらない姉とか絶対結婚するやつでしょう!?」

「お前も津美紀も身内としか思えねえって言ってんだろ!?」

『……よくある痴話喧嘩なのかな、コレは。いやしかし、華にとっては手強い相手だな、伏黒恵』

『回答。同様の口論は通算184回目です。また、伏黒恵は来栖華、伏黒津美紀を目視した場合にオキシトシンおよびアンドロゲンの分泌量が有意に増大する傾向にあります。また、両者との接触時に視線を胸部および臀部に向ける回数は例年増加の傾向にあります。以上の理由から、両者を性的対象と見做さない発言は虚偽に当たるものと推測されます』

『ほほう?』

魔虚羅(まこら)テメェ!?!!?」

「ナイスアシストですよ魔虚羅(まこら)! あとで津美紀姉さんにも教えておきます!」

「絶対やめろよ!?!!?」

 

 なんて愉快なやり取りを交わす恵と華。未だ中学生である彼等の青春は、まだ始まってすらいない。

 

 己の未来を掴み取るべく奮起する彼等の目には、死滅回游平定への確かな熱が浮かんでいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。