「
「お、落ちつけ
「理子ちゃんも葵も失礼すぎないか私に。ちゃんと結婚指輪だよ」
「「何ィ!? 誰と!?」」
「直哉くんだね。まぁ確かに知らぬ仲じゃないし、私もいつまでも行き遅れって言われてるのもアレだったしね」
「ど、どっちから告白したのじゃ!?」
「死滅回游平定についての会議後に直哉くんからだね。そこから直毘人氏の立ち合いでサクッと結婚ってわけだ。式は死滅回游を無事に平定したら4人まとめて豪勢にやるらしいよ?」
「うーむ、俄かには信じられんのじゃが、直哉は確かにデカい乳に目が無いし、無くはないのか……?
「確かに
「君達本当に私のこと師匠として尊敬してるんだよね???」
「師匠としては尊敬しておるが、10も歳の離れた相手*1とよく結婚したなぁと引いてもおる」
「同じく」
「おい年齢をあんまり擦ると泣くぞ私は」
なんて会話を繰り広げるのは、所用で少し遅れると告げた九十九を待って広島コロニー入りする予定だった、東堂葵、天内理子、九十九由基*2の3人組。
待ち合わせの際にその姿を観察してみれば、薬指に指輪などしていたものだから、弟子2人にえらくつっつかれている、というのが今現在の状況である。
だが、弟子2人の言葉もご尤も。いくら九十九が直哉のタイプだとはいえど、今更結婚する理由はなく、況してや直哉は婚姻の赦しを直毘人から得たと思ったらさっさと鹿児島コロニーに転移してしまっているのだから、何か裏があると勘繰らない方がおかしな話だ。
そして実際に、その話には裏があった。
* * * * * *
「結婚!? 私とかい!? 真希や真依に殺されるぞ君!?」
死滅回游への対策会議が終わった少し後。夜遅くに直哉の招きで禪院家の別邸へと連れてこられた九十九由基は、時間帯も忘れて驚愕の叫びを上げた。
もちろん、由基は真希の師匠であり、直哉の周囲とは10年前から親戚のような付き合いがある以上当然、眼前に座る美丈夫が美人双子姉妹に懸想され、ケニア呪術界の美姫と国際結婚をしている色男だということだって、よく知っているのだ。
とはいえ、同時に禪院直哉が誠実な男*3であることも知っているからこそ、由基は今直哉が言い出した『九十九さん 俺と結婚 してくれん?』という言葉が全く理解できなかったのだ。
「今更な 1人増えても 一緒やろ 九十九さんなら 知り合いやしな」
「いやいやいや! 流石におかしいだろう! そりゃあ私だって、初めて会った時から君の熱い視線は感じていたけども!」
と、返す通り、由基自身もまぁ心当たりがないわけではない。直哉の巨乳好きは五条と夏油によって呪術界中に言いふらされている事ではあるし、由基も胸の大きさについては自信はある。
思春期の頃にふと閃いて『質量操作でおっぱい軽くしたら垂れないし揺れないから痛くないんじゃないか!?』というアイデアを実行に移したところ、予想通りの効能のオマケに『負荷が減って大きく育った』その双丘は同性からは嫉妬、異性からは欲望の目で見られる事も多い。
その欲望の視線を向ける者の中に、直哉も居るには居たのだが……それにしたって、今このタイミングというのはおかしな話だ。
おどけたように肩を竦める彼の苦笑の裏に、何かがあるとしか思えなかった。
「本能は 抑えられへん もんなんよ。一瞬の 視線ぐらいは 赦してや」
「いやまぁ、私が絶世の美女なのも悪いしそこは怒ってないけどね————で、本当のところは? 婚姻が何か重要なのかい?」
そう問えば、直哉は苦笑する表情を崩さぬままに、あっけらかんと答えを口にする。
「最悪の 場合見据えた 保険やね」
「最悪の場合……私達の予想を遥かに越えて、両面宿儺が強かった場合か」
「まぁ実は 学生時分 閃いた 奥の手一つ あるんやけどね。その後を どないしようか 思うたら 九十九さんしか おらんかってん」
「……何故私が? いや、婚姻が条件だとすればまぁ、そりゃそうか」
「特級に 女の子って 1人しか 居てないからね こればっかりは。……それに今 九十九さんには もう一つ 顔があるやん? よう効く顔が」
「確かに、私は今や天元でもあるからね。……まぁ、事情はわかった。詳しくは話せないんだろう? その点から、少しは推論だって立つ。……こんな美女が結婚してあげるんだ。速攻で未亡人にはしないでくれよ?」
「その為の 布石やからな 死なへんよ」
そう告げた直哉の瞳の奥。森羅万象を見透かす天元の眼でも掴み切れぬ人の心の中にあるのは、確かな希望。
それを感じ取った九十九はその後、直毘人の前で結婚承諾を宣言し、簡易的とはいえ三々九度の盃を交わす事で、直哉に嫁いだのだった。