各陣営が戦力を整え、迎えた7日目。
猶予期間が終了した事で活性化し始めた上級呪霊共*1が夢見がちな連中*2を襲いはじめ、各地で高専の呪術師達も本格的に活動を開始するその中で、名古屋コロニーに派遣された真依、秤、綺羅羅の3名は根城にしたホームセンターでコロニー内の趨勢を伺っていた。
「真依ちゃんの道具って便利だよね、ドラえもんみたいで」
「綺羅羅、そこはドラミちゃんの方が良いだろ」
「金ちゃん偶に謎の気遣いするよね……」
「もうっ! マジカル真依ちゃんは未来のロボットじゃないんだからねっ! *3」
などとブリッブリにかわいこぶったセリフ*4を吐く真依が手にしているのは、大きな鏡。
ピンクの額に収められたそれこそは、マジカル真依ちゃんミラー。その鏡面が映すのは、真依達の姿……ではない。
「鏡よ鏡、名古屋コロニー内の非高専勢力の内、所属メンバーの呪力を合計した値が最も大きいグループのリーダーはだぁれ? *5」
と真依が一声命じれば、その鏡面が映し出すのは全身にレシートを纏った謎の男。『真依様。それはレジィ・スターです』と答える鏡*6の声により名を明かされた『レジィ』という男は、どうやら既に徒党を組んでいるらしく、見た限り本人の呪力もかなりのモノ。
そんな存在に対し、この3人のリーダーを務める秤が下した決断は、実にシンプルなモノだった。
「よし、まずはコイツをぶっ叩いちまうか! 綺羅羅、真依、行くぞ!」
「うん! 真依ちゃんにまっかせて〜! *7」
「そういうと思って、アイツの後頭部にImai*8つけといた*9よ」
「おっし、じゃあ俺がAcurux *10だな」
「だね。私がGinan *11 、真依ちゃんにはGacrux *12。mimosa *13は
「すっごぉい! あのレジィって悪者はぜーったい真依ちゃん達に近づけないんだねっ! *14」
「ま、俺と綺羅羅の常套手段だな。じゃ、早速行くか!」
なんて会話を交わしつつ、出撃する高専生達。学生の身ではあるものの全員一級術師という粒揃いの3人は、コロニー制圧に向けて動き出すのだった。
なお、その道中は、おしゃべりばかりであまり締まらないようではあるのだが。
「ところでよ。綺羅羅までドレス着てるのは何でだ?」
「シンプルに、着れて防具になる呪具ってレアなんだよねぇ。生存率ちょっとでも上げようと思ったら一択かなって」
「動きづらくねえのか?」
「それがさ。滅茶苦茶着心地いいし、全裸と変わんないぐらい軽いんだよねコレ……ガッツリ呪力込めて貰った*15から下手な鎧より強いし。金ちゃんも作って貰ったら?」
「流石に俺が着たら犯罪だろ……」
なんてくっちゃべりながら堂々とコロニーを闊歩するそんな姿もまた、彼等の自然体の強さなのかもしれない。
* * * * * *
さて、その頃。
街へと繰り出した秤達もまた、彼等がそうしたように他者の監視を受けていた。
隠そうともしない一級術師3人の呪力*16を無視できる者はそう多く無く、皆思い思いにその動向を伺っているのが現状だ。
そんな中、堂々と彼等の前に姿を現す青年が1人。どこからどう見ても西洋人らしい彫りの深く端正な顔だちと、ニットの上からジャケットを羽織ったなかなかオシャレなその装いは、高身長も相まってモデルのようにも窺える。
だが、その身には確かに呪力が迸り、彼が呪術師であることを主張していた。
「お? 随分と気合い入ってんな。3対1だぜ?」
そう言って、ニヤリと笑う秤金次と共に、真依を庇うように立つ綺羅羅。頼もしい先輩として前線に立つ彼等に対し、眼前の青年が選んだのは————両手を挙げての降伏ポーズだった。
「待ってくれ! 私に戦闘の意思はない! 話がしたい!」
「……話がしたい、ねぇ。じゃあ縛りでも結ぼうか。君が喋っている間、君は呪力を練らない。その代わり、君が喋っている間は君の身柄は私達が守ったげるよ。どう?」
などと告げるのは、ある意味この中で最も呪術師らしい呪術師である星綺羅羅。ルールを操る彼女が提案した『身柄は守ると言ったが呪わないとは言っていない』縛りの条件は、呪術師であれば待ったをかけて当然の内容。だがしかし、青年の答えはシンプルだった。
「その条件を呑もう!」
「……うーん。どう思う金ちゃん」
「術師にしちゃ縛りに頓着が無さすぎる。どう考えても一般出身の覚醒タイプだな。……で、話ってのは何だよ」
「いや、私が話したいのは君達2人じゃあない! 其処のレディだ!」
そう宣言し、手を差し出して青年が指名するのは、秤金次でも星綺羅羅でもなく、先ほどから黙していた*17禪院真依。
「ん? 真依、知り合いか?」
そう問いかけて振り返る金次に対し、青年との話し合いに応じるべく変身を解除した*18真依は、少し迷った後に首を横に振る。
「ごめんなさい。心当たりが無いわ。どうして私なのかしら?」
「いや、貴方が私を知らないのは当然でしょう。貴方から見れば私も有象無象に過ぎないのだから! しかし、私は貴方を知っている! そして今、こうしてお会いできた以上はお見知り置き頂きたい!」
流暢な日本語で流れるようにそう語る青年は、ビシリと居住まいを正し、真依へと向き直ると、大きな声で宣言する。
「サークル『M708星雲』*19の『かたつむり』*20先生ですよね! 私はシャルル・ベルナール、『若紫計画』*21と『紫の君計画』*22、そして最新刊の『紫の上計画』*23も会場配布限定版を購入して読みました! もちろん、『マッハ708』先生の数多の名作と『ツメタガイ』*24先生の『あの技やってみた』シリーズ*25も履修済みです! 握手して下さい!!!」
滅茶苦茶早口でそう告げて、頭を下げて手を差し出すシャルル青年。そんな彼に対し、若干戸惑いつつ握手で応える真依が溢すのは、困惑混じりながらも何かを思い出したかのようなセリフ。
「えーっと……もしかして、コミケの時に差し入れでカヌレ持ってきてくれた人……?」
「それです!」
「なんだ? 結局知り合いなのか?」
「オタク友達的な? そういえば真依ちゃん漫画描いてたもんね?」
「友達など恐れ多い! ファンです!」
「そんなに畏まらないでも良いんじゃないかしら……」
なんて会話を交わす彼らからはすっかりと毒気が抜けており、ファンボーイのシャルルと改めて『死滅回游平定に協力する』という縛りを結んだ彼らは、漫画談義に興じつつ、改めてレジィを捜索する事となるのだった。