時刻はそれなりに遡って仙台コロニー。
仙台駅の跡地にて、激突したのは特級術師『虎杖悠仁』と、過去から甦った伊達男『石流龍』。
開幕から最大出力で撃ち込まれる石流の『グラニテ・ブラスト』に対し、
空を斬るが如くに振るわれる手刀。あろうことか、鞭の様にしなるその勢いをそのままに発射されるのは、
悠仁がその肉体強度を活かして編み出したこの技の名は『
が、そこは石流もさるもの。別に同時に1発しか撃てないとは言っていないとばかりに呪力砲をブッ放して『手離剣』を迎撃すると、爆発するその血煙を目眩しに、猛然と虎杖へと殴りかかる。
「良いなぁオマエ! やっぱりオマエが俺のデザートか!?」
「俺なんか食ったら腹壊すと思うぞ!」
「比喩だ比喩! 音に聞こえる加茂の赤血操術*2の話がマジなら、食ったら腹壊すどころか死ぬだろ!」
なんてちょっと天然な虎杖と舌戦なんだか漫才なんだかを繰り広げる石流だが、その間に交わされる拳撃は衝撃波を伴い、互いが踏み締める大地は大きく砕け、大量の呪力が撒き散らされる。
虎杖を殴り付けた石流は、異常な肉体強度と莫大な呪力の相乗効果で揺るぎもしないその体幹に『巨大な鯨に拳で立ち向かう』かの様な不利を自覚し、その上でなお燃え上がる戦意を糧に、至近距離からの砲撃も交えた猛攻を行う。
そしてその一方で虎杖もまた、石流を殴った感触として『戦艦』を想起し、鉄板の様に硬い呪力強化された肉体とその身から放たれる巨砲の威力に対する警戒心で、その集中力は極限まで高められていく。
両雄、一歩も退かぬ全力戦闘。仙台駅跡地を舞台に行われるその戦いは、際限なく互いのボルテージを引き上げて、無限に続くかの様に思われた。
だが、次第に精彩を欠いて行くのは、石流。
その原因は明確であり、『呪力のみで人間の肉体を強化している』石流と『天性の異常な肉体強度に加えて、呪胎九相図を取り込んだことで九重の受肉体となった全身特級呪物な身体に、重ね掛けで呪力強化を行なっている』という防御効率の差。
双方の攻撃力が必殺級である以上、それをどこまで減衰できるかという部分で差が生じたのは、ある種致し方ない事なのかもしれない。
だが、全身に痛みを覚え、呪力をガリガリと削られていくという生前ではあり得ない圧倒的な不利の中で、石流龍という男は獰猛な笑みを浮かべていた。
————もうとっくに、身体は限界だと叫んでいる。
————だが、限界を超えたその先に、きっと、人生のデザートが、きっとある。
————何故なら。
「生まれてこの方! 感じたほどがないほどに! Sweeeetな気分だからなァ!」
そう叫びながら振るわれる拳に纏うのは、呪力とそれ以上の情熱。そんな男の魂の叫びに答えたのは、彼の願いを知り、全力で闘っている虎杖悠仁————だけではなかった。
————黒閃
黒閃連続記録*3保持者・禪院直哉をして、『タイミング あとは気合いと 運やろか。俺は数撃ちゃ 当たるだけやし』などという参考にならない回答しかできず、天才である五条ですら『多分湿度とか温度とか、場合によっちゃ太陽からの電磁波とかも影響してると思う。本当に条件が呪力と物理現象の完全な同期だけなら、僕も狙って出せるもん。いやまぁ、直哉みたいに超高速で数こなせば実質「狙って」出せるんだろうけど、要は運かなーやっぱ。1発出しちゃえば、あとは簡単なんだけどね』などとぼんやりした回答しか出来ない不思議現象がこの場で石流に微笑んだのは、彼の情熱が手繰り寄せた運なのだろう。
その猛烈な一撃を胸板に受け、派手に喀血する虎杖。
しかし、咄嗟に叩き込まれたその腕を捕えた虎杖は、血反吐を吐きながらも敢えて、『前進』を選択した。
石流の腕を引く左腕の力と殴り付ける右腕の力。都合腕2本分の力で強かにその顔面をブチ抜く虎杖の拳が感じるのは、先程までとは比べ物にならない程に硬い感触。
黒閃により呪力の核心を掴んだ事で自身の術式である『呪力の放出』を十全に行使する石流はまさに人間大の超弩級戦艦。不動の山脈を思わせるその呪力防御に対して、虎杖は『切札』を一枚切る事を決意する。
引き絞られる右腕が、
パンチを打ち込んだその瞬間、伸び切った二の腕、肘、前腕の順で内部から炸裂する9つの『超新星』が骨で覆われた腕を砲身に拳という弾頭を密着状態から叩き込むその一撃は、悠仁の腕一本と引き換えに防御ごと石流の肋骨を殴り折り、先程の構図を裏返すかの様に、石流が血反吐を吐く。
両者、まさしく満身創痍。
互いに次の一撃が最後になると確信した彼等は、どちらから示し合わせるでもなく、少しばかり距離を取り、互いに見つめ合う。
「今のは効いたな。なんつう技だ」
「えっと、一応『
「そういう意味じゃねえよ*4。いやまぁ、そうもとれるかもだが……お互い満身創痍、いや、俺だけ満身創痍か。反転持ちは羨ましいぜ全く。……だがそんなもんは関係ねえ! 乾坤一擲、振り絞らせてもらう!」
「おう! 来い!」
気持ちの良い啖呵に、気持ちの良い応答。術師というよりはヤンキーの流儀に近いその応酬は、石流龍という男の肚を満たすには十分に甘美な、夢の様なひと時。
その直後、まさにありったけの呪力をボロボロの全身から振り絞った石流が放った一撃は、仙台コロニー全域に文字通りの『激震』を走らせ、青白い呪力の極光が空を灼く。
「グラニテ・ブラストォ!!!!」
石流は、虎杖を撃ち抜けば勝ち。虎杖は石流の一撃を耐え抜けば勝ち。どちらから言うでもなく通じ合った2人の漢の闘いは、焼かれる肉体を埋め合わせる様に再生させ、噴き出す血潮すらも己の身に纏う鎧へと変えてただひたすらに耐え続ける虎杖と、その身体を焼き尽くさんと呪力砲を全力で放ち続ける石流の、馬鹿正直な根性勝負。
その闘いの果て、極光が止んだ大地に立つのは、すっかり全裸になり、肉がえぐれ、骨が剥き出しになり、腑が溢れつつも徐々に再生していく虎杖悠仁。沸騰して爆ぜた眼球を再生させ、下顎を失ってダラリと垂れていた舌を再生した口内へと仕舞い込んだ彼が、まっさらな肺に空気を吸い込んで宣言するのは、石流龍への、勝利宣言。
「……俺の、勝ちだ!」
そう吠える虎杖に、「ああ、満腹だ」と告げた石流は、何もかもを吐き出して、大の字に地面へと倒れるのだった。