特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第136話

 己の頭の上に浮かぶ、横向きに伸びた緑と青の棒線。なんらかの術式効果か? と訝しむ宿儺だが、その直後、彼はその思索を即座に放棄して、己に向けて突っ込んでくる大型トラックへと腕を振るう。

 

 瞬間、放たれるのは不可視の斬撃。その一撃で以て真っ二つにされた大型トラックはしかし、その荷台へと満載していた『製菓用シュガーパウダー』によって宿儺の周囲に粉塵を巻き上げる。

 

 そこに畳み掛ける様に飛来するのは、可愛いピンクの焼夷手榴弾。砂糖の煙幕の中に飛び込んだ直後に起爆するその一撃は、極めて可燃性に富むシュガーパウダーを巻き込んでテルミットと粉塵爆発の二重の爆発を引き起こし、宿儺の周囲一帯をド派手に焼き飛ばす。

 

 だが、その中央。呪力を総身に漲らせて立つ呪いの王は全くの無傷。

 

 強いていうならば、その頭上に浮かぶ青い棒が少しばかり『減って』いるのが先程との差になるだろうか。

 

 そして両面宿儺はその意味が判らぬ馬鹿ではない。

 

 ————なるほど、この青い棒は呪力総量の強制開示か? ならば緑は差し詰め生命力……しかし、総則による開示とはいえ、それが術式によるものである以上、極端な不公平は通るまい。であれば、俺にも術師どもの呪力、体力が開示されているはずだ。

 

 そんな考えを巡らせるまで、およそ1秒。

 

 豪炎の中、呼吸を止めて反転術式で窒息死を免れるという器用な真似をしてみせる宿儺は、死角から飛来する『眼球』をノールックで殴り潰し、起爆した眼球によって傷ついた腕を即座に再生させると、反撃の大斬撃で名古屋駅周辺を一気に斬り飛ばしてみせた。

 

 その一撃は、建物に向けて放たれたが故に誰も捕えることはなく、しかして潜伏場所を失った術師達は、宿儺の眼前へと姿を現さざるを得ない。

 

 そして、そんな術師どもの内、己が眼前へと飛び出してくる蛮勇を持ち合わせている者を睥睨した宿儺だったが————。

 

直後、宿儺の脳裏に突如溢れ出すのは、()()()()()()()記録————! 

 

 

 

 口座名義:ハカリ キンジ

 金融機関名:四菱JFU銀行

 金融機関コード:4214

 支店名:東京第三支店

 支店コード:423

 口座番号:84691649

 暗証番号:7389

 

 カード名義人:KINJI HAKARI

 クレジットカード番号:9836 7369 8629 6186

 セキュリティーコード:07398

 

 ————————

 ————

 ——

 

「は?」

 

 眼前に飛び出してきたパーマヘアの男を視界に入れたその瞬間、脳裏に一切理解出来ぬ情報が溢れ出したことで流石に一瞬放心した宿儺に対し、ブチ込まれるのは全力の回し蹴り。

 

 反射的に腕を組んでの防御こそ間に合ったもののたたらを踏む宿儺が腕に感じるのは、鑢で削られるかの様なザラつく痛み。

 

 その一撃に対して斬撃で反撃する宿儺だが、脳内に溢れ続ける情報に思考を割かれながらの一撃は狙いが甘くなり、避けられた一撃は秤の衣服に擦り傷を負わせるにとどまっている。

 

「ウチの漫画家先生は2人とも流石だな!」

 

 などと獰猛に笑う金次。そんな彼が頼みとする頼れる『漫画家先生』ことシャルルと禪院真依が考えた悪辣極まる『総則』は、『釣り合いは取れているが取れていない』というあまりにも呪術師らしいもの。

 

 禪院直哉を筆頭に『縛り』に関しては一家言ありまくる禪院家と、柔軟なオタク思考を持つシャルルが組んだその総則は、以下の通り。

 

『全ての泳者(プレイヤー)に対し大敵(レイドボス)の生命力、呪力の総量がHPバー、MPバーとして常時開示される。その引き換えに、大敵には泳者(プレイヤー)の『全ての金融資産情報』が常時開示される』

 

 釣り合うのか? という疑問を抱くものもいるかも知れないが、この条件で総則が通った以上、釣り合うと判断された事実こそが現実だ。

 

 桜島の地下で穴熊を決め込んでいる禪院直哉(縛り専門家)に言わせれば、『体調の 開示程度と 引き換えに 全財産を 差し出すんやろ? ほなむしろ 宿儺の方が 釣り合いが とれてへんやろ 重み的には』という判定らしいこの総則は、直哉の言う通り『泳者(プレイヤー)のコストが重い』と判定されているが故に、大敵側からの干渉はほぼ不可能。

 

 その結果、泳者(プレイヤー)を視界に入れる限り常に『資産目録』の情報を脳内にブチ込まれるハメになった宿儺の脳には、決して少なくない負荷が掛かることになるのだ。

 

 

 ————単純だが鬱陶しい! 

 

 

 などと考える合間にすら脳裏にイメージされ続ける資産情報。その影響を抑えるべく、宿儺が行ったのは、自身が受肉体であるという事を活かした変則的な肉体運用。

 

 押し付けられる情報を受肉先である『万が産んだ宿儺の子』の脆弱な魂へと押し付ける、というシンプルながら無茶苦茶な対抗手段が取れるのは、両面宿儺の卓越した呪術的センス故のこと。

 

 だが————。

 

 

「チビッツ。さっき言ってた総則を追加したいからポイントを100点使用して」

 

 そう呟く女の声を宿儺が背後から拾ったその直後。宿儺の視界に新たに現れるのは————。

 

『大敵が術式を使用する際に、頭上にエクスクラメーションマークが表示されブザー音が鳴る。その対価として大敵は視界内の泳者(プレイヤー)の呪力総量と残存生命力を()()()()()1()0()()()p()p()q()()()()()()()()()()()()()()()になる。数値は泳者(プレイヤー)との距離を問わず視界内に()()()()3()0()c()m()()()()()()()()()()1()8()p()t()()()()()()()()()()()()()として表示され、桁数が多い場合には折り返し表示で全ての桁が表示される』

 

 ————絶えず蠢く無数のアラビア数字の塊であった。

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