禪院真依の頑張りにより1体目の宿儺が討伐され、名古屋が開放されてから数時間後。
やれ呪術規定違反だ*1だの、じゃあお前が宿儺倒してくれば? *2 だのと諸々のやりとりが上層部で交わされ、最終的には御三家の連名で『今回は緊急事態でノーカン』という扱いになったこの騒動に対し、呪術総監部が下した結論は、いっそこの際呪術を多少公表するというものだった。
そんなわけで、現在は各局で臨時のニュース放送が組まれ、ある程度フワッと『各都市の封鎖や爆破テロは怪人の仕業で、政府のエージェントである例の少女と仲間達が戦っている。先の強制放送も強敵を相手に戦う為のエネルギーを得る為』的なボンヤリとした答弁を汗ダラダラの官房長官が行なっており、質問攻めにあってしどろもどろとしている状態だ。非術師なのに矢面に立たされている官房長官は泣いてもいい。
だが、もっと泣いても良いのは————。
「もうお嫁に行けない————」
「大丈夫だ禪院! もう行ってる! しっかりしろ!」
「反転があるはずなのに急に倒れるから何かと思ったらストレスで一歩も動けないとか相当だよコレ!?」
「先生! 映像自体は凄まじい戦闘シーンだったのでまだ尊厳はどうにかなると思います先生!」
————当然ながらムッチムチのおっぱいとお尻を全国公開してしまった真依ちゃんなのであった。
* * * * * *
「————で、真依ちゃんのケアの為にニコニコの公式放送枠買ったんだって? 買ってから事後連絡で放送よろしくと言われるとはね。まぁ確かに私の術式向きではあるけども」
『いやすまん。通話指示やと 連携が ゴテゴテなんや 許してくれん?』
「構わないよ。————それで、黒鳥操術による各コロニーの撮影と放送か。しかも呪術総監部のお墨付きとくればまぁ是非もないね。振り込んでくれた額も額だし♡」
『頼んだわ。まあ焼石に 水やけど。何もせんより マシなんちゃうか?』
などと、冥冥のカラスを前に桜島コロニーで頭を抱えるのは、真依ちゃんの旦那かつ師匠かつ従兄弟の、我らが禪院直哉君。
その表情はセンブリを原末でドカ食いしたのではないかと思う程に苦いものであり、宿儺戦の勝利を祝うといった表情ではない。
「いや、そんなに深刻そうな顔してるけど、ああいう領域にしたのは君じゃないのかい?」
『知らんねん。俺はそもそも 真依ちゃんが 領域使う ことすら知らん。そもそもな 俺が見た事 無い乳を なんで他人に 見せなあかんの』
そう告げて、『まぁ別に 下着はつけて あったけど 俺はそれすら 見てへんねんで?』などと嫁が全国放送でストリップさせられていた事実に胃がキリキリしていそうな直哉の反応は冥冥の予想に反するものであり、正しい状況を先んじて理解することになってしまった冥冥の表情も少しばかり苦味を帯びたものになっていく。
「……マジ?」
『大マジや そもそもやけど 領域は 心理世界の 具現化やんか。流石にな そんなとこまで 弄らんわ』
「……ご愁傷様」
『……今回の 事が済んだら 暫くは あの子のケアに 専念しよか』
「おや、珍しいね。真依ちゃんには割とつっけんどんだったじゃあないか、キミ」
『方法は まぁ酷いけど それでもな 頑張ったやん あの子なりには。コッチ側 足踏み入れて その上に 大金星や 見方も変わる。————ただそやね。ケアについては 俺よりも 嫁のみんなに 頼んどこかな』
などと言いながら頭を悩ませる直哉に対し、重い空気を祓うべく冥冥が投げるのは、いつも御決まりの冗談ひとつ。
「お、ついに私と結婚して全財産を相続させてくれるって話かい?」
『玉の輿 乗りたいんなら 悟くん 狙った方が 良いんとちゃうか?』
「いやぁ、家入くんか天内くん、それと歌姫くんでどうにかギリギリ可能性あるかどうかってところじゃないか、彼の場合。……いや、家入くんは『絶対嫌ですよあんなクズ。もっと良い男紹介して下さいよ』って真顔で言ってたし天内くんと歌姫くんだけかな」
『悟くん ガキっぽいから 嫁さんを オカン代わりに するタイプやん? その点な 冥冥さんは 姉貴やし 包容力で 行けるんちゃうか』
「生憎と私の包容力は資産専用でね*3」
『そうなんか そらしゃあないな 残念や。……えらいまた 話逸れたな なんやっけ……ああ、放送や。頼んどきます』
「ああ、任されたよ」
などという会話を交わしたしばらく後、冥冥によって開始された各コロニーの生放送は凄まじい視聴者数を叩き出し、直哉の目論見通り真依の戦闘風景についてのインパクトを少しばかり希釈することになるのであった。