特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第141話*

 ————両面宿儺、顕現。

 

 2度目となる怪人の到来は、裏梅の産んだ宿儺の仔に両面宿儺が受肉する事で名古屋と同様に行われ、完全顕現までには数秒の猶予が存在する。

 

 その間で、四つの瞳をギョロリと動かした宿儺は、相変わらず視界に映る不快な文字列を確認すると、眉間に深く皺を刻み、鼻を鳴らす。

 

 直後、聞こえ始めた耳障りな音が更に彼の神経を苛立たせ、『現代の術師』の底意地の悪さに溜息を一つ吐いた宿儺は、徐に己の両目を抉り、鼓膜を破って、自らに縛りを掛けた。

 

『潰した両目と鼓膜を反転術式で回復させない』というその縛りによって、自らを強化した宿儺の出力は都合指換算で3本分。本来は2.22()*1本分の出力と考えれば破格の補正ではあるが、宿儺の主観からすれば未だ全快には程遠い。

 

 そして、潰した両目と鼓膜の代わりに宿儺が頼るのは、己の呪力感知能力。呪いの王との呼び名が伊達では無いと示すように自身を中心とした呪力の放出によるアクティブソナーと周囲の呪力を感じ取るパッシブソナーを並行運用する宿儺は、呪術的観点で考えれば『目が見えていた頃よりも()()()』いるとすら言える。

 

 そんな宿儺の『視界』で見通される光景には、術師らしき呪力が4つ*2と、非術師らしき反応ながら悍ましい呪力を帯びた刀を佩く者が1人*3。そんな彼らを前に宿儺が選ぶのは、最善手にして最強の一手。

 

 両手の指を組み、閻魔天印を結んだ宿儺から放たれる、領域展開『伏魔御廚子』。呪力を持たぬ物には『解』、呪力を持つ者にはその呪力に応じた『捌』を領域が消えるまでの間際限なく叩き込み続けるシンプルながら強烈なその領域は、たとえ指3本分の出力であったとしても侮れるものでは無い。

 

 だが、宿儺からすればコレは必殺技でありながら試金石。目の見えぬ己の戦いを妨げる『建造物』を半径200m圏内から一掃しつつ、眼前の術師どもが己に抗い得るかどうかの『味見』に過ぎない。

 

 そして————。

 

 伏魔御廚子の斬撃が一切合切を斬り飛ばしてなお、簡易領域と覚しい呪力の膜でそれを凌ぎ切っている『歯応えのある獲物』を前に、宿儺は最大出力の『奥義』を放つ。

 

『領域展開中を除く多対一での実行禁止』『解と捌を放った後にしか使用できない』という重い縛りを掛けて自ら封じたその一撃は、真依にも放った『地獄の業火』。

 

(カミノ)————(フーガ)!」

 

 縛りにより拡張されたその一撃は、領域内で宿儺の斬撃によって切り刻まれた全ての粉塵から同時多発的に起爆し、超高温により瞬時に気化した粉塵はその体積を数千倍に膨張させ、音速を優に超える熱膨張速度により燃焼を超えた爆轟が発生、断熱圧縮による瞬間的な超高温と超高圧は、領域内の全ての生命を一切合切焼却する。

 

 まるで小型の核ミサイルでも直撃したかのようなその惨劇は、まさに宿儺の『必殺』。

 

 だが。

 

 宿儺の視界は、未だ健在な『5人』の姿をしっかりと捉えていた。

 

 

 * * * * * *

 

 

 真希達が追加した総則の一つ、『全ての泳者(プレイヤー)は双方同意の元でチビッツを介してビデオ通話が可能になる』によって真依から聞き出した両面宿儺の領域と、謎の『爆発する』奥義。そこから生存した真依が語った情報によれば、反転術式の全力行使などで対応可能とのことではあるが、こと今回においては『真希』の存在がネックと言えた。

 

 何しろ彼女には天与の肉体こそあれど、それゆえに呪力がない。呪術的に透明人間になるべく、グルグルと封印用の札を巻きつけて呪力を封じ込めた『切り札』以外の全ての呪具をマジカル真依ちゃんポーチにしまって七海に預け、ついでに防具として自分が着ていたマジカル真依ちゃんドレスすら野薔薇に着せてスポブラとレギンス一丁というラフスタイルになった彼女は、まぁ当然ながら宿儺の斬殺空間に耐えられない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 いや、ぶっちゃければ肉体強度的におそらく死にはしないのだが、流石に重傷間違いなしである以上、真希を宿儺に対する鬼札として使う上では大問題だ。

 

 故に、七海達が選んだのは、結界と簡易領域による防御。

 

 シンプル故に強固な三代の簡易領域を最外殻に配置して内部時間を加速させ、三代が大道と相撲をとっている間に領域内に半径で7:3*4で区切るように灰原が防御結界を構築。そしてその結界の制御を七海と共有することで、宿儺の大技への最終防衛ラインとしたのである。

 

 飛来する斬撃の雨霰と、最後の大爆発。その全てを防ぎ切ることができたのは、この領域内の防御結界あってのこと。七海の術式反転である透核呪法によって無敵化した結界は、両面宿儺の奥義すら防ぎ切って見せたのだ。

 

 ただし、当然ながらその反動は決して小さなものではない。呪力を倍速で喰う術式反転の長時間の維持により、七海はその北欧風のクールな相貌に滝のような汗をかいている。

 

 だが、この策を思いついた時点で、その対策は万全だ。

 

「チビッツ、10点使います」

「承知しました! 残りポイントは62ポイントです!」

 

 追加総則の2つ目『泳者(プレイヤー)はポイントを自身の呪力に変換できる』。このルールによって欠乏した呪力を補った七海の復活。それと同時に、宿儺の術式が焼き切れた隙を突くべく、術師達は結界の内側から戦場へと駆け出して行くのだった。

*1
20÷9

*2
灰原、七海、釘崎、三代

*3
大道

*4
中心から7、外縁から3

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