特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第143話*

「アッハッハッハ! 最ッ高だねコレは! 禪院真依、禪院真希、特級未満でもなかなかどうして面白い! 名古屋と東京の双方で中心となった2人が誰に師事したかを考えると、禪院直哉がこの平成のうねりの核なのか? ————いや、流石にそれは早計かな? 呪術の因果から解き放たれた伏黒甚爾と禪院真希はそこに居るだけであらゆる因果を掻き乱すし、際限なく成長し続ける五条悟も単体影響力はピカイチ。強力な因子が多数存在するが故の相乗効果と見るべきかな。……ま、何にせよ、今のところは宿儺を袋叩きにして高専側が一歩リード。まぁ正直言ってこの死滅回游の術式だと、残り3体ぐらいからが本番なんだよねぇ。ただ、宿儺が2回『死の淵に至った』のは留意すべきかな。死は一般人すら大量の呪力を生み出す程に呪術的に重要な因子。それを宿儺が体験したってのは重要だ。その結果次第じゃ、もっと早く、より面白い事になるかもしれないね。う〜ん、ビールとポリッピーが美味い!」

 

 などとふざけた事をほざきながら、チビッツ達の『目と耳』から得た情報を堪能しているのは、死滅回游そのものと化したエンジョイ系で炎上系なパリピ呪詛師こと羂索。

 

 天元の空性結界に近い精神的な領域の内部で好き放題に振る舞う彼は緩やかに死に向かっており、死滅回游が終了すれば消え去る存在に過ぎない。

 

 が、そんな事はお構いなしにコロニー内の一挙一動を観察する彼は、今日本で最も生を謳歌している術師と言えるのかも知れなかった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 さて、一方その頃。特級不在コロニーである名古屋と東京の平定連絡を受けて一気に動き始めた呪術高専の特級達は競うようにコロニーの平定へと動き、両面宿儺の顕現準備を開始する。

 

 制圧から顕現までの猶予は1時間。そんな中、最も異常な様相を呈しているのは、盛岡コロニーだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 コロニーの中心を囲むように構築された防御陣地。そこに犇く無数の人影は、その全てが完全武装の傀儡だ。

 

 設計し、製造し、性能評価を経て、改善する。そんなPDCAサイクルを核融合炉のタービンに繋がるフライホイールを接続して超電磁スピンさせたような無茶苦茶なスピードで回しているのは、自らに課した枷から解き放たれた特級術師『与幸吉』。

 

 日本全域を網羅する強大な術式範囲と大量の傀儡を同時並行で操縦可能な術式精度、そしてその運用を可能にする強大な呪力。

 

 天与呪縛によって肉体の欠損と極端な虚弱体質と引き換えに得られたその力を『封じる』という縛りを解き放った彼は、『死滅回遊終了まで自身の術式範囲を自身が参加しているコロニー内に限定する』という縛りを新たに掛ける事でただでさえ強力な術式を強化し、呼吸するように傀儡達を操っている。

 

 その範囲は大量にいる人型に留まらず、今や盛岡という土地そのものが、改造され尽くして彼の『領域』と化していた。

 

 

 ————領域展開『傀儡征圏(かいらいせいけん)

 

 

 与幸吉が九十九由基の薫陶を受けて編み出したその領域は、『物理的に自分で構築しなければならない』『領域に術式を付与しない』というクソ馬鹿重い2つの縛りを掛ける事で、幸吉の呪力の自然回復分で半永久的に展開可能な彼の王国。術式が付与されていないその領域はしかし、それ故に呪術戦において凶悪な性能を発揮する。

 

 術式に対する防御手段において最高峰とも言える奥義の一つ『領域展延』。術式を付与しない空虚な領域を構築する事でその領域に触れた術式を希釈し中和してしまうその技に極めて近しい『傀儡征圏』の領域は、他者の術式を一切の容赦無く希釈する。

 

 だがその一方で、この領域が『与幸吉の領域展開』であるというのが揺るがぬ事実である以上、幸吉の術式『傀儡操術』の威力は縛りも込みで300%の性能を発揮するのだから、戦わされる側としてはたまったものではない。

 

 まぁ、とはいえやはり縛りが重すぎるため、今回極めて例外的に構築に成功したこの盛岡を除けば、幸吉が領域展開可能なのは寮の自室か自宅だけという、あんまりにあんまりな話ではあるのだが。

 

 しかし、厳しい条件はあれど折り紙つきの性能を誇る彼の領域は宿儺を迎撃する今回の作戦には極めて有用であり、領域内で控える高専の一党はこの領域内で宿儺を封殺する腹積りなのだ。

 

「幸吉に任せてばかりで申し訳ない気もするが……」

「……いや、加茂先輩に家入先生、それから甘井さんにも、かなり助けて貰ってるだろ」

「術式だの呪具だのを『素材』に提供してるだけだけどね〜。まぁ、上手く使ってよ。ぶっちゃけ領域内だと呪力の体内運用ぐらいしか出来ないし私達。な、パシリ(甘井)

「ッスね……」

 

 なんて会話を交わす通り、この場にいる面々も幸吉の領域に居る限りは例外なくその術式を中和されており、『身体能力が高いだけの人間』へと成り下がっている。

 

 だが、それだけでも充分。

 

「無理な言い訳でサボろうとしないでくださいよ、家入先生。火力支援、期待してます。もちろん加茂先輩も。あ、甘井さんは流石に待機で」

「ちぇー。了解」

「ああ、ここまでお膳立てされたからには全力を尽くすさ」

「すんません、役に立ってなくて……」

「いや、ガンガン術式回す時に糖分はマジでありがたいんで、ラムネ山ほど作り置きしてくれてるだけで十分役立ってますよ甘井さん」

 

 なんて会話の上ではめんどくさそうな家入も愛銃『エクスプレス』をしっかりと担いでおり、加茂の方もお気に入りの重機関銃の予備弾倉に弾薬を丁寧に詰め込んでいるあたり、戦闘の意気込みは十分。

 

 そして両者とも「呪具使い」であるという点でこの領域との相性は良良好。「物理的な輪郭」という根源的な結界によって呪具は領域からの術式中和に対しかなりの耐性を持ち、中でも「呪具を相手の体内に撃ち込んで効果を発揮させる」という銃タイプの呪具はこの領域内で運用するに最も相応しい選択肢となるのだ。

 

 そして、極め付けなのが2人の呪具の『整備』を与幸吉が行っているという点。それにより半ば幸吉の『呪骸』に近しいものと判定されている両者の愛銃は、『傀儡征圏』の内にあっても問題なくその本領を発揮できるどころか、領域の効果を受けて寧ろ若干性能が上がりすらするのである。

 

 まさに準備万端、地獄の門に等しい虎穴へと強制的に飛び込ませられる宿儺はいっそ哀れですらあるが、戦争とはつくづく、準備万端な側が有利なものなのだ。

 

 

 だが————当然ながら、両面宿儺を相手に、絶対的な有利というものは存在しないのだが。

 




お子が産まれたので忙しいでござる
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