盆もとうに過ぎて、季節は秋。コミケに遊びに行ったり、風の噂で交流会で悟くんが理不尽無双したとか何とか聞こえて来てからしばらくのこと。
この夏は特級案件自体はそれほどでも無かったんやけど、1級案件はポツポツあって、そこそこ忙しい夏やった。
やっぱり、東京近郊の呪いは田舎のそれとは一味も二味もちゃうもんやね。推定特級のターボババアよりは小物やったけど、それなりの規模の呪いが風呂場のカビ並みに無限湧きする環境いうんは、中々体験しやんと分からん経験やわ。
ある意味で前乗りしといたんは正解やったかもしれんね。オトンの思惑通りくさいんがムカつくけども、さすがは当主の判断っちゅうことやろか。
流石にもう慣れたし、秋口に差し掛かって呪霊の数も随分と減ったから、俺もちょっとは暇ができとる。
っちゅうわけで、今日この日、俺はガキどもを引き連れて、こないだ廃校になったばっかりの群馬の中学校にやって来とる。
目的はズバリ呪霊狩り。三歳児に何させとんねんっちゅう話やけど、正直呪術師の家系やったらコレぐらいの歳で戦場にブチ込まれるんはままある話や。
大概は、親兄弟が取っ捕まえた呪霊やら、屋敷に設けた呪霊部屋やらでやることが多いんやけど、流石に甚爾くんの家に呪霊引き連れて行くわけにもいかんしな。普通に街中にあるし。
で、そこで廃校っちゅうわけや。一応高専に仁義切らなと思うて話も通しとるし、何の遠慮もなく呪霊を狩れるっちゅうわけやね。
今回の引率は俺と甚爾くん、それから高専から派遣された補助監督が1人。九十九さんはこの前からザンビアに出張しとって不在やね。
で、参加者の方なんやけど————。
「甚爾くん、ホンマにええん? 津美紀ちゃん。非術師やんか 無理させてへん?」
「俺に言うか? 術師どうこうっつうなら俺が1番術師じゃねェよ。呪具使えばどうにでもなんだろ。真依だっけ? 呪具作れるっつう話じゃねえのか?」
「そうやけど、そもそも見えん 訳やんか。メガネあるけど 不便やろうし。……まあ俺が 口出しすること ちゃうけどな。流石に心 痛むかもやん?」
「バカ言え、そんなタマじゃねえだろ。……大体、1人で留守番させる方が面倒くせえだろうが」
っちゅう会話の通り、今回は甚爾くんにくっついて津美紀ちゃんと恵くんも来とるんよね。まぁ、恵くんは露骨に呪霊見えとるし呪力もあるみたいやから最悪ええけど、津美紀ちゃんはマジもんの一般人。どうも調子狂うっちゅうか『ええんかいな?』っちゅう気分になるわ。
で、そんな大人の事情は気にしてなさそうなんがガキ4人集。
「マジカルピンク!」
「マジカルブラック!」
「マジカルホワイト!」
「お、おお〜?」
うん、完全に遊び半分やね。ちなみにピンクが真依ちゃん、ブラックが真希ちゃん、ホワイトが津美紀ちゃん、よく分からんしバランスも微妙な決めポーズ見せられて困惑しとるんが恵くんや。
真希ちゃんと津美紀ちゃんは『マジカル真依ちゃんドレス』を装備しとるし、全員『マジカル真依ちゃんメイス』は持っとるから一応呪霊と戦うのに不備はないけどな……自分が仕掛けといてなんやけど、絵面がギャグやね? ビデオ*1に撮っといたろ。
「……いや、オマエも遊び半分じゃねえか?」
「まぁそらな 流石にここの 呪霊には 負ける気せんわ 3級やもん」
なんてやり取りをしつつ、補助監督に帳を下ろしてもろうたら、湧いて出るんはさっきも言った通りの3〜4級の雑魚呪霊共。
一応、3級でも無抵抗の人間を殺すぐらいは出来るけども、例えるならピストルさえあれば余裕なレベル。4級に至っては金属バットで殴れば死ぬレベルや。呪力のない甚爾くんでも、千日手にはなるけど一方的に呪具なしでボコれるレベルやね。
つまり、ガキんちょ連中でも余裕ではあるんやけど……。
「ほ、ほんとにオバケだぁ……!?」
「お、大きい……!」
「ひ、ひぇ……!?」
「津美紀、真依、恵、び、ビビってんじゃねえよ!」
「お、真希は気合い入ってんじゃねえか」
「お姉ちゃん いうのは偉大 なんやなあ。まあ本人も 震えとるけど」
「上々だろ。オマエの死んだ兄貴なんざ漏らしてたぞ」
「どの兄貴? なんぼか死んで 分からんわ」
「ほら、いただろ。ロン毛の」
「ああアレか……名前が出んわ 何やっけ?」
……ホンマに思い出せんわ。男の顔と名前なんざ余程やないと覚えへんもん。しかも口だけでパッとせんカスの兄さんらやろ? 覚えとらんてそんなもん。まだ真依ちゃん真希ちゃんの方が印象あったわ。扇のジジイの子とは思えん美少女やったし。母方の血がええんやろうね?
で、閑話休題。
そんな噂の美少女な真希ちゃんやけど、甚爾くんが「気合い入っとる」言うだけあって、いの一番に呪霊に殴りかかったんはあの子やね。
で、その結果は当然ながら圧勝。マジカル真依ちゃんメイスは曲がりなりにも呪具で、真希ちゃんが曲がりなりにもフィジカルギフテッドな以上当然やけど、ブン殴られた3級呪霊は頭をグチャグチャに叩き潰されて、呪力に還元されていっとる。
でもやっぱり、甚爾くんのソレよりは強化の具合が弱いな、っちゅうんが正直な感想やね。真希ちゃんにはクソに集るウジのクソ程度の微妙な呪力があるんが原因やろか?
でもそもそも、真希ちゃんも甚爾くんも、同じ『全呪力と引き換えに無双の身体能力を得る』縛りやのに、なんで真希ちゃんには呪力があるんや?
……一卵性の双子は忌み子っちゅうんは呪術界隈では常識やけど、まぁ、そもそも一卵性言うたら、遡れば1人になる予定の受精卵が分裂したもんやから、魂を共有しとるのが原因の筈や。で、縛りの方は逆に『肉体と精神』に掛ける以上、個々の肉体と人格を参照しとる。
で、おそらく呪力で見た場合、真依ちゃんと真希ちゃんのキャパが魂というパイプで繋がっとるんやけど、真希ちゃんの方は天与呪縛があるから呪力の器がないんやね。
それで、真依ちゃんは真希ちゃん側に垂れ流しなせいで呪力がどんどん減って、真希ちゃんは逆に常時真依ちゃんから流れてくる呪力のせいで天与呪縛がイマイチになっとる感じかいな。
……ちょっと後で対策考えてみよか。このままやといくら真依ちゃんの呪力効率や出力上げても水漏れのせいで勢いがショボなるし、真希ちゃんは真希ちゃんで流れ込む呪力が増えるほどただの一般人になってまう訳やからな。
確か————甚爾くん、禪院家から『アレ』パクッとったやんな?
なんて、俺が考えを巡らせとるうちに、真希ちゃんの奮闘に触発されたんか、真依ちゃんや津美紀ちゃん、それに恵くんもそれぞれのメイスで呪霊を殴り付けて、戦場童貞を卒業しとる。
「おうおう、精々気張れ気張れ、俺は早く帰りてェんだよ」
「もうちょっと 応援しても ええんちゃう?」
「ならオマエがしろよ」
「……しゃあないな。真希ちゃん偉い! 一番手 なかなか出来る もんやあらへん! 真依ちゃんも 勇気を出して 偉いけど マジカル台詞 言えばなお良し! 津美紀ちゃん 怪我はあかんで 気をつけや! 君は呪霊に 耐性ないし! 恵くん いっとう偉い! 3歳で 呪霊退治は ギネスもんやで!」
「……なんかオマエ、そうやってマトモだとキモいな」
「甚爾くん 人の心は どこやった? 君の子供も 褒めとんねんで?」
「ねぇよそんなもん。アイツが持ってっちまった」
「今すぐな 貰いなおせや 奥さんに。あの人そんな ケチとちゃうやろ」
「……まぁ、今度な」
そんな、アホな漫才みたいなやり取りを挟みつつ。3+1人の呪術師デビューは、まぁ何事もなく成功したわけで。
俺の思考は、もう既に今この場の状況よりも、真依ちゃんガバガバ問題*2の方に割かれとった。その鍵を握るんはやっぱり————。
「————甚爾くん、臨時ボーナス いるかいな?」
「あ? くれるんなら貰うが……面倒ごとか?」
————そう言って、嫌な顔を隠そうともせん、