特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第16話

「魂だけ斬れっつってもな。なんで俺なんだよ、んな術式みたいなモンは術師サマの領分だろうが」

「甚爾くん、 釈魂刀(しゃっこんとう)を パクったん 普通に俺は 知っとんのやで?」

「……チッ 無駄にマメな性格しやがって」

 

 そんなやりとりが交わされるのは、子供達の初陣から一夜が明けた伏黒家の居間。

 

「その刀 見えるモンなら 切れるやろ? 甚爾くんなら 見えると思て」

「魂か? まぁ、それっぽいモンは見えるが。……あの双子の魂が、臍の緒みたいなもんで繋がってんのもな。切るのはそれか?」

「何やって? 魂一緒 ちゃうんかい。……まぁ推論や ハズレもするか」

「なんだ、思ってたのと(ちげ)えってか? 俺の目にはそんな感じで見えてんだが」

「そうやなあ。魂一つ 思とった。そうか二つが 繋がっとんか。……まぁええわ。真っ二つより マシやろし。報酬は 年末旅行 とは別に 今月マカオ 連れてったるで」

「……いや、ただ連れてかれてもな。金は?」

「がめついな。マカオの分は 俺持ちや」

「……良いぜ、その話乗ってやる。あの臍の緒ぶった斬るだけで良いなら占めたもんだ」

「一応な、聞いとくけども、魂を 切ったらどんな 風になるんや? 」

「なんで俺に聞くんだよ、オメェが言ったんだろうが。……勘だけどな、あんな程度のもんなら切ったとこでどうこうねえよ。斬る時は、真希の側の根元を斬るからな」

「分からんな? なんでそれやと 平気やの?」

「アイツが俺と同じなら————魂より肉体の方が格が高い。魂だけ多少切ったところで、肉体が無事なら再生しちまうさ。肉体本来の、臍の緒が切れた状態でな。真依の方は、まぁ尻尾付きの変な魂になるぐらいで済むんじゃねえか? 形は変でも呪力が抜ける先がねえから、そんな(なり)でも安定はすんだろ」

「なるほどな。よう分からんね、魂て」

「俺もわかってる訳じゃねえ、見えてるだけだ。それよりも、いっちょぶった斬って()っからマカオ忘れんじゃねえぞ」

 

 そう告げて、直哉の前から立ち去ろうとする甚爾を、直哉は一瞬見送ろうとして、今まさに収納呪霊から釈魂刀を取り出したその姿に『善行』センサーと『紳士』レーダーがビンビンに警告を発した事で、慌ててそれを制止する。

 

「いや待てや、子供の前で やるんかい!? ちょっと待ちぃや 『停止』させたる」

「……過保護だな、オマエ」

 

 

 * * * * * *

 

 

 と、そんなやりとりの、さらに翌日。一応連絡したところザンビアから緊急帰国した九十九由基によって、真希は揉みくちゃにされていた。

 

「やめろ浮気女!? なんだオマエ!?」

「素晴らしい! 今までとは比べ物にならない膂力! 凄いねコレは! 伏黒くんと全く同じじゃないか!?」

「は、な、せ、よぉぉぉ!?」

 

 完全覚醒したフィジカルギフテッドによる剛力無双。おおよそ常識を越えたパワーを発揮できるようになった真希ではあるが、所詮彼女は四歳児。

 

 呪力で肉体を強化できる九十九からすれば、ジタバタ暴れる彼女を抑え込んでギュウギュウと抱きしめることは容易である。

 

 が、そんな熱烈ハグのせいで乳に埋もれてもがいている真希の姿に、流石の直哉も憐れみ——と、巨乳に埋もれている状況へのやっかみ——から九十九に対し、忠告を投げた。

 

「九十九さん そろそろホンマ 真希ちゃんに 嫌われかねん 解放したり」

「あ。……いやぁごめんごめん。つい」

「ついじゃねえよ!?」

「ごめんってば。……で、直哉くん。大まかなことは聞いたけど、どうしてこんな事に?」

 

 そう問う九十九の表情には、割と純粋な疑問が浮かび、事の経緯を問うている。まぁ、それはある意味当然の事。九十九の目から見ても、先日まで禪院真希は『偶に居る普通のフィジカルギフテッド』だったのだから。

 

 そして、そんな問いに対する直哉の返答はといえば。

 

「ホンマはな 真依ちゃんの為 なんやけど。呪力がずっと 漏れとったんよ。おかしいな 思うて昨日 甚爾くん 呼んで話して 魂分けた」

「後半がめっちゃ気になるんだけど。魂? 分けられるのかい? そんなもの」

「さくらんぼ 的な感じに なっとって ヘタのところを 斬ってもうてん 」

「あ〜? いや、どうやって?」

「禪院の 特級呪具で 無理矢理な。『釈魂刀』 て 言うんやけども」

「え、アレってとんでもなくよく切れる刀ってだけじゃないんだ? 文献だとそんな扱いだったけど?」

「魂が 見えりゃ何でも 切れるって 話しとったわ 甚爾くんがな」

「なるほど、それで魂の繋がりを切った、そうしたらこうなった、と。ちなみに真依ちゃんの方は無事なのかい?」

「そうやなぁ 今は隣で 遊んどる。呪力が増えて、はしゃいどんねん」

「なるほど。……いやぁ、でもこうなってくると、私も本気で真希ちゃんの師匠やらなきゃね。その代わり、研究に協力してくれよ?」

「……手ェ抜くなよ浮気女」

「口悪いなぁ〜。伏黒くんの悪影響なんじゃない?」

「性格は 遺伝とちゃうか? 禪院の。俺含め 甚爾くんとか 親父とか、性格みんな 終わっとるもん」

「何その最低な相伝術式」

 

 そんな会話を交わす特級術師同士2人。そんな中で、ふと、九十九は疑問を口にした。

 

「ところで伏黒くんはどこだい? 今日もパチンコかな?」

「いや役所。 皆無いしな パスポート。今月中に マカオ行くねん 」

「マカオ……? 何しに?」

「カジノでな 派手にパーッと 散財に。俺の金でな ホンマ難儀や」

 

 意気揚々と珍しく早起きして役所に向かった甚爾の姿を思い返して背中が煤けている直哉と、かける言葉を失う九十九。

 

 何やら気まずい空気感の中で、良い子の津美紀と幼い恵だけが、素直に家族旅行に思いを馳せて、『マカオ』と題された旅行雑誌を手に目を輝かせているのだった。

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