それなりに楽しかったマカオ旅行——甚爾はカジノパシフィカで身体スペックゴリ押しで大勝ちして大満足。直哉は変な角が立たないように併設のシェラトングランド・マカオでプレジデンシャルスイートにチェックインした上で、子供達を豪遊させてホテルに金を還元し、ヘトヘト。子供達は当然ながら大興奮——からそれなりの時が流れ、世間はすっかり師走の賑わいを見せている頃。
直哉は珍しく単身で、幾つかの紙袋を手に無数の鳥居が立ち並ぶ山道を歩いていた。
「そろそろか? いつも見た目が 変わるから 分かり難いわ 現在地点。天元も その辺ちょっと 考えて 作ってくれや 無理やろうけど」
などと言いつつ目指すのは、呪術高専東京校。
来年度には入学する予定のこの学校を今日直哉が訪れたのは、禪院直毘人からの『お使い』のため。
————高専と五条家への歳暮を届けて貰いたい。
などと尤もらしい適当な理由を言っていたが、さすがに政治的素養が無い直哉でも『理由はくれてやるから顔を繋いでこい』と言われていることぐらいはわかる。
まぁ、アレで直毘人はそれなりに直哉を気にかけているのも事実。その好意を無碍にすることもないかと思い、直哉は今こうして山登りに興じているのである。
そして、幾度目かの鳥居と結界を通り抜けたことで漸く直哉の前に姿を現した和風の校舎こそが、呪術高専東京校。
その玄関には、妙に厳つい風貌の男性呪術師が1人立っていた。
「君が、禪院直哉か」
「この度は お初にお目に かかります。どうぞよしなに お願いします」
「……グスッ。いや、すまない。冬の寒さがこたえてな。案内しよう」
多分教師だろうな、という推測と自身の『強者センサー』の反応を元に、厳つい男性にキチンと挨拶を行う直哉。それに対して、何故か厳つい男性教師(?)は目頭を抑えて数秒沈黙し、一息だけ鼻を啜って、直哉を学長室へと案内する。
その先で待ち受けていた老翁としばらく会談し、明らかになったのは門で待ち受けていた男性教師が次期学長であるということ。
聞けば、彼があの『傀儡呪術学』の第一人者、夜蛾正道一級術師であるとの事で、直哉は自身の『強者センサー』の感度も捨てたものではないなと自画自賛しつつ、念の為予備に幾つか持ってきていた御歳暮を夜蛾にも渡して、「来年度 入学後には ご指導と 御教授のほど お願いします」と挨拶をして、五条のいるであろう1年の教室の場所を聞き、学長室を辞したのだった。
なお、何故か夜蛾教諭が鼻を啜っていたのだが、何となくその背景を察した直哉は、敢えてつっ込まずにスルーしている。そんな彼の脳裏で何故か甚爾が良い笑顔で馬券を握り締めてサムズアップしていたが、シンパシーの原因はこの辺りなのかもしれない。
で、直哉的には今日1番の緊張の瞬間。1年生の教室の扉を3度ノックし扉を開ければ、そこには五条悟が————居なかった。
代わりにいるのは、面白い前髪のロン毛な男子と、ダウナーな雰囲気のボブカットの女子。
事前に集めておいた高専在籍者の情報と符合させるなら、彼らはおそらく————。
「こんにちは。家入さんと 夏油さん。僕は禪院 直哉言います。年末の 挨拶回り してまして。つまらんもので 恐縮やけど」
「おや、これはどうも。……禪院直哉といえば、御三家一角、禪院家の特別特級術師か。噂はかねがね」
「来年後輩になるんでしょ? 悟が言ってたし。……お、出汁茶漬けセットだって。洒落てるね後輩」
「硝子、アメリカじゃ無いんだから貰った贈り物をいきなり開けるもんじゃ無いよ?」
「えー、だって私甘い物苦手だし。和菓子詰め合わせとかだとお互い気まずいじゃん」
「だとしてもさ……いや、すまない。見苦しいところを見せたね。直哉くん、来年から宜しく」
「こちらこそ どうぞよしなに 頼みます。……五条家の 御当主さんは どちらやろ?」
「悟かい? そういえば、さっきまで居たのに————」
そう、夏油傑がつぶやいた直後、教室にいる3人全員が抱いたのは、強烈な悪寒。
その原因、激烈な呪力の奔流は高専のグラウンドを基点として放たれ、明らかに教室へと向けられている。
「……あのバカ」
「悟、後で絶対先生に怒られるぞ……?」
冷や汗を流しつつ、呆れたようにそう呟く夏油と、「あちゃー」と頭を抱える家入。そんな彼らの予想通り、直哉が校舎の窓から校庭を見てみれば、そこに立つのは銀髪の美少年。
「何ちゅうか 僕呼ばれとる みたいやね?」
そう呟いた直哉の言葉を、夏油と家入が耳にした直後、教室の窓からフワリと飛び出した直哉は、まるでそこに地面があるかのように宙を踏み締め、階段を下る様に校庭へと降りていく。
それを見送った直後、硝子が「逃げろ〜」と言いながら出汁茶漬けセットを手に職員室へと駆け出し、夏油はどうするものかと思案しつつも、誰か1人は監視すべきと判断してか自身も呪霊を呼び出して校庭へと飛び立っていく。
挨拶回りをするだけだった筈の直哉の1日は、どうやら平穏なものにはならないらしかった。