「こんにちは。お初にお目に 掛かります。禪院直哉 どうぞよしなに」
「……なんだ、ノリ悪いなお前」
邂逅一番、行われるのは笑顔を顔に貼り付けた直哉の挨拶と、あからさまにつまらなさげな五条悟の返答。
「置けよそれ。邪魔んなるだろ」
「ああこれな 出汁茶漬けとか 嫌やった?」
のらり、くらり。笑顔のままに五条悟と会話をしているようで会話していないその態度に、自然、五条の怒りのボルテージは上がり、そのこめかみにはバキバキと青筋が浮かぶ。
慌てて駆けつけた夏油傑が「待て悟、流石に部外者と喧嘩は————!」と止める間もなく、五条悟の『無下限術式』が起動する。
五条家に伝わる特殊体質『六眼』と組み合わさったことで十全に振るわれる無下限術式の威力は、五条悟の誕生によって呪術界に激震が走り、彼が生まれて以降在野の呪詛師が活動を自粛していると実しやかに噂されるほどのもの。
術式の基本効果だけでも、あらゆる攻撃を無効化する無限の防壁を展開できるその術式は、無敵のまま一方的に相手を殴り付けるという、圧倒的な暴力を術者に齎すのだ。
その上で、更に無下限術式を最強たらしめるのが『蒼』と呼ばれる『無限の収束』を生み出す力。『負の空間』というあまりにも無茶苦茶な概念を実体化させることで、対象を自在に引き寄せ、振り回し、投げ飛ばす理不尽すぎる力場を生み出すその能力と無限の防壁が組み合わされば、おおよそ最強と言っても過言では無い。
今回直哉に振るわれたのも、そんな『蒼』の力。五条悟の想定では、直哉を『蒼』により引き寄せて、その無防備な土手っ腹に、一撃をくれてやるつもりであった。
————だが、相手も特級術師。必ず、この攻撃に対処してくる。
そう、思考を回した上でのその攻撃。ある意味で、どう防ぐのかの確認の為に放った筈の一撃はしかし、『まるで無抵抗』の禪院直哉の脇腹に直撃し、直哉はもんどり打って吹き飛ぶと、グラウンドを二転三転して跳ね跳んで、土と擦り傷に塗れた無様を晒す。
「……は?」
「————おい!? 悟!? 流石にこれはどう考えても何の申し開きも出来ないぞ!?」
「いやいや、違う。そうじゃないだろ。お前、
「……は?」
結果、その場に残るのは、流石に血相を変えて友人を非難する夏油傑と、自分がやったことにも関わらず、混乱する五条悟。
明らかに理不尽極まる五条の振る舞いだが、そんな彼の行動にも、一応彼なりの理由がある。
その理由とは、彼が有する『六眼』。あらゆる呪力を見通し、目にした存在の術式とその構成すらも看破する、呪術界における千里眼。
その目に映った禪院直哉という特級術師は、おおよそ『無防備なまま殴られる』イメージとは程遠い存在だったのだ。
呪力総量:悟の2倍
術式順転:投射呪法
術式反転:録我呪法
反転術式:習得済み
領域展開:習得済み
呪力効率:悟に迫る
ざっくり、ステータスらしく表記してみればこんなところ。こんなスペックを見せられて冷静で居られなくなった五条悟が、喜び勇んで襲い掛かったというのが、この騒動の発端なのだ。
だが結果はどうだろう。撒き散らされた歳暮の箱、遠くに倒れ伏す禪院直哉。状況はどう考えても五条悟が一方的に『年下の男子に因縁をつけてブン殴った』以外の何者でもなく、この場において常識的に考えれば『悪いのはどう考えても五条悟』であった。
そんな状況に、五条悟の中で渦巻くのは、困惑と失望と無念と憤慨。
だが————その直後、吹き飛んで行った筈の直哉の身体から、悍ましい程の呪力の奔流が吹き荒れる。
「————ッ!?!!?」
その状況に何が何だか、と困惑する夏油だが、術式は特級相当とはいえ未だに夏油の実力は1級。『この場にいれば死ぬ』という圧倒的確信が、彼に仲裁ではなく撤退を選ばせる。
その反面、『落として上げられた』五条悟のテンションは、落胆からの期待に転じ、一気に最高潮までブチ上がる。
その視線の先、反転術式で自身の傷を修復しつつ立ち上がる直哉は、五条悟とは対照的なゲンナリ顔。
「俺別に 切腹趣味は 無いねんで……何で五条と 戦う羽目に……勝たれへん 相性勝負 やらされて おもしろ無いわ、キレてええかな?」
『勧善』の縛りにより五条悟への先制攻撃が禁じられ、『懲悪』の縛りの適用対象に五条悟を含める為にノーガードで攻撃を喰らい、そのザマが『敗北』にカウントされたせいで『詰腹』による切腹ノルマを払わされた。
どう考えても踏んだり蹴ったり。最悪すぎる現状に、直哉はフラストレーションを激烈に蓄積し、怒髪衝天を通り過ぎていっそ虚しくなるほどストレスを感じている。
だが同時にめざとく、戦闘前に『挨拶を行い』『先攻を譲る』という縛りを掛けておいた直哉の調子は上々。どう考えても道義的に無防備な直哉を先に殴った五条悟が『悪い』ことも相俟って、彼の呪力効率は普段以上の低燃費を叩き出し、自然回復分の呪力で回す反転術式ですら、切った端から腹が治る超回復を実現できている。
そんな絶好調の直哉だが、それで居て『まぁ勝てんやろな』と考える冷静さは、彼の脳に残っている。
投射呪法と無下限の相性は、想像を絶する程に最悪。いかなる超スピードで走っても、所詮はアキレスと同じく『亀』には追いつけないというのが、無下限術式を相手にした際の絶望的絶対法則なのだ。
つまり、直哉が五条悟を倒すには、無限の防壁を展開できなくなるほどに五条悟を疲弊させる必要があるのだが……。
「そんなんな 三日三晩は 掛かるやろ。呪力効率 良すぎやアイツ。……せやけどな、泣き寝入りいう ガラやない。せめて度肝は 抜かせて貰う」
そう呟くと同時に直哉は術式を起動し、『伎芸天印』と『合掌』を各6回、往復する様に繰り返す。
————禪院直哉は縛りによって、『領域展開(8文字)』が非常に言いづらい。
その欠点を、印相を繰り返すことで詠唱の代替とし、更に印相を結ぶ際に自身の術式を行使することで、『0.1秒での領域展開』を可能としたのは、直哉自身の弛まぬ努力と入念な術式の再解釈によるもの。
『
特級術師 禪院直哉の投射呪法、その極致が今、解放される————!