禪院直哉が展開した領域『
まず、この領域だが、意味不明な事に外界に影響がほぼ無い。というより、外界と領域内を隔てる境界が、見かけ上存在しない。
というのも、直哉はこの領域の展開範囲を、自身の表皮を外殻とした体内に限定しているからだ。
そして、領域展開の旨みの大部分——領域内に対象を捉えれば術式は必中必殺となる——を切り捨てた上で、結局その領域に付与されている術式は『投射呪法』にしか過ぎないのである。
————ただし。当然ながらその投射呪法にこそ、この領域展開の真髄が詰め込まれている。
「ッッ!?!!? 速ッ!?」
————展開されていた無下限術式に阻まれたとは言え、一瞬にして五条悟を『蹴り付けた』直哉の速力は、数値にしてマッハ33に到達し、同時に発生した『黒閃』が無限の防壁諸共五条悟を上方へと吹き飛ばす。
だが、この異常な速度を発揮している筈の直哉の周囲は、あまりにも『平和』なものだった。
本来、直哉の 極ノ番である
だが、現実には、衝撃波を発生させているのは吹き飛ばされた五条悟のみ。
そして、空中で派手には身動きが取れない五条に対し、更に増速して空中を駆ける直哉は、空中で何度も五条をドリブルし、その身体をハチャメチャなGで揺さぶり回す。
空中で響く激突音の雨霰と、最早肉眼は疎か呪力で強化された六眼ですら到底追えぬ速度に到達し、空中に黒閃の軌跡だけを残して飛び回る直哉。
高専校舎を壊さぬ様に、敢えて空中戦に拘る程度には理性を残している直哉だが、それでも先程の鬱憤を晴らすかの様に一方的に五条悟を蹴り飛ばしまくる表情には喜悦の色が見え隠れし、『無意味』であっても一方的に攻め続けている現状は直哉のストレスを実に発散させてくれる。
そんな、直哉にとって至福の制裁時間が終わりを迎えたのは、高速移動中でも一切影響なく地上を見据える直哉の目が、グラウンドに駆けてくる夜蛾正道と家入硝子の姿を捉えたがゆえのこと。
トップスピードであるマッハ100に到達したその状態で、五条悟に全速力でタックルを叩き込み、そのまま地上に着弾した直哉と五条悟は、校庭に派手なクレーターを作る————事はなく、空中で姿勢を器用に変えた直哉は地上に音もなくストンと落下して、そのまま五条悟を投げ捨てた。
「無傷かい 自信無くすわ ホンマにな。普通やったら とうに死んどる」
「お゛ェ゛ぇ゛ぇぇ……ヴッ、オエッ、よ、酔った……ヴッッッ!? 」
「車酔い 程度で済むて おかしいで。マッハで蹴って お手玉されて」
などと、自信喪失気味に自嘲した直哉は、自身の領域を解除し、『物理法則の世界』に舞い戻る。
————領域展開『
領域展開中、直哉の身体は『触れたものを停止させる順転』『触れたものを自由に動かす反転』『自身の動きを分割し際限なく加速する順転』の効果を同時並行的かつフルオートで発動。
それにより『大気を反転で「退かせる」事で空気抵抗を完全に無視して加速』したり、『無限に触れる直前で停止させた大気に蹴りをブチ当てて黒閃の空間の歪みで無限ごと五条悟を蹴る』といった通常時では到底不可能な術式行使が実現し、直哉は領域展開中、事実上『無敵化』する。
だがそれは、例えるならば『スターを取ったマリオ』的な無敵性。接触しない限り発動しないその術式は、やはり、五条悟に根本的な意味では通用しないのだ。
が、今回はまだ五条悟も発展途中という事なのか、一応無限ごとあちこちに蹴りまくった事で一矢報いる事はできた様だった。
「せんせー! バカがゲロ吐きました!」
そんな、家入硝子の言葉通り、五条悟は嘔吐し、青い顔で鼻水を垂らしている。その背中をさする夏油傑も何処か『バカかコイツ』という哀れみの表情を五条に向けているのを見れば、直哉も少しは五条悟に勝った気にもなれると言うもの。
まぁ、直哉的には全く攻撃が届いていない以上勝利には程遠いと思っているのだが、縛りは一応『引き分け』判定だったのか、腹切りはしなくても良いらしい。
そして、そんな直哉の前に、沈痛な面持ちで立つ厳つい男が1人。
「硝子、自業自得のバカは放っておけ。……ッフゥ、その、なんだ。申し訳ない。悟の件についてはこちらの監督不行き届きとして正式に謝罪を————」
「こっちもな ゲロ吐かせたし かまへんよ。両成敗で 話は済むわ。あぁそうや 僕の着流し 破れてな 替えを
「……御配慮痛み入る。すぐにでも手配しよう。……本当に申し訳ない」
などとペコペコと14歳に頭を下げる夜蛾。生まれてこの方マトモでは無い大人ばかり見てきた直哉からすれば、その姿はちょっと真っ当すぎて眩しく映るほどだ。
だが、直哉としては、そんな夜蛾の振る舞いよりも、その背後で介抱されている五条悟の方が気になるのもまた事実。
「悟、今回は流石に私もちょっとどうかと思うよ? 先生滅茶苦茶頭下げてるし。大体、入学してから手合わせやればどうにでも言い訳が立つじゃないか」
「オ゛ロロロロ……オェッ……あ゛〜。そうか、そうだな。後輩になりゃどうにでも……」
「いやいや、今回ので懲りないのか? 何故そこまで彼に執着する?」
「……アイツ、俺に勝てないだけで俺より強いし、ムカつくんだよね。で、アイツに勝つならアイツと戦うしかないじゃん……ヴォエッ……」
「悟……その理論、多分ジャンプの漫画でしか通じないんじゃないかな……」
なんてやり取りをしているあたり、入学後からもあの『先輩』はこちらに絡んでくるつもりらしい。
どうやら、自分の学生生活はそう楽なものでは無さそうだと感じて1人苦笑する直哉。
それに対し、勝手に深読みした夜蛾が補助監督に一刻も早く着流しを手配させようと駆け出し、色々と一悶着があった様なのだが、それはまた別の話である。