特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第20話

 時は少し流れて、本日は2005年12月22日。ベガス旅行を2日後に控えたこの日、直哉は意外な事に、甚爾から真面目な相談を受けていた。

 

「術式が 発現したん? 恵くん。……えらい深刻 そうな顔やね?」

「……まァな。流石に俺も、多少はな。呪霊狩りさせてたのが効いたんだろうが……あのガキ、相伝を発現させやがった」

「その感じ 俺と一緒や 無いんやね。十種の方か そら困るわな」

 

 そう告げる直哉の顔も、事態を把握してしまえばそれなりに真剣にはなるその情報。

 

 ————十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)。それは、複数の家系を取り込み幾つもの相伝術式を有する禪院家における、最古にして最強の術式。

 

 今のところ禪院史上最強の術師は直哉だが、術式の格で言えば直哉の扱う投射呪法は、十種影法術の足元にも及ばない、と言えばその凄まじさとマズさがわかるだろうか? 

 

「甚爾くん もう禪院と ちゃうもんな コレは確かに 面倒事や」

 

 具体的には直哉が神妙な面持ちでそう呟く程度にはマズい。今この情報が禪院家に知れれば、余計な行動を起こしそうな(バカ)に滅茶苦茶心当たりがあるからというのもあるが、真っ当に考えても、次期当主候補に俄かに躍り出るほどには、その術式には価値があるのだ。

 

「だろ? ……俺もな、この一年で鈍っちまったのか、ヤキが回ったのか、今じゃあのガキに情が湧いちまってる。クソ実家に売り飛ばすのを躊躇う程度にはな」

 

 そう告げる甚爾の顔に浮かぶのは、苦々しい様な、後悔する様な、なんとも言えない苦笑い。そして、それを聞いた直哉の顔に浮かぶのも、困った様な苦笑だった。

 

「それ俺に 言ってええんか? 甚爾くん」

「お前も内心クソみてえな実家だと思ってんのは知ってんだよ。……で、だ。どうする? いっそ禪院家皆殺しにするか?」

「アホ抜かせ 流石に俺も 無視出来ん。それよか『縛り』 結ぶべきちゃう?」

「……誰と?」

「次期当主 今ここにおる 俺やけど?」

「いや、お前が正直一番ヤバ……いや、そうか。次期当主の面倒事に巻き込まねえ為なら、そういう手もあるか?」

「甚爾くん 結構マジで 焦っとる? ヤバい相手に 相談するか? まぁええわ、気付いたんなら 早いわな。『次々期当主』に 据えりゃええねん」

「……出来るのか?」

「箔付は かなり必要 やろうけど それは正直 君次第やね」

「俺か? 俺なんざ、正直戦う以外能がねえ猿だぞ? 俺に何が出来るってんだよ」

「甚爾くん 忘れてへんか 十種には デカい縛りが 掛かっとんのを」

 

 そう告げられて、甚爾が思い出すのは、禪院家で学んだ旧い記憶。その中に、家中では有名な逸話として、直哉の言う『デカい縛り』が確かに存在していた。

 

「……。ハッ、なるほどな……お前も当然、手伝うんだよな?」

「恵がな 俺と縛りを 結ぶなら 助けたるのも 吝かちゃうで」

「構わねえだろ。アイツの為にやるんだ、将来文句を言おうが無視すりゃいい」

「そうかいな。そしたら俺も 手伝おか。少し早めの クリスマスやね」

「誕プレも込みで良いだろ。なんなら年玉もな」

 

 そんな会話を交わしつつ、伏黒甚爾と禪院直哉、従兄弟同士の『最強』は、伏黒恵に『箔を付ける』為の一計を案じ、翌日の決行に向けて策を練るのであった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 そして、翌日。

 

 禪院直哉の術式により昨晩の内に東京都小笠原村にある無人島 姪島(めいじま)へとやってきた伏黒恵と伏黒甚爾、禪院直哉の3人は、結界を念入りに張った無人島の森の中で、とある儀式に挑もうとしていた。

 

「恵。昨日言った呪詩は覚えてるな?」

「う、うん」

「よし、合図したら唱えろよ。……直哉、お前の準備は」

「もう済んだ 始めてええで いつでもな」

「よし、恵、唱えろ。呪力を込めるのを忘れんじゃねえぞ」

「わ、わかった————」

 

 いつになく真剣な保護者2人が放つ空気に、自然と恵にも緊張が走り、彼は唾を何度も飲みながら、ファイティングポーズの様な独特の印相を組み、ゆっくりと術式に意識を向ける。

 

 

————ふるべ ゆら ゆら

 

————やつかのつるぎ

 

————いかいしんしょう まこら

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