時は少し流れて、本日は2005年12月22日。ベガス旅行を2日後に控えたこの日、直哉は意外な事に、甚爾から真面目な相談を受けていた。
「術式が 発現したん? 恵くん。……えらい深刻 そうな顔やね?」
「……まァな。流石に俺も、多少はな。呪霊狩りさせてたのが効いたんだろうが……あのガキ、相伝を発現させやがった」
「その感じ 俺と一緒や 無いんやね。十種の方か そら困るわな」
そう告げる直哉の顔も、事態を把握してしまえばそれなりに真剣にはなるその情報。
————
今のところ禪院史上最強の術師は直哉だが、術式の格で言えば直哉の扱う投射呪法は、十種影法術の足元にも及ばない、と言えばその凄まじさとマズさがわかるだろうか?
「甚爾くん もう禪院と ちゃうもんな コレは確かに 面倒事や」
具体的には直哉が神妙な面持ちでそう呟く程度にはマズい。今この情報が禪院家に知れれば、余計な行動を起こしそうな
「だろ? ……俺もな、この一年で鈍っちまったのか、ヤキが回ったのか、今じゃあのガキに情が湧いちまってる。クソ実家に売り飛ばすのを躊躇う程度にはな」
そう告げる甚爾の顔に浮かぶのは、苦々しい様な、後悔する様な、なんとも言えない苦笑い。そして、それを聞いた直哉の顔に浮かぶのも、困った様な苦笑だった。
「それ俺に 言ってええんか? 甚爾くん」
「お前も内心クソみてえな実家だと思ってんのは知ってんだよ。……で、だ。どうする? いっそ禪院家皆殺しにするか?」
「アホ抜かせ 流石に俺も 無視出来ん。それよか『縛り』 結ぶべきちゃう?」
「……誰と?」
「次期当主 今ここにおる 俺やけど?」
「いや、お前が正直一番ヤバ……いや、そうか。次期当主の面倒事に巻き込まねえ為なら、そういう手もあるか?」
「甚爾くん 結構マジで 焦っとる? ヤバい相手に 相談するか? まぁええわ、気付いたんなら 早いわな。『次々期当主』に 据えりゃええねん」
「……出来るのか?」
「箔付は かなり必要 やろうけど それは正直 君次第やね」
「俺か? 俺なんざ、正直戦う以外能がねえ猿だぞ? 俺に何が出来るってんだよ」
「甚爾くん 忘れてへんか 十種には デカい縛りが 掛かっとんのを」
そう告げられて、甚爾が思い出すのは、禪院家で学んだ旧い記憶。その中に、家中では有名な逸話として、直哉の言う『デカい縛り』が確かに存在していた。
「……。ハッ、なるほどな……お前も当然、手伝うんだよな?」
「恵がな 俺と縛りを 結ぶなら 助けたるのも 吝かちゃうで」
「構わねえだろ。アイツの為にやるんだ、将来文句を言おうが無視すりゃいい」
「そうかいな。そしたら俺も 手伝おか。少し早めの クリスマスやね」
「誕プレも込みで良いだろ。なんなら年玉もな」
そんな会話を交わしつつ、伏黒甚爾と禪院直哉、従兄弟同士の『最強』は、伏黒恵に『箔を付ける』為の一計を案じ、翌日の決行に向けて策を練るのであった。
* * * * * *
そして、翌日。
禪院直哉の術式により昨晩の内に東京都小笠原村にある無人島
「恵。昨日言った呪詩は覚えてるな?」
「う、うん」
「よし、合図したら唱えろよ。……直哉、お前の準備は」
「もう済んだ 始めてええで いつでもな」
「よし、恵、唱えろ。呪力を込めるのを忘れんじゃねえぞ」
「わ、わかった————」
いつになく真剣な保護者2人が放つ空気に、自然と恵にも緊張が走り、彼は唾を何度も飲みながら、ファイティングポーズの様な独特の印相を組み、ゆっくりと術式に意識を向ける。
————ふるべ ゆら ゆら
————やつかのつるぎ
————いかいしんしょう まこら