特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第21話

  八握剣(やつかのつるぎ) 異戒神将(いかいしんしょう) 魔虚羅(まこら)

 

 それは、十種影法術における最強の式神にして、同時に未だかつて十種影法術の使い手が十全に使用できた事がない式神である。

 

 そも『十種影法術』とは影を媒介にした式神を操る術式ではあるが、全10種類の式神のうち、最初から使役できるのは『玉犬』と呼ばれる犬の式神のみ。

 

 その他9種類の式神については『調伏』を行う事で支配下に置く事ができ、その調伏は術者単独——式神と呪具は使用可能——で行う必要がある。

 

 調伏に失敗すれば待つのは服従していない式神による『術者殺害』。調伏に他者が介在すれば、たとえ式神の打倒に成功しても調伏は不成立となるという実に厳しいその条件は、『縛り』として働き、十種影法術の威力を強烈に引き上げる要因となっている。

 

 そして、その上で 八握剣(やつかのつるぎ) 異戒神将(いかいしんしょう) 魔虚羅(まこら)は、『最強の式神』とされている。これが意味するのは即ち、どう頑張っても『十種影法術の使い手は十種影法術では 八握剣(やつかのつるぎ) 異戒神将(いかいしんしょう) 魔虚羅(まこら)を調伏出来ない』というあんまりにもあんまりな事実。

 

 何せ、 八握剣(やつかのつるぎ) 異戒神将(いかいしんしょう) 魔虚羅(まこら)はその他九つの式神を全て合わせたよりも遥かに強靭な式神であり、また同時に『最強の能力』を有する存在なのだ。

 

 その能力とは、『あらゆる事象への適応』。火で焼かれれば火への耐性を身につけ、水責めを喰らえば水中に適応し、生き埋めにしてもモグラの様に地中を自在に這い回る様になるその能力は、五条悟とも禪院直哉ともまた異なる『最強』。

 

 これを下すには、初見の攻撃による完全一撃必殺をおいて他になく、元々のフィジカルにもかなり優れる 魔虚羅(まこら)に対してそこまでの火力を瞬時に叩き込めるものはほぼいない。

 

 だが。今この日、この時に限っては、決してその限りではない。

 

 恵の詠唱が完了し、『恵1人』での調伏の儀が開始されたその直後、森の木々を突き破り、音の壁すら突き抜けて、 魔虚羅(まこら)に迫る男が1人。

 

 それは、直哉の『録我呪法』を受けた事でより強烈な初速を得た伏黒甚爾。彼こそが、 魔虚羅(まこら)を恵が使役しうる、唯一無二の可能性。

 

 完全なるフィジカルギフテッドである伏黒甚爾は、呪術的には透明人間。一切の呪力を持たないが故に、呪術的には『いないもの』として扱われる存在だ。

 

 それは即ち、 魔虚羅(まこら)の調伏において、伏黒甚爾が手を貸したとしても、呪術的には『伏黒恵による単独討伐』が成立するという事実に他ならない————! 

 

「————死ィねよやァァァッッ」

 

 そんな咆哮と共に、振り翳されるのは伏黒甚爾が禪院家から拝借した特級呪具『釈魂刀』と『天逆鉾』。

 音速を遥かに越えた速度で振るわれる短刀と長刀の変則二刀流は、裂帛の気合いと黒い火花の輝きと共に 魔虚羅(まこら)の身体を深々と十字に切り裂き、トドメとばかり打ち込まれた甚爾の蹴りが、十字の中央を蹴り抜いて 魔虚羅(まこら)の心臓を完全に破壊する。

 

 この間、僅か0.2秒。

 

 流石の 魔虚羅(まこら)と言えども適応しようのない短時間で『魂ごと切断する斬撃(黒閃発動)』『術式を強制解除する斬撃(黒閃発動)』『天与の怪物から放たれる最高火力の飛び蹴り*1』を打ち込まれれば、もはや敗北は必然。

 

 とはいえ油断は禁物。形状を保てず、ドロリと影に溶けた 魔虚羅(まこら)が完全に消え去ったのを確認してから漸く残心を解いた甚爾は、蹴りの反動でへし折れた足を痛そうに触診しながら、恵に向けて言葉を放つ。

 

「どうだ、調伏出来たか?」

「えっと、多分……?」

「ハッキリしねえやつだな。呼んでみりゃわかるだろ。もう一回出してみろ」

「え、ええっと。ふるべ————」

 

 そんな困惑と共に再び呼び出された 魔虚羅(まこら)には、先程までの剣呑な雰囲気はなく、恵との間に確かな主従関係が構築されているのが見て取れる。

 

 それに一安心してか、ドサリと音を立てて尻餅をついた甚爾は、そのまま仰向けに倒れて荒い息を吐き散らし、後詰めとして控えていた直哉が駆け寄ってきた直後、「終わったから寝る」と言い残して、そのまま目を閉じた。

 

 結局、極度に疲労したらしい甚爾が目を覚ますのは、その日の夕暮れ。直哉が担いで運び込んだ自宅のベッドの上で、布団に潜り込んだ恵に縋りつかれての事となる。

 

 この日以降、恵は甚爾をキチンと『父さん』と呼ぶ様になるのだが、それはまた、後の話であった。

 

*1
意味不明なことに一番威力が高かった

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