特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第22話

 へし折れた筈の脚が寝たらパーフェクトに治った甚爾と、お父さんの凄いところを見て結構見直した恵くん、そして津美紀、真希、真依の仲良しマジカル3人娘を連れてベガスを訪れた直哉が、なぜかやたら自分を狙ってくるスリ*1を警察に突き出しまくった家族旅行から早数日。

 

 新年を迎えた伏黒家の面々は、この日、一応の親戚付き合いとして禪院家の正月行事に参加していた。

 

 無論、甚爾は死ぬ程嫌がりはしたのだが、この一年で丸くなったと自嘲する通り、最終的には恵のお披露目として渋々参加を決定。

 

 真希と真依も正直言って帰りたくは無さそうだったが、直哉が行くならと苦渋の決断。

 

 そして、よく分かっていない恵と津美紀はといえば、借りてきた猫の様に不安げに周囲を見渡している。

 

 本来ならそんな彼らの内、津美紀、真希、甚爾の非術師3名は禪院家の敷居を跨げば酷い罵声と陰口を浴びるのは必定。

 

 だが、今日この日、彼らに仲良く付いて回っている禪院直哉の存在が、禪院家の面々に一切の悪罵を放たせない。

 

 ————五条悟と互角に戦い、蹴りまくってゲロを吐かせた次期当主。

 

 そんな圧倒的な格が、強者にはとことん服従する禪院家の面々を威圧しているのだ。

 

 だが、それだけで流石に完全に沈黙するかと言えば、話は別。今日の宴席が葬式場より静かになっているのには、もう一つ理由があった。

 

「あ・け・お・め〜! ……どうしたの? 空気悪いね?」

「悟くん 君のせいやで 何でおる?」

「いや普通に新年の挨拶に?」

「絶対に 嘘やろそれは 去年まで 全くそんな 話無いやん」

「まぁね。挨拶は建前。この時期なら絶対実家に帰ると思ってさ〜。戦おうぜ後輩」

「悟くん ジャンプのキャラか? 悟空やん? バトルジャンキー なってもうたん?」

「誰かさんにバチボコに蹴られたせいで、初めて真面目に修行したからそうかもね?」

「やめてえや 俺相性で 絶対に 引き分け以上 ならへんのやで?」

「じゃあ引き分けだったら直哉の勝ちでいいよ」

 

 などとニコニコスマイルで次期当主に喧嘩を売っている五条悟。一応直毘人に話は通してこの場にいるらしい彼の存在が、並み居る禪院家の面々を沈黙させているのである。

 

 そして結局「せっかくの機会だ、次期当主の強さを皆に見せつけてみろ」という直毘人の鶴の一言により、10分間という制限の元で、直哉と五条悟のリベンジマッチが開催される運びとなったのである。

 

「……厄日やわ、いや厄年か? お祓いに 行ってええかな これが済んだら」

「その前に病院だろ?」

「嫌すぎる この時期どこも 混んどるし……まぁ始めよか 嫌々やけど」

 

 そんな軽い会話と共に、構える両者。今回は正々堂々の試合ということもあり『勧善』『懲悪』の縛りは沈黙しており、状況はイーブン。

 

 その状況で、まず仕掛けたのは直哉だった。

 

『幻影』(ホログラム)『瞬閃』(ストロボライト)『音衝』(インパルス)————!」

 

 開幕での、拡張術式3連発。縛りによって術式の呪詩を省いても『詠唱したことになる』直哉の場合、拡張術式の名を口にするだけでも、十分以上の効果が出る。

 

 そして、今回直哉が使った術式の構成は、周囲の光を停止させることで、1秒間その場に虚像を残す『幻影』、高速移動に『瞬間的な一時停止』のコマを組み込むことで、残像を生じさせる『瞬閃』。そして、停止させた空気を高速で殴り付けることで、呪力を込めた不可視の空気砲を放つ『音衝』。

 

 それらの組み合わせによって生み出されるのは、無数に分身した直哉から一斉に放たれる空気砲の雨霰。しかもその何れもが『黒閃』を帯びている以上、空間の歪みによる衝撃は、『無限ごと』五条悟を弾き飛ばし得る。

 

 ちょうど前回とは逆に、五条悟がどの様にこの攻撃を捌くのかを確かめるべく『見』に回った直哉の眼前で起こるのは、無限の防壁による空気弾の完全防御。

 

 だが、その防御結果に対して、直哉の脳は警鐘を鳴らし、胸中に生じた『違和感』を分析。五条悟が編み出した『カラクリ』に、凡その見当をつけていく。

 

「あの威力 受けて一歩も 動かんか……さては自分に 『蒼』使っとる?」

「キッショ……なんで分かるんだよ、六眼もない癖に」

「無下限の 順転だけで 考えた 場合は『蒼』が 第一候補。そこからは 連想ゲーム するだけや……どうせ足元 抑えたんやろ?」

「まぁ、そりゃそうか。確かにな。じゃ、こういうのはどうだッ!」

 

 そう告げた五条悟が放つのは、不可視の力場である『蒼』。だが、今までの運用と異なるのは、その力場が数珠繋ぎの輪を成しているという点だ。

 

「うわ危な、引き千切られる とこやんか。試合で使う もんやないやろ……!」

「いや、なんで避けれんだよ」

「山勘で 空気を止めて その隙に 力場の中を 抜け出したんや。俺じゃなく 他の奴なら 死んどるで?」

「まぁ、他の奴じゃなくオマエだし良いだろッ!」

「連発は やめえやホンマ 怖すぎる!」

 

 周辺を巻き込む勢いの大量の『蒼』の力場を生成し、力場の中間にある空間ごと直哉を引き千切らんとする五条悟と、その死の空間の隙間を縫って空を駆け、避けきれぬと見るや黒閃で力場を弾き飛ばしてゴリ押しで生存を図る禪院直哉。

 

 攻勢に出ているのは五条で、戦いの趨勢は互角というよりはジリ貧。であれば必然的に、状況打破の札を切る側は守勢に回らされている直哉になる。

 

 直後0.1秒で結ばれる6重の印相と共に、禪院直哉は『無敵』と化して、五条悟に吶喊する。

 

魂極(たまきはる) 憂世夢(うきよのゆめの)走馬燈(そうまとう)!」

「ッ! 出たな無敵モードッ!」

 

 何もかもを一方的に轢殺し、何者にも囚われぬ直哉の領域展開。

 

 自らの肉体を領域とし、五条悟が生成する『蒼』の弾幕を吹き飛ばしつつ、黒閃による空間の歪みで無限を殴り付ける極限の曲芸。

 

 その攻撃に対し、先ほど同様『蒼』で自身を固定する事で耐える五条だが、突き抜ける様な黒閃の衝撃は五条の肉体を容赦無く襲い、決して無視出来ぬダメージがその身体に蓄積する。

 

「無理矢理に 踏ん張るからや アホちゃうか!?」

「うるせぇ! 吹き飛ばされなきゃ、コッチにもやり様はあんだよッ! 『位相』『黄昏』『智慧の瞳』————術式順転『蒼』ッ!」

「このドアホ!? 自爆する気か!? 他人(ひと)()で!?!!? 幻燈に 映る一夜の 影法師! 拡張呪法、第四乃壁!!!」

 

 五条悟のカウンター気味の術式と、それを察した直哉による結界の構築。

 

 奇しくもほぼ同時に成立した両者の術式は、一瞬の拮抗ののち、直哉の結界が内側に圧壊する形で収束する。

 

 禪院家の中庭を結界諸共に抉り取った凄まじい範囲の『蒼』の一撃の末に、中空に生成されたのは巨大な土塊。

 

 無限によって超圧縮され、岩石と化したその塊が、庭に落下したその直後、地響きと共に割れたその中から、目を回す2人の特級術師が仲良く転げ落ちた。

 

「こりゃまぁ、引き分けか? ならば五条の坊の前言通り、直哉の勝ちだ! ————おい、甚壱。2人を運んでやれ!」

 

 そう宣言し、呵呵大笑する直毘人と、ドン引きするその他大勢。そして、当主直々に指名され、ため息と共に2人を担ぐ禪院甚壱。

 

 禪院家の正月は、平穏とは程遠い色を帯びて、再び宴席に舞台を移すのだった。

*1
見た目があまりにも金持ちのボンボン過ぎたのが敗因。




直哉「サンタさん クリスマスのな プレゼント 支援絵とかが 欲しいかもやで」(強欲な壺フェイス)
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