特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第23話

 五条悟との試合からおおよそ半時間。

 

 あの後程なくして目覚めた両名は、かたや満足げな五条悟と、かたやげんなりとした直哉という対照的な表情ながら、仲良く隣同士でお誕生日席に座っていた。

 

「直哉お前、さっきから野菜しか食ってないじゃん。肉食えよ肉」

「食われへん。せやからそない 盛られても 困るんやけど……真依ちゃん食うか?」

「う、うん」

「お前ベジタリアンなの? その(つら)で?」

「その面て どんな面なん 俺の面」

「女と肉と酒を浴びる程かっ喰らってそうだし、女めっちゃ殴りそうじゃん」

「ボロカスか? 人非人やん そんな奴。禪院で 一番紳士 なんやけど?」

「ははは、そうかもな。ちびっこ連中も懐いてるみたいだし」

 

 などと、年相応な会話を交わす彼らは、傍目には友人同士に見える——五条は実際友達だと思っているが、直哉は内心面倒がっている——程には馴染んでおり、その周囲にいる子ども達も、五条が直哉に食わせようと勝手に女中に頼んだハンバーグなどのお零れに与って、少しは五条に気を許し始めている。

 

 そして、そんな彼らのそばで気儘に飯を喰らっているのが、天与の怪物こと伏黒甚爾。彼は彼で、以前に見物の為密かに五条家に侵入する程度には、複雑なコンプレックスを抱いていた対象の五条悟が、直哉と引き分けたり直哉に戯れ付いたりと『ガキらしい』挙動を示していることで毒気を抜かれている。

 

 そんな、独特の空気感でこの宴席においては基本的に浮いている彼らだが、幾ら禪院家の連中がビビっているとはいえ、宴席の食事と酒が入り始めて久しい現在では徐々に緊張は解け始め、大広間の雰囲気は若干マシなものへと変わっている。

 

 そんな、家中の面々の様子を見極めたのか、当主である禪院直毘人が声を発したのはその時だった。

 

(みな)、宴も(たけなわ)ではあるが、一つ話しておくことがある。少しばかり耳目を此方へ向けよ。……おい、直哉。こっちへ来い。恵もな。……さて。今ここに立っておる禪院直哉。先程あの五条悟と引き分けた儂の自慢の息子だが、コイツが次期当主であることに今更皆も異存はあるまい?」

 

 そう告げる直毘人の言葉に、真っ先に同意を返すのは、躯倶留隊の面々。彼らは基本的に呪霊狩りの職務に邁進している下働きである事もあって任務の際に直哉に命を救われたものも多く、禪院家の人間としては滅茶苦茶に品行方正な直哉の印象は良好である。

 

 そして、それに続いて好感触なのが、宴の席で酌をしたり、料理を配膳したりとクルクルと動き回っていた女性陣。彼女らは皆一様に禪院家の中では肩身が狭く、直哉に対しては『他の男連中よりかなり優しい』というなんとも切ない理由により、ひっそりと好感度が高い。が、同時に家中最強の肩書を酷く畏れてもいるので、纏めれば崇敬の対象になっている様な状態だ。

 

 その一方で、反応が様々なのが、(ヘイ)(アカシ)の面々だ。禪院家における実力者達である彼等のうち、直哉に好意的なのは、真面目*1な性格の甚壱、若さ故に直哉を純粋に尊敬している蘭太。中立中庸といった様子で、「直毘人が言うならそれで良いのでは?」といった雰囲気なのが長寿郎。どう考えてもブチギレているが剣呑な呪力を放つに留まっているのが扇。

 

 そんな賛否両論——否なのが若干一名でも一応両論ではある——な『直哉が次期当主』という話だが、まぁこれについては正直言って、前々から禪院の誰もが知る所。

 

 だが、わざわざその事実を確認する様に告げた直毘人が、次に放った一言は、流石に家中の面々をざわつかせた。

 

「そして、此度はその直哉の直々の指名により————禪院家の次々期当主をこの、甚爾の息子である伏黒恵とすることにする。無論、就任時には禪院恵になってもらうがな」

 

 そんな言葉と共に禪院家の面々に紹介され、ペコリと頭を下げる恵。

 

 そのツンツン頭の幼児に対して、禪院家の反応はまたしても様々だった。

 

 まず、女性陣と躯倶留隊に関しては、シンプルに寝耳に水で困惑している。これについては、まぁ当然の反応だろう。

 

 一方で、『何かあるな?』とその電撃就任の裏を思案しているのが、甚壱、蘭太、長寿郎といった実力者達。中でも、甚爾の実の兄というだけあってゴリゴリのゴリラの様な見た目でありながら頭も回る甚壱は「まさか————?」と何かに勘付いたように甚爾に視線を向け、『あっかんべー』という舐め腐った反応を返された事で、何故か自身の直感を確信に変えたようだった。

 

 そして、直哉の次期当主ですらブチギレていた、禪院家が誇る妄念の化身、禪院扇はといえば。

 

 ————怒髪天を衝き、席を立って直毘人に詰め寄っていた。

 

「何故だ!? 何故、甚爾の子などという傍流も傍流を当主になどとほざく、直毘人————!」

「知れたこと。直哉の次に恵が強いからよ。のう、恵」

「え゛!? えっと、その? と、父さァん!?」

「いや、事実だろ。シャッキリしろ恵。お前は持ってる側なんだろうが」

「————認められるかァ! どう見てもガキではないかッ! そも、私は直哉の次期当主にも納得しておらん!」

「いや扇、お前、直哉にはコテンパンに負けとらんかったか……? まぁ良い。そこまで言うなら、扇と恵で一手試合うてみれば良いではないか。それで家中の皆も納得するだろうて」

 

 そう言ってガハハと笑う直毘人に対し、顔を青くする恵と、逆に顔を赤くする扇。そして、「クソ親父 こうするつもり やったやろ。せめて俺には 事前に言えや」とボソボソと愚痴る直哉。

 

 そんな彼等と直毘人を先頭に、再び禪院家の中庭にある修練場——先程の損壊は長寿郎が術式でサクッと修復——にゾロゾロと足を運ぶ禪院家の面々は、その後、直毘人立ち会いの元行われた真剣勝負によって、次々期当主・伏黒恵の存在を受け入れるのだった。

 

 何しろ————

 

「布瑠部由良由良!  八握剣(やつかのつるぎ) 異戒神将(いかいしんしょう) 魔虚羅(まこら)ッ!」

「馬鹿なッ!?!!?」

 

 ————といった具合で扇が 魔虚羅(まこら)に目の前でボコボコにされてしまえば、文句の出ようワケも無し。むしろ伝説の式神を相手に結構粘っていた扇*2が多少再評価されたまであるレベルで、禪院家の面々は十種影法術の完全継承者である伏黒恵の存在を認めたのである。

 

 そしてそれは、禪院家の未来が2代先まで明るいと言うことに他ならず。

 

 その後の宴席では、直哉と甚爾の監視の目に怯えつつも、それなりに恵の世話を焼く者も増えて、お披露目はまずまずの好感触の内に終了したのであった。

*1
禪院比

*2
ただ、逆にそのせいで魔虚羅が扇の術式に適応し、焦眉之赳を完コピされて打ち返された。

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