第26話
時は流れ、春。先月のホワイトデーにお返しとしてマカロンの詰め合わせを適当に選んで送ったりとそれなりに伏黒家に馴染んで暮らしていた直哉だが、今日この日からは寮生活の高専生。
これから5年をこの東京都立呪術高等専門学校で過ごす事となった彼は、伏黒家の面々や許嫁の真希、真依達に一時の別れを告げた————筈、だったのだが。
「いや待てや、なんでおるんや 甚爾くん」
「甚爾くんじゃねえ、伏黒
「これ以上 無いほど似合う 職やけど どういう風の 吹き回しなん?」
「恵の次々期当主就任にあたって、俺がプー太郎っつーか、呪詛師寄りのフリーランスだと困るんだと。それで、直毘人のジジイがねじ込んだらしいぜ? ほれ、特別一級の教員証」
「ええんかい、上層部ほぼ 加茂家やろ? 揉めたりせんの? 老害どもと」
「俺が知るかよ。……ほれ、着いたぞ。お前の教室。俺は職員室行きなんで、また今度な」
「まぁせやね まだ納得は いかんけど また話しよ 放課後とかに」
「おう、じゃあな」
なんて会話をこなした通り、なんと高専に就職したらしい甚爾と校門で再会してしまったのである。
まぁ、軽く理由を聞けば事情には納得が行かなくも無いのだが、黙っていた理由は確実にからかいの為だろうなと当たりを付けた直哉は、さっきまでちょっとしんみりしていた筈の空気を粉砕されて、もはや苦笑する他ない。
だがまぁ、新環境に1人よりかは確実にマシだと思い直し、職員室へと去る甚爾の背を見送って、直哉は自身の教室の戸を開け、学友との対面に臨むのだった。
* * * * * *
「なんやねん 1人なんかい 今の俺」
「……済まないな、禪院、いや名で呼ばせてもらおうか、直哉。残る1年生は今のところあと2名なのだが、高専はスカウト入学も多い関係で、入学時期が若干、いやかなり前後する事も多くてな。直哉以外の2人は一般家庭出身ということもあり、種々の手続きを経て明日こちらに到着の手筈となっている」
「なるほどな そういう事か しゃあないな。……それよりも 夜蛾先生が 居てるんは なんでなんです? 担任なんか?」
「いや、担任は新人教諭の日下部、副担任は直哉も知っての通り、伏黒甚爾だ。どちらも一級相当、日下部の方は術式無しで一級まで上がった優秀な奴だ、面倒臭がりなのが玉に瑕だが」
「術式が 無くて一級? バケモンか? それかアレなん? シン・陰流か?」
「後者だな。まぁ日下部は今日は2名の新入生の迎えで席を外しているんだが。……で、俺がこうして教室で待っていたのは日下部の代役と、バカの監視だ」
「バカいうと 心当たりが 無くもない————」
そう、直哉が嫌な予感に渋面を作り、片目をヒクヒクと痙攣させた直後。
教室の扉が勢いよく開け放たれ、予想通りの人物が顔を出した。
「よぉ直哉! センセーもどっか行ったし新入生歓迎会しようぜ!」
「————ここに居るぞ、悟」
「ゲェ!? 罠じゃん!」
「行動が読めすぎるオマエが悪い」
が、呆気なく夜蛾に捕獲されたので、直哉としては一安心。夜蛾がコブラツイストを掛けながら聞き出したところによれば、どうやら『いきなり勝負を挑まれる』という最悪の予想は外れ、普通に寮で歓迎会をしてくれようとしていたようなのだが「それならあと2人と纏めて、許可を得て明日普通にやれ。無許可でやろうとするからこうなる」という教師らしいお小言と愛の拳を夜蛾に頂いたことで予定は延期。
直哉はそのおかげで無事に学内のオリエンテーションや教科書類の購買などを終え、夕刻には自身に与えられた寮の部屋へと向かう事が出来たのだった。
が。直哉の受難が、その程度で終わるはずも無く。
「いや何で? 何でおんねん 君らまで」
「は? 直哉の許嫁なんだし普通だろ」
「そうよ、私は弟子でもあるんだし」
寮の自室をある程度整頓した直哉が食堂で出逢ったのは、何食わぬ顔で飯を食う、おマセな許嫁2名。聞けば、甚爾の扶養児童カウントで恵や津美紀諸共教員寮に引っ越したらしく、あまりの「俺に言えや案件」の多さに、直哉は夕食の「林檎と柿のオーブン焼き・メープルシロップ掛け」が冷めるのも忘れて頭を抱えてしまう。
「あの
「誰がアホだって? ロリコン後輩の直哉く〜ん?」
「悟くん 君以外には おらんやろ……もうええ知らん どうにでもなれ……。ああでもな これだけ1つ 言っとくわ 俺の好みは ボンキュッボンや。秘蔵のな 俺コレクション 賭けてええ」
「性癖の開示……! 本気だな! よし傑も呼ぼう! ————もしもし傑、直哉の部屋で直哉のコレクション観ようぜ!」
「いやマジか
「————来たよ、是非参加しよう」
「来るんかい!? そんなキャラなん!? その顔で!?」
などと叫びながら、先輩2人に拉致されていく直哉の姿は、もはやギャグ。急展開の中、残された彼の晩御飯を前に呆然とする双子は、一応の優しさでラップをかけておいてやるのだった。
ちなみに余談だが。
秘蔵のブルーレイ・ディスクにより無事にロリコン後輩の汚名をそそぐ事には成功した直哉は、それが原因で今度は『拝乳ガンダム』の名を拝命する事になり、結局頭を抱える事になる。だが、引き換えに『三十路前髪』と『洋物白髪』という素敵な芸名を先輩2名に贈ったことで、青痣と共に三人の仲は深まったのであった。