特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第29話

「いや〜、昨日は楽しかったね!」

「まぁそうか? そうかもしれん そうかもな……?」

「……結局腹いせのようにやらされましたからね、一発芸と桃鉄99年。酒も飲まされましたし……直哉君の一発芸は凄かったですが……」

「ああ、五条先輩と夏油先輩に『2人はプリキュア』の変身シーンさせた奴! 凄かったね!」

「白黒で ちょうどええかと 思ってな……あの後めっちゃ シバかれたけど」

「しかし、あの時灰原もよく先輩方が動き始めてすぐに『プリキュアだ!』と気付けましたね? 私はサッパリでしたが……」

「妹がいるからね!」

「そういえばそうでした、なるほど」

 

 なんて会話を交わしつつ、朝早くの教室でジャンプを回し読む高校生らしい時間を過ごしている新1年生3人組。

 

 そんな彼らの今日の予定、というか、高専の基本カリキュラムは午前中座学の午後体育。

 

 座学の方は一応普通に高校課程なので良いとして、問題なのは後半の体育。コレはぶっちゃけると戦闘訓練なのだが……。

 

「そういえば 体育教師 甚爾君 やるんやったな 用心しとこ」

「甚爾君?」

「ああそうか 伏黒甚爾 副担な 俺の従兄弟の 兄ちゃんやねん」

「え!? そうなの? ……確かにちょっと顔似てますね」

「言われてみれば確かに……。ところで、一体何を用心するんです? 伏黒先生に何か問題が?」

「いや別に 問題無いで クズやけど。俺の実家じゃ マトモな方や。ただ一つ 注意しとかな アカンのは……普通に俺の 100倍強い」

「は? 一級術師でしたよね、伏黒先生」

「階級以上の秘密がある、って事なのかな?」

「いやちゃうな 誤解しとるわ 特級を。アレはあくまで 破壊の規模や。単独で 国家転覆 できるとな 特級術師 扱いになる。この時に、ポイントなんは あくまでも コレは範囲の 定義やねんな」

「……ああ、なるほどつまり」

「タイマンで 戦った時 一級が 特級術師 ボコボコにする。そういうの 普通にあるで 覚えとき」

「なるほど! 教えてくれてありがとう直哉君!」

「特級はあくまでも、1〜4級とは異なる例外的な階級、というワケですか。なるほど」

「この辺は 後々座学 やるやろし、詳しい事は その時聞きや……まぁそやね 今はともかく 甚爾君 舐めたらアカン 思っといてや」

 

 

 * * * * * *

 

 

 なんて、会話をしてから半日後。無事に座学を終えてグラウンドに集合してみれば、そこにあるのは昨日ぶりの2年生と、ジャージを着た伏黒甚爾の姿。

 

「さてと、何だっけか……ああそうだ。俺の面通しも兼ねて今日は合同、ってのも勿論あるが、今年度からは俺が体育教師になったんで、午後の体育はまとめて合同でやるシステムになったんだってよ。詳しくはアレだ……始業式で配ってた奴、ブラックバス?」

「……シラバスでは?」

「そうそれだ、それを読め。……じゃあ早速だが、別に男の名前なんざ覚えても意味ねえしな。挨拶はいいから、適当に順番決めてタイマンだ。俺とな」

 

 そう告げた甚爾に対し、反応は様々。

 

 まずは事前に直哉から情報を得ている事でちょっと腰が引けている七海と灰原、普通に強さを知っているので一番手はイヤな直哉といった、露骨に警戒寄りな1年トリオ。

 

 そして、そもそも戦闘者ではなく治療者なので体育自体に乗り気ではない家入、どうもしっくり来ていない表情の夏油、頭の後ろで腕を組んで完全に舐め腐った態度の五条という、露骨に気の抜けた2年トリオ。

 

 そんな中で、声を上げたのは、当然ながら気の抜けている側の2年生だった。

 

「はいセンセー、アンタどう見ても一般人以下の呪力だと思うんですけど〜? タイマンとかマジ? 俺らのこと舐めてない? 死んじゃうよ?」

「おい、悟。仮にも先生相手に普通に失礼だぞ……確かに呪力の気配は全く感じないが……」

「夏油も『仮にも』とかクッソ失礼じゃない?」

「あ」

 

 煽りまくる五条、諌めているようで慇懃無礼な部分が出てしまった夏油、完全に他人事な家入という、コレが夜蛾なら説教直行コースな態度の2年生。

 

 だが、そんな煽りに対して、甚爾は実に余裕な表情で言葉を返す。

 

「おー、やっぱ持ってる側の術師様は言うことが違うな。じゃあまずオマエ……えっと、白髪のオマエな。オマエから来い」

「は? マジで言ってんのかアンタ」

「マジに決まってんだろ? 授業だぞ? なんだ、まだ負けた時の言い訳が足りねえのか? なら仕方ねえ、後1分やるわ。伏黒先生は寛大なんでな」

「ぜってー泣かす!」

 

 激昂する五条悟、天へと突き立てられる中指、展開される無限、迸る呪力。現代最強の異能がその牙を剥き、絶対者の顕現に大気は軋み、大地が震える。

 

 ————だが、その直後。

 

 伏黒甚爾の姿が五条の視界から掻き消えると同時に、その拳が無限を貫き、五条の下顎に強烈なフックをブチ込んだ。

 

 天性の才能を持つ五条悟とはいえ、その肉体は人間を逸脱している訳ではない。当然ながら顎に強烈な打撃を受ければ、その後に待つのは脳震盪と平衡感覚の喪失。

 

 だが、そんな状況でも無理矢理意識を保っているのは、むしろ五条悟を称賛すべきなのだろう。

 

「————!?!!? な————は?」

「はい、残念。相手に煽られてキレ散らかす時点で負けてんだろ。んなことも知らないのか術師様ってのは。ケンカの基本だろ? それとも何だ『僕最強だからケンカとかしたことありませーん。一方的に勝つからでーす』ってか?」

 

 などと、地に崩れ臥す五条悟の傍にしゃがみ込んで煽る甚爾の右手には、巻き付けられた黒い縄。

 

「んだ————それッ」

「コレか? ケニアの珍しい呪具でな。使い捨てだが、どんな術式でも相殺出来るっつー便利グッズだ。知り合いの女*1が海外旅行趣味でな。土産に30cmほど貰ったんだが、なかなかどうして便利だろ?」

「ゲホッ……。————ッ!」

「はい、また残念。……ちっと縄の消費がデカいが、今のは『蒼』か? 呪力の起こりが分かりやすいんだよバカ。オマエ、術式と良過ぎる目に頼り切って、それありきで体術構築してるよな? だから、その両方が崩れりゃこのザマだ。激烈な痛みと土の味が久しぶり過ぎて、頭も上手く回らねえんだろ? ……で、どうだ。オマエは俺を舐めてたが、俺はオマエを舐めてたか?」

「————ちく、しょぉ」

「……よし、終いだな。えーっと、家入っつったか。反転使えんだろ? 見たとこ軽い脳挫傷と顎の骨折、ブっ倒れた時の擦り傷ってとこだ。治してやれ」

 

 そう告げて、立ち上がって軽く伸びをする甚爾に対し、向けられるのは圧倒的畏怖の視線、それを心地良さそうに浴びながら、甚爾はニヤリと歪んだ笑みを浮かべて、生徒達を手招きする。

 

「さて、次はどいつだ?」

 

 そう告げる『天与の怪物』に対し、生徒が尻込みしてしまうのは、流石に仕方のないことで。

 

 故に甚爾は、『ど、れ、に、し、よ、う、か、な』と子供が駄菓子を選ぶように指で数えて、次の相手を指名する。

 

 

「お、じゃあ次は前髪、オマエだな」

 

 

 ————伏黒甚爾 対 夏油傑。

 

 

 五条が親友と呼ぶ男の挑戦が、今始まる。

*1
ケツとタッパがデカい特級術師。

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