特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第30話

「ああそうだ。一応ネタバラシだが、さっき白髪をブン殴った呪具は舌の裏に仕込んどいた。良い具合に俺にチッとだけ呪力が有るように見えただろ? 体内ってのは一種の領域だ。並の呪詛師が相手でも、腹に仕込みの一つや二つは呑んでると思え。……今の先公っぽくねえか?」

「そのセリフ 言わんかったら 完璧や」

 

 なんて、得意げに解説コメントを残す甚爾と、その行動を油断なく見つめる夏油。そんな彼の目の前で、甚爾はゆっくりとグラウンドの隅にある用具倉庫に向かうと、大きなボストンバッグを一つ、その中から取り出した。

 

「まぁそこの若白髪以外は、適当な呪具で相手してやんよ。そうだな……まぁコレでいいか?」

 

 などと言いながらバッグを漁り、取り出したるは可愛いピンクの魔法の杖。

 

「……ふざけているんですか」

「おいおい、何でも見た目で判断するんじゃねえよ。呪具なんざ千差万別だろ? オマエ相手ならコレで十分だと思っただけだ」

「……ッ、なるほど?」

「……うん。若白髪よりは優秀そうだなオマエ。ムカついちゃいてもキレちゃいねえし、ガタイもいい。殴り合い上等って感じだな。————格闘技とか好きだろオマエ」

「……。まぁ、はい」

「そうかそうか。なら、こういう相手にゃどうする?」

 

 そう言うが早いか、敢えて夏油が目に追えるギリギリの速さで夏油の背後に回り込む甚爾。

 

 それが誘いだと分かっていてもつい目で追ってしまう『危険な動き』に対し、夏油が選択したのは術式の即時行使。

 

 ————呪霊操術。術式の格では五条の無下限に勝るとも劣らぬその術式の効果は、自身より弱い呪霊、もしくは瀕死まで弱らせた状態の呪霊の捕獲と使役。

 

 そんな恵まれた術式を有する夏油が選択したのは、全方位に雑魚呪霊を放つと言う範囲攻撃。

 

 だが、そんな夏油の一手に対し、甚爾が取ったのは敢えての正面突破。

 

 せっかく背後に回った優位を最も容易く捨て去り、ピンクの杖の一振りで雑魚呪霊を殴り祓う甚爾が肉体言語で主張するのは、雑魚では足止めにもならないと言う事実。

 

 甚爾が呪霊を殴る度、その手に持った杖の先端にある大きなハート型の宝石が輝きを増しているのも不気味だが、何より恐ろしいのは、呪具はせいぜい3級呪具程度の格であるにも関わらず、甚爾が振るえば追加で出した二級呪霊も容易く撲殺されてしまう点。

 

 

 ————純粋に、膂力が常識を超えている。

 

 

 それを理解した夏油は、受け手に回れば確実にジリ貧になると判断し、大量の雑魚呪霊共の弾幕を張りながら、虎の子の呪霊を召喚する。

 

「————虹龍!」

「お、良いじゃねえか! 戦力の逐次投入は悪手ってことぐらいは知ってんだな!」

 

 悉く撲殺され逝く雑魚呪霊達諸共に、一気に伏黒甚爾を叩き潰すべく襲いかかるのは、巨大な龍。夏油が操る呪霊の中で最高硬度の鱗を持つ強力な怪物、虹龍だ。

 

 そんな虹龍に対し、甚爾の取った対応は『とりあえず拳でブン殴る』こと。

 

 当然、呪力の籠らない拳の一撃では呪霊を祓うことは不可能だ。だが、それは呪霊に対し、殴打が無効であるという意味ではない。

 

「硬ェなこの蛇!」

「ただの拳で虹龍を逸らした————!?」

 

 そう、呪霊であっても、物理攻撃による衝撃は無視出来ない。甚爾の猛烈なカウンターアッパーを顎に喰らった虹龍はその突進の方向を逸らされ、夏油傑の視界から甚爾の姿が『虹龍の陰となって』隠される。

 

「しまッ————!?」

「今のを『しまった』と思えるのは上等だがよ! 思う暇があったら行動すべきだな! ————『皆の思いを光に込めて! 必殺! マジカル真依ちゃんバニッシュ!』ってなァ!」

「は————?」

 

 ————コイツ、このオッサン、今なんて言った? 

 

 そんな思考のノイズが走ったその直後、一瞬でも『気を逸らした』夏油に容赦無く襲いかかるのは、甚爾が持つピンクの杖から解き放たれた、強烈な呪力の奔流。

 

 虹龍による防御は間に合わないと判断し、肉体を全力の呪力で強化してそれに対抗する夏油だが、あまりの高出力に膝を屈し、息を切らして脂汗をかくまでに追い詰められ、駆け寄ってきた甚爾に脳天ギリギリで寸止めされた唐竹割りを振るわれてしまう。

 

「はい終了。オマエ、やっぱ真面目ちゃんだな。戦場で意味不明なことが起こった時に考えを巡らすのは良い傾向だが、同時に身体が動いてねえなら意味がねえぞ。思考と戦闘のどちらかじゃなく、どっちも一気にやれ。そうなってねえから、この棒切れみてえな面白オモチャでやられちまうんだぞ? 戦ってる最中に頭が真っ白になったらそこで死ぬと思えよ」

「……参りました」

 

 そう告げて、仰向けに倒れる夏油は荒い息を吐きながらも、甚爾に指摘された自身の弱点を反芻する。だが、その過程でどうしても思考にノイズが過り、流石に我慢できなくなった彼は、自分をヒョイと担ぎ上げた体育教師に質問を投げる。

 

「伏黒先生」

「ん? 何だ」

「……その呪具は、一体?」

「呪術少女マジカル真依ちゃんの基本武器『マジカル真依ちゃんメイス』だな。先端の宝石で呪力を吸収して一気に開放する『マジカル真依ちゃんバニッシュ』が必殺技だ」

「————なんて?」

「いや、『なんて?』じゃねえよ。だから、呪術少女マジカル真依ちゃんの————」

 

 だが悲しいかな、結局説明されても脳がさっぱり内容を理解できず、混乱するばかりとなってしまった夏油の疑問が氷解する事はない。

 

 その疑問は結局、その日の夕方、学寮の庭でマジカル真依ちゃんに変身して修行に打ち込んでいる禪院真依に偶然遭遇した夏油が彼女に事情を聞く事で晴れるのだが、それはまた別の話だ。

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