土煙舞うグラウンドで、禪院直哉が埋められたり、煽られたり、みんなにバレないように落花の情の応用でこっそり切腹したりしている中で、次なる対戦相手に指名されたのは七海と灰原の初心者タッグ。
「よろしくお願いします先生!」
「よろしくお願いします」
なんて、しっかりと挨拶をする2人の態度に、面食らったのはむしろ甚爾の方。悲しいかな、実家がドブカスだらけの彼にとっては、素直で真面目な術師という存在自体が違和感の原因たり得るのである。
「お、おう。……畏まられるとそれはそれで妙な気分だが、まぁお前らアレか。この前までごく普通の中坊やってたんだったな。一応聞くが、お前らケンカとかした事あんのか?」
「小さい頃ならあります! 呪霊は偶に寄ってくる小さいのくらいなら!」
「私は対人は覚えが無いですね。ですが呪霊との戦闘はそれなりに」
「カーッ、良い子ちゃんかよ……なら、俺は今からテメェらをド素人だと思って教えてやんよ。まず、和風の方」
「灰原です!」
「お、おう。……で、なんだ。えー、灰原。お前の構えだが……まず大前提として拳の握りがイカれてんぞお前。親指握り込んだらブン殴る時に親指が折れちまうし手首も傷める。親指は外に出して人差し指の横だ」
「なるほど!」
「で、洋風の方」
「七海くんです!」
「お前が答えんのかよ……で、アレだ。七海。お前の得物はその鉈か? 悪くはねェが……呪具じゃねえなソレ。使い込みが足りてねえんじゃねえか? 呪具ってのは幾つかパターンがあるが、元々呪具な奴、『浴』で無理やり呪具にした奴に大別できる。んで、お前のは後者に成り掛けってとこだ。もっと毎日呪力を馴染ませてやれ。……って事でそうだな、お前らは全身と武器を呪力で強化しながらグラウンド百周*1でもしてこい。まだ戦闘は早えよ」
などと、あまりにも基礎の基礎からな2人に対して、甚爾が命じたのはシンプルな身体作り。存外マトモなその指導に否やはなく、素直に走り始める2人に「やっぱ素直すぎて調子狂うわアイツら」と理不尽な不満を垂れてから、甚爾は最後の生徒である家入硝子に目を向ける。
「じゃあ最後、家入。お前だな」
「えー、センセー、私治療担当なんですけど」
「ただの医者と戦える医者だったらどう考えても戦える医者の方が良いに決まってんだろうが。つべこべ言うんじゃねえ。……とはいえ、まぁお前が前線に立つのはそれはそれで状況が詰んでるわな。そこでだ」
そう言いながら、甚爾はグラウンドの隅の倉庫の中から『物騒なもの』を取り出すと、硝子に無理やり押し付ける。
「ほらよ。俺と夜蛾のオッサンのコネで特注したモンだ。ありがたく使えよ?」
「いやいやいや……私こんなの持った事ないし……重たッ!?」
そう言って思わずよろける硝子の手にあるのは、いわゆるライフルだ。より正確に言えば『ボルトアクションライフル』。ただ、銃に詳しい者が見たとしても、その型式を当てることは至難の業だろう。何せ、この銃まさかのフルオーダーメイドなのである。
「いやいやいや、無理無理無理……」
「嘘こけ、一般人の女でも鍛えりゃ使える代物が術師に使えねえわけねえだろ。反転が使えて呪力での身体強化が出来ねえ道理が
「まぁそれはそうだけどさぁ……。というかセンセー、これ呪具じゃん」
「おう。そいつのバレルやらに使われてる鉄は、元々中央線のレール、ストックも同じ中央線の枕木だった代物でな。自殺者の血と怨念を吸いまくった立派な呪物だ。良かったな?」
「うげぇ……」
げんなり、と顔に書いてある硝子だが、彼女が何を言ったところで、カリキュラムに組み込まれている以上、抵抗の余地はない。
結局、甚爾の丁寧な手解きを受けて小銃の扱いを学ぶ羽目になった硝子はその後、後輩達に混ざってグラウンド百周を言い渡される事となる。
「ひー、厄日だ」
「一緒に頑張りましょう家入先輩!」
「元気だね灰原。代走頼んで良い?」
「家入さん、普通にバレると思いますが」
「だよねー、あと何周?」
「僕と七海が71、家入先輩が97周です!」
「ひえ〜キッツい〜!」
「ギャハハ、硝子のやつ顔真っ赤じゃん」
「悟くん? 家入さんは 頑張って 走っとるんや。失礼ちゃうか?」
「そうだぞバカ白髪。お前は千周な」
「げ、マジ?」
「マジだ。……夏油、直哉、お前らは百周だ。初心者共に手本見せて来い」
「……はい*2」
「わかったわ。まぁええ機会 かもしれん。真面目にちょっと 走り込もかな」
なんて具合に、ある種体育らしい『身体作り』を行うことになった生徒達は、その後1時間ほど、グルグルと走らされることになるのだった。
なお、1人10倍のノルマを課された五条の為に、優しい伏黒先生が黒縄を手に全力疾走で「術式使ったら殺す、俺に追い付かれても殺す」と追い回し、ちゃんと千周させていたのは完全に余談である。