特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第37話

 『夏油傑ガチ泣き事件』と五条悟の発案による『呪霊玉チャレンジ事件』——喰ったら生死の縁を彷徨って呪力の核心を掴めるかも、という誘い文句で七海と灰原と家入に呪霊玉を喰わせ、夜蛾と日下部に大層ブチ切れられた事件。が、『夏油傑を独りにしないため』という五条の本音を話した結果、夜蛾は呪霊玉を喰ってちょっと寝込んだ*1。——から数日。

 

 五条の悪ノリが変に功を奏し、死に掛けた七海建人がマジで反転に覚醒*2したり、家入が反転術式をフルパワーでブチ込んで呪霊を消し飛ばすゴリラオブゴリラな技*3に目覚めたり、灰原が普通に熱を出して一晩寝込んだ結果、悪夢の中でちょっと呪力の核心を掴んだ*4り、といった騒動はあったものの、概ね高専内は平和そのもの。

 

 夜蛾の手配でオブラートに食紅で呪文を書き込んだ「封印札」が夏油に支給される様になり、彼のQOLが大いに向上、「もっと早く、皆を頼れば良かった」と夏油がまた泣く一幕があったりもしたが、それはむしろ平和の一要素に他ならない。

 

 そんな中、一皮剥けた夏油傑、同じく一皮剥けた五条悟、皮は剥けているのに強制童貞かつオナニー禁止なので意味がない直哉の3人は今日この日、『特級案件』をこなすべく、3人纏めて補助監督の運転するプリウスの後部座席に詰め込まれ、PSPを手にモンハンに興じていた。

 

「くっそ、森丘のエリア9マジで見辛いな……」

「リオレイア 馴染みすぎてて 見えんわな」

「あ、飛んだ。方向的に4かな?」

「いや5じゃね? だいぶボコったし」

 

 なんて、アドホック通信プレイを満喫中の彼らが向かっている先は、岐阜県某所。

 

 登録済みの特級仮想怨霊『口裂け女』の出現情報を得た学長——定年とっくにオーバーのおじいちゃん。そろそろ勇退予定——が、直哉の不本意な頑張りで特級術師が手隙になった今、このチャンスを逃すまいと、特級と特級相当の一級である彼ら3人を口裂け女を封じている岐阜県内の某市に送り込んだのである。

 

「しっかしまあ、『街に口裂け女は通さずそれ以外は素通し』なんて特殊な結界張る余裕があるんなら、天元もいっそそのまま特級始末しといてくれりゃ良いのにな。街の連中、実質足止め用の生贄にしてる様なもんなんだろ?」

「私もそう思う。弱者生存が社会のあるべき姿だというのにね」

「理想論 好きやなホンマ 夏油君。悪の非術師 善い子の術師。1人だけ 助けられるて 言われたら 強弱よりも 善悪ちゃうの?」

「それは……うーん。でも呪術は非術師を守る為にあるんだろう? それこそ、君達御三家が定めた呪術規定にそうあるじゃないか、直哉」

「規定にな 『あまねく全て から守る』 そう書いとるか? 書いて無いやろ? 非術師の 犯罪者なら 警察に。災害も 呪霊以外は 自衛隊。呪術師は あくまで呪い 専門や。そこはしっかり 分けなアカンて」

「そうだぞ傑。やる気の無い雑魚に何でもかんでも施して何になるってんだよ。ニートができるだけじゃん。そりゃ、俺だって灰原とか歌姫とかなら弱っちいけど頑張ってるから困ってたら助けるけどさ、そりゃアイツらが良い奴だからだろ? 散々人食いもんにしたヤクザが呪霊に襲われてたら、俺ちょっと助ける気無くすわ」

「うーん、ヤクザか……それは、うーん。善悪の区別の必要性については確かに分からなくはない、か」

「夏油君 バカ真面目やな 相当に。あんまりな 正義の味方 目指したら 蜘蛛に噛まれて 家族亡くすで?」

「スパイダーマンにしちゃ塩顔だけどな傑」

「大いなる力には大いなる責任が伴う、というのには賛成なんだけどね私は」

「そんなわけないでしょ、それこそ傑の大好きな呪術規定の範囲内しか責任ないよ俺ら。正式名称『呪術師の義務に関する覚書』だっけ。あの紙ペラ3枚が俺らの義務と責任と権利の全て。あとは普通に日本の法律に従えば良いってコト! ……おっ、逆鱗ゲット〜」

「甲殻と 鱗だけやん なんでなん? 」

「おや、運がないね直哉。まぁ私も翼膜が足りないんだが……。しかし、話は戻るけどもう少し、現実を見る時期かもしれないね。私も」

「まぁそやね。世の中ホンマ ままならん。俺見てみ? 今をときめく イケメンの 禪院家次期 当主なんやで? それやのに 彼女の1人 おらんとか どない見たかて おかしいやんか」

「「いや、直哉は許嫁いるでしょ」」

「5歳児に 欲情するか? せぇへんで? 乳尻腿の 影もないやん」

「相変わらずだね直哉は。……口裂け女が滅茶苦茶グラマラスだったらどうする?」

「……。…………。いやそれは 祓うだけやろ 呪霊やし」

「おい、コイツ今めっちゃ長考したぞ、傑」

「ああ、めっちゃ長考したね。……直哉、君そこまで思い詰めてるのかい?」

「思春期に オナニー禁止 縛られて 過ごす苦しみ 分かってくれる?」

「……今度オススメの爆乳洋物イメビ譲ってやるよ直哉」

「私も、今度オススメの爆乳お姉さんモノを譲ってあげよう」

「誰が今 生殺しせえ 言うたんや?」

 

 などと、駄弁りつづける3人を乗せた車は、どうやらまだしばらく高速道を走り続けるようで。

 

 現地入りまでの間に、彼らのハンターランクはもう少し上がる事になりそうだった。

*1
流石に伊達に次期学長に選ばれたわけではないのか、体調不良で済んだのは驚嘆すべき点。

*2
呪霊玉の毒と相性が悪かったのか、マジで一度バイタルが凄まじい事になり、直哉が見かねて録画呪法で直哉自身も死の淵で掴んだ反転術式のコツを流し込んだところ、心停止から蘇生する形で体得した。快復後五条に本気のグーを打ち込んだ七海を止めるものはいなかった。

*3
記念すべき初回発動対象はもちろん自分の全身に回った呪霊の毒。

*4
直哉が反転のコツを流し込んでみたが、何故か会得できなかった。センスの有無以前に、灰原のバイタルが七海よりかなりマシだったからではないかと直哉は思っている。




今年はこれで書き納めです。みなさま良いお年をお迎えください。
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