特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第38話

シ、?』

 

「いや別に」

「夏油君 ここで一回 口説いたら?」

「口説く!? ……食べちゃいたいくらい? とか?」

「ヒュー! ……ん? ダブルミーニングじゃん」

 

 なんてやり取りから始まった、口裂け女との戦い。その開幕は、3人の最強を問答無用で相互不可侵状態に持ち込み、質問を投げた『口裂け女』。

 

 そんな彼女にふざけた回答をした3人は、直後不可侵と引き換えに現れた無数の巨大ハサミに襲われた。

 

 が。夏油は自身を『虹龍』に呑ませる事で、五条は無限で、直哉は投射呪法の『フィルム化』でその攻撃を難なく封殺。反撃とばかりに放たれるのは、五条悟が得た新技、術式反転『赫』。

 

 ビー玉サイズのそれは、容易く口裂け女の片腕を飛ばし、続く直哉のマッハ手刀が片足を切断。

 

 ベシャリと崩れ落ちる口裂け女を夏油が呪霊玉に加工してオブラート封印札に包み、一息に飲み込んで任務完了。

 

 千切れた足を手にした直哉がそれに齧り付き、特級呪霊の残穢を取り込んで尋常ならざる腹痛に青い顔をしているが、まぁ比較的無傷での討伐と相なった。

 

「手の内割れてると流石に余裕だな。あんなモンがなんで特級認定されたんだ?」

「初手特殊条件の簡易領域、からの必中攻撃、という即死コンボで見落とされがちなんだけど、あの呪霊、3体に分身したり、100mを3秒で走ったり、赤い傘を出して飛行したり、ありとあらゆる刃物で切りつけてきたり、赤のセリカで轢き逃げアタックしてきたりするらしいよ」

「そりゃ特級だわ。手数多すぎんだろ。なんでまたそんな事になってんだ?」

「口裂け女の噂って無数に存在するからね……それらの畏れを一身に受けたせいじゃないかな? 多分この呪霊の術式の本質は『口裂け女が持ち得る能力の再現』なんだと思うよ。その中でもやっぱり、問答無用の『私、綺麗?』が最強最速の一手なんだろう」

「あー、ガキの好きな怪談って開幕で即死攻撃だもんな」

「そうだね。しかも口裂け女ってどう答えても死ぬ系だった気がするし……ところで直哉、大丈夫かい?」

「なんとかな 腹痛いけど 生きとるで……」

「直哉の場合、毒で悶絶するところまで含めて縛りなんだっけ? エグいよな」

 

 そんなやり取りをしつつ、補助監督の待つ車まで戻る3人。岐阜のお土産として水饅頭を買ったりとすっかり旅行気分な彼らは、その後再び狩猟に勤しみつつ高専へと戻っていくのであった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 一方その頃。

 

 直哉の同期である七海建人と灰原雄は、東京郊外の廃屋で二級呪霊と取り巻きの雑魚呪霊を相手に死闘を演じていた。

 

「低級呪霊の数が多い————! 灰原、無事ですか!」

「なんとかね! ッせェいッッ!」

 

 呪力を纏わせた拳で三級未満の雑魚を殴り祓う灰原と、彼を守りつつ二級呪霊を相手取る七海のコンビネーションは良好。

 

 しかし、先程七海が言った通り、敵の数があまりに多い。この廃屋、内部が半ば異界と化しており、さながらゲームのモンスターハウスの如く呪霊が鮨詰めになっていたのである。

 

「直哉達は今頃特級呪霊と戦ってるんだ! 僕らも頑張らないとね!」

「何故でしょう。絶対にこちらの方が体感難易度が高い気がするんですが」

 

 なんて冗談を言う余裕こそあるものの、やはり疲労してきたのもまた事実。だが、それでも一応呪霊の数は減ってきており、先が見えない戦いというわけでもない。

 

「しかし、どう考えてもこの呪霊の数は異様ですね……やはりこの建物自体が呪物化しているのでしょうか?」

「そうかも。一家7人無理心中だっけ?」

「ええ。そう聞いています。……しかし、そんな事件がありながら何故取り壊されていないのでしょうね、この家」

「うーん。呪詛師が呪霊の養殖に使ってたとか?」

「怖い事を言いますね灰原。————ですが、ええ。そういう事にしておきましょうか」

「お。何かやるんだね! 七海!」

「ええ。伏黒先生に体術だけでなく術式の解釈を伸ばせと散々言われましたから。一つ、考えていたモノを試してみようかと」

 

 そう告げる七海が、愛用の『鈍』*1を振り翳し、呪力を込めて振り抜く先は、廃屋の壁の角、構造的に柱があるはずのその1点。

 

 上から7、下から3の少しばかり低めの位置に打ち込まれた一撃が『クリティカルヒット』を決めると同時に、粉砕された柱や壁そのものが、呪力を纏って周囲の呪霊を圧殺する。

 

 が、しかし。

 

「七海、これ自爆技じゃないよね!?」

「力加減を誤りましたね……灰原、あとは頼みます」

「マジか〜!? ……よぉし、任せといて! 『臨兵闘者皆陣列在前』ッ! ————防御結界ッ!」

 

 七海の術式により連鎖的に伝播する破壊が招いたのは、廃屋の倒壊。内部の呪霊諸共に崩れ去り、瓦礫の山と化したその中で、どうにか間に合った灰原の結界の中だけが、瓦礫の雨霰を免れていた。

 

「いやー、凄い技だったね」

「呪力を込めすぎましたし、発動後に瓦礫に込めた呪力の制御を手放したのも拙かったですね……すみません灰原、助けていただきありがとうございます」

「どう致しまして! ところでこの技、なんて名前にするの?」

「名前、ですか?」

「ほら、直哉君が言ってる『音衝(インパルス)』みたいな!」

「……。あまり、そういうセンスは私には……」

「じゃあさ————」

 

 斯くして、灰原が『瓦礫が落ちてドンガラガッシャーンって感じだから』と命名した 瓦落瓦落(ガラガラ)は、その後七海の大技として大いに活躍することとなる。

 

 しかし、その初発が自爆紛いの失敗だったのは、七海と灰原の胸中に仕舞われた『男の秘密』として、語られることはないのだった。

*1
最近になって鉈に命名した名前。




あけましておめでとうございます。本年も拙作を宜しくお願い致します。
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