特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第4話

 直哉が双子の世話を押し付けられ、ついでに扇の嫁まで庇護下に置かされたという直哉にとって余りにも不本意過ぎる一件から早1年。実の母親である真理に双子の世話を任せた事で一応平穏に暮らせる様になった直哉の日々は、相変わらずの苦行と呪縛に塗れている。

 

 そんなある日の事。父である直毘人の呼び出しを受けた直哉は、酒盃を手に呵呵大笑する直毘人に戸惑いの声をぶつけていた。

 

「高専に 入学しろて んなアホな。どないな風の 吹き回しなん?」

「いやなに、今年は東京の方に五条の(ぼん)が入るらしくてな?」

「悟くん あいも変わらず 気儘やね。最強君は やる事ちゃうわ」

「まぁ五条はあの坊主の独壇場だからな。無理は幾らでも通るだろうて。六眼と無下限の組み合わせは葵の御紋や菊の御紋よりタチが悪い。平伏さぬ者などまず居るまいて」

「生まれ付き 最強やしな 悟くん。俺と違うて 羨ましいわ。でも何で 俺の高専 入学の 理由になんの 今の話が」

「五条の特級が入学したなら禪院の特級が負けるわけにはいかんとジジイどもがな?」

「アホちゃうか。張り合うとこが おかしいわ。爺さんどもは みなボケたんか?」

「まぁそう言うな。張り合う意味は無いにしろ、お前が高専に通う意味は別にある」

「そうやろか? 別にウチでも ええやんか。勉強くらい 何処でも出来る」

「だが交友関係はそうも行くまい? ……慶長の御前試合以降、禪院と五条の関係は冷え込んでいる。お前が五条の坊と友誼を結べば、両家に良い変化が訪れるやもしれん」

「なるほどな……いやちょい待てや そうなると 俺は東京 行かなあかんの?」

「ま、そうなるな」

「真希ちゃんと 真依ちゃんの世話 どうすんの? 真理さんだけに みな任すんか?」

「そこは抜かり無い。儂に任せておけ。お前は先んじて東京に向かい、1年後の入学に向けて備えておけばそれで良い」

「不安やわ こう言う時は なんかある。企んどるな しょうもない事」

「ガッハッハッハッハ」

「笑うても 誤魔化されんで クソ親父」

「ハーッハッハッハッハ」

「おい聞けや キリキリ吐けや この狸」

 

 

 * * * * * *

 

 

 なんて、やり取りが行われたのがつい先日。あれよと言う間に引っ越しの準備が済まされて、双子共々東京へと送り出された直哉が対面しているのは、薄汚れた格好の姉弟。

 

 思わずこめかみにビキビキと血管が浮かぶ直哉だが、その身に課された『紳士』と『勧善』の縛りが、彼に激昂する事を赦さない。

 

 溜め息を大きく一つ。眉間を揉んだ直哉は、努めて柔和な笑顔を作ると、眼前の少年に向けて声を掛ける。

 

「なあ坊や 伏黒甚爾 わかるかな? 何処へ行ったか 知らへんやろか?」

「……クソ親父は一昨日から帰って来ません」

「なるほどな ちょっと待ってや 電話する。————おいコラドアホ 何処におんねん!? パチンコか? それとも馬か? 競艇か? なんでもええわ 帰って来いや。帰らへん? ほならベガスは 甚爾くん 抜きで皆で 年末行こか」

 

 なんて言って電話を切り掛けた直後、疾風と共に瞬間移動で現れたのは、直哉と顔立ちの少し似た、筋肉質の偉丈夫。

 

 ————禪院甚爾、改め伏黒甚爾。

 

 直哉の従兄弟であり、何を考えているのか直毘人が直哉を東京に下宿させる際の『保護者』として選んだ天与呪縛の無双の怪物である。

 

 近所のパチンコから2kmを瞬時に移動するその脚力は、まさに『フィジカルギフテッド』の名に相応しい剛力無双と言えるだろう。……発動理由が実に情けないが。

 

「————よォ、ただいま」

「……最初から そうしてくれや 甚爾くん」

「忘れてたわ。今日だったか?」

「一昨日に 電話したやろ? 覚えとる 癖に言い訳 せんでもええわ。ラスベガス 行きたかったら これからは ちょっとはものを 覚えといてや」

「へいへーい。……で、『縛る』んだったか? めんどくせぇ」

「やいやいと 言うなや大人 なんやから。早う『縛る』で よう聞いときや。これからの 俺らの世話と 引き換えに 月に1千 万円払う。それプラス 出来高給で 年末に ベガス豪遊 旅行も付ける。そのかわり 甚爾くんには 悪いけど 呪詛師以外は 狩らんでもらう」

「やっぱ面倒くせぇし月3千万にしろ」

「……かまへんよ。それぐらいなら 出したるわ。それで『縛る』か? 俺は構んで?」

「おう、それなら文句はねェ。いやぁ、不労所得とベガス! 良いねェ」

「破りなや? 『縛り』なんやで? わかっとる?」

 

 珍しく言動と表情を一致させて『大丈夫か?』と言いたげな苦笑いを浮かべる直哉だが、その表情を向けられる甚爾は、実に軽い調子でヒラヒラと手を振って、直哉を軽くあしらっている。

 

 ————双方にとって衝撃的な『黒閃自爆事件』以来、自身に馬鹿げた縛りを設けてまで己に追い縋ろうとする直哉の『尊敬の目』によってちょっぴり『自尊心』が満たされた甚爾が直哉を扱いてやっていたのがかれこれ数年前。そこから甚爾の結婚*1と出奔、そして妻との死別*2などの出来事があった際も、腐れ縁のように続いて居たのが直哉と甚爾の関係なのだ。

 

 主に直哉が金を払う系のイベントが多かったのは、ご愛嬌である。*3

 

「分かってるって、心配すんな。……そうだ。えっと、なんだっけ」

「恵くん 名前付けたん アンタやろ? それとコッチは 津美紀ちゃんやね」

「そう、それだ。お前らこいつの奢りで銀座で寿司食いに行くぞ」

「えっ……」

「い、良いの?」

「構わんよ 遠慮せんでも 寿司くらい。これから同じ 家に住むんや。……そうやった、俺の名前は 直哉って 言っとらんやん すまんかったな。こっちはな 姉の真希ちゃん。真依ちゃんは 妹やねん 双子やけどな。津美紀ちゃん 同い年やね よろしゅうな。恵くんには 姉ちゃんやなぁ」

「真希だ」

「真依よ」

「私、津美紀! ほら恵も!」

「う、うん。伏黒恵、です」

「ええ子やね 親とはえらい 違いやわ。甚爾くんにも 垢飲ませたい」

「バカ、俺の教育が良いんだよ」

「それだけは 絶対ないわ 甚爾くん」

 

 なんて会話をしつつ、連れ立って歩く彼等の姿は、まぁ津美紀以外は顔立ちが似ているだけあって、家族に見えなくも無い。

 

 ————直哉が来て、寿司に行って。

 

 ————直哉が甚爾にブチ切れながらmezzo piano*4で津美紀の服を買い、恵にもトイザらスでゲキレンジャーのパジャマを買って。 

 

 ————帰宅直後に更にブチギレた直哉が埃を被った書類棚から書類を引っ張り出して電話を掛け、私学の幼稚園に明日から4人で通う事になって。

 

 プリプリと頭から湯気が出るほど怒っているのに、妙に優しい*5その行動は、津美紀と恵の幼い記憶に強く残る『最初の1日』の思い出となったのだった。

*1
禪院で直哉だけ100万ほど祝儀を包んだ。馬に溶かされる筈だったが、奥さんに回収されたらしい。

*2
禪院で直哉だけ100万ほど香典を包んだ。馬に溶かされる筈だったが、甚爾の気まぐれで永代供養代になった。

*3
何故か勝手に連帯保証を組まれて関東ヤクザが京都まで乗り込んできたのも一度や二度では無い。

*4
女児向けアパレルブランド

*5
縛りのせいとは知る由もない。

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