さて、伏黒甚爾が浦和競馬場に出向き、モツ煮を食いつつ『さきたま杯』*1の1→7→6の馬券を握りしめて熱くなっている頃。
直哉VS七海、五条VS硝子の余波を受けないように退避しつつ、夏油傑と灰原雄が術式無しという制限でステゴロタイマンバトルを行っていた。
この勝負、『この戦いにおいて術式を使用しない』という縛りを掛けている夏油側が元々の技量差や体格差も相まって完全に有利であり、灰原は圧倒的な強者を前にチャレンジャーの立場。
そして、案の定ボコボコなのもまた灰原だった。
が。
「まだ行けます! 夏油さん、もう1本お願いします!」
「……わかった。ただ、私が疲れたから一旦休憩にしよう。もう10R近く休み無しじゃないか。奢ってあげるからジュースを買ってきてくれないか? 私アクエリアスで。……はい、千円」
「わかりました! 行ってきます! 直哉君と七海くんにも買って良いですか!」
「良いよー、ついでに悟と硝子の分もね。悟にはマックスコーヒー買ってあげて」
なんてやり取りがあるように、精神的な面では結構夏油も『キツい』のがこの組み手。何が悲しくて可愛い後輩をボコボコにせねばならんのだ、というのも勿論その原因ではあるが……。
「ふぅ……伏黒先生、なんて技を灰原に仕込んでるんだ全く。こっちは腕に覚えがあるって言ってもあくまで趣味レベルの格闘技なんだけどね……」
と、冷や汗を袖で拭う通り、マジでヒヤヒヤしているというのがその原因である。
灰原雄には、格闘技の下地が無い。
だが、クソ真面目に体育教師の伏黒の言う事を聞いて身体を作り、呪力強化を身体に馴染ませてきた結果、その肉体はしっかりと『呪術師』のそれに仕上がっている。
そして、そこに乗ってくるのが……。
「
イテテ、と片手で首を揉む夏油の評価通りの殺人殺法。開幕いきなり目をスッと潰しに来た灰原に肝を冷やされ、その後も襲い来る反則技の数々に、つい本気で抵抗してしまった結果が、先のボコボコ灰原なのである。
甚爾が残したメニューに書いてあった『灰原は地力の高い相手との戦闘、夏油はクソ真面目改善』という一筆が正に痛いところを突いている対戦結果になったわけだが……。
「悟と直哉にも言われたけれど、私ってそんなにバカ真面目なのか……?」
「そうですね! 夏油先輩は良い人ですよ! アクエリ買ってきました!」
「ありがとう灰原。そうか。うーん、もう少し清濁併せ呑めって事なのかな……」
「あ! 僕もそれ伏黒先生に言われましたよ! お揃いですね! 『お前は真面目バカ、夏油はバカ真面目。どっちも搦手にクッソ弱えタイプだ。だからお前には搦手を仕込んでやるよ』って!」
「そうか。……よし、次のセットはもうラウンドなどは考えず、ルール無用でやろう。硝子にはジュースのついでに治療して貰ったんだろ?」
「はい! よろしくお願いします!」
そんなやり取りと、飲み物・トイレ休憩の後。再び向かい合う2人の内、まず仕掛けたのは夏油だった。
長身とそれに由来するクソ長い脚*3を生かし、しゃがみ込む勢いを回転に変えたその技は、いわゆる中国武術の『前掃脚』。脚を刈ろうと狙ったその一撃に対し、灰原が選択したのは甚爾仕込みのストンピング。払いに来る夏油の脚を迎え撃つように踏みつける、脛狙いの外道技。
が、そこは夏油が一枚上手、出していた脚を引いて回転速度を増しつつ、軸脚と蹴り足を巧みに切り替えて踏みつけを空振りした灰原の脚を強かに払うことに成功する。
「うわぁ!?」
当然ズッコケる灰原に対し、容赦無く背中側からマウントを取った夏油が行うのは、情け無用の逆エビ固め。
ギリギリギリ、と嫌な音が聞こえるほどのエビ反りを強制された灰原は、身体から響くミシッ、ゴキッという音と激しい腰の痛みに『このままでは腰骨を折砕かれる』と確信し、夏油の腕をペチペチとタップした。
「カハッ……! さ、流石は夏油先輩……ゴホッ、ゲホッ……」
「プロレス技は、本気の殺意を以って振るえば結構危ないからね。腰は無事かい? ヤバいなら硝子を呼ぼうか?」
「お、お願いして良いですか……!」
などと完全にダウンしてしまった灰原の横にアクエリアスの余りを置いて、悟を元気よく銃撃している硝子の元へと向かう夏油。
思春期らしい柔軟さで直哉、悟、甚爾からの『御三家仕込みのドブカスエナジー』を流し込まれてしまった彼は、徐々にその思考回路を変質させ、ジワジワと朱に交わり始めているのだった。