六月中旬。ジメジメと鬱陶しい梅雨時は、呪霊も呪詛師もウジのように湧いて出る。
そんな中、夜蛾正道と交渉して二級呪霊の討伐任務を受けた直哉は現在、弟子の禪院真依とその姉の真希を伴って、都内某所の廃墟を訪れていた。
「うぅ……」
「真依ちゃんな 恥ずかしいのは 分かるけど。君の術式、縛りありきや。覚悟して 変身しやな 戦えん」
「真依! 頑張れ! 私も一緒に戦うから!」
「お姉ちゃんは変身しないじゃない……!」
「ドレスはお揃いだろ!?」
なんてやり取りをしている通り、おませな双子ちゃんはそろそろ魔法少女ごっこが恥ずかしくなるお年頃。おおよそ4歳半でちょっと早めの中間反抗期を迎えた彼女達は「流石にこれはちっちゃい子の趣味では……?」と気付いてしまい、ドレスを着る事にモジモジしてしまっているのだ。
だが、直哉の言もまた事実。真依は変身時の絶大な呪力出力と引き換えに呪力と術式の使用を普段は禁じており、そのトリガーは変身ダンスと変身セリフに設定されているのだ。
「パパッとな 変身してな サクッとな 呪霊祓えば 楽になるがな」
「でもでも、直哉に嫌われちゃう……」
「なんやそれ。嫌わへんがな どうしたん?」
呪霊の頭を片手で鷲掴みにして『停止』させ続けつつ、グズる真依の話を聞けば、『直哉はおっぱいの大きい大人のお姉さんが好きだから、子供っぽいのは嫌われちゃう』との悩みがあるようで。
内心『なんで真依ちゃん俺の事そんな好きなん? 目ん玉腐り果てて脳まで毒気が回っとらんか? というか心配せんでも、何したところで君、小便臭いガキやから論外やで? この前、歌姫ちゃんにくっ付かれて心底思うたけど、俺Hカップ以下とは付き合いたいとも思わへん。まぁ、可愛い子に侍られるんはええ気分やけどな。嫁さんには拘るで俺は』などと思いはするものの、相変わらずその思いは口から出ず、代わりに出るのは優しげな声色。
「真依ちゃんな そんな心配 せんでええ。術師目指して 頑張る弟子を 大切に 思わん師匠 何処におる?」
そう告げられて、漸く覚悟が決まった真依が「みんなの思いを力に変えて! マジカル真依ちゃん、メイクアーップ!」と最終回なんじゃないかと思う気迫で咆哮し、真希と共に直哉が解放した二級呪霊と戦い始めれば、多少の苦戦はあったものの、危なげなく姉妹の合体技である『ツインマジカル真依ちゃんバニッシュ』により勝利を収めるのであった。
* * * * * *
そんな、呪霊駆除の訓練から帰還してしばらく。
直哉はさっさと自分の寮室に帰還し、双子は甚爾が借りている教員寮の一室で、内緒話に興じていた。
「あー、今日も怖かった……」
「そうか? 真依もバッチリブッ飛ばしてただろ? 呪霊の動きもトロかったし」
「それはお姉ちゃんだけでしょ! 私の目は普通なの!」
「そういうもんか?」
「そうだよ! ……でも、このままだときっと、直哉はお姉ちゃんに取られちゃう……頑張らなきゃ」
「いや何でだよ。普通に2人一緒だろ、ジジイもそう言ってたじゃねえか。つーか、私、直哉は『兄ちゃん』って感じなんだよなー。好きだけど」
「そういう女の子が一番危ないって本に書いてあったもん! ゔぅぅ……!」
「唸るなよ、犬かよ……。本って?」
「購買で買ったやつ! コレ!」
そう主張する真依が手にするのは、『コーラス』『りぼん』『マーガレット』という少女・女性向け漫画雑誌3点セット。
何故に結構大人向けな『コーラス』があるのかといえば、まぁ普通に購買を利用する女学生向けとしか言いようは無い。むしろ、『りぼん』の方が真希と真依、そして津美紀の為に今年度から追加されたラインナップなのである。
で、そんなあんまり当てにならないバイブルを武器に真依は直哉独占に燃えている様なのだが……同じく婚約者な筈の真希はあまりその辺りは深く考えていないようだ。
「まぁ大丈夫だろ。母さんおっぱい大きいし。私達もおっきいって多分。直哉おっぱい好きだろ?」
「そうだけど……でも多分冥ちゃん*1とか由基ちゃん*2ぐらいないとダメだもん……」
「んー、私はおっきくする方法は知らねえなー……大人に聞くか?」
「大人の女の人かぁ……」
* * * * * *
「って訳で私に聞きに来たんだ。なるほど〜。まぁ一般論だと、思春期になったらナイトブラつけたり、無理なダイエットは避けて脂肪分しっかり摂ったりかなぁ」
なんて、湯煙の中で回答するのは今年度の高専生の紅一点、家入硝子。
女子風呂*3の戸締まりの都合もあり、双子や津美紀と誘い合わせて入浴する事が多い彼女は、ちょっとしたお姉さんポジションに収まっている。
そんな彼女に質問したのはある意味正解。最近はバカスカ撃ちまくるガンナーのイメージも付いてきた彼女だが、本業は治療者。こう言った質問にはかなり強い。
そして、そんな彼女はふと、思いついた様にアイデアを口にした。
「んー、あとはそうだ。確証は無いけど……反転術式で思春期に『正』のエネルギーを成長させたい部位に集めるとかかな? ほら、五条も夏油も直哉も、それから七海もタッパがデカいでしょ。それに特級の九十九さんとか、一級の冥さんとかも体型すっごいし。あれ多分呪力による身体強化の影響だと思うんだけど、反転術式でそれをやれば多分すごいんじゃない? 知らないけどね」
「反転、術式……」
「うん。ヒューンってやってヒョイって感じでね。呪力と呪力を掛け合わせて、正のエネルギーに変換すんの。試してみる価値はあるかもよー? 私は胸なんかあっても肩凝るだけだろうしやんないけど」
そう言って、たはは、と笑う家入が何気なく言った一言が、呪術師を目指す少女の胸に、反転術式への飽くなき執念を植え付けることになるのだが、今はまだ、当人以外は誰も、その事実に気づくことは無いのだった。